次の野球用語について説明しなさい。
『タッチアップ』
雄二の答え
『フライがあがった時に走者がその打球の行方を見守ること。捕球後は進塁することができる』
和真「正解だ。ちなみにタッチアップを介して得点した場合打点はバッターにつくが、ホームスチールを介して得点した場合打点は誰にもつかねぇ。結構ややこしい所だからイチオウちゃんと覚えとけよ?」
姫路の答え
『痴漢をする』
和真「そいつはtouch upの直訳だな。和訳としては正しいが野球用語としては不正解だ」
ムッツリーニの答え
『フライが上がった時に走者が打球とチアリーダーのスコートを確認すること。捕球後は痴漢しに行くことができる』
和真「正しい知識と欲望が混ざっているぞオイ……」
★連絡事項★
文月学園体育祭親睦競技
生徒・教師交流野球
上記の種目に対し
本年は実施要項を変更し、
競技に召喚獣を用いるものとする。
文月学園学園長 藤堂カヲル
翌日このような通知が出された。明久と雄二はこの貼り紙を見るや否や一目散に学園長室に乗り込んで抗議しに行った。とはいえあの学園長のことだ、明久達の抗議などにはまず間違いなく一切聞く耳を持たないだろうと和真は推測する。何故なら学園側がこのような措置をとることになった原因が、他ならぬFクラスなのだから。
和真「……お、戻ってきたな。どうだった明久?」
明久「うん、雄二は無事始末されたよ」
和真「待て。お前らは何しに行ったんだ」
相変わらずファンタジスタぶりを発揮する明久だが、流石に意味不明過ぎるので和真は根気よく説明を促すことにする。
どうやら和真の推測した通り学園長に召喚獣を用いたルールを撤回させることはやはり不可能だったらしい。何でも明久達のラフプレー対策だけでなく、野球用に組み替えるほど召喚システムを制御できたので見学に来るスポンサーの重役達に見せびらかしたいという思惑もあったようだ。つくづく妙なところで子供っぽい老人である。
しかし話はここで終わりではなく、雄二は形式の変更が不可能と判断すると代わりとして持ち物検査で没収された物を優勝賞品にさせ、さらにその後もさまざまなルール設定を学園長と取り決めたらしい。
和真「しかし解せねぇな。アイツはたかだかMP3ごときのためにそこまでやる気を出す奴だったか?」
明久「実は霧島さんにもバレずに隠していた特急品の写真集を持ってかれたらしくって……」
和真「なるほどねぇ……ようやく雄二が始末されたって話につながったな」
明久「あ、今回は霧島さんじゃなくて異端審問会が裁きを下したんだよ。中学に入るまで霧島さんと一緒にお風呂に入ってたっていう許されざる蛮行が明らかになって」
和真「アイツもアイツで大変だな……まあそんなことより、詳しいルールとトーナメント表的な物はあるか?」
明久「うん。詳しいことはここに全部書いているよ」
和真は明久から手渡された2枚のレジメに目を通す。このトーナメント形式だと順当にいけば準決勝は3-A、決勝戦は教師チームか2-Aと当たることになるだろう。
そして肝心のルールはというと……
~召喚野球大会規則~
●各イニングでは、必ず授業科目の中から一つを用いて勝負すること。
●各試合に於いて、同種の科目を別イニングで再び用いることは認めない。
●立会いは試合に参加していない教師が務めること。
●立会いの教師の変更は認めない(何らかの事情で立ち会いの教師が退場した場合の予備の教師を用意しておく)。
●召喚フィールド(召喚野球仕様)の有効圏外へ打球が飛んだ場合、フェアであればホームラン、その他の場合はファールとする。
●試合は5回までの攻防とし、同点である場合は7回まで延長。それでも決着がつかない場合は引き分けとする。
●事前に出場メンバー表を提出すること。ここに記載されていないものの試合への介入は一切認めない。尚、これにはベンチ入りの人員および立会いの教師も含む。
●人数構成は基本ポジション各一名とベンチ入り3名の計12名とする。
●進行に於いては体育祭本種目を優先する。協議の時間が重なりそうな場合は事前にメンバー登録の変更を行っておくこと。
●その他の基本ルールは公認野球規則に準ずる。
和真(何点か引っ掛かるルールがあるな。雄二の野郎、またなんか色々企んでるみてぇだな……つってもこれはスポーツというより試召戦争に近いし、俺もそうとやかく言う必要は無ぇか)
明久「頑張ろうね、和真!」
和真「……準決勝からは手伝ってやる。だがそれまではお前らだけで勝ち抜けろ」
明久「ええっ!?どうして!?」
和真が何も取られていないことは知っていたが、このアウトドア愛好家がそんなことを言い出すとは思わなかったため明久は面食らってしまう。確かに形式は試召戦争よりとは言えこれは歴としたスポーツでもある。それにそもそも、和真は試召戦争もかなり好きな部類であるため平常時なら二つ返事で了承していたどころか、ダメだって言われても強引に参加していたであろう。
