徹「……小暮先輩、始める前に一つだけ聞いていいですか?」
小暮「あら、なんでしょうか?」
希望科目選択の段階で、徹は突然小暮に対して質問を投げかけた。
徹「アンタが400点越えてる科目はどれですか?」
小暮「……それを話せばわたくしが不利になるので、流石にお答えするわけには-」
徹「僕も越えていたらその教科を希望してあげます……と言ったらどうしますか?」
小暮「!……」
突然の提案に小暮は頭の中で熟考する。徹の総合科目の点数は先日のvsリンネ・クラインの際に目撃した梓から聞き及んでいるが、あの総合点数では大抵の科目で400点を上回っていると見ていいだろう。何か企んでいる可能性は十二分にあるが、徹側だけが腕輪持ちという最悪の事態を招くぐらいならこの提案に乗っておくべきではないか……?
小暮「………国語と社会です」
そう判断した小暮は自らの得意科目を露呈した。
徹「ふむ……国語は越えていないが社会は越えている。では約束通り、僕の希望科目は社会だ」
両者共に社会科目を選択したため、ステージの上に設置されたオーロラビジョンの三つの項目は全て社会科となった。
小暮「大門君、いったい何が狙いなのでしょうか?わたくしの知る貴方は、わざわざ相手の土俵で闘うような方では無いはず……」
徹「まあそうなんですけどね、生憎手段を選ばない方法でのリベンジは肝試しの際に果たしたんでね。今度はアンタが最も得意としているフィールドでぶちのめす。そうしてこそ……召喚大会以来僕が背追い続けて来た屈辱の十字架をアンタに背負わせられるんですよクハハハハハ!」
小暮(や、やっぱりまだそれ引き摺ってましたか……)
大門徹は受けた屈辱を決して忘れない。
その常軌を逸した執念深さに、小暮は呆れを通り越して感心しそうになる。
立会人の綾倉先生が社会科のフィールドを展開し、二人は『召喚獣視覚リンクシステム』専用ゴーグルをかける。
徹・小暮「「
そして召喚獣を呼び出し準備を終える。奇しくも両者とも召喚大会の頃より強化されているだけで、以前と同じ系統の装備であった。
《社会》
『三年Aクラス 小暮葵 406点
vs
二年Aクラス 大門徹 402点』
小暮「では、参ります」
徹「どうぞご自由に。……『リフレクト・アーマー』」
早速腕輪を使い鎧を強化した〈徹〉に対し、〈小暮〉は小手調べとばかりに鉄扇を構えて接近戦に持ち込む。かつて大門は小暮のこの素早い動きと圧倒的な経験の差の前に為す術なく敗北した。
しかし臥薪嘗胆の思いでこの数ヵ月特訓に特訓を重ねてきた徹に同じ手は通用しない。
徹「アハハハハハ無駄無駄無駄ぁっ!」
小暮(やけにハイテンションですわね…っとそんなことよりあの能力、予想以上に厄介ですね……)
スピードでは遅れを取るため完全回避は不可能に近い。そのため〈徹〉の取った手段は最小限の動きで〈小暮〉の急所狙いの攻撃をずらすことだ。その戦法が功を奏し、〈徹〉が最小限のダーツしか負っていない一方、〈小暮〉は『リフレクト・アーマー』によって反射された衝撃破を喰らい、軽くはない手傷を負ってしまう。
《社会》
『三年Aクラス 小暮葵 315点
vs
二年Aクラス 大門徹 322 点』
腕輪発動による消費を加味すると削れた点数はトントンだが、戦局の流れは明らかに徹に傾いている。
小暮「どうやらわたくしも、全力で立ち向かう必要がるようですわね……『黒死蝶』」
その状況を打開すべく腕輪能力『黒死蝶』を発動すると、〈小暮〉の体から数頭の黒い蝶が出現し〈徹〉に襲いかかる。
徹「アッハッハ!そんなへなちょこな攻撃が僕に通用すると……って何ィィイイイ!?」
小暮「うふふ……どうやら威力の無い攻撃は反射できないようですね」
(((だ……ダセェ……)))
和真(あのバカガキ、油断し過ぎだろ……)
蒼介(無様だな……)
優子(見てて滑稽ね……)
飛鳥(大門君、いくらなんでもそれは無いでしょう……)
愛子(格好悪過ぎるよ徹君……)
源太(後で指差して笑ってやろ♪)
声にこそ出さなかったものの、内心で思いっきりディスりまくる観客及び『アクティブ』一同。自らの防御を過信して〈徹〉避けようともせず受け止めたため、蝶を毒鱗粉を全身に浴びてしまう。〈徹〉は自由を大幅に制限され、その上時間と共に点数が削れる呪いを浴びてしまった。
《社会》
『三年Aクラス 小暮葵 215点
vs
二年Aクラス 大門徹 244点』
小暮「……どうやら、勝負ありですね」
徹「くっ…!」
小暮の勝利宣言に言い返す言葉も無く、徹は俯いて悔しそうに歯噛みする。〈徹〉がこれだけ弱体化された状態では、〈小暮〉が逃げに撤すれば決して追いつけない。そうなれば毒に体をじわじわと蝕まれてジ・エンドである。
徹「くっ……!」
小暮「心中察しますが、これも貴方の油断が招いたこと。わたくしも先輩として、ここは心を鬼にして-」
徹「くっ……!」
雄二(……ん?なんか様子が変だな)
秀吉(………これはいったいどういうことじゃ?)
