次の文章を読み、問いに答えなさい。
『19世紀の終わり、
問1・・・・・の当時のドイツの宰相の名前を書きなさい
問②( )に当てはまる単語を答えなさい
明久の答え
『問1 ビスマルク
問2 (アメ)とムチの政策』
蒼介「正解だ。ビスマルクは政策として社会保険制度をご褒美……つまり“アメ”として民衆に与え、一方で社会主義者鎮圧法と言う“ムチ”で人々を叩いたと言うわけだ。甘やかすだけでもなく叩くだけでもない、政治のみならず様々な場面で用いられる手法だな」
美波の答え
『問1 Otto Eduard Leopold Fürst von Bismarck Schönhausen
問2 (アメ)とムチの政策』
蒼介「どや顔で解答欄を埋めていることが容易に想像できるな」
ムッツリーニの答え
『問1 エリザベス』
蒼介「ムチ→女王様→エリザベス女王……という図式か……?人の上に立つものはあらゆる人の考え・価値観を理解する義務がある、というのが私の信条なのだが……お前の解答を見てると正直挫けそうになったことが多々ある」
「翔子」
「………………」
「翔子」
「………………」
「おい翔子」
「………………あ……。ごめんなさい。何、雄二?」
「出せ」
「……えっと……多分、無理」
「無理じゃない。いいから出して、こっちに寄こすんだ」
「……でも……」
「でもじゃない。早く出せ」
「……でも……まだ、妊娠してないから……」
「待ってくれ。今会話に必要なステップが凄い勢いで飛ばされた気がする」
「……???」
「なんでそこで疑問顔ができるんだよ……。お前は俺が何を出せと言っていると思ったんだ?」
「……母乳」
「オーケー。主語述語じゃなくて、問題なのはコミュニケーション能力だと言うことがよくわかった」
「……違うの?」
「違いすぎる。一体何を考えていたらそんな答えが返ってくるんだ」
「……結婚後の、私たちの家庭について考えてた」
「そうか、結婚後の家庭か。なるほどな、それならあんな返事が返ってきてもおかしいだろやっぱり」
「……雄二と二人で、子供は何十人欲しいか話し合っているところだった」
「言っておくが議論する人数の桁が一つ多いからな」
「……雄二は三十八人がいいって言うけど、私は三十九人が良いって喧嘩をして」
「もうその辺までいったら一人程度の違いは容認しろよ」
「……仲良し夫婦でも譲れないものがある」
「あー、はいはい。さいですか」
「……それに三十八人だと三等分にできない」
「は?なんで三等分にする必要があるんだよ」
「……三人に一人は和真が名付け親になってもいいって言っててくれたから」
「ほんとアイツは隙あらばお前に余計なこと吹き込むよな……!」
「……それで、母乳じゃないなら何を出せって言ってたの?」
「その台詞だけ聞かれたら俺はかなりの変態野郎だよな……」
「……変態を雄二扱いするなんて、許せない」
「お前が原因だ!ってか俺と変態を言う順番が逆だろ!?それだと変態を擁護してるじゃねぇか!」
「……それで、何?」
「そこは気にせず流すのかよ……。まぁ、面倒だからいいが……。俺が出せって言ったのは、お前が後生大事に抱えているそのデカい袋だよ」
「……これは、別に何でもない」
「翔子。お前の為に指輪を買ってきた。手を出してくれ」
「……嬉しい」
「よっと。まったく……指輪って言われて躊躇いなく左手を出すあたりがお前らしいな……。えーっと、どれどれ中身は……ウェディング雑誌に、催眠術の本に、犬のしつけ方の本……ちょっと待てコラ」
「……返して」
「誰が返すか!俺の身の安全の為に、これは預かっておく!」
「……困る。この前久保に貸してほしいって頼まれたのに」
「……と思ったが、約束を破るのは良くないな。返してやろう」
「……本音は?」
「明久の身に面白いことが起きそうだから、多少のリスクには目を瞑ろう」
「……雄二は時々酷い」
「何を言うんだ翔子。俺はアイツの幸せを考えてやっているんだぞ」
「……じゃあ、私も雄二と築く幸せな家庭について考える」
「…………はぁ……勝手にしろ……」
始業式の翌日。
Fクラス教室は静寂でありながらも剣呑な雰囲気に包まれていた。普段は怠惰の極みと方々から揶揄されているFクラスの生徒達のほとんどが真剣な表情で担任の西村宗一(通称:鉄人)に己が内に眠る情熱を真剣に訴えていたところである。
鉄人「…………お前達の熱意は確かに伝わった。
だが……
没収したエロ本の返却は認めん」
「「「ちくしょぉぉぉおおおぉぉおおお!!!」」」
