Bクラス戦が終結してから二日後、和真達が点数補給のテストを終えた日の朝。残すAクラス戦についての最後の説明会を受けていた。
雄二「まずは皆に礼を言いたい。周りの連中には不可能だと言われていたにも関わらずここまで来れたのは、他でもない皆の協力があってのことだ。感謝している」
壇上の雄二が珍しく素直に礼を言う。
明久「ゆ、雄二、どうしたのさ。らしくないよ?」
和真「素直なお前なんざきしょいだけだよ。自重しろバカヤロー」
雄二「ああ。自分でもそう思…んだと和真テメェ!……とにかく、これは偽らざる俺の気持ちだ。ここまで来た以上、絶対Aクラスにも勝ちたい。勝って、生き残るには勉強すればいいってもんじゃないという現実を、教師どもに突きつけるんだ!」
『おおーっ!』
『そうだーっ!』
『勉強だけじゃねぇんだーっ!』
和真(確かにデスクワークのみで全てが決まる世界なんざ死んでもごめんだな)
雄二「皆ありがとう。そして残るAクラス戦だが、これは一騎討ちで決着をつけたいと考えている」
先日の昼食時にいたメンバーは既に聞いた話だったので明久達は驚かなかったがそれ以外の連中はかなり驚いており、教室中にざわめきが広がった。
『どういうことだ?』
『誰と誰が一騎討ちをするんだ?』
『それで本当に勝てるのか?』
雄二「落ち着いてくれ。それを今から説明する」
バンバン、と机を叩いて皆を静まらせる。蒼介を上回る点数を期待できる生徒などFクラスで、と言うより二年でたった一人しかいない。
雄二「やるのはこちらからはムッツリーニ、相手は恐らく鳳をだしてくるだろう。やってくれるな?ムッツリーニ」
ムッツリーニ「…………(グッ)」
そう。ムッツリーニの保健体育の成績はあの蒼介をも上回るので、人選としては彼が妥当だろう。
しかしこの作戦には問題がある。
明久「でも雄二、そんな提案Aクラスが聞き入れてくれるの?」
雄二「まあ普通に頼んでも無理だな」
言うまでもなくこの提案はFクラスに有利すぎる。一騎討ちだと二クラスの戦力差が大幅に縮まってしまう上、ムッツリーニが出る以上、科目選択権もFクラスに無ければ成り立たない。普通こんな提案がまかり通るはずがないだろう。
明久「じゃあどうするのさ?」
雄二「そこで今まで勝ち取ってきたものが聞いてくるんだよ。今からそれを説明してやる。」
一度言葉を切って雄二は作戦を説明する。
雄二「まず交渉に行く時間は今日この後行われる生徒会会議の間だ。この間、生徒会長である鳳を含む数名は会議に出席していて、クラス間の交渉権は設置されている代表代理に移る」
クラス代表が生徒会会議に出席中、試召戦争を除く代表の権限は全て代表代理が受け持つ。
美波「? なんでわざわざそんなことするのよ?」
雄二「鳳は生徒会長だ。各クラスにどの生徒が在籍しているか、調べようと思えばすぐ調べられる立場だ」
秀吉「なるほど。学年で唯一自分を上回る点数を持つムッツリーニのことを調べていても不思議ではないのう」
雄二「ああ。それでこちらの狙いがバレてしまうかもしれないからな」
和真「………………………………」
雄二「次にBクラスが俺達次第でAクラスに戦争を仕掛けることになることを仄めかす。メリットが無い試召戦争の二連続、相手にとってはたまったものではないだろう」
明久「なるほど。代理の人は多分こちらが霧島さんをだしてくると思ってそれを引き受ける、と」
雄二「いや、代理を任されているほどの生徒だ、そんな軽はずみな行動をとるとは思えない。それにこのままじゃ科目選択権は手に入らない」
翔子「…じゃあ、どうするの?」
雄二「相手は恐らく念のため、一騎討ちを複数回やることを提案してくる。この提案を五回勝負で提案する」
明久「へ?どういうこと?」
雄二「まあ聞け。そして、科目選択権を交代制にする。それの先攻は頼めば格下の俺達におそらく譲ってくれるだろう」
翔子「…つまり選択権のある三試合を勝ちに行き、二試合は捨てるの?」
姫路「でもそれって鳳君が何試合目に出るかわからないと…」
雄二「その点は心配ない。なあ和真」
和真「ああ。あいつの性格からしてラストに自分を置くだろうし、Aクラスの連中もそうさせるだろう。絶対的エースを大将に据えるのは常識だ」
雄二「そうだ。向こうに選択権がある二試合はどうしようもねぇ。だがこっちに選択権がある試合は全部頂く。そうすれば俺達の机は…」
『システムデスクだ!』
和真「………………………(果たしてそううまくいくかね?)」
優子「一騎討ち?」
雄二「ああ。Fクラスは試召戦争として、Aクラスに一騎討ちを申し込む」
恒例の宣戦布告。今回は代表の雄二を筆頭に、和真、明久、姫路、秀吉、ムッツリーニ、翔子、美波と首脳陣を揃えてAクラスに来ていた。
明久(…毎回こうしてたら僕の制服は繕いだらけにならなかったのでは?)
