①和真……手先の器用さもあるが、並外れた観察力が最大の武器。得意な題材は石膏。
②蒼介……筆遣いの繊細さは誰にも負けない。得意な題材は水墨画。
③源太……意外にも細かい作業全般に精通している。高校入試の際の内申点は副教科で稼いだ。得意な題材は切り絵。
④優子……美術に限らず基本的にカラオケ意外は一通りこなせる。得意な題材は風景画。
⑤愛子……可もなく不可もなく。得意な題材は当然のごとく裸婦画(そこ、範囲狭いとか言わない)。
⑥徹……お菓子作りの際の飾り付けも美術に含めていいのなら上位を狙えるが、含めないとこの位置。
⑦飛鳥……通称『画伯』。その実力はあの蒼介を慟哭させ、和真が顔をひきつったほど。間違っても人前には披露してはいけない禁断の技。
皆で一斉に喚び声を上げると、それぞれの足下にお馴染みの幾何学模様が現れ、その中から召喚者自身をデフォルメした姿の召喚獣が飛び出す。
姫路「わぁ……綺麗な鎧……なんだか凛々しくなった気がします」
美波「ランスに鎧ってことは、ウチは騎士ってことかしら。良かった……。盾代わりにまな板とかじゃなくて、本当に良かった……」
翔子「……以前と違って兜が付いた。それにこの刀……刀身に浮かび上がる露、もしかして『南総里見八犬伝』の村雨?」
明久「ほら、見てよ雄二。学ランの裏地に龍が描いてあるよ」
雄二「見ろよ明久。俺は虎だぜ」
秀吉「刀に羽織り……。新撰組、といった体じゃな。強そうじゃ」
ムッツリーニ「……上忍にレベルアップと言うところ」
和真「赤を基調とした軍服に黄金の槍……ロンギヌスの聖槍、神殺しの槍か。ハッ、悪くねぇな」
学力が向上したおかげか、皆それぞれ装備が随分とレベルアップしている。特に和真と翔子の武器は総合科目で5000点以上取った生徒にのみ与えられる固有武器であり、綾倉先生曰く特殊能力などは別に付いていないが耐久性が通常武器より段違いに高いとのことだ。
明久・雄二「「ってちょっと待てぇええーぃ!」」
鉄人「なんだ吉井、坂本。うるさいぞ」
明久「うるさくもなりますよ!明らかに不公平じゃないですかこんなの!」
鉄人「そうか?」
明久「そうですよ!だって、姫路さんはどう変わったか見て下さいよ!」
姫路「えっと、私は前より鎧がしっかりして、武器も長くて大きくなりましたね」
明久「美波は?」
美波「ウチは軍服が騎士鎧に、サーベルからランスに変わったわね」
明久「霧島さんは?」
翔子「……兜が付いて武器が村雨になった」
明久「秀吉は?」
秀吉「長刀使いから新撰組になったようじゃな」
明久「ムッツリーニ」
ムッツリーニ「……下忍から上忍に出世した」
明久「和真」
和真「服装が軍服に、武器が聖槍にになったな」
明久「僕と雄二」
鉄人「学ランの裏地に刺繍が入ったな」
明久・雄二「「お か し い だ ろ !」」
はからずも明久と雄二の声が揃っていた。明久もそれなりに成績は向上し雄二に至っては学年トップ10だったというのに、何故か以前としてチンピラ装備のままだったらこういう反応になるだろう。
雄二「……!いや待て明久。俺のはお前のと違って武器も変わっている」
明久「え?そうなの?」
雄二「ああ……メリケンサックが鉄パイプになった」
明久「些細な変化だ!」
観察処分者使用の召喚獣に刃物を持たせるわけにはいかないのはわかるが、それにしたってもっと無かったのだろうか?……というより、雄二がまき込まれている時点で十中八九あの学園長の陰謀だろう。
鉄人「さぁ、もう満足しただろ。許可はここまでだ」
そう言って鉄人がフィールドを消すと、同時に召喚獣達も消えていった。
鉄人「もうすぐ昼休みも終わる。遊んでいないで次の授業の用意をしておくことだ」
最後に小言を一つ言い残し、鉄人がそそくさと教室から出て行った。
美波「アキも坂本も、成長していないって事よね」
雄二「島田。このバカと一緒にするな失礼な」
明久「そうだよ美波。雄二の頭や美波の胸と違って、僕は成長して(ポキュッ)」
美波「何か、言ったかしら?」
明久「なんでもありません」
秀吉「確かに、明久は成長しておらんのう……」
和真「雉も鳴かずば撃たれまいに……」
雄二「そういえば和真、小山が来る前に何か言いかけてなかったか?」
両手に加えて肘間節までも潰されて痛みに悶える明久だが、バイオレンスな光景はFクラスの風物詩であるので雄二は特に気にも止めずそう和真に問いかける。
和真「あん?……いや、大したことじゃねぇ。すぐAクラスに攻め込まないってことは、どうやらお前もちゃんと理解してたみてぇだからな」
雄二「……なるほど、そういうことか」
秀吉「ちょっと待つのじゃ。お主らだけで話を進めないで欲しいぞい……」
美波「そうよ、何の話よ柊?」
翔子「……もし和真が順調にランクアップしても、まだまだ勝ち目が薄いことに変わりはないということ」
和真「ああ、そうだ」
明久「えぇっ!?どうしてさ!?」
ようやく復活した明久が疑問をぶつけるも、よくよく考えれば至って当たり前のことだったりする。
