バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【注目生徒紹介】

・霧島翔子(二年Fクラス)

〈召喚獣〉バランス型

〈武器〉村雨

〈能力〉アイスブロック……消費50。様々な形状の氷塊を作り出す。応用性はピカイチだが威力はまあまあで持続時間も短い玄人向きの能力。

〈オーバークロック〉アブソリュートゼロ……消費200。召喚フィールド内を完全凍結させる。威力はゼロだがほぼ確実に敵を無力化できる。ただし自分も無力化される他、オーラを纏った蒼介の召喚獣には通用しなかったなど、意外と欠点が多い。

〈成績〉
外国語……573点
国語……482点
数学……458点
理科……510点
社会……520点
保体……502点

総合……5588点



S・B・F本戦・Aブロック②

二回戦第一試合、霧島翔子vs佐伯梓。

一見好カードに見えるこの組み合わせだが、下馬評では圧倒的に梓有利と見られている。何故なら梓には腕輪能力を無差別に封じる『青銅の腕輪』を所持しているため、彼女との闘いでは嫌が応にも操作技術と戦術、経験の差が鍵を握ることになる。翔子はそれら全てで梓に遅れを取る上に、ここ最近彼女が力を入れて鍛練を積んできたのは、他ならぬ腕輪能力『アイスブロック』の工夫と応用に関してである。その腕輪能力そのものが使えないとなれば、いくら翔子であっても勝ち目はほぼゼロであろう。

 

 

 

 

 

というのが前評判だったのだが……

 

梓「杏里ー、これちょっと預かっててー!」

杏里「えっ……梓、なんで……?」

 

梓はその青銅の腕輪を、あろうことか観客席にいる杏里に向かって(どうでもいいが小柄な体格の割になかなかの強肩と制球力である。野球大会に参加していたらFクラスはより苦戦を強いられていたかもしれない)投げ渡してしまったのだ。既に科目選択は終了し(ちなみに科目は社会)、召喚獣も喚び出され『召喚獣視覚リンクシステム』も既に起動している以上、今更観客席にまで取りに戻ることはできない。梓は圧倒的なアドバンテージを自分からみすみす放棄してしまったのである。

この愚行にしか見えない暴挙に投げ渡された杏里は勿論観客や教師達、勝ち残っている生徒達のほとんど、果ては対峙している翔子まで面食らってしまう。

 

翔子「……なんで、そんなことを?」

梓「いや別に深い理由はあらへんよ。この大会はウチら三年にとっては最後の花道みたいなもんやろ?それやのに対戦相手が全力を出せへんっちゅうのは何かつまらんやんか。それに霧島ちゃん、腕輪能力を重点的に磨いてきたんやろ?ウチは逃げも隠れもせぇへん、胸貸したるから全力でかかってきぃ!」

 

拳で自分の胸の辺りを叩きながら、漫画であれば彼女の周囲にキラキラとエフェクトと擬音が入るであろう、この上無く爽やかな満面の笑み浮かべる梓。本人の整った容姿も相まって非常に綺麗な笑顔であるが、翔子を含め梓をよく知る者達の心は…

 

 

 

(((今度は何を企んでいるんだ……?)))

 

100%の猜疑心であった。

まあ無理もない。何せ梓は「有言不実行&不言実行」をポリシーとして掲げているほどの口から生まれた口先女王。優れた容姿と高いスペック、そして取っつきやすい性格のおかげで誰からも慕われると同時に、そういうアレ過ぎる性質のさいである意味間違っても信用するべきではないと思われている女子なのだから。

 

綾倉「それでは、試合開始です!」

梓「よっしゃ、ほな始めよか」

翔子「……『アイスブロック……

ダイヤモンドダスト』!」

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 466点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 420点』

 

 

試合開始とほぼ同時に、〈翔子〉は腕輪能力を二重発動させた。大きく広げた両手の平から出現した氷塊が無数の氷の礫に分裂し、〈翔子〉の周囲を幻想的に舞う。

 

梓「ほー、えらい幻想的やなー」

翔子(……正攻法でこれられるよりはずっと良い。どんな狙いがあるにせよ、腕輪能力を使えるなら私にも勝ち目がある。佐伯先輩の狙いがわからないなら私の取るべき戦法は……先手必勝!)

