雄二「さて、一週間後の『S・B・F』についてだが……当たり前だが腕輪がかかっている以上全力で優勝を狙いにいく。来るべきAクラス戦に余計な不安要素を増やしたくないからな。そして俺達Fクラスの方針なんだが……」
Bクラス教室にて、和真とムッツリーニを除いたいつものメンバー5人が雄二の言葉に耳を傾けている。Bクラスの設備を手に入れて腑抜けになった42人はともかく、打倒Aクラスはここにいる7人(勿論和真も)共通の宿願である。故に雄二の指示通りに動くことに何ら不満はなくここにいる以外の面子もいざとなったら簡単に買収できるので、『S・B・F』に向けての団結力はある意味固いのかもしれない。
雄二「具体的な作戦は予選の内容次第だから当日に説明する。だからお前らはこの一週間おのおので実力アップを試みてくれ」
明久「え?僕はてっきりこの前の期末みたいに勉強会でも開くのかと…」
雄二「あのときは期末試験対策って共通の目的があったが今回は違うだろ。それぞれの課題は操作技術の向上だったり苦手科目の克服だったりバラバラだ。例えばお前ならその無様極まりないオツムが課題だろ?」
姫路(いちいちそんな悪態つかなくても……)
秀吉(雄二らしいと言えば、らしいがのう……)
明久「なるほど、雄二ならまだ霧島さんと挙式を済ませてないことが課題だね。霧島さん、結婚式の準備お願いできるかな?」
雄二「ふざけんな明久テメェ!?」
翔子「……ごめん、吉井。今はまだダメ」
雄二「!?……あの翔子が、とうとう常識を弁えて……そうだよな!俺達まだ結婚できる年じゃ-」
翔子「……友人代表のスピーチは和真にやってもらうって決めてるから、今はちょっと」
雄二「そこじゃねぇだろ問題は!?」
翔子「……チッ……冗談」
雄二「お前今舌打ちしただろ-」
翔子「してない」
雄二「おい、こっち向け」
いつもの呟くような口調とはうって変わって喰い気味に否定する翔子……ただし顔は明後日の方向を向き、おまけにわざとらしく口笛を吹いている。確実に和真から悪影響を受けている現状に、雄二はこの場にいない悪友に内心で罵詈雑言を浴びせかける。
雄二「………まあいい。それから島田、外国語科目の申請は済ませておけよ」
美波「言われるまでもなく申請済みよ。今までのウチとはひと味違うわよ!」
明久「?美波、随分やる気満々だね」
美波「当たり前でしょ!なんてったって今回の大会ではドイツ語を外国語科目として選択できるんだから!」
明久「あっ、そう言えば美波って帰国子女だっけ」
全学年が参加するということもあって、勝負科目は公平を期すため恒例のセンター試験準拠5教科+保健体育の梓式ルール。しかも今回はよりセンター準拠に歩み寄るようで、外国語科目を 『英語』『ドイツ語』『フランス語』『中国 語』『韓国語』の五科目から選択できるらしい。今まで試召戦争では見せ場らしい見せ場の無かった美波にとってはこの上無い吉報であった。
雄二「だったら早めにテストを受けておけ。いくらドイツ語が堪能でも、今のままじゃ無得点扱いだからな」
美波「あ、そうだった。……じゃあウチは補充試験を受けてくるから」
そう言い残して美波が教室から出ていった。それを見届けてから、明久は何かを思い出したようにやけに分厚い日本史の参考書を取り出す。
秀吉「んむ?明久、随分と分厚い参考書じゃな」
明久「ああ、これ?夏休み前に和真に貰ったんだ。『俺にはもう必要ない』って言って」
姫路「随分ハイレベルな参考書ですね」
翔子「……吉井の日本史が向上したのも頷ける」
雄二「それは結構だがな明久、お前教科によって成績偏り過ぎだろ?少しは満遍なく勉強しろよ」
雄二の指摘はもっともである。350点を400点まで上げることと100点を150点まで上げること、どちらが容易であるかは確認するまでもない。また、指揮官としてはピーキー過ぎる駒は
