バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【ミニコント】
テーマ:引き出し

明久「引き出しの多い人間と言われたい」

和真「唐突だなオイ」

明久「なので文房具やノートなど、引き出しに入っているものを持ち歩くことにしたよ」

姫路「えっ、それ引き出しの意味が…」

和真「待て姫路。なんか面白ぇから何が出てくるか見てみようぜ」

明久「輪ゴム、クリップ」

姫路(意外と用意が良いですね……)

明久「そして勿論ソルトウォーター!」

和真「んなもん引き出しに入れんのお前だけだ」


野球大会決勝⑤『Unstoppable』

雄二「選手交替!姫路から福村に、島田から近藤に!」

蒼介「同じく選手交替。佐藤から栗本に、久保から時任に」

 

リアル野球にシフトチェンジしたことで、両キャプテンは野球に不馴れなメンバーを控えの生徒と交代させる。

 

姫路「っ……!」

美波「?瑞希、どうしたの?」

姫路「えっ……いや、何でもありません……」

美波「そう?なら良いけど……」

翔子(…………) 

 

予定通りであったFクラスはともかくAクラスも比較的野球慣れしている生徒をベンチに温存していたことから、蒼介がFクラスの策を見抜いていたことは間違いないようだ。

 

雄二(だがこいつは和真から聞いた通り、真っ向勝負を持ちかけられると絶対に避けない。そこに付け入る隙がある筈だ)

 

来るべきAクラスとの試召戦争に向けて雄二が戦略を思案する中、先頭バッターである明久が意気揚々とバッターボックスに入る。

 

明久(よし、召喚獣じゃないならこっちのもんだ!確かに勉強では逆立ちしても勝てない……だけど僕達Fクラスは肉体派集団、実技野球なら負けないよ!)

 

自信満々にマウンドに立つ蒼介を見据える明久の内情を察したのか、ベンチで待機している和真が顔に手を当てて心底呆れたように溜め息をつく。

 

和真「あ、ダメだありゃ……。間違いなく事前に教えた情報が頭から抜け落ちてやがる」

雄二「心配しなくてもいいぞ和真。アイツにはそもそも最初から期待していない」

和真「それはそれでひでぇな……」

 

アホの明久はすっかり忘れてしまったようだが、Aクラスの主戦力は和真率いる『アクティブ』のメンバー達であること、そして蒼介は和真を差し置いて『アクティブ』のエースを務めていることから考えると、実技に移項したからといって決して容易な試合ではない。

 

蒼介(随分自信満々なようだな吉井……良いだろう。その自信、跡形もなく打ち砕いてくれる)

 

左腕を思い切りしならせながら蒼介が真横からボールを放つ。サイドスローのサウスポー……それが蒼介の投球スタイルである、。

 

明久(……えっ!?ボールが急に……)

 

バシィッ!

 

御門「ストライク」

 

より詳しく述べると、蒼介はボールがホームプレート上を外角から内角へ、もしくは内角から外角へと斜めに通過するように投げるピッチングを得意としている。それこそ俗に言われるサイドスローの最大の武器……"クロスファイヤー"。

対角線上に投げられるボールは角度がつけば付くほど凄まじい威力になる。とんでもなく鋭い角度で飛んでくる130キロのボールを打つ……それがいかに難しいことなのかは、野球の未経験者でも少し考えれば分かることだろう。幸い明久は左打者のためサウスポーである蒼介のクロスファイヤーによる影響は右打者に比べると強くないが、それでも笑えるほど打ちにくいことに変わりはない。

 

和真(クロスファイヤーだけじゃねぇ。数センチとズレない精密機械のような制球力に多種多様の変化球……ソウスケはアマチュアレベルでは無敵と言っても良いほどの超技巧派ピッチャーだ。……それにしても明久よぉ、何だその驚きようは……。事前に全部説明したっつうのにあのボケやっぱ忘れてやがったな……)

明久(そうだった、和真がさっきそんなこと言ってたじゃん……。うぅ、ベンチからの視線が痛い……)

 

バシィッ!

 

御門「ストライク」

明久(って、余計なこと考えてる内に追い込まれてるぅぅぅ!?)

和真(あーあ、もう追い込まれちまった。これじゃあもう()()()()()でシメーだな……)

 

三球目、蒼介が振りかぶってボールを投げ込む。しかし投じられたボールは何故か先ほどの二球に比べると球速が目に見えて遅かった。

 

明久(よし!これなら何とか打て……えぇっ!?)

