バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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今回で七巻終了のつもりだったんですが、全部詰め込むと10000字を軽くオーバーしかねないので次回に持ち越します。


姫路の苦悩

『体育祭総合優勝……2ーF。個人MVPには柊和真君が選出されました。柊君、前へ』

和真「あいよ!」

 

野球大会を終えて、最終種目のクラス対抗リレーの後は閉会式が開かれる。生徒達はグラウンドに整列し、クラスを代表して和真が表彰状を受け取った。

野球大会後の全員参加の騎馬戦とクラス対抗リレーに関してだが、騎馬戦でFクラスの謎の団結力を雄二が発揮させて勝利(和真と蒼介の熾烈な一騎討ちがあったりもした。ちなみに決着は僅差で和真に軍配が上がった)、クラス対抗リレーは途中までは運動部含有率が高い2-Eが首位であったが、アンカーの和真(100m走自己ベスト10秒16)がアッサリと抜き去ってトップでゴールした。野球大会の策に組み込まれた借り物競争では無得点に終わったものの、最終的にはその程度のことは何の問題も無いと言わんばかりの圧勝だった。和真も当初の予定通り二年連続個人MVPに選ばれたものの、おそらく来年からは個人で出場可能な種目数に制限が儲けられるだろう。いかに実力主義の文月学園と言っても限度というものがある。

……さて、めでたく総合優勝を獲得したFクラスであるが、彼らのほとんどにとってはそんなもの副賞でしかない。

 

『生徒・教師交流召喚獣野球。優勝……2-A、2-F両クラス。MVPは審議の結果、鳳蒼介君が選出されました』

 

(これで俺達のお宝は返ってくるんだよな!)

(学園長のお言葉だからな!間違いねぇだろ!)

和真(ちっ、流石に途中参加でMVP二つは無理があったか……最終打席で空振り三振しちまったのも痛ぇな……)

 

クラスメイトが聖典(成人指定本)奪還に沸き立つなか、和真は悔しがりながらも冷静に敗因を分析する。途中参加とはいえ走攻投守全てに渡って活躍し、6打数5安3本塁打6打点と圧倒的な成績を叩き出したものの、3試合連続完全試合を達成し、決勝戦も2失点こそしたものの驚異の15奪三振を記録した蒼介には、直接対決で三振したことも加えると一歩及ばなかったようだ。

 

『それでは、これにて文月学園体育祭を終了します』

 

学園長の長話も終わり、これで体育祭の全プログラムは終了。他のクラスの生徒たちが帰宅の途につく中、FクラスとAクラスの生徒は担任のもとに集まった。

 

『さぁ、俺達のお宝を返して貰おうか!』

『俺のDVD!俺の写真集!俺の抱き枕!』

『俺の聖典(エロ本)!俺の宝物(エロ本)!俺の参考書(エロ本)!』

 

口々に没収品の返還を要求するクラスのバカ軍団を見回して、呆れたように溜息を吐く鉄人。

 

鉄人「……まぁ、約束は約束だ。没収品は返還しよう」

『『『よっしゃあーっ!』』』

鉄人「では、この紙に没収された品と、名前を書いて提出しろ。一両日中には返還する」

『『『はーい』』』

 

こういう時だけ返事の良いクラスの皆がこぞって鉄人の渡した紙に没収された物の名称と自分の名前を書いていく。

 

『エロ本エロ本エロ本……』

『写真集写真集写真集……』

『抱き枕抱き枕抱き枕……』

 

そこら中から欲望に塗れた呟きを垂れ流しながら、和気藹々と勝利(正確には引き分けだが)の味を噛み締めつつ用紙を提出する。鉄人は呆れ返りながらそれを束ねて袋に入れ、小脇に抱え込む。

 

鉄人「……さて、それではここに書かれた没収品は後日きちんと郵送する」

 

その言葉に教室中が一瞬にして静寂に包まれる。

 

鉄人「宛名はお前たちの保護者になる。全員、到着を楽しみにしているんだな」

 

脳の矮小さに定評のあるFクラスのため鉄人の言葉の意味を処理するのに幾ばくか時間を要したが、なんとか理解し終えた途端……

 

 

 

教室中に不満が大爆発した。

 

『『『はぁあああっ!?』』』

鉄人「良かったなお前ら。視察に来ていたスポンサーも大満足だったようで、学園長は大変機嫌良く返還を快諾してくれたぞ。それと学園長からの伝言だ。『学園としては返還してやるけど、子供として持っていい物かどうかの判断は、アンタらの保護者に一任する』とのことだ」

『『『あ、あのババァーっ!!』』』

 

この非常なる宣告に最も絶望したのは勿論のこと明久である。玲にそんな物を学校に持っていったことを……いやそもそもそんな物を所持していたことを知られるということは、地獄の片道切符を押し付けられたに他ならない。

 

鉄人「それでは、HR(ホームルーム)を終了する。各自、寄り道などせず真っ直ぐに帰るように」

『『『あっ』』』

 

