バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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御門「お前に足りないもの、それは……情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ……俺もほとんど無いよなコレ」


鳳蒼介VS御門空雅(後編)

明久「鳳君の召喚獣がもうやられた!?」

雄二「いや、そうでもない。……あっちだ!」

 

明久達が雄二の指差した方向を見ると、〈蒼介〉は景気よく後方に吹き飛ばされながらも難なく着地していた。表示されている点数も初期値から一点も変化していない。

 

蒼介「……流石に素早いですね。私の反応が一瞬でも遅れていたら喰らっていましたよ」

御門「お前さんこそ対応が早いじゃねーか」

 

今の攻防の詳細を説明すると、〈御門〉が目にも止まらぬスピードで接近しつつその勢いのまま渾身の蹴りを放ったが、〈蒼介〉は喰らう寸前に草薙の剣で的確に蹴りをガードしていた。つまり勢い負けしてぶっ飛ばされただけで、〈蒼介〉は攻撃を受けてはいなかったのだ。

 

御門「やっぱお前さんにあんな単調な攻撃じゃあ通用しねーよな、ホント面倒な奴……だったらスピードで翻弄しつつ削り取るか」

 

その言葉を皮切りに再び白い流星となった〈御門〉は前後左右あらゆる角度からの波状攻撃を仕掛ける。〈蒼介〉も負けじと応戦するが圧倒的な速度差からの苛烈な攻めに次第に押され始める。

 

姫路「あの鳳君が、こうも苦戦するなんて……」

翔子「……でも鳳の表情、少しも焦っていない」

秀吉「うむ、ワシの見る限り強がって取り繕っているわけでも無さそうじゃな」

 

演劇狂いである秀吉の推測は見事に的中……蒼介はこの状況下でもまるで動揺することなく、召喚獣を操作しつつ対策と戦術を熟考している。

鳳蒼介の資質は戦士としては勿論、指揮官としても超一級品である。指揮官が冷静さを欠けば必ず全体が破滅に向かってしまうことを骨の髄まで熟知しているため、彼はいかなる不利な状況下だろうと焦ることなく冷静に頭を働かせることを怠らない……その点においては、同じ指揮官でも意外と動揺しやすい雄二では、蒼介より劣っていると言わざるを得ない。

 

蒼介(さて、この局面をどう乗り切るべきか。……波浪と大渦、瀑布は論外。なんとか食らいつけるというレベルの速度差がある相手に速度を緩めることや隙の大きい技など自殺行為だ。波紋と狭霧は召喚獣を介した闘いでは使えない。夕凪……守りの型では精々その場しのぎ、反撃の狼煙には成り得ない。百川帰海、海角天涯はもとより車軸も“明鏡止水”との併用が必須、早々に切り札を切るのはできれば避けたい。となれば……ここで用いるべきは参の型・怒濤!)

 

“明鏡止水”に至ったことで通常時の集中力も格段に増した蒼介は刹那の瞬間に長考を済ませ、指示を受けた〈蒼介〉は目にも止まらぬ滑らかな剣撃で〈御門〉の連撃を迎え撃つ。

 

 

キキキキキキキキキキキキキィィイイインッ!!!

 

 

召喚獣の激突による衝撃音が職員室全体に木霊する。何事かと駆けつけた教職員も次元の違う激闘を目の当たりにして開いた口が塞がらず、すごすごと仕事に戻っていった。

 

明久「お、おっちゃんの召喚獣……すごい猛攻だ!」

雄二「だが、鳳も攻撃を全てガードしてやがる……!どれだけ操作技術に優れてようが、あの高速の動きに反応できなきゃあれは真似できないだろうな……」

 

雄二の言う通りこのスピードについていける蒼介にも驚嘆ものだが、点数差3000点の2体の実力が拮抗していることには三つ理由がある。一つ目は確かにスピードでは圧倒的に〈御門〉が勝るものの速過ぎて御門本人すら完全に制御できず、多面攻撃などで工夫してはいるがどうしても攻撃が単調になってしまっていること。

