気がつけば10話も、三日に一話のペースですから1ヶ月も引っ張っちゃいましたね……あらかじめ考えたスコアブックに沿って野球のシナリオ書くのが予想以上に楽しくて「パワプロ小説書こうかな……」と一瞬浮気しそうになったりもしました。危ない危ない……。
最強バッターである和真を見事スイングアウトさせた蒼介は、その勢いのまま後続のバッターである雄二にトルネードサイドを奮う……ことなく元のサイドスローにフォームを戻した。
バシィッ
御門「ストライク」
雄二(くっ……そんなころころフォームを変えてんのに、なんでこいつはコントロールを乱さねぇんだ!?……というか、露骨に舐められてるなこの野郎……!)
先ほどまでのトルネードサイドに比べると、通常のサイドスローは制球力が格段にアップするしスタミナ消費も少ないが、球速・球威・変化球のキレなど打者を捩じ伏せるのに必要な様々な点で劣る。蒼介がこちらに戻した理由は暴投というイレギュラーを防ぐため、つまり和真以外のバッターには普通にやればどうとでも抑えられると少なからず思っているということだ。
雄二「Fクラスは和真だけじゃねぇぞ!(カキィンッ!)」
蒼介の(っ……狙い打ちされたか)
2ストライクに追い込めばほぼ100%“サイドワインダー”で三振させられる。よって二球目には“サイドワインダー”の次に信頼を置くクロスファイヤーで攻めてくる……という雄二の読みは見事に的中し、ライナー性の打球が一、二塁間方向へ飛んでいく。
が、
優子「たぁっ!(バシィッ!)」
雄二「な、なにィ!?」
何気に『アクティブ』でも和真、蒼介に次ぐ堅守を誇る優子にダイビングキャッチされてしまった。打撃に関して雄二に落ち度は一切無かったのだが、不運なことに打球コースが優子の守備範囲だったようだ。
御門「アウト」
蒼介「……先ほどのお前の叫びに私はこう答えよう。Aクラスは私だけではないぞ」
雄二「ッ……くそっ!」
悔しそうにベンチに戻る雄二と入れ替わるように、六番打者の近藤が打席に入る。しかし彼我の実力差は明白であり、初見せとなるスローカーブとインハイへのストレートの緩急に翻弄されあっという間に追い込まれてしまった。
『ぐっ……ヤベェ……』
蒼介「別に使わずとも問題なかろうが、念には念を入れて全力でゆくぞ……ハァッ!!!」
選択された球種は当然のことながら“サイドワインダー”(蒼介曰く「このフォームではただのスライダー」)であり、左打ちの近藤に対して直球ならば明らかにぶつかるコースへ投げ込んだ。
『う、うわぁっ!?(バッ!)』
頭では曲がるとわかってはいても、硬球が直撃するかもしれないという恐怖から、本能は近藤の意思とは関係なく体ををのけ反らせた。
ギュルルルルルルルル……バシィッ!!!
御門「ストライクバッターアウト、チェンジ」
蒼介「……ぶつかる覚悟も無いまま打席に入っているバッターなどに、私の球は打てん」
これでFクラスの攻撃回は全て終了し、点数は以前2-2。既に和真達の勝利する可能性は無くなってしまった。
和真「ハァァアアアッ!!!」
ズバァァアアアン!!
御門「ストライク、バッターアウト」
『は…速い……!』
Fクラスの勝利は無くなったものの、この回を0点に抑えさえすればFクラスの当初の目的(没収品の奪還)は達成されるため、Fクラスメンバーの士気は落ちるどころか、今までで最高潮に達していた。
蒼介が“クロスファイヤー”だの“サイドワインダー”などテクニックでバッターを翻弄したのに対し、和真は“ツーシーム”のパワーのみで愛子、栗本の下位打線を6球で沈めた。本来“ツーシーム”は手元で微妙にシュート方向へ変化することでバットの芯を外すストレートなのだが、和真のツーシームは140㎞を越えているため並大抵の打者ではそもそもバットに当たりすらしない。
しかし、続くバッターはどう甘めに見積もっても並大抵ではない相手であった。
徹「ふむ、9回裏2アウトか……ここは僕を敬遠して沢渡さんを確実に打ち取るのが無難なところかな?」
和真「寝言は寝て言え、この四球乞食が」
徹のこれまでの成績は1打数1安打2与四球と地味に大活躍。しかも秀吉が投手だった1打席目の四球は敬遠だったが、和真が投手だった3打席目の四球はさんざん粘られて根負けした結果である。『アクティブ』メンバーの例に漏れず筋金入りの負けず嫌いである和真がそれをよしとするわけがなく、徹を捩じ伏せて試合を終了させるつもりでいた。
和真「さて、最終回なわけだしもう球数に気を使う必要もねぇな……全球ド真ん中で勝負だ!」
徹「っ!?」
ズバァァアアアン!!
