徹「(モッサモッサ)……先輩方、何の真似です?僕のスイーツタイムを邪魔しないでくださいよ」
『何の真似……だぁ?』
『テメェ……あんなことしておいて、よく俺達の前におめおめと顔出せたな!』
『というかいい加減そのやたら大きいケーキ置きなさいよ!?ムカつくんだけど!』
徹「アンフィニマンヴァニーユです(モッサモッサ)。芸術的でしょう?(モッサモッサ)」
『知らねーよ!?この状況でまだ食うかお前!?』
『フリーダム・コロッセオ』観客席では徹が複数の三年生達に囲まれながらも、澄ました顔で自分と同じくらいのサイズのケーキを貪っていた。取り囲んでいるのは小暮の友人である女子達と小暮ファンクラブ(非公式)のメンバー達だ。一回戦でのあの惨劇を思い返せば、小暮を慕う彼ら彼女らが徹にどのような感情を抱いているのか想像に固くない。
では一回戦を勝ち上がったはずの徹が何故観客席にいるのかと言うと…
『葵にあんなことしておいて……棄権なんてどういうつもりよアンタ!?』
『勝ち逃げなんざ許されると思ってんのか!?』
徹「?許されるに決まってるじゃないですか、闘う闘わないは僕の自由でしょう。……それとも、早々に脱落した『闘えない』アンタらにはわかりませんか?」
『テメェッ!』
…早い話がリタイアしたのである。「勝ち目の無い闘いなんかしたくない」という理由で。
徹のオーバークロック『拘束解除』はその闘いの間中パワーとスピードが桁違いに跳ね上がるが、代償としてまる1日武器も防具も使えなくなってしまう。武器はともかく自身の持ち味である防御力を失った状態で、成績も操作技術も超一流である志村泰山に勝てる確率はゼロに等しい。そう判断して早々に棄権した徹に、納得のいかない三年生達が因縁をつけに来た……というのが今の状況である。
『へっ、負けるのが怖くて逃げただけじゃねーか!ダッセーなこの腰抜け野郎!』
徹「頭の悪い先輩にわかりやすく教えてあげましょうか。僕は『負けるかもしれない』ではなく、『絶対に負ける』から手を引いたんですよ。無能は無能なりに。せめて少しは考えて物を言いましょうよ、」
『このっ…先輩に対してなんだその口の聞き方は!』
徹の見下しきった発言に堪忍袋の緒が切れたのか、三年生の一人が彼の胸ぐらを掴んで怒鳴りつける。しかし図太いことに定評のある徹は唾がかからないようにケーキを保護しながら、その三年生に対して一際冷たい眼差しを向ける。
徹「……汚い手で触れんなボケ。この会場には教師もいることを忘れたのか?受験前に余計なトラブル起こすことがどういうことかわからないのか?ほら、騒ぎを聞きつけた鉄人がこちらに向かっているぞ」
『ぐ…このっ……!』
とうとう必要最低限の敬意まで投げ捨てた徹を殺すような目で睨みながらも、流石に教師の見ている前で暴力沙汰を起こすことを躊躇う理性は残っていたのか、三年生は奥歯がへし折れるほど歯軋りしつつ胸ぐらから手を離し…
『このクソガキが-がぁぁぁああぁぁあああ!?!?!?』
徹「誰がガキだ殺されてぇのかテメェェェェェエエエエエエエ!!!」
捨て台詞に禁句を吐いた次の瞬間、頭蓋骨が砕けるかと思うほどのアイアンクローを浴びてしまう。先ほどまでの澄ました表情は見る影もなく、目を血走らせて激昂した徹はアイアンクローを継続しつつ、怒りにまかせてその三年生に殴る蹴るの暴行を加えていく。ちなみに他の三年生達は徹の急過ぎる豹変にビビって身動きが取れないでいた。
鉄人「貴様ら何をやっとるかぁぁあああ!!!」
最終的には鉄人が場を鎮圧。中心の二人は勿論、徹に絡んでいた他の三年生達も連帯責任として補習室に連行されていった
和真「ったく、ああいう所はまったく成長しねぇなアイツは……」
蒼介「……大門には後で説教が必要だな」
一部始終を見守っていた和真と蒼介は二人揃って溜め息を吐く。徹は格下と認識している相手にはそうそう自分のペースを崩さない男だが、ことコンプレックスを拗らせている低身長や童顔に触れられるとあり得ないくらいキレる。
和真「……それはともかく徹の奴、やっぱ棄権しやがったな」
