バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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先日友人Aが私と友人Bに

「あなたを含む6人が溺れそうで、また救命ボートには五人までしか乗れません。あなたはどうする?」

というありがちな心理テストをしました。
そのときの友人Bの回答が衝撃的でした。





B「そうだなぁ……不公平の無いように、自分以外全員沈めてからボートに乗るかなぁ」


それのどこに公平性があるんだ……ッ!



S・B・F本戦・Bブロック④

 

和真「は?ランクアップ能力を使うな?」

 

フィールドの科目が総合科目に決まり(バランス良く好成績を出している人ほど総合科目を好む傾向にある)、その他の準備をしている最中に、どういうわけか雄二がそんな都合の良い指図を和真にした。ただでさえ他人からの指図が嫌いな和真がそんな虫のいいことを言った雄二は、当然汚物でも見るかのような目を向けられる。

 

雄二「ああ。俺はこの闘いの結果次第で、この後控えているAクラスとの試召戦争の際にどういう作戦で行くか……もっと直接的に言えばお前に鳳を倒す大役が務まるかどうか見定めるつもりだ。そんな大事な試合にランクアップ能力なんてズルい力に頼る奴に、クラスの命運は任せられないな」

和真「……もっともらしい理屈並べちゃいるが、要は『ランクアップ能力使われたら勝ち目が無いから手加減して』ってことじゃねぇか。神童が聞いて呆れるぜ……あんまガッカリさせんなよ雄二」

 

そもそも和真は雄二に言われるまでもなく決勝で蒼介と当たる(反対ブロックからは彼が勝ち上がると確信している)ランクアップ能力を使うつもりなど無かったが、先ほど一回戦で優子に無理矢理引っ張り出されてしまった。しかも、『レーザー・ウィング』最大の弱点である脆さを露呈するという最悪の形で。まだ隠し持っているカードは残っているものの、今の和真に既に露見したランクアップ能力を控える理由は無い。

 

雄二「へぇ~、そんなに俺に負けるのが怖いのか?チート能力も無しじゃビビって戦えないのか?それじゃあ仕方ねぇなぁ……心置きなく使えばいいさ、この腰抜け野郎」(乗ってこい乗ってこい乗ってこい乗れ乗れ乗れ乗れよ乗りやがれ乗ってください頼むから……!)

 

小バカにするような笑みを浮かべつつ挑発しているが、内心では割と切羽詰まっている雄二。無理もない、ここで和真が「じゃあ遠慮無くそうするか」などと言われたらその瞬間雄二の負けが確定するのだから。しかし結論を言えばそんな心配など取り越し苦労でしかない。

 

和真「ハッ、安い挑発だな。『乗ってこなきゃどうしよう』って内心思ってるのが見え見えだぜ。

 

 

 

……上等だ、乗ってやるよ。この試合俺はランクアップ能力を使わねぇ」

 

何故なら和真は、挑発だと看破した上で相手の思惑に乗るような男だからだ。小賢しい策や工夫など圧倒的な力で正面から捩じ伏せる……それが柊和真の基本スタイルである。雄二は内心でガッツポーズしつつも、念には念を入れて挑発モードを続行する。

 

雄二「おいおい、そんな安請け合いして大丈夫か?ピンチになって『やっぱ無理。使っちゃいます』なんてダセェことするんじゃねぇか?」

和真「そんなくだらねぇ心配は、俺を追い込んでからほざきやがれ。わざわざここまで譲歩してやったんだ……あんま期待しちゃいねぇが、練習台ぐらいには役立てよ格下」

 

対する和真も全力に雄二を侮りにかかる。そしてそれは紛れもない本心……和真は雄二に負けるなど、微塵たりとも思っていない。

装着されたゴーグル越しに互いが火花を散らす光景を見届けながら、綾倉先生は召喚フィールドを展開する。

 

和真・雄二「「試獣召喚(サモン)」」

 

フィールド内に幾何学模様が展開され、その中心から二体の召喚獣が出現する。そして点数が遅れて表示されると、観客席から小さくないざわめきが起こる。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  5714点

VS

 二年Fクラス 坂本雄二 5331点』

 

 

『ま、まじかよ……』

『柊はともかく、坂本まで5000点オーバー!?』

『どうなってんだ2-Fは……!?』

 

最低ランクであるはずのFクラスの生徒が二人も、例年の首席クラスを軽く越える成績を叩き出している光景を目の当たりすれば、そういうリアクションもやむなしと言えよう。

二人が『召喚獣視覚リンクシステム』により召喚獣と視界を結合させたことを確認してから、綾倉先生は試合開始の合図を行う。

 

綾倉「それでは……試合開始-」

和真「オラァッ!」

直後、〈和真〉は〈雄二〉に向かって急加速しつつロンギヌスを投擲した。かつて清涼祭で〈夏川〉を文字通り瞬殺した博打技……『カズマジャベリン改』である。

雄二「ぅおっ!?」

 

