・橘飛鳥(二年Aクラス)
〈召喚獣〉スピード型
〈武器〉両腕に鉤爪
〈能力〉不明
〈オーバークロック〉不明
〈成績〉
外国語……428点
国語……315点
数学……287点
理科……302点
社会……344点
保体……301点
総合科目……3653点
・木下優子(二年Aクラス)
〈召喚獣〉バランス型
〈武器〉エクスカリバー
〈能力〉ソードバースト(消費:1~100)……点数を消費して斬撃を飛ばす。消費した点数に比例して斬撃が強くなり、最大五連発まで同時発射可能。
〈オーバークロック〉不明
〈成績〉
外国語……499点
国語……492点
数学……497点
理科……495点
社会……496点
保体……484点
総合科目……5442点
………優子さんの成績が爆上げした原因の7割は和真君への怒り(S・B・Fで和真をコテンパンにするつもりで勉学に取り組んだため。勿論操作技術もしっかり向上している)で、残りの3割は翔子さんへのリベンジのためです。
要は10割和真君のせいです。
和真「いや、確かに翔子へのライバル心を煽ったの俺だけどよ……」
召喚獣の操作は難しい。
それは文月学園関係者全員の絶対かつ不変の共通認識である。自分の身体とは頭身が大きく異なり、身体能力も並の人間とは比べ物にならないほど高いのだから、上手く操れるようになるためには必然的にそれ相応の慣れと経験が必要であるし、己の手足のように自由自在に操れるレベルに至った生徒は今のところ明久、高城、梓のたった三人しかいない。
そして二年生の総括的な操作技術は三年生に劣るのと同様、当然一年生は二年生に劣る。それどころかつい最近召喚獣を手にした一年生と二年近くに渡って召喚獣を操作してきた二年生では、実力は天と地ほど離れていると言っても過言ではない。故に鉄平&千莉との闘いはさほど苦戦することはないだろうと秀吉達は高を括っていた。点数こそ伯仲しているが操作慣れしていない一年生に遅れを取ることはない……と。
美波「くっ……!」
秀吉「これは、驚いたのう……!」
宗方「笑止……拙者達を労せず討てると思うたか、このうつけ共が」
鉄平「あまりガッカリさせんなよ先輩方……こんなんじゃ全然熱くなれねェよ」
《数学》
『二年Fクラス 島田美波 224点
二年Fクラス 木下秀吉 238点
VS
一年Aクラス 黒木鉄平 306点
一年Cクラス 宗方千莉 242点』
しかし現実には二年生達が追い込まれているという、信じがたい光景が広がっていた。
鉄平「ほらほらどうしたァっ!幾多の試召戦争を勝ち抜いてきた2-Fの実力はこんなもんかよ!?だとしたらガッカリさせてくれるぜこの野郎!」
美波「なんですってこの
〈美波〉は主の怒りに呼応するかのようにランスで〈鉄平〉の首を狙う。が、
鉄平「日本語喋れや!」
〈鉄平〉は紙一重でそれを避け、ランスを引き戻すより先に〈美波〉に急接近しボディーブローを喰らわせた。
美波「そんな!?」
秀吉「島田よ、熱くなるでない!それでは相手の思う壺-」
千莉「貴殿に余所見をする暇など在ろうか!」
秀吉が劣性の美波に気を取られた隙を逃さず、〈千莉〉は〈秀吉〉に向かって袈裟斬りを放つ。咄嗟に防御体勢に入りなんとか受け太刀して凌ぐが…
千莉「そちらは
秀吉「し、しまった!」
〈千莉〉が二刀流であることを失念していた〈秀吉〉は、
鉄平「友達に対して的外れなアドバイスはやめてやれや木下先輩……アンタらが弱ェのはな、熱さが足りないからなんだよォォォ!」
成す術無く後方に吹き飛ばされた〈秀吉〉の背後にすかさず〈鉄平〉が回り込み、急所目掛けて渾身のボディーブローを放つ。
美波「させないっ!」
フリーになった〈美波〉が必死に伸ばしたランスの先で受け止めたおかげで、〈秀吉〉にその拳が届くことはなかった。
しかし美波のこの行動はファインプレーに見えてその実紛れもない悪手である。何故なら鉄平の意識は完全に秀吉への追撃に向いていたのだから、その利を活かすためには美波は秀吉のカバーではなく不意をついて攻撃するべきだった。彼我の差がはっきりある相手に下手な守りなど、ただ付け入る隙をプレゼントする行為でしかない。
鉄平「しゃらくせェェェ!」
美波「えっ-嘘でしょ!?」
ブローが防がれた直後、〈鉄平〉はランスの先を両手で掴んで自分の方にに引き寄せる。パワーは拮抗しているため手元まで引っ張り込まれるようなことはなかったが、急に引っ張られたせいで〈美波〉はバランスを崩してぐらついてしまう。〈鉄平〉はすかさず懐に入り込んで…
鉄平「ウォォォ!熱血だァァァァァ!!!」
バコォォオオオン!!