明久達が詰め寄る前に、鉄人は校舎へと歩き去っていった。

 

明久「皆、やっぱりまた職員室を襲おう。僕らの生きる道は、それしかない」

雄二「いいこと言ったな明久。俺もそう考えていたところだ」

ムッツリーニ「……実は俺もだ」

 

彼らは輝かしい未来を掴む為、またしても頭を寄せ合うのだった。

 

美波「それにしても、瑞希どこ行ったのかしら……」

翔子(……和真もいない。やっぱり、瑞希は何か思いつめていたんだ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫路「…………」

和真「よっ、こんなとこでなに黄昏てんだよ?」

姫路「あっ……柊君……」

 

旧校舎の屋上で一人落ち込んだ表情で佇み、遠くの空を眺めていた姫路に声をかける和真。

 

和真「うちのクラスの女子は何か思い詰めていたら屋上に行く決まりでもあんのか?ほい、これ差し入れの飲み物」

姫路「えっ……あ、その……ありがとうございます……」

 

和真は姫路の隣に立ち、途中自販機で購入しておいた青汁を差し出す。明らかにつっこみ所満載なチョイスにもかかわらず無下にできない姫路は本当に人間ができている。

 

和真「……ほれ、こっちが本命だ」

姫路「え…えっと…?」

和真「姫路よぉ、おかしいと思ったことにはおかしいって口に出して言わなきゃダメだぜ?」

 

期待していた反応ではなかったので、和真はガッカリした表情で美波に本命の差し入れであるレモンティーを手渡す。やはりこの男、冗談一つのためだけにジュース一本分の小銭を浪費することを厭わないようだ。

 

和真「それにしても没収品返却してもらわなくて良かったのかよ?写真だの抱き枕だのをよ」

姫路「……私には、その資格がありませんから」

和真「あん?どういうことだよ?」

 

観察力、洞察力に定評のある和真は当然のごとく姫路が何を悩んでるのかをなんとなく理解はしているが、美波のときと同様の理由で本人から吐き出させる方向に持っていく。

 

姫路「クラスが一丸となって頑張っていたのに……また前みたいに私は役に立てなくて、足ばかり引っ張って……私、自分が嫌いです……!役に立てないところも、迷惑ばかりかけちゃうところも……っ!こんなんじゃ……」

 

一度決壊すると堪えきれなくなったのか、ぼろぼろと姫路の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。以前の美波と同じく、触れれば壊れてしまいそうな痛ましい表情を浮かべながら。

 

和真(うわ…これ思ったより重症じゃねぇか……。ったく、役に立つだの立たないだのなんざ気にする必要無ぇのによ。現に今回の野球もクラスの大半が己のエゴのみで行動してたしな)

 

明久が美波と比べて自分と距離を取っているのではないかと姫路が悩んでたことは知っていたが、ここまで思い詰めていることは流石の和真でも予想外だった。放っておくのは幾らなんでもどうかと思うので和真は何とかメンタルケアの手段を模索する。

 

和真(こいつが抱え込んでいる内容からして、下手な慰めじゃかえって逆効果だよな……よし、あえて現実を突きつけてから活路を与えて立ち直らせるか)

 

お姫様のように周りから気遣われたり遠慮されたりすることが悩みの根幹の姫路には、むしろ厳しく接した方がうまくいくと和真は判断したようだ。

 

和真「……姫路、お前が悩んでいることはわかった。とりあえず俺から言えることは三つほどある」

姫路「……グスッ……三つ……ですか……?」

和真「まず一つ目だが……

 

自惚れてんじゃねぇよ、ボケ」

姫路「…………え?」

 

突き放すような和真の言葉に姫路は思わずフリーズする。確かに必要以上に気遣われることがコンプレックスだったのだが、ここまでアクセルを踏み込まれるのは流石に予想外だったようだ。

 

和真「最終的に実技勝負になったが途中までは召喚獣をベースにしていた。だから俺、翔子に次ぐ点数の自分が頑張らなければならなかったのに……ってのがお前の見解だろ?」

姫路「は…はい……」

和真「その時点で自惚れてるんだよ。あの大会召喚獣ベースとはいえどちらかと言えば野球センスの比重が大きいんだ。決勝でも次席の久保より優子や徹の方が厄介だっただろ?」

姫路「それは、そうですが……」

和真「そんな仕様なんだからよー、運動神経ゼロのお前を戦力にカウントしてるわけねぇだろ。だから今回お前は誰の期待も裏切っちゃいねぇよ。そもそも期待してねぇんだから」

姫路「で…でしたらなんで私をメンバーに加えたんですか!?」

和真「あん?そりゃあ申し訳程度のソウスケ対策だ。Fクラス標準レベルの点数じゃ600点前後のソウスケのストレートは絶対打てねぇことはある程度予想できていた。だけどお前点数は高いだろ?1億分の1くらいの確率でバットに当たりゃヒットにできるかもしれないから決勝でスタメンにしたんだよ。1/1億なんざダメでもともと、外れて怒る奴ぁ誰もいねぇだろ?」