予想だにしなかった奇襲だが、避けることは困難であると即座に判断し幌金縄を構える。

 

雄二(一回戦の戦いからこいつはおそらく眼を狙ってくる!ここはとにかく顔面を防ぐ)

 

かつて『悪鬼羅刹』と称されたほど喧嘩慣れしているだけあって、素晴らしい反応と判断力である。

狙いもドンピシャ、予測通り顔面目掛けて飛来したロンギヌスを見事受け止めた。しかしここで雄二は完璧に受けきったことに違和感を抱く。

 

雄二(……おかしくないか?俺と和真の召喚獣にはパワー差がある。なのになんでこんなあっさり防げ-)

和真「それで防いだつもりか!」

雄二「しまっ-」

和真「甘ぇんだよ!」

 

急加速していた〈和真〉は速度を落とすことなくそのまま接近してロンギヌスの柄尻を蹴り飛ばし、間接的に〈雄二〉を吹き飛ばした。

 

 

《総合科目》

『二年Fクラス 柊和真  5714点

VS

 二年Fクラス 坂本雄二 4967点』

 

 

雄二(和真の野郎、わざと俺が受け止められるぐらいの力で投げてやがったな!くそ、ここは一旦距離を取-)

和真「させねぇよ!」

 

まんまと奇襲を決められてしまった〈雄二〉は間合いを開けて仕切り直しを図るが、そうはさせまいと〈和真〉が即座に距離をつめて猛攻を仕掛ける。〈雄二〉もどうにか応戦するが、まるで予測できない〈和真〉のトリッキーな攻めに防戦一方となる。

 

雄二(くそっ…なんだこの変則的な攻撃は……!?格闘技を習っていた奴と喧嘩したことは何度もあるが、流石に槍術を使う奴と闘った経験は無い。無い、が……いくらなんでもこんな無茶苦茶な動きは武術じゃねぇだろ!?)

 

例えば右手でだけで掴んだ状態で横に薙ぐかと思いきや急にロンギヌスから手を放し、左手でキャッチしてから唐竹割に移行する。例えば不意にロンギヌスを地面に突き立て、それをつっかえ棒代わりにして両足で回し蹴りを放つ……と言った、セオリーをガン無視した不規則な攻めに〈雄二〉はまったく手も足もでない。

 

 

 

蒼介「槍術に限らず、いかなる武術にもその歴史の中で洗練されてきた基本の動きや理想の型がある。洗練され無駄がなくなったが、それはつまり選択肢は限られ予測も成り立つということだ」

 

そしてお互いが闘う相手の行動を予測し、読み合うからこそ駆け引きが生まれる。

 

蒼介「しかし奴の動きに決まった型など存在しない。並外れた直感と反射神経、そして天才的なセンスを最大限に活かし自由奔放に動き回る……それがカズマの基本スタイルだ」

 

和真のこのトリッキーな動きを少しでも予測して動ける者は、文月学園の中でも読心の達人である蒼介ぐらいしかいない。彼以外が対処するには、梓のような一切相手に主導権を渡さない立ち回りを強いられるであろう。奇襲をみすみす成功させてしまった代償は思った以上に大きいようだ。

 

飛鳥「……それにしても和真、武器使ったら明らかに素手より強くない?」

蒼介「?当然だろう。武装して弱体化する方が珍しいのではないか?」

飛鳥「いや、それはそうなんだけど……貴方達たまに木刀対素手で組み手してるじゃない。それに勉強合宿のときも西村先生相手に丸腰だったし。武器使った方が強いならどうして……」

蒼介「ああ、そのことか。答えは単純明快、武器を扱えば手加減が困難になるからだ」

飛鳥「……なるほど」

 

蒼介の簡潔な説明で飛鳥は納得する。

素手でコンクリートを砕ける和真のずば抜けた腕力で武器を振るえば、どれだけ手加減しようと相手を壊しかねないのだ。

 

愛子「……というか和真君、明らかに一回戦より強くない?優子と闘ったときは本気じゃなかったのかな?」

飛鳥「それは考えにくいわね。和真のモットーはオーバーキル、そうした方が良いって事情でも無い限り闘いで手を抜かないわ」

蒼介「おそらく闘っている相手の性質の違いだろうな。先程も言ったがあの変則的な動きには無駄が多い。守りを主体としたカウンタータイプの木下にはやや危険だと警戒したのだろう。一方坂本はどちらかと言えば自分から攻めていくタイプだろう。それに下手に喧嘩慣れしている分、変則的な動きへの対応に余計惑わされても不思議ではない」

飛鳥「これは勝敗が見えた……かな?」

蒼介「付け入る隙はあるにはあるが、九割方決したと見て良いだろうな。……さてどうする坂本、このままでは神童の名が廃るぞ」

 

 

 




決着は次回に続きます。

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