 

〈翔子〉の合図と共に氷の礫が一斉に〈梓〉に襲いかかる。一学期の試験召喚戦争ではあの〈優子〉すら瞬殺した、『アイスブロック』の十八番……その二倍の密度の弾幕である。並大抵の召喚獣が相手ならこの技だけでゲームエンド近くまで持ち込めるほどの破壊力だが…

 

梓「甘いなぁ…ていていていてぇーっい!」

 

相対している〈梓〉の実力は、どう低く見積もっても並大抵には程遠い。干将と莫耶、そして両足のソルトレットを巧みに操り次々と氷の礫を撃墜していく。

 

『おおスゲェ!氷を全部打ち落としてやがる!』

『かけ声はダセェが凄い技術だ!』

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 433点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 420点』

 

 

多少は削れたものの腕輪二重発動の代償に100点も消費してしまい、両者の点数差は早くも逆転してしまった。

 

梓「ふぅ、ざっとこんなもんや。……霧島ちゃん、こんな闇雲な攻撃でウチの梓式四刀流に勝てるとと思っとったんか?」

翔子「……まさか!」

 

この程度で勝てるなど最初から思っていない。

〈翔子〉はダイヤモンドダストを隠れ蓑に〈梓〉との間合いをかなり詰めていた。さらにチェンジオブペースで急加速して村雨の間合いまで一気に詰め、〈梓〉目がけて斬りかかった。が…

 

梓「その動きは前に見たでぇっ!」

 

急激な緩急に惑わされることなく、〈梓〉は干将でパワー差をカバーするため村雨の鍔付近の刃を狙って受け止めた。

 

翔子「……『アイスブロック・サムライソード』!」

梓「甘いわっ!」

 

〈翔子〉は負けじと天井に向かって大きく広げた左手から氷の刀を創造して追撃するが、先程と同じ方法で莫耶に受け止められる。

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 433点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 370点』

 

 

梓「お互い両手の塞がった膠着状態……せやけどほぼゼロ距離で受け止めたから、ウチにはまだ蹴りがあるんや。退くんなら今のうち-」

翔子「……ここだ、ここで決める!

『アイスブロック・ジャイアントハンド』!」

梓「-んなっ!?」

 

〈翔子〉は背中から二本の大きな腕を創造し、〈梓〉を決して逃がさないよう取り囲むように襲いかかる。〈翔子〉の狙いは始めからこの形に持っていくことであった。

腕輪能力を連発する際にやたらと手を強調していたのも、「氷は手からしか生み出せない」という先入観を梓に刷り込むためであった。

 

翔子(……捕らえた!いくら佐伯先輩でも、これを避けることはできないはず!)

梓「くぅっ!まさか体のどこからでも能力が発動できるなんて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇遇やなぁ、ウチもや♪」

翔子「え-」

梓「『ヨーヨーブレード』!」

 

キーワードと同時に〈梓〉の両肩から大きなヨーヨーが飛び出し氷の腕とぶつかり合い、両者は相殺して消滅した。

 

翔子「そんな……!?」

梓「生憎ウチのヨーヨーも体中のどこからでも出せるんや。ほなそれじゃ……ぶっ飛べやぁあああ!」

 

そして〈梓〉は反撃とばかりに、間髪入れずに〈翔子〉の腹に渾身の蹴りを叩き込み、遥か後方に蹴り飛ばした。

 

翔子(……佐伯先輩にも腕輪能力があることを失念していたのは私の落ち度……でもさっきのあのタイミング、私の攻撃を予測していなきゃ間に合わなかったはず……)

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 333点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 195点』

 

 

翔子「……まさか、読んでいたんですか……?」

梓「霧島ちゃん嘘付くの馴れてへんなぁ。あんなこれ見よがしに手をアピールしてたら、ウチらベテランからしたら『疑ってください』て口で言うてるようなもんやで?いや、そもそもやな霧島ちゃん……

 

 

 

他ならぬこのウチを騙そうなんて10年早いわ!」

(((なんで今日一のどや顔をここで!?)))

