文月女傑王決定戦の幕が降りたところで、続いて対戦カードは明久VS根本。小暮VS徹に負けず劣らず因縁深い組合せであり、フィールドに入った二人はお互いを親の仇のように睨めつける。
根本「待っていた……この時をずっと待っていたぞ吉井ィ……!ようやくお前に俺の受けた屈辱を利子付けて返すときが来たぜ!」
明久「確かに僕と雄二は君を女装させたり、小山さんと別れる原因作ったりしちゃったけど、元はと言えば根本君が姫路さんに酷いことしたことが発端じゃないか」
根本「……それに関しては別に恨んじゃいねぇよ。手紙の件はお前らがキレるとわかってて実行したんだ、その結果どんな手痛いしっぺ返しを受けようと自己責任だ。優香のことも時間はかかったがようやく吹っ切れたし、大門じゃあるまいし今さらそこを蒸し返すほどねちっこくねぇよ」
明久「あっ、そ、そうなんだ……じゃあ先日試召戦争で設備のランクを落とされた腹いせに-」
根本「バーカ。その件に関してはむしろ俺達から話だろうが。その件で恨まれるとすりゃ、Fクラスのボロ教室押し付けられたCクラスだろうよ」
こうして改めて思い返してみれば方々から恨みを大人買いしていることを実感する明久。まあそれはそれとして、明久は根本の思惑がいよいよわからなくなった。恨んでいないと言うならば何故彼はここまで全身からリベンジオーラを撒き散らしているのだろうか。
明久の顔面がクエスチョンマークで覆い尽くされたことに気づいた根本は、やれやれと肩を竦めつつ一旦構えを解く。
根本「そんなに警戒すんなよ吉井。俺の目的は復讐なんてドロドロしてもんじゃなく、至極全うなリベンジマッチなんだからよ」
明久「……え?ど、どういうこと?」
根本「……かつての俺は『卑怯』だと蔑まれようと、何よりも勝利を第一に所詮考えていた。勝ちさえすれば周りが相手が何をほざこうと、負け犬の遠吠えでしかないとも思っていた」
その考え方に怖いほど心当たりのある明久は思わず目をそらすが、それに構わず根本は話を続ける。
根本「……だがあの日俺は負けた。それも観察処分者で学年一のバカ野郎に出し抜かれる形でな」
明久(し、失礼な!?)
根本「あの頃はいずれAクラスにも挑むつもりだったが……卑怯な手段まで持ち出してお前程度に遅れを取るような奴が、
だから俺は『卑怯』から『狡猾』へと生き方を変えた。これからはルールには乗っ取りつつもグレーゾーンのスレスレを見極め、うまいこと甘い汁を啜って生きていくと決意したぜ!」
明久(せっかく改心したみたいな流れなんだからさ、もうちょっとこう……他に良い生き方は無かったの!?)
根本「この闘いは『卑怯・根本』への弔い合戦だ……かつての俺に引導を渡したお前に、俺は今日リベンジする!……さてと、御託はもう良いからとっとと始めようじゃねぇか!」
明久「散々長々語った君がそれを言うの!?」
綾倉「まったくですよ時間も限られてるというのに……。それでは吉井君と根本君、さっさと希望する科目を選択してください」
器用にもニコニコしながら白けた表情をする綾倉先生に若干呆れ気味に言われ、根本は勿論明久も気まずそうにPDFから科目を選択しステージの上に設置されたオーロラビジョンに3種類の科目が表示される。明久の希望した科目はもちろん社会、根本の希望した科目は英語、そして決定した科目は……国語であった。
明久「げぇっ!?社会じゃない!?」
根本「いや当たり前だろ。普通わざわざ相手の土俵で勝負しようと思うわけねぇじゃん」
明久「くっ、流石は『狡猾』の根本!ルールの裏をつく優れた戦術だと誉めて-」
根本「いやだからな、お前がそんな単純なことにも気づかない底抜けの間抜けってだけで-」
明久「優れた戦術だと誉めておこう!」
根本(ほんと、なんであの頃の俺はこんなバカに出し抜かれたんだろ……)
闘う相手は多分自分に気を遣って社会で闘ってくれるだろうから、もしかしたら優勝できるのでは?……と、わりと本気でそんな甘いことを考えていた明久は早くも追い詰められてしまった。目に見えて慌てまくる明久に、根本は少し悲しくなったとか。
そんな感じでグダグダと長い茶番を繰り広げた後、ようやくお互い召喚獣を喚び出し試合が始まったのだが…
《国語》
『二年Bクラス 根本恭二 99点
VS
二年Fクラス 吉井明久 53点/48点』
根本「こ、ここまで差があるのかよ……!?」
明久「……」
戦況はほぼ明久のワンサイドゲームと化していた。
誤解が生じないよう補足しておくが、根本は別に弱くはない。散々削られたが初期点数は242点とAクラス並の成績であったし、操作技術もリベンジというだけあって練習も積んで来たのか、同学年ではそこそこのレベルに達している。総評して、以前までの明久なら敗北もあり得たぐらいのレベルには達していた。……が、
根本(なんで二つ同時に操作してるのにそこまでスムーズに動けるんだよ!?)