蒼介「奴は小暮先輩への雪辱のために手持ちのカードを全て使い切った。そんな状態で無理して闘うほど殊勝な奴ではない」
『アクティブ』のメンバーは和真が集めただけあって皆負けず嫌いであるが、より細分化するとおよそ三つのタイプに分けられる。
優子や飛鳥や源太のような、どれだけ勝ち目が薄かろうが決して諦めず食らいつくタイプ。
和真や蒼介のような、負けるかもしれない勝負がほとんどなく、それ故にそのような勝負を制することに喜びを見出だすタイプ。
そして愛子や徹のような、勝ち目の薄い闘いを冷静に見極め事前に退くタイプだ。
特に徹はそれが顕著であり、和真のような格上に挑発されでもしない限り自分の不利な土俵に易々と上ったりはしない。要するにさっき三年生達挑発されても鼻で笑っていたのは、相手を見下しきっていたからである。
和真「……まぁ徹のあの悪癖にゴチャゴチャ言ってもしょうがねぇか。それより徹が起こした騒ぎで一旦ストップしていたトーナメントがそろそろ進みそうだな。次の試合はっと……ハッ、まさに因縁の対決だなこのカードは」
蒼介「……そうだな、この組み合わせは色々な意味で目が離せない」
Cブロック一回戦第一試合……久保利光VS姫路瑞希。
二人はゆっくりとフィールド内に入場し、お互いを真っ直ぐに見据えながら黙々と試合の準備を進めていく。
和真「おーおー、二人とも随分と集中してるな……まあ無理もねぇか。これまでの対戦成績は一勝一敗のイーブン、今日勝った方が一歩リードするっつう大事な大事な一戦だ。……ところでソウスケ、この試合どっちが勝つと思う?」
蒼介「ふむ、そうだな……お互い成績も操作技術もほぼ同等、さらに二人ともオーバークロックは覚醒済み。となると互角と見るべきだが……強いて言うならば、6:4で姫路が有利だろうな」
和真「オイオイずいぶん冷てぇなぁ。それでもクラス代表か?ここは嘘でも『絶対に久保が勝つ』って言ってやれよ」
蒼介「嘘だと看過してくるとわかっている相手に見栄を張るつもりはない。理由は主に二つあるが、まず第一に久保は姫路のオーバークロックを見たことが無いが、姫路は夏合宿で久保のオーバークロックを直接喰らっている。この差を無視するわけにはいかない」
和真(ふーん……確かにな。久保も姫路のオーバークロックがどんなんかぐらい調べてるだろうが、実際に見たわけじゃねぇし)
まさに「百聞は一見に如かず」。実際に見た者とそうでない者では、どうしても対応力に差が出てしまう。
蒼介「そして第二に、夏合宿での闘いで久保が姫路に勝っていることだ」
和真「……はぁ?どういうことだよ?」
蒼介「雪辱を果たそうとする者の熱意は決して無視できるものではない。追われる側と追う側では、勝利への飢えと執念がまるで違う」
和真(言いてぇことはわかるが……ほとんど負けたことねぇお前に言われてもピンとこねぇよ)
そう思う和真だが、盛大にブーメランであることに彼は気づかない。
『『
そうこうしている内に準備が終わったのか、キーワードと共にお互いの召喚獣が出現する。
《総合科目》
『二年Aクラス 久保利光 5043点
VS
二年Fクラス 姫路瑞希 5058点』
『ま、また5000点オーバー!?』
『いったいどうなってるのよ二年は!?』
『しかもまたFクラスかよ!?クラス詐欺にも程があるぜ!』
高得点のオンパレードに会場のボルテージが嫌が応にもヒートアップする。
和真「姫路の武器はレーヴァテインっつってたが……久保の武器は鎌のままか?」
蒼介「あれはクロノスが所持していたという『アダマスの鎌』。形状こそ以前と然程変わらないが歴とした神器-っと、二人ともいきなりしかけるつもりだな」
和真「アイツらは毎回やることが派手だなオイ」
フィールド上ではお互いの召喚獣が開始早々腕輪能力を発動した。両者の腕輪が光り能力が発動する。
久保「うぉぉぉおおおっ!」
姫路「やぁぁぁあああっ!」
ぶつかり合う熱線と風の刃が大爆発を引き起こし、会場全体を震わせた。
本格的な激突は次回をお楽しみに。