バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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雄二の覚醒回です。
そして、御門のおっちゃんが衝撃の真実をカミングアウト!?


元神童と怠惰王(後編)

雄二「……悩み事?何の話だ?」

御門「隠すなって少年。俺と鳳のガキが闘う前と比べると今のお前さん……随分思い詰めた表情してんぞ?」

雄二「っ」

 

御門の指摘は図星だったようで、雄二は必死に取り繕っていたポーカーフェイスをわずかに崩す。

 

御門「たしかお前さん……というか、お前さんらFクラスの目標は打倒Aクラスだったよな?俺と鳳のガキの闘いを見て畏縮しちまったか、それともレベルの違いに気づいて自信を失ったか……って、どう考えてもそんな物分かりの良い奴じゃねーよな」

雄二「………何が言いたいんだよ?」

御門「お前さん、まだ学力にトラウマがあるんだろ?」

雄二・翔子「「っ!?」」

 

今度は雄二のみならず、翔子まで目を見開いて慟哭する。それもそのはず……今の御門の台詞は雄二達の過去を知らない限り決して出てくるはずがない。

 

雄二「な、んで…」

御門「あー?何驚いてんだよ?俺がこの学校で教師やってる理由なんざ、今更お前らに説明せんでもわかるだろ。となると、いくら面倒くさがりの俺でもいざってときに戦力になりそうな生徒のことぐらい調べてるっつうの」

翔子「……戦力…あなたは教師なのに、生徒を戦わせるつもりなの?」

 

揶揄するような台詞だが、それを言った翔子は御門を非難するような目をしていなかった。そう……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

御門「確実に反対されるだろうから他の教師達には秘密だし、ことが済めばまず間違いなく俺に責任が降りかかるだろーな……けどな、んなことはどうでもいいんだよ。つーか実際に相対したお前さんならわかるだろ?アレ(アドラメレク)をどうにかするためなら倫理とか道徳とかにクソの価値もねーってよ。そんなつまらねーことにかかずらってたら……最悪世界滅ぶぞ」

 

あまりにも極端なことを言う御門だが、雄二も翔子も否定することができなかった。実際にアドラメレクと向かい合った翔子は勿論、その結果翔子がどうなったかをその目で見た雄二も……「奴ならやりかねない」、そんな言葉が脳裏にこびりついて離れなかった。

 

御門「話を戻すぞ。そんな訳でお前さんらのことも当然調べたんだがよ…かつては神童とまで呼ばれてお前さんが、随分とパッとしない成績に甘んじてることに疑問に思ってよー……その原因を考えたんだ」

雄二「……」

御門「そこで目に留まったのがお前さんが積極的に取り組んでる試験召喚戦争だ。西村のオッサンに聞いたんだが、お前さんが上位クラスに挑む理由って世の中が学力が全てではないと証明するためなんだってな」

雄二「だったら、どうだって言うんだよ……?」

御門「これといって珍しくもない主張だけどよ、その大半は学力が伴ってない奴の負け惜しみでしかねー。だが一学期当初でも、お前さんは本来Aクラスに入れる程度の学力を取り戻していた。わざわざ点数調整してFクラスに入ってまで掲げたからには、よっぽど貫き通したい主張なんだろうな」

雄二「だから、アンタは結局何が言いたいんだよ?」

 

問いかけるような言葉を投げ掛けてはいるが、雄二は内心苛ついていた。もうやめろ、これ以上踏み込んでくるなと全身で警告していた。しかし御門はそのことを気にも留めず話を続ける。

 

御門「元は神童とまで呼ばれ、一時期落ちこぼれ扱いされるほど成績を落とし、ある程度学力を取り戻してからもそんな主張を掲げる。そこまで材料が揃っていればおおよそ検討がつく……神童と呼ばれていた頃のお前さんが何か大きな挫折をし、勉学に意義を見出だせなく-」

 

雄二「黙れ!!!」

 

気がつけば雄二は御門の胸ぐらを掴んでいた。御門が踏み込もうとしているのは雄二の最も忌まわしい、出来ることなら消し去ってしまいたいとさえ思っているブラックボックス……かつて明久の行動が無自覚に神童時代を思い起こさせた際、彼は明久に対して殺意を覚えたほどだ。

 

雄二「何様だテメェは!面白半分で人の過去をズケズケと土足で踏み荒らしてんじゃねぇよ!」

 

胸ぐらを掴んだまま雄二は怒鳴り散らす。気が弱い人ならば気絶してしまいそうなほどの迫力だが、この世の地獄と呼ぶに相応しい光景を今まで見てきた御門は涼しい表情のままであった。そして溜め息混じりに言葉を続ける。

 

御門「最近のガキはキレやすいってホントなんだな。だったら先に結論を言ってやるよ。

 