 

 

ギュルルルルルルルル……バシィッ!

 

 

好機とみて強振した明久だったがボールはバッターボックス手前で鋭く横方向へ変化し、明久のフルスイングをまるで生き物のようにヒラリとかわし徹のミットに収まった。

 

御門「ストライク、バッターアウト」

明久(今のは……スライダー?いくらなんでも変化し過ぎじゃないか!?)

 

これこそ蒼介の切り札にして、『アクティブ』で和真にマウンドを任されている最大の理由となる魔球。その正体は何らオリジナリティや独特さの無い、極普通のスライダーである。しかしそのキレはそこいらのプロすらも軽く凌駕するレベルであり、バッターの手元で蛇のように鋭く変化する脅威の変化球。

 

通称……“サイドワインダー”。

 

和真(鳥だったり蛇だったり忙しいヤローだ)

 

そんな能天気なことを考えつつネクストバッターズサークルに向かう和真と入れ替わるように、明久は重い足取りでベンチへ戻る。

 

明久「はぁ……意気込んで向かったのに手も足も出なかったよ……」

秀吉「明久よ……お主和真から事前に教えられた鳳の情報を完全に忘れておったじゃろ……?」

明久「……な、ナンノコトカナー」

雄二「とぼけても無駄だ。なんせ追い込まれてはダメだとあれほど言ったのにもかかわらず、2ストライクになるまでバットを振らないんだからな」

 

蒼介の決め球“サイドワインダー”の人間離れした変化は、たとえ投げてくるとわかっていようが打てる可能性があるのはFクラスでは……と言うより文月学園全体でも和真ぐらいのものである。

しかしあれだけの変化をするボールは当然体への負担も決して小さくない。そのため蒼介はあの球を一打席につき一球しか投げることがなく、さらに投げるタイミングは決まってバッターを2ストライクに追い込んだときである。

だから追い込まれる前に打ちにいく……というのが事前に決められた作戦だったのだが、

 

秀吉「それなのにお主はまんまと追い込まれてしまったというわけじゃな」

明久「う……面目ない」

秀吉「……まあそこまで気に病むことは無いと思うぞい。現に、」

 

バシィッ!

 

『ストライク、バッターアウト』

 

秀吉「作戦を実行しようとした霧島もあっさり空振り三振したようしのう。あれほどのピッチャーを初見で打つのは困難を極めるじゃろうな……」

ムッツリーニ「……でも次のバッターは和真」

雄二「アイツなら必ず突破口を切り開いてくれるハズだ。そしてその後で俺が、ここまで温めておいたとっておきの作戦を実行する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキィイイン!

 

御門「ファール」

和真「ちぃっ……!」

蒼介「さぁ……追い詰めたぞカズマ」

 

しかし雄二達の期待に反して状況は蒼介優勢であった。初球からガンガン打ちにいった和真だが、ヒット性の当たりには至らずにツーストライクまで追い詰められてしまった。

 

和真(一球目は高速シンカー、そんで今のはシュートか。変化球のオンパレードだなあの野郎……ご自慢のクロスファイヤーで来てくれれば良いものを……)

蒼介(クロスファイヤーなどカズマにとっては所詮こけおどし……こいつに私程度のストレートは通じないだろう。そしてカズマ相手にスローカーブを投げるのはあまりにもリスクが大きすぎる)

 

召喚獣で野球をしていたときからその片鱗を見せてはいたが、和真は速球にかなり強い。並外れて鋭い直感を用いてコースとタイミングを把握し、高い身体能力を活かしたスイングと蒼介には劣るが優れたバットコントロールでボールをジャストミートする。例えプロでもストレートで和真を打ち取ることは至難の技であろう。だからといって変化球が特別苦手というわけではない。むしろ生半可な変化球ならストレートより容易にスタンドまで運ぶことができる。その和真がここまで梃子摺っているのは、“サイドワインダー”以外の蒼介の変化球のキレも並外れたものであるからに他ならない。

 

和真(追い込まれちまった……ってことは、アレが来るよなぁ……)

蒼介(勿論ここは決め球で仕留める。たとえお前でも……私のスライダーはそうそう破れまい!)

 

和真の危惧した通り蒼介の手から放たれたボールには、和真ほどの動体視力の持ち主でなくともハッキリとわかるほどの凄まじい回転がかかっている。

 

 

ギュルルルルル-

 

 

和真(…っ!ここだぁぁあああっ!!!)