 

不必要なほどやたら誇らしげな表情の梓に会場中のほとんどが内心でツッコミを入れる一方、目論見が完全に看過された翔子は今にも挫けそうになっている戦意を思考を巡らせ活路を見つけることで奮い立たせようとしていた。

 

翔子(アイスブロックはあと三回しか……佐伯先輩ほどの相手だと最低一回はフェイクに使う必要があるから、実質二回しか使えない。その二回で佐伯先輩の点数を削りきらなきゃ負け……いやそもそも、さっきのヨーヨーは私の技術じゃ腕輪で防ぐしか-)

梓「判断が遅いわ!」

翔子「しまっ…!」

 

しかし僅かな隙が命取り。再び〈梓〉の両肩からヨーヨーが飛び出し、上下左右に動かしながら〈翔子〉に襲いかかる。村雨では応戦しようにも不規則な軌道を捉えきれない。

 

翔子「っ……『アイスブロック・フォートレス』!」

 

他に打つ手の無くなった〈翔子〉は、やむを得ず能力で自分の周囲に二重の氷の防壁を生み出した。

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 233点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 95点』

 

 

それははっきり言って悪手中の悪手。

〈梓〉ほどの相手を一瞬でも視界から見失うことの恐ろしさ、そして先ほどの攻防で両者の能力は相殺するということを考慮していない愚策であった。

先ほどと同様に二つのヨーヨーは防壁と打ち消し合い消滅し、防壁が消し飛ぶと同時に〈翔子〉の視界に飛び込んできたのは…

 

 

 

 

梓「これでとどめや!」

翔子「っ……!」

 

干将・莫耶を逆手に構えて突撃してくる〈梓〉であった。一気に間合いをつめここ一番の猛攻を仕掛ける〈梓〉に〈翔子〉はどうにか応戦するも、手数と実力の差から見る見る点数が削られていき、そのまま討ち取られてしまった。

 

 

《社会》

『三年Aクラス 佐伯梓 233点

vs

 二年Fクラス 霧島翔子 戦死』

 

 

梓「お疲れさん、結構楽しめたで霧島ちゃん」

翔子「……ありがとうございました」

 

表面上は冷静を装っている翔子だが、上機嫌で控えスペースに帰っていく梓を拳を力強く握りしめた状態で見送っている様子を見るに、負けて平気だったとは口が裂けても言えないだろう。

 

翔子(…………負けた。

こちらの策は全て見抜かれ、ひたすら先輩に翻弄された……完全に、負けた……っ!!!)

 

未だかつてない圧倒的な挫折を経験した翔子に対して、雄二は敢えて慰めたりはせず心の中でのみ労っておく。

 

雄二(最善を尽くした、たとえ負けても悔いはない……なんて綺麗事、敗者にかけてはいけねぇ。ましてや上っ面の慰めなんてもってのほかだ。…………だから翔子、俺は手を貸さないぞ。必ずすぐに立ち上がるって信じてるからな。

……それにしても、佐伯先輩にしてはずいぶんと正攻法な闘い方だったな)

 

 

 

 

 

 

 

 

梓(-なんて思ってる奴がほとんどやろな~。

ククク、甘いなぁ……天津甘栗より甘いで皆。()()()()()()()()()()()に決まってるやん。せやけどこの仕込みが効いてくるのは、ほんの少し先の話っちゅうだけや♪)

 

控えスペースへ戻りながら、稀代のペテン師梓は内心でほくそ笑むのであった。

 




翔子さんも能力をフルに用いて善戦してくれましたが流石は主人公を真っ向から粉砕した実績を持つだけあって、梓さん一枚も二枚も上手だったようです。

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