それでも所詮はの程度でしかなく、白金の腕輪を完全にものにした今の明久に対抗できるレベルではない。
根本(ちぃっ、二人がかりでリンチされてるような気分だぜ……攻撃を何とか凌ぎつつ急いで打開策を-)
明久「隙あり」
根本「っ!?しまっ-」
〈根本〉が主獣の唐竹割りを受け止めた直後、主獣の背後から飛び出た副獣が木刀をブーメランのように投擲した。受け太刀をしている状態の〈根本〉は避けることも出来ずに直撃し、その隙に主獣はバランスを崩した〈根本〉からククリ刀をひったくり、二つの武器を用いて〈根本〉を十字に斬り裂いた。
《国語》
『二年Bクラス 根本恭二 戦死
VS
二年Fクラス 吉井明久 53点/48点』
飛鳥「次の相手は吉井君か、まあ概ね予想通りね。それにしても彼、以前も操作は上手だったけど今はもう別次元ね……」
蒼介「……そうだな、流石の私も驚かされた。
まさか独学でここまで…」
飛鳥「え?どういうこと?」
蒼介「まだ確証があるわけではないが……おそらく今の吉井は-」
Dブロック第三試合。
対戦カードは黒木鉄平VS金田一真之介。
鉄平「うォォォおおおおお!!!」
金田一「はぁぁぁあああああ!!!」
両者ともにバリバリの熱血タイプ故、搦め手が入り込む余地の無い、ノーガードのぶつかり合いになるのは必然であった。真っ向からの激闘に会場のボルテージも次第にヒートアップしていく。
《数学》
『一年Aクラス 黒木鉄平 171点
VS
三年Aクラス 金田一真之介 244点』
お互いの操作技術は僅かにだが鉄平に分があるものの、初期点数は金田一が40点近く上回っており、それに比例して召喚獣のスペックにも差が生じている。そのため拮抗した戦況は次第に金田一に傾いていく。
金田一(……ここだ!)
鉄平「っ、おらァッ!!!」
突如〈金田一〉は意図的に隙を作り、〈鉄平〉は脊髄反射の如く顔面に拳を叩き込む。〈金田一〉はその攻撃を避けようともせず、まともに受けきってから…
金田一「…捕まえた!」
黒木「し、しまっ-」
逃がさないように腕を掴み、そのままグラディウスで一刀両断して勝負を決めた。
《数学》
『一年Aクラス 黒木鉄平 戦死
VS
三年Aクラス 金田一真之介 76点』
黒木「ぐぬぬ、俺の負けか……まんまと誘い込まれちまったっす。流石っすね金田一先輩」
金田一「ま、経験値の違いだな。お前は強かったが俺も最高学年、おいそれと一年坊主に負けるわけにゃいかねーのよ」
二人の戦闘、そして戦闘終了後お互いを讃え合う爽やかな光景を見届けた蒼介は、千莉に続き鉄平のこともシロと判断する。
蒼介(……しかし無自覚に協力させられているという可能性もある。となると注意すべきはやはり奴だな。……それに奴には鳳家を継ぐものとして、どういても問い詰めなければならないこともある)
彼の両の瞳には、一回戦最終試合に赴く少女……綾倉詩織が映っていた。
詩織「……」
やたらと根本君にスポットが当たっていたのは、どちらかと言えば死亡フラグ的な意味合いが強かったようです……。
・黒木鉄平(一年Aクラス)
〈召喚獣〉バランス型
〈武器〉セスタス
〈成績〉
外国語……302点
国語……277点
数学……325点
理科……470点
社会……294点
保体……451点
総合科目……3791点
・宗方千莉(一年Cクラス)
〈召喚獣〉スピード型
〈武器〉二刀流
〈成績〉
外国語……18点
国語……361点
数学……253点
理科……257点
社会……701点
保体……385点
総合科目……3565点
ここだけの話、この二人が決勝トーナメントでかませになることは割と前から決まっていました。