二つ目は蒼介が読心術と先読みの達人であること。蒼介から学びとったのか和真も多少はできるが、蒼介のそれは和真とは比べ物にならない。相手の攻撃をことごとく受け流し、隙が生じるや否や攻めに転じて確実に仕留めることこそ水嶺流の真髄。それを体現するため継承者は幼少期より常に「後の先」を取り続ける訓練を受けている。そのたゆまぬ鍛練の成果故か、蒼介は和真のような“天性の直感”などなくても、相手の動きを正確に読み切ることができるのだ。

その後も〈御門〉は絶えず連撃を繰り出すがそれら全てを〈蒼介〉に捌ききられ、かといって〈蒼介〉も反撃の糸口が掴めない。今のままでは千日手になると理解した御門は攻撃を中断し、蒼介も一度仕切り直しをはかる。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 鳳蒼介  6791点

VS

 学年主任 御門空雅 9854点』

 

 

あれだけの攻防を繰り広げたにもかかわらず、向かい合う両者ともにダメージらしいダメージは受けていなかった。

 

明久(鳳君はともかく、おっちゃんの召喚獣は速すぎてなかなか点数がチェックできないな……)

雄二「………妙だな」

明久「え?何が?」

雄二「温存してるっぽい鳳はともかく、あのおっさんはなんで能力を使わないんだ?」

秀吉「んむ?何を言っておるのじゃ雄二?さっきまでムッツリーニ並のスピードを存分に発揮していたではないか」

雄二「それこそ明らかにおかしいだろ。操作技術に差があるからムッツリーニじゃ多分再現出来ないが、理論上はムッツリーニの召喚獣でもできることしかやっていない。和真や鳳の理不尽なまでに強力な能力から考えても、同じランクアップ能力を持つ召喚獣がその程度で収まるわけないだろ」

 

片やあらゆる攻撃をシャットアウトする無敵のオーラ、片や遠距離だろうが近距離だろうが容赦なく消し飛ばす閃光の翼、それらと同格の能力が通常の腕輪能力と同じ働きしかできないはずがない。つまり…

 

翔子「……あの召喚獣は能力ではなく、素であのスピードということになる」

「「「えぇっ!?」」」

 

三人は信じられないような表情で翔子を見るが、聞こえたらしい御門がその推測を肯定する。

 

御門「冴えてるじゃねーか嬢ちゃん。召喚獣のスペックバランスは本人の希望次第で自由に弄れることは知ってるよな?からくりは単純明快、それを使って速さを限界まで重視しただけの話だ」

蒼介「3000点もの差のある私の召喚獣と力が拮抗していたのも、そのピーキーな性能が原因でしょうね」

 

そう……それが先ほどの攻防が拮抗していたもう一つの理由である。〈御門〉は極端なまでにスピードに偏重させているさいで、点数では遥かに下の〈蒼介〉と拮抗してしまうほど攻撃力が落ちているのだ。

 

御門「まあこれ以上出し惜しみしてもキリねーし、小手調べはここら辺にしとくか……そろそろ見せてやるよ、スピードの極致を。

 

 

『ラディカル・グッドスピード』」

 

そのキーワードとともに〈御門〉の全身が白い装甲で覆われ、全身から火花を散らしバチバチと弾けるような音を立てる。

 

蒼介「装甲を身に纏うことで防御能力を向上させ、そしてそこ様子だと……電撃を操る能力?」

御門「そんな大層な能力じゃねーよ。ランクアップしようがあくまで加速能力、速くなるだけの単純な能力だ」

 

瞬間、〈御門〉は〈蒼介〉から少し離れた召喚フィールドの壁に向かって疾走する。そしてあわや激突しかねない絶妙のタイミングで壁を蹴り、三角跳びの要領で〈蒼介〉に向かって蹴りを放つ。跳ね返った角度が絶妙に〈蒼介〉を狙い打つものであったことを踏まえると、完璧に計算された攻撃のようだ。

 

蒼介(む……っ!)

