バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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今回はあらゆる意味でぶっ飛んだ内容になっています。ギャグ率0%のシリアスな話です。
「バカテスでする話じゃねぇだろ!?」と思った方。
安心してください、俺もそう思います。


Adramelech②

時は一旦和真が綾倉先生にオカルト召喚獣発現の原因を問いただしに行った所まで遡る。

 

綾倉「まずは、そうですね……和真君は四年前に起きた『NASA壊滅事件』と『ハーバード大学コンピューターサイエンス学科生の失踪事件』を知っていますか?」

和真「たりめーだ。あの二つの事件は随分と世界を震撼させたからな」

 

かつてアメリカは宇宙開発において他国を大きく引き離してトップに君臨していたが、現在では先進国の中では最も開発が遅れている。その理由は四年前に起きた未知のコンピューターウイルスがNASAのメインサーバーにクラッキングを受けたことが原因とされている。

正体不明の未知のウイルスはどこからともなくメインサーバーに侵入し、NASAに保管されたデータというデータを食い荒らした上、システムを完全にジャックしそれまでに打ち上げられた人工衛星その他諸々を一つ残らず撃墜された。被害総額は数十兆ドルに上ると推定されており、アメリカの歴史上類を見ない大災害だと言えよう。

そして『ハーバード大学コンピューターサイエンス学科生失踪事件』とは、そのNASAに起きた事件を解明すべく立ち上がり調査を進めていた学生達が、突然謎の失踪を遂げたという不可解きわまりない事件である。この事態を重く見たアメリカ政府は、謎のコンピューターウイルスの調査を完全に打ち切り宇宙開発の白紙化を決断した。

 

綾倉「率直に言いますと、あの事件の犯人……つまり未知のコンピューターウイルスの正体はアドラメレクです」

和真「……なんでそんなこと断言できるんだよ?」

綾倉「鳳君が霧島さんから聞いたアドラメレクの外見と、四年前に御門く…御門社長から聞いたアドラメレクの外見は一致しているんです。実は私、この学校に来る前はハーバードのコンピューターサイエンス学科で教鞭を取っていて、彼はそのときの教え子なのです」

和真「……つまりあれか、あのおっちゃんは……失踪事件の生き残りってことなのか?」

綾倉「ええ……唯一のね」

 

明かされた衝撃の事実に流石の和真も思わず唖然とする。目の前にいる糸目教師は性格はともかく能力的には申し分ないので、ハーバードで教鞭を取っていたとしてもさほど不思議ではない。しかしあのやる気が底辺の男にそんな壮絶な過去があったとは思ってもみなかった。

 

和真「……失踪事件について詳しく教えてくれ」

綾倉「私は御門社長に聞いただけなのですが……調査チームはNASAのコンピューターにアクセスして、何かしらの痕跡や手がかりがないかくまなく調べていた追求していたところを、アドラメレクに逆探知され瞬く間に壊滅させられたそうです」

和真「そいつが召喚獣だと知っている身からすればなんとか受け入れられることだが……コンピューターウイルスが現実の存在に干渉するなんて端から聞きゃなんとも荒唐無稽なオカルト話だな……ところで、話を聞く限り学科生達はおっちゃんを除いて全滅したんだよな?何で世間じゃ行方不明扱いなんだよ?」

 

アメリカ政府の決断には今でも被害者遺族達が猛抗議を続けているそうだ。そうなることは誰でもある程度予想できるのだから、わざわざ行方不明と言葉を濁す必要性がまるで感じられない。そう思って和真が尋ねると、綾倉先生はやや悲痛そうな表情で信じられないことをのたまった。

 

綾倉「……飲み込まれたんですよ」

和真「……は?」 

綾倉「NASAの宇宙開発データと同様、御門社長を除いた調査チームの人間は全て、アドラメレクに取り込まれたそうです。ですから行方不明とするしかなく-」

和真「ちょっと待てなんだよそれ!?肝試しシーズンだからって俺をからかってるわけじゃねぇよな!?」

綾倉「お気持ちはよくわかります。……しかし御門社長は、冗談でそんな不謹慎なことを言う人ではありません」

 

意味がわからない。コンピューターウイルスが現実世界に干渉するだけならまだしも、あまつさえ人間をその身に取り込む?いくらなんでも荒唐無稽にも程がある。これではまるでタチの悪い怪談話のようではないか。

 