だが、今回ばかりは少々タイミングが悪い。
和真「明久よぉ、俺がこの体育祭をどれだけ楽しみにしていたと思ってる?基本種目には可能な限り参加するつもりだし、その総てでトップを狙う。当然総合優勝も狙っているし、個人MVPも誰かに譲るつもりは無ぇ」
明久(あ、ダメだこれ……。和真の目がカブトムシを見つけた少年のように輝いている……こうなった和真は多分木下さんでもどうしようもない)
それに加えて和真は去年全学年総合MVPに輝き、自分のクラスも当然のごとく総合優勝に導いている。召喚野球大会なんて余興に現を抜かして連覇を逃すなど和真のプライドが許さないのだろう。
和真「そもそも一回戦はEクラス、二回戦は多分三年のCクラスってところだろ?その程度の相手に俺抜きで勝てねぇようじゃ、決勝で戦うソウスケ達Aクラスには絶対に勝てねぇよ」
明久「え?決勝の相手、教師チームじゃなくてAクラスなの?」
点数だけで考えれば教師達が断然有利のため、教師チームが上がってくるだろうという明久の予想は一見正しいように思える。……しかしそれでも和真は、二年Aクラスが最大の壁であると確信している。
和真「いいか明久、力があるだけで勝てるほど野球は甘くねぇ。西村センセと大島センセを除けば人生の大半をデスクワークに費やしてきたインドアの集まりなんざ大して怖かねぇよ。それに比べてAクラスはどうだ?」
明久「どうって…………あ」
そこまで言われて明久はようやく気づいた。Aクラスには和真率いるスポーツのエキスパート集団『アクティブ』のメンバーの大半が所属していることに。
和真「ソウスケ、優子、徹、飛鳥、愛子……他にもラクロス部エースの沢渡に野球部キャプテンの二宮と、成績だけでなく運動神経にも優れるメンバー達がかなり揃ってる。生半可な覚悟じゃとうてい勝ち目は無ぇよ」
和真の真剣な表情に明久はゴクリと唾を飲み込む。どうやら没収された物を取り戻すことは、明久が思ってたより遥かに困難であるらしい。
和真(おっちゃんや綾倉センセが参加するってんなら勝負はわからねぇんだが……二人ともどう考えても絶対参加しねぇしできねぇだろうからな)
片や多忙の極み、片や怠惰の極み。理由は真逆であるがどちらもこんな余興に参加する確率は天文学的数値に等しい。
和真「まあ、だからと言って負けるつもりは毛頭無いがな。試召戦争の前哨戦だと思って臨むぞ明久」
明久「!……そうだ、僕達は彼らを倒してAクラス設備を手に入れる悲願があるんだった。多少戦力差があるくらいで諦めるわけにはいかないよね!」
和真「ハッ、随分勇ましくなったじゃねぇの!それでこそ漢だぜ!」
確かに敵の実力は破格の極みである。だがそんなことは諦める理由にはなり得ない。無理を通して道理を蹴り飛ばし、砂粒ほどの可能性を全力で掴みとる……それがFクラス流だ。
放課後、Aクラスの生徒達全員は体育祭の方針について蒼介に直訴していた。
蒼介「……なるほど、“名”よりも“実”を取りに行くというのがお前達の望みか」
蒼介の問いかけにAクラスの生徒達は真剣な顔つきで頷いた。“名”よりも“実”……すなわち体育祭総合優勝よりも没収品返却を狙いに行くということだ。Aクラスの大半が勉学に比重を置いているため一部を除き総合的には運動が得意ではない生徒が多いクラスな上、各種目で好成績を狙えそうな生徒が軒並み成績優秀者であるため、召喚野球大会に本気で勝ちに行けば総合優勝はほぼ不可能になる。なお、逆もまた然りである。
蒼介「……確かにこの学校の持ち物検査は些か厳しすぎると私も思っていたところだ。……よかろう、我々Aクラスは召喚野球大会を全力で勝ちに行く。ところで、オーダーに関しては私の一存で決定するがそれで構わないな?」
「「「勿論!」」」
もとより蒼介以上の指揮官などこの学園に存在しないとAクラスの生徒は信頼しているで、蒼介が独断でオーダーを組むことに異論を挟む者は誰一人存在しなかった。
蒼介(……カズマよ、試召戦争の前哨戦と行こうじゃないか。私の率いるクラスの実力、再び思い知るがいいよ)
『アクティブ』における各ポジション及び打順は以下のようになっています。
和真……4番・ショート
蒼介……3番・ピッチャー
優子……2番・セカンド
徹……1番・キャッチャー
源太……5番・センター
飛鳥……サード
愛子……ファースト
下二人は正規メンバーでは無いので打順は決まっていません。
あと、ネタバレになりますが今巻のラスボスは二年Aクラスです。そしてラスボス戦以外はもうサクサク進めていくことになります。その代わりラスボス戦には物凄い力を入れようと思っています。『あれ?これバカテスの二次創作なの?パワプロの二次創作かと思った』というくらいに。