蒼介(……そういうことか。
まったく、悪趣味な奴め)
和真(アイツ、ほんと性格悪いな)
雄二はいつまでも俯いたままの徹に違和感を覚えた。
学園一の演技バカである秀吉はその違和感の正体を完璧に見抜いていたが、徹との親交がほとんど無いため徹がどうしてそうなのかを理解できなかった。
そしてその秀吉に匹敵する観察力を持ち、なおかつ大門徹という人物をよく知る二人は全てを理解し、そしてただただ呆れるばかりであった。
徹「くっ…………くっ………くっ……」
小暮「……?あの、大門君?いったいどうしたので-」
ようやく徹の様子がおかしいことに気づいた小暮が、心配そうに声をかけた途端に徹は顔を上げ…
徹「クックッククハハハハハアーッハッハッハッハッハ!『拘束解除』ォっ!」
小暮「っ!?」
狂ったように笑いながら、“オーバークロック”を発動させた。直後、全身を覆っていた甲冑と両腕に嵌められたガントレットが消滅し、〈徹〉は丸腰の制服姿になる。そして…
《社会》
『三年Aクラス 小暮葵 戦死
vs
二年Aクラス 大門徹 64点』
小暮「…………え?」
電光石火。
警戒させる暇もなく、〈徹〉は桁違いの速度で接近し〈小暮〉を瞬殺した。牽制用に喚び出された黒死蝶を拳圧で消し飛ばし、〈小暮〉が咄嗟にしたガードを武器ごと粉砕し、一方的に蹂躙した。何が起きたかわからず固まったままの小暮に、徹は得意気に種明かしをする。
徹「ククク……これが僕のオーバークロック、『拘束解除』。その能力は装備を全て失い耐久が最低レベルに下がることを引き換えに、僅かな時間だけ圧倒的なパワーとスピードを得ることだ。
さて小暮先輩、僕の油断がどうたらってさっきの台詞……もう一回言ってくださいよぉぉぉ(にたぁ…)」
(((めっちゃ悪い顔してるーーーーー!?)))
愉悦の極みのような笑顔を浮かべる徹に、流石の小暮も余裕を無くしたのか顔をひきつらせながら尋ねる。
小暮「あの、大門君?もしかして……わたくしの『黒死蝶』を避けようともしなかったのは、油断していたとかではなくて-」
徹「勿論わ・ざ・とですよぉ~!
この僕が!今日のリベンジを一日千秋の思いで待ち望んでいたこの僕が!よもや標的の腕輪の詳細くらい!調べて無いとでも思いましたかぁ!?
だとしたら随分と浅い読みですねぇィヒヒハハハハハ!この大門徹、受けた屈辱は数十倍にして返すのがポリシーでしてねぇ!
どうでしたか?僕の手のひらで踊った感想は?僕をあっさり倒せたと思った、淡い夢の感想はぁ?まさに芸術……実に、実に芸術的ですねぇ!僕が油断したと勝手に思い込んで得意気になっていたアンタは……見ていてとても愉快でしたよウヒャヒャヒャヒャ!」
虚仮にするだけ虚仮にして満足したのか、徹は顔を真っ赤にして涙目になる小暮を捨て置いてスキップしながら控えスペースに戻っていった。それを見届けた教師、生徒達の心は一つになる。
(((こ れ は ヒ ド イ)))
この日以降、徹は『文月学園一器が小さい男』『文月学園一執念深い男』に続き『文月学園一陰湿な男』という不名誉な称号を頂戴するのだが、ひたすら我が道を行く徹が一切気にも止めないことはわざわざ説明するまでもない。
蒼介(まったくアイツは……可能な限り温存しておけと言っていたオーバークロックを使ってまで、くだらないことしおってからに……。奴のオーバークロックは使いようによってはランクアップ能力にさえ届きうる。だからこそ、Fクラスには隠しておきたかったのだがな)
雄二(ちぃっ、思わぬ伏兵がいやがった……。この分じゃ、俺と翔子がランクアップしても楽勝とはいかなさそうだな……)
とにもかくにも、これで波乱に満ちたBブロックは終了した。続いてはCブロック……優勝候補No.1の蒼介が所属する、ある意味随一の死のブロックである。
全国の小暮先輩ファンの皆様、申し訳ございません……。
【オーバークロック】
ギガント・セイバー(優子)……消費200。剣ががとんでもない大きさの光輝く剣(意外と軽い)になる。発動後剣は粉砕するが本命の武器は鞘なので、オーバークロック中唯一(実質)ノーリスク能力と言える。
拘束解除(徹)……消費50。リフレクトアーマーを発動している状態でのみ発動可能。全武装を捨て去り耐久を犠牲にする変わりにパワーとスピードを大幅に上昇させる。使いようによってはランクアップ能力とも渡り合える強能力だが、その効果は一戦しか持たない上、その後1日超絶紙装甲かつ丸腰になるというハイリスク・ハイリターン。