綾倉「飲み込まれた学生達の生死は一切不明です。……あの日から、私と御門社長はアドラメレクを捕縛するため、ありとあらゆる方面からひたすら情報を集め始めました。そしてその一年後、藤堂学園長が学会で発表した試験召喚システムを知り、あの人の論文を入念に調べた結果、私達は科学とオカルトからなる召喚獣とアドラメレクが同一の存在であると突き止めました」

和真「どんどん話が大きくなるなオイ。……ん?てことはアンタがこの学校で教鞭を取ってるのもおっちゃんがスポンサーについているのも……」

綾倉「ええ。アドラメレクへの対抗手段となり得る召喚獣を手に入れるためです」

 

ご存知の通り召喚獣の力はとても強く、明久程度の点数でも鉄人を打倒しうる潜在能力を秘めている。ましてや世界のバランスを崩せるほどの力を持ったアドラメレクに生身で立ち向かうなど、はっきり言って無謀極まりない。

 

和真「……待てよ?“御門”って確か“鳳”や“橘”と違って近年急激に頭角を表してきた企業だったよな?おっちゃんはどうやって完全にあそこまで規模を大きくしたんだよ?」

綾倉「私が趣味でやっていたデイトレードで稼いだ4000億の軍資金があったので、割とどうとでもなりましたよ?」

和真「アンタもう何でもありだな……」

 

ある意味アドラメレクより恐ろしいのではないかと和真は考えたが、当の綾倉は特に気にした様子もなく話を続ける。

 

綾倉「それに奴が同一の存在である召喚獣を扱っているこの学園にいずれ接触してくるだろうと睨んでましてね。案の定既に二度も干渉してきた上に、御門社長が裏で手を引いている人間がいることを突き止めてくれました」

和真「でも大丈夫なのかよ?アドラメレクに協力者がいることはわかったが、もう二度も接触してきたってのにまだ接触すらできてねぇじゃねぇか」

綾倉「実を言うと、今回再び学園に侵入してきた人間がいることはわかっていました。校舎の周りに設置された赤外線センサーが反応した形跡があるにも関わらず目撃者が一人もいないことから考えると、どうやら光学迷彩らしき物を身に纏って侵入しているようです」

和真「……だったら何で放置してるんだよ?」

綾倉「より確実に捕らえるためですよ。準備が不十分の状態で捕らえようとすれば、やぶれかぶれでアドラメレクを起動されて悲惨な結末を迎えかねません。それにわざわざ世界を歪めたからには近いうちにもう一度接触してくるでしょう。そのときのために私がアドラメレクに対抗しうる布陣を敷いておきました」

和真「やれやれ、またお得意の謀略かい」

 

清凉祭のときを思い出しながら和真は肩を竦める。この教師は裏で画策することが余程好きらしい、よもやテロリストさえも嵌めようとするとは。

 

綾倉「誤算はメンテナンスを続けないと歪みがどんどん大きくなるため、私はその作戦に参加できないということですかね……」

和真「俺も討伐手伝ってやろうか?」

綾倉「君は補習が残ってるでしょう?」

和真「あ、そうだったな……ちなみに参加するメンバーはどうなっているんだ?」

綾倉「西村先生と高橋先生と御門社長に、君の友人である鳳君の四人です」

和真「そうそうたる面子だな……まあ、奪われたもん取り戻せることを俺も願ってるぜ」

綾倉「ええ、必ず……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、どうやってこの状況を切り抜けようかね』

空雅「どうやってもこうやってもねーだろ。さっさとアドラメレクにでもすがるんだな、この下っ端野郎」

『……ほう?』

 

空雅の提案に仮面の男ファントムは意外そうにする一方、あらかじめ通達されていた蒼介と鉄人は特に反応しない。

 

『良いのかね?私を捕らえてパソコンを押収した方が手っ取り早いと思うが?』

空雅「だからてめーどうせ下っ端だろ。下手に捕まえてお前の奥にいる黒幕に警戒されても困るんだよ。それにソイツは常識が一切通じねー化け物だ、おとなしくデリートされてくれるとは思えねぇ。多少手間がかかるが素直に正攻法で倒した方が安全なのさ」

 

何しろアドラメレクは今までどれだけの物質を飲み込んだかすら不明な、極めて膨大な質量の塊なのだ。下手な対処をすれば恐ろしい結果を招きかねない。ならば召喚獣であることに注目し、試験召喚戦争を介して始末することが確実に安全だと空雅は判断した。

それにアドラメレクには返してもらわなければならないものがある。それを取り返すまでは空雅としては消えてもらうわけにはいかない。

  

