空雅「あいつが俺の許可無しに“御門”をこんなに大きくしちまったせいで、現在やりたくもねー激務に追われてんだぞ!?そりゃキレたくもなるわ!」
飛鳥(そんな理由なんだ……)
御門「だいたいオメーらもアイツの教え子ならわかるだろ!アイツは人が苦しむのを見て涼しい顔でニコニコできる真性のサディストだってよ!在学中どれだけ俺が玩具にされたか教えてやろうか!?」
蒼介「正直どっちもどっちだな……」
徹「サディストならここにもいるけどね(チラッ)」
和真「チラ見すんな」
三年生対二年生の肝試し対抗戦の終結を無事見届けた高橋先生は、アドラメレク掃討作戦に参加すべく屋上に駆け足で向かっていた。よりにもよって自分がチェックポイントの立会人になっているときに襲来してくるとは、自分の日頃の行いはそんなに悪かったのかと思わず愚痴りたくなる。
高橋(そもそも、池本先生はどこをほっつき歩いているのですか!?)
総合科目のフィールドを展開できるのは鉄人と三人の学年主任のたった4名。鉄人は作戦に参加中、綾倉先生はシステムのメンテナンスのため手が放せないので除外するとして……池本先生が謎の無断欠勤をしているため自分が引き受けるしかなかった。高橋先生が怒りたくなるのも無理はないだろう。
出勤してきたらどう吊し上げてやろうと頭の中で試行錯誤しているうちに、高橋先生は屋上までたどり着いた。
高橋「(ガチャッ!!)御門社長、西村先生、鳳君!ご無事で…………す……か……?」
[おや、増援かね?しかし、一足遅かったようだな]
屋上のドアを勢いよく開けて突入した高橋先生の視界に飛び込んできた光景は……辺り一面数多の穴だらけになった屋上と、視界に入れるだけで身の毛のよだつような気分にさせられる白い天使、肩で息をしているものの特に目立った外傷の無い三人、そしてそんな本人達とは逆にボロボロになったオカルト召喚獣達。
《総合科目》
『Aクラス 鳳蒼介 842点
補習教師 西村宗一 戦死
?クラス 御門空雅 1329点
VS
?クラス Adramelech 43935点』
蒼介「くっ……!」
鉄人「まさか……ここまでとは……!」
御門「……化け物め……っ!」
戦況は誰がどう見ても絶望的であった。相手の点数はまだ4万点以上残っているにもかかわらず、三人中二人が瀕死、鉄人に至っては既に戦死しているという有り様だ。
自分が加勢したところでこの状況がひっくり返るとは到底思えない。だが、だからといって諦めて良いはずがないということぐらい高橋先生は理解している。
高橋「もう勝った気でいるのですか!?我々文月学園をあまり舐めないでください!」
[……何を的外れなことを言っているんだ?]
鬼気迫る表情で召喚獣を喚び出そうとする高橋先生を、呆れたような表情のアドラメレクが制止する。
高橋「……的外れ?どういう……意味ですか?」
[この闘い、貴様達の勝利だということだ。……時間切れの判定勝ちであるがな]
突如、アドラメレクの全身に大小さまざまな亀裂が入る。突然の出来事に高橋先生のみならず蒼介達も驚愕するなか、アドラメレクは崩れた肉体にさして頓着することもなく、蒼介達に向き直りながら説明をし始めた。
[先ほどお前達三人には言っただろう?訳あって我はフルパワーで闘えぬと。……正確に言えば、フルパワーで闘おうにも強すぎる力の反動に器が耐えられないのだ。……この地域一帯のバランスを歪ませてある程度対処できたものの、やはり完全体にはほど遠いな]
鉄人「……器だと?どういうことだ!?」
[答える義務は無い。あくまで判定勝ちであって、貴様らは我を平伏させたわけではないだからな……とはいえ負けは負け、我が原因で起きた歪みはもとに戻してやろう]
いまにも崩れ落ちてしまいそうなアドラメレクから、鈴を転がすような声が聞こえてくる。目の前の天使から常時発せられている死の気配さえなければ思わずまどろんでしまうほど心地の良い声だ。