そんな簡単なことに気づかないバカが悪い。
優子「うーん、何が狙いなの?」
雄二と交渉のテーブルについているのは秀吉の双子の姉で代表代理の一人である優子。学力、身体能力ともに秀吉よりはるかに高く、『アクティブ』のメンバーでもある。
雄二「もちろん俺達Fクラスの勝利が狙いだ」
優子が訝しむのも無理はない。下位クラスの雄二達が一騎討ちで学園トップの蒼介に挑む事時代不自然なのだし何か裏あると考えているのだろう。
優子「面倒な試召戦争を手軽に終わらせる事が出来るのはありがたいけどね、だからと言ってわざわざリスクを冒す必要もないかな」
雄二「賢明だな」
ここまでは予想通り。ここからが交渉の本番となる。
雄二「ところで、Cクラスとの試召戦争はどうだった?」
優子「大体5分くらいでうちの代表が一人で片付けたわ」
雄二「………………そ、そうか」
あまりの衝撃発言に一瞬フリーズする雄二。
試召戦争はどちらかのクラス代表が戦死すれば終結する。それゆえ代表は極力戦線にでないことが常識だ。
蒼介のやったそれは、将棋で例えると王将を敵陣に斬り込ませるような暴挙、邪道中の邪道な行動なのだ。
和真「おいおい、やりたい放題だなあいつ」
優子「とりあえずアンタが言う資格はないと思う」
皆『同感』
和真「お前ら打ち合わせでもしたのかよ…」
クラスの垣根を越えた50人以上の生徒の心が一つになる。かなりのレアケースと言っていいだろう。
雄二「……まあそれはともかく、Bクラスとやりあう気はないか?」
優子「Bクラスって……昨日来ていたあの……」
思い出したくもないものを思い出してしまったのか、優子の顔色が急速に悪くなる。交渉を見守っていたAクラス生徒もトラウマを掘り起こされたようにもがき苦しんでいる。
雄二「ああ。アレが代表がやってるクラスだ。幸い宣戦布告はまだされていないようだが、さてさて。どうなることやら」
優子「でも、BクラスはFクラスと戦争したから、三ヶ月の準備期間を取らない限り試召戦争はできないはずよね?」
試召戦争の決まりの一つ、準備期間。
戦争に負けたクラスは三ヶ月の間、自分から宣戦布告できない。これは負けたクラスがすぐに再戦を申し込んで、戦争が泥沼化しない為の取り決めだ。
雄二「知ってるだろ?実情はどうあれ、対外的にはあの戦争は『和平交渉にて終結』という形になってることを。規約にはなんの問題もない。……そしてDクラスもだ」
優子「……それって脅迫?」
和真(なんかこのやり方、スッキリしねぇなぁ……)
優子「うーん……わかったわよ。何を企んでるか知らないけど、代表が負けるなんてありえないし、その提案受けるわ」
明久「え?本当?」
一触即発になるかと思えば意外とあっさりとした返事に驚き、会話に参加していない明久が声をあげてしまう。
優子「だってあんな格好した代表のいるクラスと戦争なんて嫌だし……」
よほど根本の女装姿がお気に召さなかったらしい。周りのAクラス生徒もほっと一息つく。
雄二(さて、ここからだ)
優子「でも、こちらからも提案」
雄二(やっぱり来たな)
優子「Fクラスがそういう交渉をしてきたらこのルールで受けろって代表から言われてるから、このルールなら受けてもいいわよ」
雄二「…………なに?」
そう言って優子は雄二に何かが書かれたメモ用紙を渡す。用紙には達筆な楷書体で文字がずらり。