御門「ストライク」
徹「何がド真ん中だよ、ちょっとズレてるじゃないか」
和真「しかたねぇだろ、仕様だよ仕様」
和真はツーシームでしかストレートを投げないため、ど真ん中を狙ってもシュート方向に僅かに変化してしまうのは仕方ないだろう。
徹「……というか何のつもりだ?ど真ん中予告なんて、僕を舐めてるのか?」
和真「こうすりゃ四球を狙うことなんざできねぇだろ。お前が打つか、俺が抑えるか……二つに一つだ」
徹「“ツーシームファスト”はシュート方向に沈むストレート、コースがわかっていればジャストミートはそう難しくないってこと、わかってるのかい?」
和真「俺が球威で圧倒すれば問題ないだろ?(ニヤリ)」
徹「……なるほどねぇ、真芯で捉えられても問題ないってか……随分と見くびってくれるじゃないか……!」
マウンド上で不敵な笑みを浮かべる徹を敵愾心の籠った目で睨めつける徹。『文月学園一沸点が低く挑発に乗りやすい男』という称号は伊達ではない。
和真「へへへ、それじゃあいざ尋常に……勝負しようかぁっ!」
ワインドアップから投じられたボールは、140㎞を優に越えるスピードでキャッチャーミット目掛けて突き進む。
徹(やや高め…貰ったァッ)「死ねぇぇぇえええええ!!!」
もはやスポーツマンシップの欠片もない掛け声とともに徹は全力でバットを振るう。狙いは真ん中高めより気持ち自分の内側、“ツーシーム”の軌道を完璧に読みきった見事なスイングである。
ただしボールは真下に変化した。
徹「なぁっ!?」
ガキィンッ!
当然ボールはバットのスイートスポットから大きく外れて当たり、ゴロ性の打球が転がった場所は無情にもピッチャー前。
和真「よっ(パシッ)ほいっ(ビシュッ)」
翔子「(パシッ)……ナイスピッチ」
御門「ゲームセット。この勝負、2対2の引き分けー。あー、やっと終わった……」
筋書きの無いドラマ……その言葉の通り、最終回の最後の攻防がアッサリが劇的になるとは限らない。あっさり終わるときもあるのが野球である。
徹(スプリット……確かに和真は“ツーシーム”を投げるなんて一言たりとも言ってはいないかった、いなかったけどさぁ……やっぱりアイツ詐欺師だよ……)
面倒臭い相手を適当にあしらうときやカマをかけて情報を引きずり出す以外はほとんど嘘をつかない和真であるが、「嘘などつかなくても人は騙せる」と言わんばかりにしょっちゅう人を騙すのも和真である。最後のコースも結果的には宣言通りど真ん中であったが、すこぶる騙されたという気分になる徹であった。
御門「はいおめーら全員せいれーつ。スポーツマンたるもの礼節は大事だぞー、知らんけどよ」
(((アンタ最後までやる気無いな!?)))
試合中はそれどころではなかったため誰も突っ込まなかったが、この男いくらなんでもやる気無さすぎである。
蒼介「今回は引き分けだな」
雄二「そうだな、決着は試召戦争でつけてやる」
蒼介「……まあ、勝つのは我々だかな」
雄二「はっ上等だ。まあ見ていろ、吠え面かかしてやるからよ」
指揮官二人が火花を散らすなか、現状のヤバさを理解している和真は冷静に対策を考えいた。
和真(……以前なら俺がランクアップさえすりゃどうにかなる見通しだったが、ソウスケの操作技術が格段に向上したことでかなり厳しくなったな。その上“明鏡止水”にまで至っちまったか……まだ不完全とはいえ、もし試召戦争までに使いこなせるようになったとしたら勝率は…………チッ、どう甘く見積もっても0だな。……やれやれ、非常に不本意だが背に腹は代えられねぇ……クソ親父を頼るしかねぇな)
次回は閉会式+その他色々で、その次で七巻終了となります。