明久「僕も和真に今後も日本史に絞るよう言われたとき似たようなことを質問したんだけど……『少人数で鶴翼なんざ組んでも逆効果だろ』って言われて……」
雄二「……言われてみればそうかもな」
翔子「……和真、相変わらず情け容赦ない」
姫路「あ、あはは…」
秀吉「んむ?いったいどういう意味じゃ明久?」
翔子、姫路、雄二は理解できたようだが秀吉だけは取り残された。トレースによって成績だけは向上したものの学力が上がったわけではないのだ。言いづらそうにする明久などお構い無しに雄二は秀吉に説明する。
雄二「秀吉、鶴翼の陣は知ってるよな」
秀吉「名前くらいなら聞いたことあるぞい」
雄二「この陣形は敵軍よりも大人数だから効果的であって、少人数だと組む利点が無いどころかむしろピンチを招くんだ。つまり………
秀吉「あんまりな言い草じゃが、否定できぬのが余計に悲しいのう……」
明久「やめて!?そんな可哀想な人を見る目でこっちを見ないで!」
と、そんな感じでいつものごとく明久が弄られる流れになってきたところに、雄二から各クラスの動向を探るよう頼まれていたムッツリーニが教室に戻ってきた。
雄二「ん?どうしたムッツリーニ、何かあったのか」
ムッツリーニ「(コクン)………鳳が御門先生に挑戦状を叩きつけた」
明久「えぇっ!?おっちゃんに!?」
雄二「場所はどこだ……って聞くまでもねぇな、職員室のフリースペースか」
ムッツリーニ「………(コクン)」
雄二「こうしちゃいられねぇ、情報収集に向かうぞお前ら!」
「「「了解!」」」
いつものように雄二が明久をスケープゴートに……と思いきや『S・B・F』直前のため色々と多忙な教職員は明久達の相手をしている暇も無いらしく、雄二達は拍子抜けするほどあっさりフリースペースまでたどり着いた。
雄二「よう鳳にオッサン、偵察に来てやったぜ」
蒼介「む…お前達か。来るのではないかと思ってはいたが、随分と耳が早いな」
そう言いながら蒼介はムッツリーニの方に視線を寄越す。まるで「お前、まさか盗聴などはしていないよな?」とでも言いたげなジト目で。さしもの蒼介と言えどもそっち方面での技術はムッツリーニには遠く及ばないため明確な証拠は掴まれていないが、腹の探り合いでは勝ち目は0に等しいため視線をそらしつつもムッツリーニの表情は強張っている。雄二は内心焦りまくるがさらに追求しようとした蒼介を御門先生が煙草をふかしながらストップをかける。職員室は禁煙なのだがこの男がきちんと守るはずもない。
御門「おいおい鳳Jrよ、俺ぁお前さんが勝負してくれってしつこく頼んできたから渋々ここにいるんだぜ?闘う気が無いんなら俺もう帰るぞ。俺も暇じゃねーんだよ、さっさといつもの安息の場所で最近嵌まりつつあるオニオンコンソメスープでも飲んで一息つきたいんだよ」
蒼介「要するに暇なんじゃないですか。そもそも『S・B・F』を直前に控えた今、教師…ましてや学年主任であるあなたを遊ばせておく余裕など無いはずなんですが……あと職員室は禁煙です」
御門「俺は不平等が死ぬほど嫌いな男、人より多少仕事が早い奴が暗黙の了解で重労働を押し付けられるなんて理不尽は断じて認めねー。それを何としても避けるため仕事量を均等化させることに全力を尽くしただけの話だ。固いこと言うなよ、『ルールは破るため、煙草は吸うためにある』って格言を知らねーのか」
蒼介「つまり今日の仕事はもう終わらせたというわけですね……。ありませんよそんな格言」
こめかみに手を抑えつつ呆れたように嘆息する。ここまで本人の資質とやる気が反比例しているのも珍しい。ノーブレスオブリージュを地で行く蒼介とは完全に対極の人間だ。本来なら喰い下がっているところだが気分を害してバックれられては敵わないので、蒼介は
蒼介「……まあいいでしょう、では始めましょうか。この戦闘の目的を考えると本末転倒になることは承知の上ですが……その首、討たせてもらいます」
