次の等式を数学的帰納法を用いて説明しなさい。
1+3+5……+(2n-1)=n^2……①
(但し、nは自然数とする)
美波の答え
[1]n=1の場合、①式は
(左辺)=1
(右辺)=1
より成立する
[2]n=kの場合成立すると仮定する
1+3+5+……+(2k-1)=k^2……②
n=k+1の場合①の式の左辺は
1+3+5……+(2k-1)+(2k+1)
=k^2+(2k+1) (②式より)
=(k+1)^2
つまり1+3+5……+(2K-1)+(2K+1)=(K+1)^2
となり、
n=k+1のときも①式は成立する
[1][2]より、①式は全ての自然数nにおいて成立すると言えます
蒼介「正解だ。数学的帰納法とは、n=1のときに成り立ち、n=kのときに成り立つと仮定して、n=k+1のときにも成り立つと説明することで、命題が全ての自然数nにおいて成り立つと証明する手法だ。意外とn=1の場合の証明を忘れてしまうことがあるので、解答の際は十分注意するように。……それにしても島田、漢字の読み書きが上達したことでお前が数学で唯一だった証明問題も解けるようになったようだな」
ムッツリーニの答え
『①式は正しいことをここに証明します
土屋康太』
蒼介「証明の体裁を気取っても駄目だ。数学的帰納法を用いて、と問題文にもあるので、n=kの場合成立するという仮定のもとn=k+1の場合でも成立すると証明しろ」
明久の答え
『成立すると断定します』
蒼介「仮定しろ」
和真「っしゃあっ!!この競技も貰ったぁっ!」
そんなこんなで体育祭当日。今頃第2グラウンドでFクラス対Eクラスの野球の試合が終わっている頃、和真は障害物競争で堂々の一着を勝ち取っていた。
否、障害物競争だけではない。100m走にハードル競争……ここまで3つの競技全てに出場し、当然のごとくトップを総ナメにしていた。
『ダメだ……勝てる気がしない……』
『くそぉ……このチート野郎……』
『柊、少しは手加減しろ!大人げ無いぞ!』
和真「諦めんの早ぇなお前ら……」
各クラスの運動自慢達も早くも諦めモードになってしまっている。中には陸上部員もチラホラと混じっているのだが、100メートルを10秒ちょいで走るようなスプリンター相手では流石にどうしようもないだろう。
雄二「よう和真、予想通り猛威を奮っているな」
障害物競争が終了して和真が中央グラウンドの2-F待機スペースに凱旋すると、野球の試合を終えた雄二達が寛いでいた。
和真「お、雄二。その様子だと勝ったみてぇだな」
雄二「当たり前だ。スポーツクラスとは言え、今さらEクラスごときに苦戦してられるかってんだ」
和真「それもそうだな……ん?明久はどうしたんだ?」
雄二「ああアイツか。召喚獣が戦死したから補充試験を受けているところだ」
和真「せっかくの体育祭だってのにテストを受けているのか……同情するぜ」
ちなみに明久の召喚獣が戦死した原因の1/3ほどは雄二なのだが、彼が少しも悪びれていないことは最早言うまでも無いだろう。
雄二「お。戻ったか明久」
秀吉「ご苦労じゃったな、明久」
ムッツリーニ「……おかえり」
和真「まあドンマイ」
明久「あ、うん。ただいま…」
補充試験を終えてようやく戻ってきた明久をいつものメンバー4人が暖かく迎え入れる。明久がロープで仕切られた2-Fの待機スペースを見渡してみると、クラスの皆が妙な箱の前で騒いでいるのが目に留まる。
『頼む……!なんとか最高のパートナーを……!』
『いいから早く引けよ。後がつかえてるんだから』
『わかってるから急かすなよ!……よし。これだ……チクショォオーッ!』
『『『っつしゃぁああーッ! ざまぁ見やがれぇーッ!』』』
明久「えっと、あれは何をやってるんのかな?」
雄二「ん?あれか?あれはただのくじ引きだが」