 

先ほど御門の攻撃を捌ききった蒼介にしてみれば容易にガードできるどころか、絶好のカウンターチャンスである単調な攻撃だった。だからこそ蒼介は警戒して回避を選択した。御門空雅ともあろう者がその程度のことを理解できないはずはなく、何らかの罠を張っていると見て間違いない……そう判断したが故の安全性を重視した回避行動であった。

 

結論を言えば、その考え方こそが御門の張った罠……腕輪能力の情報アドバンテージの無さが、御門に蒼介の読みを上回らせた。

 

攻撃を回避された〈御門〉はそのまま地面に激突……することなくさらに反射し、そのまま反対側の壁にスーパーボールのように跳ね返った。しかもそのスピードは先ほどまでより目に見えて速かった。そして反対側の壁に着地した〈御門〉は先ほどと同じように、今度は天井に向かって加速しながら跳ね返った。

 

蒼介「っ!?これは……」

 

その後も反射を繰り返す度に……より正確に言えば動き続けるごとに〈御門〉は際限無く速度を増していく。

 

 

加速…………加速………加速……加速…加速、加速加速加速加速加速・・・・・加速!

 

 

御門「これぞ俺のランクアップ能力『ラディカル・グッドスピード』。自ら動きを止めるか相手に止められねー限り、際限無く加速していくスピードの極致。そしてその能力を応用した全方向からの弾幕攻撃……名付けて『ピンボール』だ」

蒼介(今のところどうにか避けられているが、このままでは手遅れになりかねない……ここは迎え撃つべきだ。

……“明鏡止水”)ヒィィィイイイイイン…

 

蒼介は超集中状態に入り、一か八かの勝負に出る。付け入る隙は強いて言えばこの反射を利用した攻撃が能動的に行われているものではなく、御門のコントロール下にないことである。それはつまり、ここで蒼介が起死回生の手を打とうと御門には対処する術がないことと同義だ。

もはや〈御門〉の姿は肉眼では捉えられなくなりつつあるものの“明鏡止水”状態の集中力を駆使してかろうじて視認できた〈御門〉の跳ぶ方向から反射角度を瞬時に計算し、〈蒼介〉に向かってくるタイミングを完璧に予測して見せた。

 

蒼介(………ここだ!)ヒィィィイイイイイン…

 

もはや完全に視認できなくなった〈御門〉に〈蒼介〉は完全なカウンターを叩き込んだ。が…

 

蒼介「-なっ!?」

御門(悲しいかな……パワー不足だ)

 

速度とは重さ…圧倒的な加速力の〈御門〉の突撃を前には完全に力負けしてしまい、ある程度のダメージこそ与えはしたものの草薙の剣は〈蒼介〉の手から弾かれて吹き飛ばされてしまう。

 

蒼介(くっ…丸腰では勝ち目が無い……!)

御門(そうだな、拾いに行くしか道は無い。……これで詰みだ)

 

僅かに動揺したことで集中状態を維持できなくなったものの、それでも冷静さを残していた蒼介は武器の回収を優先する。その選択は最善ではあるものの悪手、その際に生じる隙は今の〈御門〉相手には致命的過ぎる。……そう理解していながらも、冷静であるが故にそうせざるを得なかった。

結果、〈蒼介〉は〈御門〉の突撃をまともに喰らってしまう。瞬時にオーラを展開したものの超加速により上乗せされた〈御門〉の攻撃力は凄まじく、ダメージはある程度軽減できたもののオーラは容易く引き剥がされてしまった。その上〈蒼介〉は空中へと弾き飛ばされ、さらに跳ね返ってきた〈御門〉の攻撃によって点数を全て失い〈蒼介〉はそのまま消滅した。

 