和真「お互いランクアップした状態、操作技術も決定的な差は無ぇ。……となると、何が勝敗を決めると思う?」
明久「え?そ、そりゃあ…………あ」
ムッツリーニ「………点数」
和真「そう。『点数が高いほど有利』、試験召喚戦争の常識だ。例え俺がランクアップしようと6000点は絶対越えねぇ。それに対してソウスケの点数は……“明鏡止水”に一歩でも踏み込んだからには、下手したら7000点越えててもおかしくねぇ」
「「「な…7000!?」」」
雄二「学年主任並の点数だなクソッタレ……」
一同は驚愕し、雄二は忌々しそうに親指の爪を噛む。“明鏡止水”の極意はなんといっても集中力。今は常時至ることはできないだろうが、平常時でも以前までの蒼介とはおそらく別物だろう。補充試験を終えた今の蒼介の点数もそれに比例して強化されているとみて間違いない。
明久「……あっ!操作技術はほぼ互角と言っても、和真には型にはまらないトリッキーな戦術があるじゃないか!それで何とかできないの!?」
和真「あのな明久…型にはまった戦法だろうが突き詰めれば強力な武器になるんだぜ?アイツ…というかあの一族はその体現者だ」
美波「一族?何の話よ?」
和真「水嶺流っつってな……ソウスケの家には代々伝わる剣術流派があるんだよ。以前までならともかく、今のソウスケの操作技術なら間違いなくそれをベースにした闘い方をしてくるはずだ」
先日の野球大会でもその片鱗を見せていたので、おそらく和真の推測は当たっているだろう。
秀吉「うむむ……聞けば聞くほど勝ち目が薄くなっていく気がするのう……」
和真「まぁ、対抗策は一応ある。けどそれには少し時間を要するから、できれば一ヶ月くらい待ってくれ……って言おうとしたんだが、余計な心配だったみてぇだ」
雄二「俺だって事前準備を雑にしてアイツらに勝てるとは思ってねぇ。たかが一ヶ月で万全の体制が整うならそれに越したことはないぞ」
一刻も早く姫路にAクラス設備を、と考えていた明久はやや複雑な表情を二人に向ける。異議を声に出さないのは明久も蒼介の強さを理解しているからである。
明久(焦って設備がミカン箱に逆戻りでは完全に本末転倒、ここは我慢どきだ)
和真「いや違うな明久、ここは攻めどきだぜ」
明久「えっ、どういうこと?…ていうかナチュラルに心読んできたね和真……」
和真「お前がわかりやす過ぎんだよ。Aクラスに攻めるのは一ヶ月後だが、あのクラスには解禁直後にでも攻め込む」
雄二「そうだな。明後日の朝に開戦だ」
明久「あのクラス?それって-」
キーンコーンカーンコーン
布施「はい、科学の授業を始めますよ。皆さん席についてください」
明久が疑問を言いきる前に授業開始のチャイムが鳴り、布施先生が教室に入ってくる。
和真「まぁ、当日のお楽しみってことで」
そんなこんなで時間が流れて放課後。和真は保健体育の試験を受け直しに、秀吉は演技部に、ムッツリーニは本人曰く取材活動に行ったため、教室に残ったメンバーは明久、雄二、翔子、美波、姫路の五人だ。
雄二「よしお前ら、職員室に行くぞ」
明久「何言ってるのさ雄二……姫路さん達はともかく僕や雄二が職員室に行こうものなら間違いなくロクかことにならないことくらいわかるでしょ?」
雄二「試召戦争に向けて万全の備えをするって言っただろ。俺達の操作技術を向上させておくに越したことはない」
明久「へ?確かにそうだけど、それが何で職員室に行く理由になるのさ?」
翔子「……吉井、職員室には召喚獣訓練フリースペースが設置されている」
召喚獣訓練フリースペース、通称フリスペ。
桐谷グループの発案で職員室に設置された常時展開型召喚フィールドだ。このフィールドで闘っても終了後点数が戻るというオプションも付いているので、操作性の鍛練にはもってこいと言える。
明久「あれ?でもアレの使用ってって教師の許可が必要だったんじゃなかったっけ?」
雄二「バカだな明久。こっちには学年2トップ女子がいることを忘れたのか?許可とかは翔子達に任せればそれでオーケーで、俺達はそれにこっそり便乗すればいい」
明久「なるほど、相変わらず小狡い。……でもまぁ、鳳君は和真に任せるにしてもAクラスには他にも強敵揃いだもんね、手段を選んでる余裕は無いか……」
雄二「まあ、そういうことだ。そもそも俺は世の中学力が全てでは無いことを証明するためにAクラスに挑むんだ。地道にコツコツと勉強するよりもそっちの方が性にあっている」
こうして一同は、一般学生が行きたがらない教室トップ3常連の職員室に向かった。話は変わるが趣旨から考えると明久が参加する意味はほとんど無い。彼の操作技術はほぼカンストしており、これ以上特訓しても伸びしろは残っていないからだ。では何故雄二は明久を誘ったのかと言うと……教師に見つかった際の囮役という、いかにも雄二らしい外道な理由である。
雄二の目論見通り明久をスケープゴートにしてフリスペまで辿り着いたものの、既に先客が利用していた。蒼介、徹、久保……最終目標であるAクラスが誇る男子トップスリーの生徒達である。
蒼介「……はっ!」
徹「っ!?しまっ-」
ザシュウウウ!!!