……とまあ厳かな雰囲気で語ってみたものの、要するに抜き打ち持ち物検査で没収された成人指定本の返還を懇願していただけである。
明久「どうしてですか西村先生!僕達が“保健体育”という科目の学習に対する知的好奇心を高める為には、“エロ本の内容の理解”という本能に根ざした具体的な目的が必要なんです!」
鉄人「学習しなければ理解できんほど高度なエロ本を読むな。お前は何歳だ」
明久「知識を求める心に年齢は関係ないでしょう!」
鉄人「思いっきり成人指定と書いてあるだろうが」
『お願いします、西村先生!』
『僕には……いや僕らには、その本がどうしても必要なんです!』
『お願いです!僕達に、保健体育の勉強をさせて下さい!』
『西村先生、お願いします!』
『『『お願いします!』』』
鉄人「一瞬スポ根ドラマと見紛うほど爽やかにエロ本の返却を懇願するな。さて、朝のHRを終わる」
明久達の必死の懇願を受けても(当たり前だが)鉄人は一切聞き入れず教室を出ていこうとする。
明久「ええい!こうなりゃ実力行使だ!僕らの大事な参考書の為、命を懸けて戦うんだ!」
「「「おおおーっ!!」」」
和真、雄二、秀吉を除くFクラス男子総勢44名が、一斉に鉄人に飛び掛かった。
雄二「……やっぱりこうなったか」
秀吉「惨敗じゃの……」
和真「当たり前だ、この俺に勝った人だぜ?数だけが取り柄の烏合の衆でどうこうできるわけねぇだろ」
乱闘に参加しなかった6人の前に広がるのは鉄人によって粉砕され倒れ伏しているFクラスの戦士達44名。これだけの人数を相手にしながら誰にも怪我をさせていないあたり、鉄人はテクニックも一流であることが伺い知れる。
美波「アンタらってこういう時は凄い結束力を発揮するわよね……」
明久「凄い結束力って、そんなに統制が取れてた?」
美波「統制っていうか……どうしてクラスの男子全員が、一人残らずその……ああいう本を、学校に持ってきてるのよ……」
和真「男子でひと括りにするな。俺はんなもん持ってきてねぇぞ」
秀吉「ワシもじゃ」
雄二「俺が持ってくるわけないだろ?命が惜しいからな」
翔子「……そもそも雄二の秘蔵コレクションは、最近私が一つ残さず燃やし尽くした」
翔子の無慈悲なカミングアウトにも雄二は一見なんでもないように振る舞っているが、わずかに目尻がキラリと光っているのを観察に長けた秀吉と和真は見逃さなかった。
明久「雄二はともかく……和真もなの?やっぱり木下さんに気を遣って?」
和真「そもそも購入したこともねぇよ」
翔子「……和真は純粋で純情だから」
雄二「おぼこ、とも言うがな」
秀吉「加えて姉上曰く、貞操観念が箱入り娘らしいからのう」
明久「へぇ~、箱入り和真か……」
和真「言うに事欠いて人をミミックみてぇな呼び方しやがって……」
とはいえ客観的に見て、キスだけでキャパシティが限界を迎える現状には正直自分でもどうかと思うので和真は特に言い返さなかった。夏休み中ほとんど毎日というレベルで優子と行動を共にしていた和真だが、優子にキスされる度に最終的に骨抜きにされていた気がする。
和真(流石に悔しいから早急に対策が必要だな。……でも俺を降参させた後のあの満足そうな笑顔が見れなくなるのは何か惜しい気もするし……世の中意外とままならねぇなオイ)
明久「話を戻すけど……まあ、色々と男子の事情があるんだよ」
美波「あんな本を全員で持って来る事情って一体……?」
姫路「でも、没収されたのは仕方ないと思います。その……ああいう本は、明久君たちにはまだ早いと思いますから……」
姫路の意見は至極真っ当であるのだが、そんな意見を聞き入れるくらいならあの手の書物を学校に持ってこうなどとは思わないであろう。
明久「うぅ……やっぱり納得がいかない……」
秀吉「持ち物検査なぞ久しくなかったからの。油断するのも無理からぬことじゃ」
美波「確かに凄い不意打ちだったわね。ウチも細々としたものを沢山没収されちゃったわ。DVDとか、雑誌とか、抱き枕とか」
姫路「そうですね……。私も色々と没収されちゃいました……。CDとか、小説とか、抱き枕とか」
和真(女装姿の男子生徒がプリントされた抱き枕に抱きつきながら安眠する女子高生か……想像しただけで絵面がシュール過ぎるなオイ)
翔子「……私も、ウェディング雑誌とか、催眠術の本とか、犬のしつけ方の本とか」
明久(おかしい。一般的な女子高生として相応しい持ち物が一つとしてない)
この三人はFクラスの中では教師からの評判は良い方であるが、やはり紛れもないFクラス生徒であるようだ。