明久「いや、それは見たらわかるよ。そうじゃなくて僕が聞きたいのは、何のクジ引きをやってるのってこと」
雄二「次の種目は二人三脚だからペアを決める為のクジをやってるんだよ」
明久「ふ~ん、そうなんだ」
二人三脚という競技ではパートナーといかに息を合わせられるかが重要になってくる。そんな大事な相方の決め方をくじ引きで決めるなど普通に考えれば正気の沙汰ではないが、彼らには勝敗よりも大事なことがあるのだろう。
秀吉「なんじゃ、随分と落ち着いておるではないか明久」
明久「だって、僕は別に誰がパートナーになっても気にならないから。どうせ男女別になっているだろうし……」
雄二「今回は男女混合だな」
明久「全然問題ない試験召喚(サモン)」
和真「落ち着け明久、そんなことに召喚獣を使うな」
雄二「そもそも教師の許可なしで召喚できるかバカ」
明久「これが落ち着いてられるかぁーっ!誰!?女子勢のパートナーには誰がなってるの!?」
秀吉「霧島のパートナーは姫路じゃ。島田はまだ決まっとらん」
和真(二人とも好きな奴と組めなくてションボリしてたな……しかしまさか、3/1225の確率を引き当てちまうとは運が良いんだか悪いんだか……)
明久「え?そうなの?」
ムッツリーニ「……全員が決まっていたら決まっていたら、あんなに騒がない」
明久「あ、それもそっか。だから皆ああやって祈りながらクジを引いてるんだね」
雄二「そういうことだ」
箱の前では誰もが両手を合わせて懸命に祈っていた。おそらく高校受験の合否発表のとき以上の真剣さである。
雄二「俺の身の安全のために、さっさと島田と秀吉のペアが決まって欲しいんだがな」
明久「え?……ああそっか、雄二のパートナーがどちらかになったら殺されるもんね」
雄二「わかってもらえて何よりだ」
秀吉「やはりワシは女子にカウントされておるんじゃのう……」
とはいえ、もし自分と雄二なペアになれば翔子がどう行動するかは容易に予測できるので、秀吉はそれ以上追究しないことにする。
雄二「こんな競技よりも、俺としては野球の方が重要なんだがな」
ムッツリーニ「……同意」
この二人……というより和真と秀吉以外の男子は皆、
エロ本の為に修羅と化している。クラスの勝利という名誉よりも野球大会での優勝による実利の方が何倍も重要なのだろう。というか基本種目の方はもはや和真一人だけで勝てそうな気がするため、やる気を出せという方が難しい。
明久「そう言えば、次の相手は決まったの?」
中央(第一)グラウンドではこの通り従来の体育祭が行われていて、校舎裏にある第二グラウンドではさっきまで二年生の野球大会が、体育館では三年生の野球大会が行われている。次の対戦相手はその三年生のクラスになるはずなのだろうが……
ムッツリーニ「………まだ試合中。延長戦」
秀吉「ふむ。うまくいけば次の試合は不戦勝になりそうじゃな」
時間の関係でこの野球大会は七回までに決着がつかないとドロー扱いになる。引き分けと言えば多少聞こえは言いが、トーナメント表では両者は敗退扱いとさして変わらない。
雄二「まぁ、一応試合があるという前提で作戦を考えておくか……。確か、次の試合は数学・物理・現国。政経・現社だったよな」
プログラムを取り出して確認する雄二。挙げられた科目は特に言及する所もないごく普通のラインナップだった。
ムッツリーニ「………保険体育がない」
明久「……ってことはムッツリーニは体育祭のクラス競技に参加?」
雄二「いや、鳳との勉強会の成果もあって期末以降は保健体育以外の教科もFクラス標準レベルまで向上しているはずだ。ムッツリーニの運動神経を考慮するとスタメン続行するべきだろう」
ムッツリーニ「……了解」
明久「じゃ、僕もそろそろクジ引いてくるよ」
そう言って明久はクジ箱に向かって歩き出すと、美波と姫路が早足で近づいてきた。
姫路「あ、あのっ。明久君っ!」
美波「ちょっと待ってアキ!