一瞬の隙を見逃さず、蒼介の召喚獣はすごいスピードで突きを放つ。草薙の剣から繰り出された鋭い刺突は、リニューアルした装甲ごと徹の召喚獣の首を正確に貫いた。
これこそ水嶺流弐の型・車軸……相手の弱点を正確に貫く高速の突き技である。
久保「……ん?おや、坂本君達。奇遇だね」
雄二「いや奇遇じゃないだろ。お互い確固たる目的でここに来たんだからよ」
久保「ははっ、それもそうだね。君達も明後日に解禁される試召戦争に向けて準備をしているってことかな」
雄二「ま、そういうことだ。幸いここの召喚フィールドは俺や教師が出すやつより広い。お前らも余計な情報を明け渡したくないだろうし、お互い不干渉と行こうや」
蒼介「……いや、せっかくの偶然だ。私と少しばかり手合わせしないか?」
先程まで徹と激闘を繰り広げていた蒼介が、いつもの沈着冷静な表情でそんな提案をしてきた。
雄二「バカ言うな。そんな提案引き受けても俺達にメリットが-」
蒼介「無い、とは言わせんぞ?情報は出来るだけ隠したいのは事実だろうが、それ以上に私の戦闘データは少しでも多く欲しい筈だ。宿願であるAクラス打倒を達成するには、私との闘いは決して避けて通れないのだからな」
雄二「…………何が目的だ?」
蒼介「さて、何だろうな?」
雄二が露骨に値踏みするような視線を向けても、蒼介はその鉄面皮を崩さない。雄二がここまで訝しむのは、蒼介の提案がFクラスにとって有利過ぎるからだ。
蒼介の戦闘データは実戦での露出の少ない上、その数少ないデータも“明鏡止水”に踏み込んだ今の蒼介の対策としては宛にならない。来るべき決戦に備えて、蒼介の情報は少しでも多い方が良い。それに対してFクラスは学年で右に出るクラスが無いほど実戦での露出が桁違いに多い。今わざわざ探りを入れなくても既に情報は飽和状態なのだ。
雄二「……まあいい、お前の提案に乗ってやろうじゃねぇか。じゃあまず俺と…」
蒼介「いや、四人まとめてかかって来い」
「「「なっ……!?」」」
どう考えてもこちら側を見くびってるとしか思えない蒼介の提案に一同は怒りを通り越して開いた口が塞がらない。しかし、そんな彼らにも蒼介は気を止めることもなかった。
蒼介(これは奴への……引いてはお前達Fクラスへの警告だ。今のままでは私に勝つことなどできはしない……とな)
和真「俺は別に総てを愛してるわけじゃねぇけど、なんとなくっつうかノリで総てを破壊するぜ!」
「「「こいつ最低だ!?」」」
和真君の召喚獣の装備のモデルは某神座作品の黄金の獣様です(軍服のカラーが黒ではなく赤なのは、彼のイメージカラーが青の蒼介君とは対照的に赤だからです)。ついでに彼、修羅道至高天の住人になっても楽しくやっていけるでしょうし。
ちなみに蒼介君の装備は変わっていません。彼の装備は一学期の時点で最高レベルでしたので。
水嶺流弐の型・車軸……高速戦闘の最中でもピンポイントに狙いを定めることができる正確無比な刺突。名前の由来は『車軸を流すような大雨』から。大粒の雨程度なら正確に貫けるという意味合い。