雄二「………………っ!?」
書かれた内容を読み進めると、雄二の顔が驚愕に染まる。それを見てFクラスのメンバーもメモ用紙に目を通す。そこに書かれた内容は、
『…………………………こ、これは!?』
和真(……………………やっぱり読まれてたか)
『~Aクラス対Fクラス試召戦争特別ルール~
・勝負は一騎討ちを五回行い、勝ち数が多いクラスが勝利となる
・選択科目権は一回戦をFクラスが持ち、その後交代で科目を決めていく
・どの生徒が何回戦に戦うかをお互い決めておき、事前に立会人の教師に報告する』
雄二が先程述べた勝負方法とほとんど同じ無いようであった。雄二は苦虫を噛み潰したような表情でAクラスの提案を受け入れた。
雄二「…………わかった。その条件を呑もう」
優子「ホント?嬉しいな♪」
雄二「十一時からで構わないか?」
優子「わかったわ、代表もその時間には戻ってくるだろうし」
明久「交渉する手間が省けたね、和真」
和真「……そんな簡単な話じゃないんだがな」
明久「?」
雄二「よし。交渉成立だ。一旦教室に戻るぞ」
明久「そうだね。皆にも報告しなくちゃいけないからね」
交渉を終了し、Aクラスをあとにしようとする。
しかし優子は双子の弟を無事に帰すつもりは微塵もなかった。
優子「あ、ちょっと待って。秀吉に用があるんだった」
秀吉「? なんじゃ姉上?」
優子「秀吉、Cクラスの小山さんって知ってる?」
秀吉「はて、誰じゃ?」
明久(ん?なんかマズいことが起きている気がする。Cクラスの小山さんって、確かこの前秀吉が……)
和真(あ、ダメだ、かなり怒ってるなありゃ。ああなったら俺でも手に負えねぇ。なにがあったか知らんが秀吉、ドンマイ)
優子「ならいいわ。その代わり、ちょっとこっちに来てくれる?」
秀吉「うん?ワシを廊下に連れ出してどうするんじゃ姉上?」
明久(秀吉が木下さんのフリをして罵倒しまくった相手だったような……)
『姉上、どうし…どうしてワシの腕を掴む?』
『アンタ、Cクラスで何してくれたのかしら?どうしてアタシがCクラスの人達を豚呼ばわりしていることになっているのかなぁ?』
『はっはっは。それはじゃな、姉上の本性をワシなりに推測して……あ、姉上っ!ちがっ……!その間接はそっちには曲がらなっ……!』
ガラガラガラ
扉を開けて優子だけ戻ってくる。
優子「秀吉は具合が悪いから早退するってさ♪」
雄二「そ、そうか……」
にこやかに笑いかけながらハンカチで返り血を拭う優子。さすがの雄二も恐怖でなにも言えないみたいだ。
和真(えげつねぇ……相変わらず秀吉だけには容赦ねぇな、あいつ……さらば秀吉、お前のことは忘れない)
交渉を終了し、Fクラス一同はAクラスを後にする。
注:秀吉は生きてます
今回はBクラスのエース、源太くんです。
五十嵐 源太
・性質……攻撃重視&防御軽視視型
・総合科目……1900点前後(学年52位)
・400点以上……英語
・ステータス
(総合科目)
攻撃力……A
機動力……C+
防御力……D
・腕輪……巨人の爪
和真と似たタイプのステータスである。まああそこまで極端ではないが。
『巨人の爪』
消費50で左手を鋭い爪を持った巨大な腕に変える能力。破壊力もかなり高く、状況に応じて攻撃も防御も可能であるが、あまりの重量から発動中召喚獣は動けないというリスクがある。