 

バッターの手元で鋭く変化するボールに対し、普段より一段と速いスイングで対抗する。ボールが完全に曲がりきる前に、高速のスイングは“サイドワインダー”をバットで捉えることに成功した。

 

 

だが、

 

 

ガキィンッ

 

 

和真(っ!?芯から外れたか……!)

 

それは会心の当たりには程遠く、サード(沢渡)真正面へのゴロ性の打球となった。

 

蒼介「沢渡!」

沢渡「了解了解♪」

 

野球経験事態は乏しいものの抜群の運動神経を誇る沢渡は難なくゴロ処理を行い、すかさずファーストに送球する。流石に送球まで完璧とはいかずボールはやや逸れたものの、一塁手の愛子のグローブに難なく収まった。

 

御門「……セーフ」

『『『はぁっ!?』』』

 

しかし御門先生のジャッジはまさかのセーフ。ゴロ性の当たりとなり愛子のグローブに収まるまでの僅かな間に和真は一塁に到達していたのた。

 

愛子「うん、やっぱりそうなるよね……」

和真「ふぅ、危ねぇ危ねぇ……」

 

まず間違いなくサードゴロで終わるハズだった打球にもかかわらずセーフになった和真に多くの人が驚愕するが、『アクティブ』のメンバーからすれば既に見慣れた光景でしかない。

たとえボテボテの当たりであろうが100mを10秒ちょいで走り抜ける程の黄金の足を持つ和真を打ち取るのは至難の技であり、もし和真をアウトにしたければ三振させるかフライ性の当たりを祈るしかないことはもはや常識と化している。

 

 

そして、黄金の足を持つが故に……

 

『盗塁だ!』

 

塁に出てからもガンガン攻め込むことを可能としている。和真のバッティングに臆し安易に敬遠しようが、危機的状況は去らずに続くのである。

 

バシィッ

 

御門「ストライク」

徹「……」

雄二(これが鳳のクロスファイヤーか、実際に見ると物凄く打ちにくいな……それにしても盗塁したってのに一切刺そうとしないんだな)

 

理由は当然、ハイリスクノーリターンだからである。軟投派の蒼介は決して強肩自慢とは言い難く、徹も体格の割にはかなり肩が強いが郡を抜いて突出しているわけではない。そんなバッテリーが日本最速クラスの脚力を持つ和真を刺せる可能性は万に一つもなく、おまけにもし暴投してしまえばそのままホームまで生還させ点数を献上してしまうかもしれない。

 

蒼介(……それに、いくらカズマが盗塁で攪乱しようが坂本が打たなければ話にならないのだからな)

雄二(和真の足なら三盗も容易だろうが、そうしたら俺は2ストライクになっちまう……点を取るためには次に来る球を何としても打たなければ……)

 

両者の思いが交錯するなか、蒼介は雄二を捩じ伏せるべく大きく振りかぶる。その瞬間和真が三塁にスタートするが蒼介は一切動揺せずボールを投じた。

 

雄二(だがたとえスライダーじゃなかったとしても、一打席目で俺がこいつの球を打てる可能性は限り無く低い……だが、)

 

蒼介の放ったボールはインローに吸い込まれるように直進する。えげつない角度で向かってくるクロスファイヤーに真っ向から勝負していれば、流石の雄二でも敗色濃厚だったであろう。しかし、

 

コンッ

 

蒼介(何っ!?この局面で送りバント!?いやこの軌道……セーフティバントか!)

雄二(当てるだけならまだ希望がある!この状況のためだけに俺達Fクラスのほとんどは、この当日までひたすらバントの練習に費やしたんだよ!)