和真「秀吉も何か没収されてたよな?」
秀吉「うむ……。現代物の演劇に使おうと思っておった小物の類なのじゃが、運悪くその小物が携帯ゲーム機などでの……」
和真「部活に使う物なら事前に申請しておけば良いものの、お前も変な所で抜けてるなぁ……」
秀吉「返す言葉も無いのじゃ……」
蒼介の護身刀を始めとした、一見学校に持ってくるべきではないが必要である理由がある物の場合、事前に然るべき場所に届け出を出しておけば没収されずに済む。どう考えても受理されないであろう明久達の参考書(笑)には無縁の制度であるが、部活に必要な物であるなら普通に受理されるはずだ。
ムッツリーニ「……持ち物検査についての警戒をすっかり忘れていた……」
元々小柄な体格であるムッツリーニだが、今は背中を丸めているせいで更に小さく見える。この男が本気で警戒していれば持ち物検査があることくらい事前に察知できていただろうが、どうやら収穫報告際(夏)の準備に気をとられるあまり失念していたようだ。
雄二「学年全体での一斉持ち物検査だからな……。夏休みの、俺達がいない間に打ち合わせをしていたってことか」
明久「まったく、先生達もやることが汚いなぁ……」
狙ってきた日が始業式というのも絶妙に巧妙な手口である。始業式なら多少警戒する生徒も少なからずいるだろうが、その次の日となると油断していても仕方の無いことだろう。
明久「まぁ、携帯が没収されないのが唯一の救いだよね……」
雄二「授業中に使ったり鳴らしたりしたら速没収だけどな」
緊急時の連絡用という名目もあってか携帯電話だけは見つかっても没収されることはない。もっとも、雄二の言う通り授業中に鳴れば没収は免れないのだが。
秀吉「して、明久は写真集以外は何を没収されたのじゃ?」
明久「えーっと、本にCDにゲームに、(姫路さんや美波や秀吉の水着)写真とか……」
和真「お前に対してだけやたら警戒してたもんな、西村センセ」
明久「一年のとき色々あったんだよ……」
そう言えば去年、明久達の担任は鉄人であったことを和真は思い出す。そして明久が没収品(及び鉄人の私物の本)を売り捌いたことが原因で観察処分認定を受けたこともついでに。
秀吉「それにしても写真集ではなく普通の写真まで没収とは……。教師陣も容赦がないのう」
明久「まったくだよ……。今日の朝のムッツリ商会から買ったばかりだから、まだ殆ど見てもいないのに……」
姫路「本当、残念ですよね……。私もあの抱き枕に抱き付くの、凄く楽しみにしていたんですけど……。水着の写真だって飾りたかったですし……」
美波「ウチも、今夜は凄くいい夢が見れると思ってたのに……」
明久と同じように(明久には内緒で)ムッツリ商会から買ったばかりの新商品を取られた二人が同意する。
明久「雄二はどうだった?何か没収された?」
雄二「俺はまたMP3プレーヤーだ。一昨日出た新譜を入れておいたのに、それも全部パァだ。くそっ」
忌々しい、と言わんばかりに雄二が吐き捨てる。ちなみに雄二がMP3プレーヤーを没収されるのは去年と合わせると二回目になる。
明久「ってことは、ムッツリーニはやっぱりカメラ?」
ムッツリーニ「……(コクリ)」
ムッツリーニは涼んだ様子で肯定する。たとえもし彼が写真部に所属していたとしても、撮っている写真が写真なので申請しても受理されないであろう。
ムッツリーニ「……データの入ったメモリーも没収されたから、再販も当分できない」
「「「えぇっ!?」」」
明久、姫路、美波の三人がムッツリーニの無情な一言を耳にし、同時に悲痛な叫び声を上げる。
明久「どういうことさムッツリーニ!?いつもきちんとバックアップを取っているんじゃないの!?」
姫路「そうですよ土屋君!どこかに予備データが残っていたりはしないですが!?」
美波「本当は家のパソコンを探せば出てくるのよね!?」
ムッツリーニ「……バックアップはある。でも、サルベージに時間がかかる」
「「「そ、そんな……っ!」」」
思わず同時に手を床に突いてしまう明久、姫路、美波。確かにムッツリーニが日頃撮り貯めてるデータの量は膨大である。その中から必要なデータをもう一度探すとなると、相当な時間と労力を必要とするだろう。つまり明久達はそのデータがサルベージされて再加工されて、注文してから納品されるまでの時間を待たなければならないということになる。
『おい、今の話を聞いたか……?』
『ああ……。再販が未定だとは……!姫路や島田や木下姉妹の水着写真がそれまでお預けなんて、死にも等しい苦行だぜ……!』