御門「バカヤロー、本末転倒どころかそうでなければこの闘いが単なる茶番になっちまうんだよ。……心置きなく全力を出せよ、返り討ちにしてやっからよ」
「「
キーワードを引き金に二つの幾何学模様が展開し、その中心から召喚獣が出現する。
《総合科目》
『Aクラス 鳳蒼介 7068点
VS
学年主任 御門空雅 10255点』
両者ともに凄まじい点数だが、一同の注目を最も浴びたのはそこではなかった。蒼介の召喚獣の装備が蒼の武者鎧に草薙の剣、それに対し御門先生の召喚獣の装備は白と青紫を基調としたロングコートに…
明久「て、手ぶら…!?」
御門「足をよく見てみな少年。なんかゴツい靴履いてるだろ、これが俺の武器だとよ」
御門先生の言葉に明久だけでなく全員の視線が〈御門〉の足下に集中すると、確かに物々しい雰囲気を纏った革製の靴があるではないか。
これはヴィーザルの靴…怪力を司る神ヴィーダルがフェンリルを倒す際に履いていたとされる靴である。
明久「く、靴が武器って……」
御門「まあ確かにツッコミ所アリアリだとは思うけどな、足技がメインな俺としてはそこそこ使い易い武器なんだぜ?」
秀吉「そう言えば清涼祭でワシらを助けてくれたとき、見事なカポエラを披露していたのう……」
雄二「…………なあおっさん、一つ聞いていいか?」
蒼介「坂本、お前達は御門先生と浅くない交流があることは承知している。だが学校内では-」
御門「別にいいじゃねーか、俺とて先生なんてガラじゃねーんだしよ。…で、何を聞きたいんだ?」
諌めようとする蒼介を制しつつ疑問文で質問を許可すると、雄二は〈御門〉の右手を指差す。
雄二「なんで教師であるアンタの召喚獣に金の腕輪が装備されてるんだ?以前聞いたんだが、物理干渉能力を持つ教師の召喚獣には腕輪を装備させない決まりなんだろ?」
御門「ああそれか。俺の召喚獣には物理干渉能力が無いし、そもそもこいつを手に入れたのは俺がまだ社長だった頃だ」
雄二「………そうか。すまんな、中断しちまって」
蒼介「……」
翔子「……」
「「「???」」」
二人のやり取りに蒼介と翔子以外のメンバーは頭にクエスチョンマークを浮かべるが、雄二があれこれと暗躍するのはいつものことなので明久達も特に気を留めなかった。
御門「それじゃあそろそろ始めるか。あ、そこのお前さん。土屋……だっけか?」
ムッツリーニ「………?」
御門「お前さんの腕輪能力、確か『加速』だったよな?俺も同じ能力だから見ていて損は無いはずだぜ。俺の点数は一万強、腕輪能力は当然ランクアップ済みだ。見せてやるよ、スピードの極致……『ラディカル・グッドスピード』をな!」
瞬間、白い流星となった〈御門〉は〈蒼介〉を遥か後方へと吹き飛ばした。
御門先生の召喚獣の服装は名前の元ネタ通りスクライドのクーガーの格好がモデルです。そして腕輪能力の名前もクーガーのアルター能力名から取りました。
おっちゃんの点数が六巻のときより上がっている理由は、来るべき決戦に備えて勉強し直したからです。
・御門空雅の成績
現代文……約800点
古典……約800点
数学……約1200点
化学……約1000点
物理……約1200点
生物……約1000点
日本史……約800点
世界史……約800点
地理……約800点
英語……約1000点
保健体育……約700点
ついでに、作中最高点数の綾倉先生の内訳はこんな感じです。
・綾倉慶の成績
現代文……約1200点
古典……約1200点
数学……約1800点
化学……約1600点
物理……約1800点
生物……約1400点
日本史……約1200点
世界史……約1200点
地理……約1200点
英語……約1400点
保健体育……約1000点
………改めて整理すると、マジキチな成績だなこれ…。
保健体育に関して、知識量のみならムッツリーニが上回りますが、純粋に解くスピードが段違いなので綾倉先生に軍配が上がります。