 

レフト方向の絶妙に上手い位置に転がったボールを沢渡が捕球し、すぐさま一塁に送球する。このままでは十中八九アウトになってしまうだろうが、雄二の勝利にかける執念は沢渡や愛子の予想を大幅に上回っている。

 

雄二「くそったれぇぇえええ!(ずざぁあああ!)」

愛子「うそぉっ!?(バチィッ!)あっ、しまった!?」

 

一塁ベース間近まで迫った雄二は怪我覚悟の決死のヘッドスライディングを仕掛けた。雄二あまりの気迫に気圧されたのか、愛子はサードからのボールをこぼしてしまう。

 

蒼介(何という執念だ……。工藤、今のプレーに関してお前は悪くない……っ!?アイツらの狙いはもしや!?)「工藤、バックホームだ!」

愛子「え!?う、うん!」

 

ファーストの愛子は蒼介の突然の指示にほんの一瞬困惑するが流石Aクラス、すぐさま指示通りにホームにいる徹に向かって送球する。蒼介が念のため確認してみると、案の定和真は三塁を通過しそのままホームへと突撃しているではないか。黄金の足を持つ和真と言えど流石に無茶だったのか、和真がホームに生還する前に徹のキャッチャーミットにボールが収まった。所謂絶体絶命の状況であるが和真の人となりをよく知る徹は、彼が破れかぶれで特効したわけではないと確信できた。

 

徹(おそらく和真の狙いはクロスプレー!こいつの化け物じみたフィジカルなら強引に突破してくるだろうね……だがそうはさせないよ!)

 

予想が当たったのか急加速してくる和真に向かって、徹は直接タッチアウトしようとする。

 

蒼介「大門!それは罠だ!」

徹「え-」

和真「残念!一手遅かったな!」

 

 

 

フワリ…

 

タッチアウトを狙ってきた徹を和真は前宙で華麗に飛び越え、そのままホームへと生還する。

 

御門「ホームイン」

和真「今回は雄二の作戦が一枚上手だったようだなソウスケ。まあそれはともかく……ようやく追いついたぜ」

蒼介「……この野郎」

 

発した言葉こそ苦々しいものの、蒼介の表情には自然と笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

徹「くそっ、完全に和真の思う壺じゃないか!おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ……おのれぇえぇえぇぇえぇ!!!」

(((怖ぇよ……)))

 

そして『アクティブ』で……いや、文月学園で最も執念深い男こと徹は恨み言を呪詛のように繰り返していた。こんな状態にもかかわらず(驚くべきことに)頭の中は至って冷静であるのはある意味一種の才能かもしれない。

 

 

    

 

 

 

 




【選手データ(パワプロ風)①】

特殊能力はあくまでイメージで設定したので、シナリオにはそこまで影響しません(例:チャンス◎を持った選手が得点圏で打順が回ってきてもムキムキになったりはしない)。

F……文化部レベル
E……同好会レベル
D……野球部・地方大会レベル
C……野球部・地方大会上位レベル
B……野球部・甲子園球児レベル
A……プロ野球選手レベル
S……トッププロ選手レベル

鳳蒼介
ポジション:投手
左投げ右打ち
サイドスロー
 
球速130㎞
スタミナ……85(A)
コントロール……95(S)
スライダー⑥
Hシンカー④
スローカーブ④
シュート④

特殊能力……驚異の切れ味、精密機械、変幻自在、不屈の魂、強心臓、ディレイドアーム、ドクターK、ノビ◎、クロスファイヤー、打球反応○、牽制○、クイック○、ポーカーフェイス、球持ち○、リリース○、対強打者○、内角○、要所○、調子安定、人気者

弾道③
ミート95(S)
パワー65(C)
走力85(A)
肩力70(B)
守備85(A)
捕球80(A)

特殊能力……安打製造機、ストライク送球、魔術師、ローリング打法、司令塔、内野安打○、走塁◎、盗塁◎、流し打ち、バント職人、チャンス○、チャンスメーカー、いぶし銀、ささやき破り、ゲッツー崩し、盗塁アシスト、リベンジ、競争心、積極守備、選球眼、調子安定、人気者、チームプレイ○


『アクティブ』のエースを務める超一流の技巧派ピッチャー。針の穴を通すコントロールに内角を鋭く抉るクロスファイヤー、多彩な変化球などいくつもの武器を持つが、最大の売りは何と言っても桁違いのキレを誇るスライダー“サイドワインダー”である。プロ野球でもお目にかかれないレベルの凄まじい変化をするがその分腕にかかる負担も半端なものではなく、乱発は危険が伴う諸刃の剣である。
軟投派らしく球速は遅め(制球力と引き替えに球速を跳ね上げる方法もあるが、主義に反するため余程のことが無い限り使わない)であるが、サウスポーかつサイドスローなので実際の速度よりもかなり速く感じるので弱点というわけではない。
バッターとしても一流であり総合的な打撃能力は和真に次ぐレベルのため、投手でありながらクリーンナップの一角を担っている。



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