『それだけじゃない。霧島に工藤に、知らない美人のお姉さんまで水着で写っていたらしいぞ……!それを見られないだなんて、俺は、俺は……っ!』
クラスの至る所から悲鳴が聞こえてくる。
秀吉(またナチュラルにワシが女扱いされておるな……)
和真(写真ねぇ……卒業アルバムを貰ったその日に捨てるような俺にはいまいちピンとこねぇな)
本当に大切な思い出は形として残さない方が素晴らしい…という持論を持つ和真には彼らの悲嘆を心から理解することができなかった。
明久「さて、どうする雄二?……やる?」
雄二「そうだな、さっきは翔子にエロ本奪還目的で行動していると勘違いされる危険があったが今は違う……やるぞ明久!教師ども……特に鉄人が出払った昼休みに職員室へと忍び込み、俺達の私物を取り戻すんだ!」
明久「おうっ!」
没収品を取り戻す為、明久と雄二が腰を上げる。このような横暴は今後の学園生活にも見逃すわけにはいかんとばかりに。
ムッツリーニ「……お前達だけを、戦わせはしない」
寡黙なる性識者の名は伊達ではなく、その目に強い光りを取り戻しつつムッツリーニが立ち上がる。
『待ちな、お前ら!』
『俺達を忘れてもらっちゃ困るぜ!』
『へへっ……。俺たち、仲間だろ?』
明久「み、みんな……!」
気がつけば、先ほど叩きのめされた男子全員が立ち上がっていた。Fクラスの強みは行動力と粘り強さ、大切な物を没収されたからには、一度や二度打ちのめされた程度で泣き寝入りするようなタマでは無いのだ。
姫路「あ、あのっ。皆さん落ち着いて下さいっ」
明久「?姫路さん……?」
今すぐにでも職員室に突撃しそうな勢いだった明久達を突然姫路が制止した。全員の注意が自分に向いたのを確認してから、姫路は言い聞かせるように話し始める。
姫路「明久君、坂本君、それに皆さん……。やっぱりそういうのは、良くないと思うんです」
明久「そういうのって……職員室に忍び込むって話?」
姫路「……はい」
明久「でも、そうしないと没収品は返ってこないからさ。姫路さんだって没収されたものを取り返したいでしょ?」
姫路「そ、それはその、返して貰えるなら返して欲しいですけど……。でも、学校のルールを破っちゃったのは私自身ですから……」
そう言いながら姫路は明久の目を直視する。和真が優子に弱いのと同様に明久は姫路に弱いため、その目を見て明らかに迷いが生じていた。
美波「まあ、瑞希の言う通りよね。元々ウチらが校則違反でやっちゃってるのが原因なわけだし。その罰に納得がいかないからって、また問題を起こすのはちょっとね」
翔子「……郷に入りては郷に従うべき」
姫路の意見に美波と翔子も同意する。
姫路「はい。だから、そうやって職員室に忍び込むっていうのはダメだと思うんです。そういうのは、狡いような気がします」
明久「……雄二、どうしようか。そう言われてみると、忍び込むのはなんだかちょっと……」
雄二「あ~……。どうするも何も、こいつらにそこまで言われたら、流石に考えを直すしかないだろう」
明久と雄二だけでなく、クラスの皆も同意見のようで、全員が決まりの悪そうな表情を浮かべている。
姫路「明久君。坂本君、皆さん……。わかってくれたんですね?」
雄二「ああ。お前達の言いたいことはよくわかった。つまりはこういうことだろう?
……こそこそと忍び込んだりなんかせず、鉄人を殺って堂々と奪い取れ、と」
姫路「全然違いますからね!?」
和真「良く言ったぁっ!それでこそ男だぜ!」
姫路「柊君も煽らないでくださいっ!?」
姫路の結局もむなしく明久達は昼休みの職員室に急襲を仕掛けたものの、それを予測して召喚フィールドを展開して待ち構えていた教師達らの召喚獣によって捕縛され、補習室に連行されてしまった。ちなみに強襲に加わらなかった5人はEクラスで授業を受けることになった。
和真(さて、もうすぐ待ちに待った体育祭&生徒・教師交流野球大会だな。バカどもは愚劣にもラフプレーの練習に余念がないようだが、ばーさんか綾倉センセあたりが対策案を考えているだろうな…………考えていなかったら俺がぶっ潰すだけだがな)
大抵のことなら許容してやるほど器の大きい和真であるが、自身に降りかかる女装ネタとスポーツに悪意を持ち込むことだけは、いかなる理由があろうとも断じて許しはしないのである。
秀吉「そういえば、和真は何も没収されなかったのかの?」
和真「ああ、今回に限らず今まで何かを没収されたことは一度も無い。どういうわけか、持ち物検査がある日に限って何も持ってきてないんだよ俺」
美波「相変わらずズルいわねアンタの勘……」