 

 

 

 

いつまでくだらねーことにこだわってんだよ、この腰抜けヤローが」

雄二「なんだとテメ(ボゴォッ!!)ぐふぅっ!?」

 

逆上した雄二が殴りかかる前に御門は腹に膝蹴りを入れ、雄二は後方に吹き飛ばされる。

 

翔子「……雄二っ!」

雄二「ぐ…て、テメェ…!」

御門「文句は受け付けねーぞ、先に手を出そうとしたのはお前さんなんだし、嬢ちゃんも睨むんじゃねーよ。だいたいこの程度で体罰だ何だと喚いていたら西村のオッサンに笑われるぞ」

翔子「……それは、そうだけど…」

雄二「……」

 

あたかも正論のような詭弁に二人は押し黙る。地頭の良い二人ならどうとでも論破できるような薄っぺらい主張には違いないが、鉄人の教育指導に比べればなんてことないというただ一点は誰にも覆せない。二人が黙ったのを確認しつつ、御門はさらに話を続ける。

 

御門「具体的に何があったかは知らねーけどよ、そん時のお前がどう挫折し何を思ったかぐらいわかるぜ。学力だけじゃどうにもできないことに直面して『神童の自分さえどうにもならないなら、学力なんてあっても仕方がない』……とでも思ったんだろ?」

雄二「…………」

御門「確かに学力あってもどうにもならないことなんざ腐るほどあるけどよ……今は『S・B・F』に試験召喚戦争にアドラメレクの脅威と、学力が重要になることだらけだろーがよ。お前さん自分で頭良いと思ってんならその程度のことぐらい理解しろ……というより、もう既に頭じゃわかっているんだろ?それでも勉学に本腰を入れられない理由はたはだ一つ…」

 

そこで御門は言葉を切り、濁りきった眼で雄二を見据える。ここで答えをあくまで部外者の御門が示してもきっと意固地になる。故に雄二自身が認めなければならない。翔子が心配そうに見つめる中雄二はしばらく沈黙した後、とうとう観念したように口を開く。

 

雄二「俺が……ビビってるってことだろ?過去の過ちと…弱かった自分を向き合うことに……!」

御門「ああ。そして何よりも、再び繰り返すことにビビってるんだよ。俺の見立てではそうだな……その嬢ちゃんが関係してるんじゃねーの?」

雄二「っ…!」

 

かつての雄二はその突出した頭脳が原因で有頂天になり、周りの全てを自分以下の愚者としか見ておらず、そしてその横柄な態度が原因で翔子を巻き込んでしまった。雄二はそんな自分を心底恥じて半ば自暴自棄になり、勉学を疎かにして喧嘩に明け暮れ、もう二度と翔子に被害が及ばぬようひたすら遠ざけたりした。その後和真と拳で語り合った(とは和真の弁で、実際は雄二が一方的にボコられたらしい。二人の戦力差を考えると仕方がないっちゃあ仕方がない)末に紆余曲折を経て解消されたが、トラウマが払拭された訳では無かった。雄二にとって勉学に取り組み再び神童に返り咲くことは……再び翔子を傷つけてしまうのではないかということを嫌が応にも連想してしまうのだ。

もちろん雄二とてあのときとは違う。喧嘩に明け暮れ鍛えに鍛えた今の雄二なら、和真や蒼介のような化け物が相手でない限り以前と同じ状況になっても余裕で対処できる。しかし幼い頃のトラウマとは得てして肥大化するものであり、頭ではわかっていてもどうしても最後の踏ん切りがつかないでいるのだ。

 

御門「『なんでわかった!?』みてーな反応されてもな……以前嬢ちゃんが苦しんでたときのお前さんの取り乱しようを見たら誰でもわかるぜ」

翔子「……雄二」

雄二「な、なんだその反応は!?恥ずいから止めろ!今シリアスな雰囲気だから脱線させるな!」

御門「はいはいお熱いことで。お前さんが嬢ちゃんを大事に思ってることはわかった……だったら尚更逃げるなよ、パワーアップするチャンスをやすやす手放すんじゃねー。あの時は汚染濃度がかなり高くまだ進行中だったから良かったものの、もし今度また汚染されそして濃度が低く対処が間に合わなければ……」

 

そこで一旦言葉を切り、御門は何を思ったのか目を瞑る。そして開かれた御門の両の眼には

 

 

 

 

 

 

 

どこかで見たことのある幾何学模様が淡く発光しながら張り付いていた。

 

雄二・翔子「っ…!!」

 

それを目の当たりにした二人は表情が強ばるものの、取り乱したりはしなかった。確かに異様で異質で奇妙奇天烈な光景ではあるものの、御門のこのような変化を()()()()()()()()()()()()()()