「העולם יציבות מדע השב」
ーーーキィン
アドラメレクの言葉を聞き届けた四人は具体的には理解できないが、不自然だったものが自然に戻ったような感じがした。
[……さらばだ。機会があればまた会おう]
蒼介「……待て。貴様はいったい何が目的だ?それだけの力を持っているからには、その内容が善にしろ悪にしろ、半端なものでは無いのだろう?」
今にも消滅しそうなアドラメレクに、何を思ったのか蒼介はそんなことを問いかける。アドラメレクはしばし考える素振りを見せた後、とんでもないことを無感情に言い放った。
[……………全てを飲み込むこと。
天上天下森羅万象、三千世界遍く全ての命を摘み取る……それが、それのみが我の存在理由だ]
そう言い終えると、とうとうアドラメレクの体は砕けちり、完全に姿を消してしまった。
なるほど、どうりで空雅の学友達の命を奪いさっても平然としていたわけだ。あの台詞を聞けば相対しただけで感じた濃密な殺気も理解できる。
アドラメレクは命を奪うことに抵抗が無いのではなく、この世の全ての命を奪うためだけに存在している。まるで末期のシリアルキラーの如く、アドラメレクは自分以外の命を認知すると消し去らずにはいられないということだ。
空雅「……ますますアイツを生かしておくわけにはいかなくなったな……フー……」
煙草に火を点けながら空雅は腹立だしげにいう。三人が白い目で見てこようが堂々とお構いなしに学舎に副流煙を撒き散らす御門を見て、何を言っても馬耳東風だろうと判断したのか鉄人が話を切り出す。
鉄人「しかし、あれほどの強さとなると……対策を立てるためにスポンサーの方々を召集して臨時会議を-」
空雅「いや待てオッサン。それは危険すぎる」
鉄人「西村です!……危険とは?」
蒼介「西村先生、あの仮面男のバックは四大企業のどこかである可能性があります。前回の襲撃事件に使われたプロテクトなどの最新技術の粋を、一個人が用意できるとはとても思えません」
自立型召喚獣に関してはアドラメレクの力でどうにかなるのかもしれないが、アクセスを阻害するプロテクトなど最新技術の結晶を用意するとなると話は別、技術云々以前に莫大な資金が必要になってくるのだ。
空雅「俺の見立てだと怪しいのは“桐谷”だ」
鉄人「……何か根拠があるのですか?」
蒼介「“桐谷”は“御門”と同じく、ごく最近に台頭してきた新鋭の企業……しかしNASAを単独で壊滅させるほどの力を持ったコンピューターウィルスを使えば、大金を得ることは難しくなさそうですね」
空雅「そうだ。そもそもあんなデカイ企業が急に出てくること自体が不自然すぎる。ウチの“御門”に関してはは綾倉がデイトレードでアホみたいに稼いだ莫大な軍資金があったからどうにかなったが……そんな特殊な業績の伸ばし方がそうそうあるとも思えねー」
逆に“鳳”や“橘”が黒幕である可能性は極めて低い。なぜならこの二企業は、インターネットが普及する遥か前から日本を支えてきた長寿企業だからである。
高橋「となると黒幕は桐谷社長……もしくは重役の誰かに絞られますね」
鉄人「ならば“橘”の社長も加えて秘密裏に-」
御門「……あのテープレコーダー野郎が秘密裏に行動できると思うか?」
「「「……無理ですね」」」
四人の脳裏に浮かぶのは溌剌とした笑顔のまま延々と喋り続ける飛鳥の実父。なんとも隠密行動に死ぬほど向かない人材である。
その後話し合いの結果、携帯で秘密裏に連絡を取り合うことに決めた。彼ら四人の最終目標は二つ、アドラメレクの打倒か黒幕を捕縛すること。達成できないようでは最悪、世界が滅びるかもしれない重要なミッションである。
高橋(この学園は……生徒達は私が守る!)
鉄人(あんな怪物などに、誰一人俺の教え子達を傷つけさせてたまるものか!)
蒼介(生徒会長でも、“鳳”時期後継者でもなく、鳳蒼介という一人の人間として……奴を生かしておくわけにはいかない!)