渾身のアッパーカットを決めた。
美波「あぁっ!?」
秀吉(ま、マズい!?もう島田の点数が…ワシがなんとかカバーに-)
千莉「余所見をするなと言った筈でござる!」
秀吉(っ…変則的で捉えきれん……!)
吹き飛ばされた〈美波〉の援護に回ろうとした〈秀吉〉を、二刀流で追い詰め妨害する〈千莉〉。
使い手が未熟なら太刀筋が軽く隙も大きい二刀流だが、〈千莉〉は二振りの刀をかなりのレベルで使いこなしている。〈秀吉〉も日本刀で応戦するが、圧倒的な手数の差にあれよあれよと追い込まれ、とうとう決定的な隙をさらしてしまい太刀による刺突が直撃してしまう。
《数学》
『二年Fクラス 島田美波 98点
二年Fクラス 木下秀吉 103点
VS
一年Aクラス 黒木鉄平 306点
一年Cクラス 宗方千莉 242点』
初めは拮抗……むしろ二年生側が上回っていた筈の点数は、あっという間に大差をつけられてしまった。
美波(強い……けど、なんで一年生が召喚獣をここまで上手く操作できるのよ!?この時期のウチらなんてまっすぐ歩くのも手こずったのに……まあそれはさておき、こういう場合は…)
秀吉(こやつらの実力は間違いなくワシら以上じゃ。三年生レベル……いや、和真にも匹敵するじゃろう。しかしなぜじゃ…?努力やセンスだけでは説明つかんぞい……まあそれはともかく今やるべきことは…)
敵の追撃を警戒しつつ、お互いの召喚獣が体勢を立て直したことを確認すると…
秀吉・美波「「逃げるわよ(のじゃ)!」」
二人は召喚獣を連れて階段に向かって逃走した。
『勝てないと判断した場合は即逃走』。ごく一部の化け物どもを除いたFクラス生徒が共有する信条である。卑怯や臆病などの謗りは三流の言い分、勝てないと他でもない自分自身が思っている相手への特攻など犬死に以外の何物でもなく、少なくとも勝利に繋がらない勝負に意味などないという、ある種割り切った考えだ。
そして今回の場合この判断は正しい。百歩譲って最初の点数ならまだしもここまで点差の開いた状況の上相手は完全に格上である以上、万に一つも勝機は無いのだから。
…………ただし相手が逃がしてくれるかどうか、逃げ切れるかどうかはまた別の話なのだが。
千莉「敵前逃亡は士道不覚悟……背中の羽織が泣いておるでござるよ」
鉄平「つくづく腐った根性の連中だぜ!俺の熱血指導で叩き直してやる!」
秀吉達が階段に駆け込むより先に、千莉達の召喚獣が行く手を阻む。ノーリスクでこの場を切り抜けるのは不可能だと諦めた秀吉は、ピースの譲渡による取引を持ちかけることにする。
秀吉「…………降参じゃ。ポーンピースを計5つ譲渡する代わりに見逃してくれるかのう?」
鉄平「却下だ。アンタらはここでくたばっとけ」
しかし交渉の余地など無いと言わんばかりの態度で鉄平に一蹴される。なんの口も挟まないところから考えて、おそらく千莉も同意見なのだろう。
秀吉「……よいのか?ワシらを倒したところで手に入るのほポーンピース二つのみじゃ。それではお主らのメリットは薄いじゃろう?」
鉄平「生憎と俺達の予選勝ち抜けはもう確定的なんでな、いちいち見逃す必要はないんですよ」
千莉「もう未練はあるまい?では……そろそろ往生するでごさる!」
その啖呵を皮切りに二人の召喚獣が武器を構えて〈秀吉〉に向かって突撃してくる。
美波(ダメ…どうやっても勝てそうもない……っ!)