 

御門「俺のように……取り返しがつかなくなる(人の枠組みから外れてしまう)ぞ……いや違うか、この程度で済めばまだマシな方だ。最悪の場合は死より悲惨で凄惨で悍ましく、そして救われない結末を迎えることになる」

雄二「ど…どうなるって言うんだよ……?」

御門「教えねー…というよりも、あまりに残酷過ぎて口が裂けても言いたくねー……まあとにかくだ少年、その嬢ちゃんが大事なら重い腰を上げろ。大して親交があるわけでもない俺からあれこれ言われてムカついたかもしれねーが…少なくとも吉井の弟なら躊躇わねーと思うぜ」

雄二「っっ…!!」

 

さりげなく雄二のプライドを刺激しつつ、御門はコンポタのケースを抱えて河原を後にした。残された二人のうち翔子は雄二を心配そうに見つめる中、雄二は俯きながら心の中でしばらく葛藤の末一つの答えに辿り着く。

 

雄二「………等だ…!」

翔子「……雄二?」

 

ようやく顔を上げた雄二は、覚悟を決めた漢の目をしていた。

 

雄二「上等だ!やってやろうじゃねぇか!あんなダメ中年に腰抜けだの何だの好き放題言われて黙ってられるか!

……そうだ、そうだとも。どうやら知らないうちに俺は相当腑抜けいてたらしい。俺は指揮官だから他の奴の点数が上がることの方が重要だと嘯いたり、試召戦争を和真に頼り切っていたり……元神童が聞いて呆れるぜ、勝利にかける思いが雑魚にも程がある。かつての俺はそりゃどうしようもなくくだらない人間だったが……それでも誰にも負けないという自負があった、自信があった。そうとも俺は!俺の頭脳は!たとえ和真や鳳にも遅れを取らないはずなんだ!」

 

『S・B・F』で雄二が優勝すると思っている人間は(最愛のパートナーである翔子を含めて)文月学園に一人もいないだろう。近いうちに行われるAクラス戦でも鍵を握る生徒は蒼介と和真だと誰もが思っている。だろう。その事実が、今の雄二にとっては腹立たしいことこの上ない。

 

雄二「待っていろ和真、俺はこの残された期間でもう一度神童に返り咲く。お前にとって俺は眼中にも無いんだろうが、『S・B・F』で優勝するのはこの俺だ!」

 

 

 

 




・一年時、雄二が明久に殺意を抱いた理由をざっくり解説すると、

①神童時代に雄二は自分が原因で上級生との争いに翔子を巻き込んでしまい、

(1)見なかったことにする→翔子がひどい目に遭う
(2)先生に知らせる→翔子の保護者にイジメがあったと連絡が行き、翔子が転校してしまう
(3)自分が翔子を助ける→相手は上級生。ボコボコにされてしまう

という選択に迫られる。頭では(3)を選ぶべきだとわかっているのに、結局翔子から助けを求められるまで動けなかった。そのことで雄二は勉強しかできない自分に心底失望する。

②文月学園入学後、雄二が美波を苛めていると早とちりした明久は躊躇なく雄二に殴りかかる。実力差は歴然で明久が一方的にボコられていくが、明久はお構い無しに立ち向かっていく。その姿を見た雄二は①のシチュエーションと重なることに気付き、自分がみっともなく躊躇していたにもかかわらず目の前のバカは違った。明久にその気は無いものの結果的に自身を全否定された雄二は明久に敵意を抱く。

ざっとまとめるとこんな感じです。詳しい内容がしりたいのなら原作6.5巻と9.5巻を読みましょう。


和真君が雄二のトラウマを放置していた理由ですが、和真君は明久ほどお人好しではありません。姫路や美波のように目に見えて落ち込んでいた場合はメンタルケアを行いますし、明久のような努力が斜めにいくようなファンタジスタには適度に助言したりします。しかし雄二はある程度は克服していた上にファンタジスタでもないので自力で克服させようとスルーしていました。基本スパルタなんです、彼。


ちなみに小五の蒼介と雄二(神童)ではどちらの学力が上かと聞かれれば、若干雄二(神童)に軍配があがります。蒼介が最高の環境で勉強していることを考えると、一般家庭環境でそれを凌駕した雄二の資質は蒼介を凌駕していると判断しても良いでしょう。
ただしそれはあくまで学力に限った話。精神面では蒼介の圧勝、人身掌握術もこの頃の雄二は個人主義だったため蒼介の足下にも及びません。もちろん運動や芸術その他諸々は言うに及ばず。仮に蒼介君それらへの労力全てを勉学に回しているとしたら……まあそれは無意味な仮定ですね。


最後に、実は人間をやめていた御門のおっちゃんェ……詳細については次の章あたりで。

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