空雅(アドラメレク、いずれてめーを……てめーの協力者も必ず見つけ出して始末してやる)
数日後、ファントムは桐谷本社『バベルタワー』最上階の社長室に足を運んでいた。別に桐谷社長にテストプレイの結果を報告しに来たわけではない。
ただ、用済みの駒を処分しに来ただけだ。
桐谷「ガハッ……ファントム……!貴様ァッ!?」
『何を驚いている?充分予想できたことだろう?お前はもういらん、と我が主が判断されたのだよ』
桐谷「話が……ッ……違う……!」
『悪いが用済みの駒に割いてやる時間はあまりないのでね……アドラメレク、やれ』
「אֶרוֹזְיָה」
桐谷「ー!?ーー!!!」
『それで、桐谷社長はどうだったのだ?』
[流石に『玉』とまではいかないが……曲がりなりにも
『なるほど……つまり【セブンスター】の担い手の枠もようやく埋まったわけだ。ふふふ、決行の日は近いようだな』
[具体的な実行日を決めるのは、あの学園に潜伏している我が同志だがな]
数日後、“桐谷”代表取締役・桐谷蓮が行方不明になったことが、さまざまなメディアを通して全世界に伝えられることになる。
蒼介「第六巻も無事……?終了したな」
和真「言い淀んだってことは全然無事じゃないことは自覚してるんだな。何だこの展開?肝試しなんてチャチなもんじゃねぇ、終盤ガチのホラーじゃねぇか。これ読者ついて来れんのか?」
蒼介「仕方がないだろう。アドラメレクは存在そのものが死亡フラグというコンセプトで生み出されたキャラクターだからな。登場するたび原作キャラ以外のオリジナルキャラは死の危険があると思っていい」
梓「なあ、一個聞いてエエか?」
和真「おっ、本編で二年生チームの点数を一人で軽く2万点以上削った今回のゲストの梓先輩じゃん」
梓「露骨な説明口調やね。それよりも、なんで原作キャラは大丈夫なん?」
蒼介「『自分は人の考案したキャラクターを非営利目的とはいえ無断で借りている立場であり、必要悪でもないキャラを過剰に貶めたり無意味に殺したりするのはどうも気が引ける』というのが作者の考えですから」
梓「ほー、作者がアンチ・ヘイト小説あんま好きちゃうのそんな理由なんか」
和真「その点作者が考えたオリキャラはどう扱おうが誰にも後ろめたくならないからな、使い潰しても惜しくもなんともない」
梓「清々しいほど外道やな!?」
蒼介「まあ作者にもキャラへの愛着はあるので、今回のような端役中の端役でも無い限り無意味に殺したりはしないが、アドラメレクが出てきたときは誰が死んでもおかしくないという緊張感を忘れないでくれ」
梓「それにしても、アドラメレクは何でフルパワーで戦えないん?」
和真「それについてはまだ詳しく説明するつもりはねぇ。ちなみにだが、この小説がもしハッピーエンドで終わるつもりなら……アドラメレクがフルパワーで闘える日は来ねぇ」
梓「……え?なんでなん?」
蒼介「アドラメレクは遊戯王で例えると『エグゾディア』です。もし完全体になった奴と闘えば、我々がどれだけ戦力を揃えようとまず勝てません」
和真「だから今後ソウスケ達(もしかしたら俺達も参加するかもしれねぇが)は、アドラメレクが万全になる前に消去するか黒幕を見つけなければならねぇ」
梓「まあ、さすがに5万なんてどうしようもないからなぁ……」
蒼介「それと重大なお知らせがある。少しの間この作品の更新は停止して、番外編の更新を進めて行こうと思う」
和真「七巻も今巻みたいに原作とは大分違った展開になるだろうし、それ移行は完全にオリジナル路線に進むからな。もう一度考えているストーリー展開の見直しもしてぇんだ」
梓「まああっちをある程度進めたらすぐに更新し始めるから、心配せんとってな」
蒼介「それではそろそろお開きにしようか。差し支えなければ、これからも読んでくれると嬉しい」
和真「じゃあな~」
梓「ほなまた!」