蒼介「…………届かなかったか…!」ヒィィィイイイイイン…

明久「あ、あの鳳君が一方的に……!」

御門「一方的に……って訳でもねーよ」

明久「え?」

 

能力を解除された〈御門〉は急減速し、そのまま召喚フィールドに着地した。よく見ると装甲を貫通して体に草薙の剣が突き刺さっており、そして表示されている点数は…

 

 

《総合科目》

『Aクラス 鳳蒼介  戦死

VS

 学年主任 御門空雅 2436点』

 

 

姫路「え……えぇっ!?御門先生の点数もかなり減っています!?」

秀吉「い…いつ反撃したんじゃ!?」

御門「刺さった剣以外にも背中に一回斬られた跡……最後の攻撃二回ともきっちり反撃されてたってわけだ……末恐ろしいガキだなホント」

 

ことの詳細はこうだ。極めて冷静であるが故に得物を手放した瞬間に御門に勝利することは不可能だと理解してしまった蒼介は、苦肉の策として戦死と引き換えに〈御門〉を道連れにすることを決意した。まずは〈蒼介〉が剣を拾うまでの刹那に再び“明鏡止水”へと至り、オーラを強引に剥がされて弾き飛ばされる瞬間にカウンターを狙った。相手の突撃に対抗すれば力負けしてしまうので、攻撃を喰らいつつ相手の突撃方向に沿って〈御門〉の背中を切り裂く。

そして投げ出されてから再び激突される前に草薙の剣を両者の召喚獣の間に放り出した。この激突で蒼介は点数を失ってしまうので直前に行ったカウンターは不可能だが、あらかじめ空中に配置しておけば向こうから勝手に突き刺さってくれる。蒼介としてはそうすることで相討ちになることを狙ったのだが……最終的に初期の点数差がそのまま勝敗を分ける形になった。

 

御門「まあどう対抗してこようが点数差でごり押しできると踏んでこの戦法にしたんだがな。操作技術を磨いたり策を練ったりするのも悪かねーけどよ、相手より点数が高いってのはそれだけで優位に立てるってことだ。ギャラリーに来たお前さんらも覚えとけ、何だかんだで成績を上げておいて損は無いってことをよ。……じゃ、用も済んだし俺はもう帰るぞ」

 

珍しく教師らしい教訓を周りに伝え、一複雑そうな表情に変化した雄二にチラリと視線を向けてから、御門空雅はクールに去る。

 

蒼介(……………………負けた。

何かミスがあったわけではない。私は私の持てる力を出し尽くせたと自負している。つまり……これが私と御門先生との実力の差か……ッ!)

 

見かけによらず超が付くほどの負けず嫌いである蒼介は内心で凄まじく悔しがりつつも、彼の当初の目的は達成できた。

 

蒼介(…だが、これで“オーバークロック”発現の条件は揃った。そして思わぬ収穫だが、一度途切れたにもかかわらず再び“明鏡止水”に入ることができた。私の集中力はさらなる深みに到達する………私はまだ、強くなれる…!和真、お前がどれだけ進化しようと……私はその先を行く!)

 

 

 

 

 

 

 




蒼介君、初黒星!
しかしそれによって、更なる成長フラグを建てました。見聞色の覇気みたいなスキルも発覚(番外編で既に片鱗はみせていましたが)したし、いったい彼はどこまでインフレするのでしょうか……?
まあ読心術といっても、実際に心を読んでいるわけではなくあくまで動きを予測しているだけなので、文月が誇る非常識軍団なら蒼介君の常識外の行動を取ることで意表を突くことができます。……意表を突いたところで勝ち目はありませんが。


ラディカル・グッドスピード……御門空雅のランクアップ能力。効果は動き続ける限り際限無く加速していくというもの。体を覆う白い装甲は能動的な衝撃の反動のみを防御することに特化しており、どれだけ加速した突撃であろうと反動を一切受けない。しかし召喚獣の防御力は一切上がらないという、特攻専門の鎧である。







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