秀吉(ここまで、じゃな……)
対抗する手段はおろか生き延びる術も全て失い、とうとう二人が諦めたそのとき……
姫路「やめてくださいっ!」
《数学》
『二年Fクラス 島田美波 98点
二年Fクラス 木下秀吉 103点
二年Fクラス 姫路瑞希 522点
VS
一年Aクラス 黒木鉄平 306点
一年Cクラス 宗方千莉 242点』
優子達との勝負を終えた姫路がようやく到着した。
美波「み、瑞希!?」
秀吉「なぜお主が二階に……?」
姫路「二人ともっ、助けに来ましたよ!」
千莉「ほう……新手でござるか」
鉄平「あの点数……生半可な相手じゃないようだな」
鉄平は秀吉達への警戒を千莉に任せつつ、姫路と対峙し睨めつける。それに対して姫路はやや気圧されながらも、毅然として鉄平と向き合い口を開く
姫路「美波ちゃん達から手を引いてください」
黒木「は?嫌だね。点数差があるからってあまり勝ち誇ら-」
姫路「でないと、お二人の召喚獣を“オーバークロック”で倒します!」
秀吉「なんじゃと!?」
美波「瑞希!?ダメよ!そんなことしたら…」
仲間である秀吉達さえ驚愕した脅迫内容に当然鉄平達も一瞬面食らうが、すぐに冷めた目で呆れたように諭す。
鉄平「何を言い出すかと思えば……そんなことしたらアンタ、失格になるって説明されただろうが」
姫路「………でも倒すことはできますよ?」
鉄平「何を行って……っ!?アンタまさか、失格してでも俺達の召喚獣をしとめるつもりかよ!?」
綾倉先生が考えた予選のルールにはいくつか裏がある。召喚フィールド発生装置を破壊すれば失格だがスイッチのオンオフには特に制限が無かったり、金銭面の取り引きは禁止だがそれ以外は許可されていたり……。
そして今回はルールその⑧『二・三年生は一年生の召喚獣に対する金の腕輪関連の能力の一切の使用を禁止する』の裏だが……確かにこのまま姫路が腕輪能力の発展技である“オーバークロック”で鉄平達を倒せば規定により姫路は失格なのだが……腕輪能力によって戦死した一年生の召喚獣に対する措置は何もかかれていない。これはつまり………腕輪能力で倒されたからといって脱落を免れるわけではないのだ。
姫路「さあ、どうしますか?私と一緒にリタイアか、それとも……」
鉄平「…………」
千莉「…………」
鉄平と千莉は探るような目付きで姫路をしばらくの間じっと見つめる。姫路の意図を理解した秀吉達は固唾を飲んでそれを見守る。そしてとうとう折れたのか、鉄平達は降参の異を示す。
鉄平「仕方ねェな……はっきり言って不完全燃焼だが、アンタの漢気に免じて見逃してやらァ」
千莉「うむ。仲間のために刺し違えても拙者達を倒そうとするその心意気……まさしく武士道でござる」
姫路「あ、ありがとうございますっ。いきましょう二人とも!」
秀吉「う、うむ。すまんのう姫路、助かったぞい」
美波「アンタ達覚えてなさいよ……決勝戦じゃこうはいかないからね!」
三人が階段をかけ上がっていくのを見届けた鉄平達は、後ろから歩み寄ってくる二人のほうを振り向く。そこにいたのは鉄平達と同じ生徒会役員……綾倉詩織と志村泰山のツートップだ。
泰山「君達が敵を見逃すなんて、珍しいこともあるもんだねぇ」
鉄平「俺達以上に熱いハートの先輩に免じてな。……それよりそっちは終わったのかよ?」
泰山は見るものに安心を与える満面の笑みで、鉄平の疑問を肯定した。
泰山「なんとか終わったよぉ。……これでもう一年生は、早くも僕達四人だけになっちゃったねぇ」
姫路の“オーバークロック”脅しは予選前に和真が、言葉だけで仲間を守れるようにと面白半分にこっそり仕込んでました。