明久「なに?どうかした?」
姫路「いえ。あの、その。なんというか、ですね……」
美波「う、ウチは6番なんだけど……」
「「絶対にその番号を引かないで(下さい)っっっ!!」」
この言葉を額縁通りに解釈すれば、明久はこの二人にとんでもなく嫌われているようにしか見えない。
明久「りょ、了解……。じゃあ、行ってくる……」
沈んだ表情でクジ箱に向かう明久を流石に哀れに思ったのか、秀吉と和真が二人を嗜めに向かう。
秀吉「姫路はともかく島田よ、今の台詞は絶対に誤解されると思うのじゃが……」
美波「だ、だって……相手はあのアキなのよ……?絶対にその真逆の方向に進むに決まってるわ。坂本の番号とか、そのあたりを引いてくるのは目に見えてるもの」
秀吉「……お主も色々と苦労しておるんじゃな……」
和真「あと姫路、おそらく明久はお前が『大切な親友を明久みたいなバカには任せられない』と思っていると判断するだろうな」
姫路「はぅっ!?ち、違います!私にそんな意図は-」
和真「無いことはわかってる。ただ、明久はそう判断するだろうっつう話だ」
姫路「うぅ……そんなぁ……」
姫路が落ち込んでいる一方、明久は神妙な表情でクジ箱を持つ須川の前に立っていた。
『あ。6ば』
「殺れ」
『『『イエス、ハイエロファント』』』
『バカな!?もう囲まれた!?』
美波「ろ、6番ね……。そっか、アキはウチとペアなんだ……」
姫路「うぅ……。美波ちゃん、とっても嬉しそうです……」
美波「そ、そう?そんなに嬉しくなんて」
姫路「嘘ですっ。だって顔が輝いてますっ」
美波「う……」
姫路「きっと、美波ちゃんはこのチャンスに明久君の胸とかお尻とかに触るつもりです……。狡いです……」
美波「な、なに言ってるよの瑞希っ。ウチがそんなことするわけ……って、はい?触る?触るって……何を言ってるの瑞希……?」
姫路「あ……っ!ち、違いますっ!触るんじゃなくて、えっと、その……仲良くなるつもり、の間違いですっ!」
美波「瑞希……。アンタ、アキに何をするつもりだったの……?」
和真(やっぱコイツ脳内ピンク一色なんじゃねぇの?)
改めて試験召喚システムが姫路の召喚獣をサキュバスにした判断が正しかったことが証明されるなか、明久のクジはあっさりと覆面集団に奪われてしまっていた。
『さて。この6番のクジだが、オークションを』
『わかりました。美春が言い値で買い取りましょう』
『『『なんで清水がここにいるっ!?』』』
『残念ながらこれはクラス内のもので……ん?』
『どうしましたか、須川会長』
『いや、これ……6じゃなくて、9だな。9番の見間違いだ』
須川が手にしているクジを広げてみせると、確かに9という数字の下に上下を見分ける為のアンダーバーが引かれていた。
『なんだ、9番か。驚かせやがって』
『人騒がせな』
『くだらないことで体力を消費しちまったぜ』
『所詮は吉井だな。数字すらまともに読めないなんて』
異端審問会の連中が愚痴り合いながら去っていく。もし本当に6番であれば確実にやられていただろうことは間違いない。
和真「さてと、俺達も引くか」
秀吉「それもそうじゃの」
その後結局美波のペアは秀吉に決まった。Fクラス男子を女子と関わらせないようにしようとする世界の意思は、7993/1381800の確率という壁を難なく突破したようだ。
和真「Eクラス戦は全カットしてやったぜ」
Eクラス「「「この扱いはあんまりだ!?」」」
和真君抜きとはいえ、原作より遥かにパワーアップしている明久達に加えて翔子さん(ちなみに野球のルールは雄二と和真が事前にみっちり教えたので問題なし)までいるとなっては負ける方が難しいでしょう。
本編で出てきた確率が間違っていると思った方は感想を送ってきてください。センター試験レベルですら躓く作者の数学力だと、あっている方が不自然ですので。
ちなみに二人三脚の残りのペアは、
和真&明久
雄二&ムッツリーニ
に決定しました。
この小説も126話になりますが、ようやく本作品主人公と原作主人公が始めてタッグを組みましたよ(シミジミ)。