姫路「うぅ……(ずぅぅううん……)」

 

最初から全然期待されていないという悲しい現実を突きつけられた姫路はやはり目に見えて落ち込み出す。メンタルをバッキバキに砕いてしまったがここまでは予定通りだったりする。

 

和真「そして二つ目だがよ……姫路お前、『ウサギとカメ』の童話は当然知ってるよな?」

姫路「…ふぇ?は、はい。知ってますけど……」

和真「童話っつうのは読者への教訓になっていることが多い。『舌切り雀』なら『欲張るのはやめよう』って感じにな。それで姫路、あの童話の教訓は何だと思う?」

姫路「それは……努力すれば-」

和真「はいブブー」

 

食い気味に姫路の答えに不正解を突きつける和真。

 

姫路「ま、まだ言い終わってないのに……」

和真「カメに焦点を当てている時点で不正解だ。あの話はよ、諦めずに走り切ったカメを称賛すべきではなく、格下と思って油断したウサギを非難する話なんだよ」

 

事実、明治時代に『ウサギとカメ』のタイトルが教科書に記載されたときのタイトルは『油断大敵』だったらしい。

 

和真「カメは何も凄くねぇんだ。足をすくわれるほど油断しまくったようなマヌケなウサギなんぞに、勝ったところで何の自慢にもならねぇよ」

姫路「そ…それはそうですけど……」

和真「そして俺から言わせればカメもマヌケだ」

姫路「えぇっ!?ど、どうしてですか!?」

和真「勝つか負けるかを相手が慢心するか否かに委ねるような勝負ふっかけてんじゃねぇよ。んなもん相手のミスを期待する甘ったれの施行だ。それで勝ったとしても相手が自滅しただけで、何一つ誇れねぇだろうが」

 

確かに和真の言う通り、勝てたのはそのウサギがド三流だったからのなにものでもなく、一流のウサギを相手にすれば話にならないレベルの大敗を喫していただろう。

 

和真「……ここからが本題だ。いいか、この童話で例えると、お前はカメだ」

姫路「か…!?確かに私はノロマですけど……(ずぅぅううん……)」

和真「例えだっつってんだろ……お前がスポーツ関連で誰かに挑むことはな、カメがウサギにかけっこで勝負を挑むようなもんだ。しかも一切油断なんざ期待できない一流のウサギにだ」

姫路「は…はぁ……」

和真「俺から言わせれば愚行にもほどがある。わざわざ相手の得意分野で勝負してやる必要なんざねぇだろ?カメの強みは何だと思う」

姫路「へ?……甲羅が固いこと。ですか?」

和真「そうだよ、カメの強みはその耐久力。殴り合いとかならウサギに勝てるだろ?そして姫路、運動神経ゼロのお前だが……お前には4500点オーバーの点数があんだろうが」

姫路「……っ!」

和真「今回はお前の長所を発揮できる戦場じゃなかったってことだ。お前の戦場は当然、もうすぐ解禁される試験召喚戦争だろ。だからよ姫路、」

 

そこで一端言葉を切り、和真は姫路の両肩に手を置いて姫路の眼をまっすぐ見据える。

 

和真「点数でも操作技術でも『オーバークロック』でも良い、試召戦争までに久保を必ず倒せるように腕を磨いておけ。お前が明久を守れるくらい強くなりてぇならな」

姫路「!……はいっ!わかりました!」

 

力強く返事をした姫路の表情に数刻前の弱々しさは少しもなかった。

 

和真「良い返事だ。姫路、力の無さを痛感したときはメソメソ落ち込むじゃなくてじっくり考えることだ。どうして力が足りないのか?改善するのはどうすれば良いのか?自分の強みで勝負できていたか?ってな。そうすりゃきっと根気強いお前なら道を開ける……それが三つ目だぜ、それじゃあな」

姫路「……柊君!」

 

 

カウンセリングを終えたと判断し、そう言い残し屋上から出ていこうとする和真を姫路が呼び止める。

 

和真「どうした?」

姫路「約束します……試召戦争までに、今よりずっと強くなってみせますから!」

和真「……そうかい、期待しておく」

 

満足そうに笑ってから、和真は屋上を後にした。

 

姫路(もう迷わない。今まで私は明久君に…皆に守られてきた。だから私は……皆を守れるくらい強くなってみせる!

久保君……今度は負けませんよ?)

 

 

 

 

 




【アクティブ古今東西ランキング(料理)】

①蒼介……文句なしのぶっちぎりトップ。その腕前は既にプロの域。

②源太……かつてはからっきしだったが血の滲むような特訓の末、明久レベルにまで進化した。

③飛鳥……名家出身なだけあって一通りこなせる。

④優子……かつての見栄っ張り属性の副産物。

⑤愛子……女子としては平均レベル

⑥徹……お菓子作り限定なら源太以上。

⑦和真……料理下手というわけではなく、単純に興味が無い。才能の塊のため興味を持ち出したら確実に上位に食い込んでくるだろうが。


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