『くくく、その判断は正しい。アドラメレクは召喚獣、点数が0になれば力を失うからね……だが果たしてお前達にそれができるかな?』

空雅「御託はいらねーからさっさと出せや。さもないとぶっ殺しちまうぞ仮面ヤロー」

『やれやれ、せっかちなことだ(カタカタカタ)。

……目覚めよ、アドラメレク(ターン!)』

 

ファントムは手に持ったパソコンを操作し、アドラメレクを起動する。パソコンから鈴を鳴らしたような綺麗な声音で、理解不能の言葉が聞こえてくる。

 

「ביטול דחיסה」

 

すると通常より何倍もある幾何学模様が屋上に展開され、その中心から純白の天使が降臨する。否、どういうわけか六枚の翼のうち一枚だけは何故か燃えるような紅の翼であった。

 

 

降臨したアドラメレクから、突然濃密な殺気が蒼介達に向けて放たれた。

 

「「……っ!?」」

空雅「……出やがったな……っ!」

 

それをまともに受けた三人は精神的に崩れたりこそしなかったものの、凄まじい緊張が走り全身から嫌な汗が吹き出てくる。さらに生物としての本能がここからすぐに離れろと、ひっきりなしに警鐘を鳴らしている。

 

蒼介(なんだ……これはっ……!?)

鉄人(この俺が……気圧されているだと!?)

空雅(相変わらずデタラメな殺気だな……!)

 

この天使と相対しているだけで首筋にギロチンの刃を当てられているようなとてつもない恐怖を感じる。それぞれ三人とも多かれ少なかれ武道に精通しているからこそ、その場に充満した死の気配を敏感に感じ取れてしまった。

そんなことはお構いなしにアドラメレクは三人の方に向き直り、鈴を転がしたような綺麗な声色で何やら話しかけてきた。

 

「חִידָה ואני יריב אתם, אתן ?」

「「「…………?」」」 

 

……まあ、何を言っているのか理解できなかったのだが。語学堪能な蒼介でさえ流石にこんな言語には精通していない。その様子を見たファントムは仮面の奥で呆れたように溜め息をついた。

 

『アドラメレクよ、何のための自動翻訳機能だ?その言語では誰も理解できんぞ?』

[なるほど、そう言えばそうだったな]

 

アドラメレクは先ほどまでとは違ってパソコン音声で日本語を話してきた。どうやらプログラミングされた自動翻訳機能を介さなければ意思疏通すらまはまならないらしい。

 

[では、今一度問い直そう。

……貴様らが我の相手か?]

空雅「……ああそうだよ。オッサン、フィールドを展開しろ!それに二人とも、先頭準備だ(スチャ)」

蒼介「了解!(スチャ)」

鉄人「オッサンではなく西村です!(スチャ)」

「「「試獣召喚(サモン!)」」」

 

三人は何故かサングラスを装着してから召喚獣を喚び出した。蒼介の召喚獣は朱雀、鉄人は閻魔大王、空雅はベルフェゴールだ。

 

《総合科目》

『Aクラス 鳳蒼介  6388点

 補習教師 西村宗一 7214点

 ?クラス 御門空雅 9342点』

 

いずれも有象無象の凡人どもとは一線を画す並外れた点数を誇る召喚獣達であるが、アドラメレクの興味はある一点に注がれていた。

 

[……貴様らは、何故我のバグが目の網膜から侵入すると知っている?]

 

アドラメレクの攻撃の余波を浴びた人間はバグに汚染される。汚染された人間がどうなるのかは鉄人と蒼介にはわからないが、ろくでもないことになるのは間違いないだろう。そしてアドラメレクの呟きから察するに、そのバグはどうやら眼球から入り込む性質のようだ。

 

空雅「なーに言ってやがる?……四年前てめーが俺に対して自慢げに語ったことだろうが、痴呆かテメー?」

[何?四年前だと?その死んだ魚のような目……貴様四年前のあのとき、高濃度のバグで汚染してやった学生か?]

空雅「御名答だ。てめーを潰すため地獄の淵から生還してきてやったんだよ、ありがたく思いなクソ野郎」

 

[………………そうか。

 

 

 

ふ…ふふふ………ははははははは!

まさかあのバグに適応するとはな!これは思わぬ収穫だ!あんなお遊びで『玉』の器が見つかるとは思っても見なかった!]

 

アドラメレクはしばらく黙った後、突然どういうわけか楽しそうに笑いだした。まるで欲しかった玩具を買って貰えた子どものような笑みを浮かべて。

 

空雅「わけわかんねーテンションの上げ方してんじゃねーよ手羽先野郎が」

[適当にあしらってやろうと思ったが気が変わった!貴様を我が完全体となるための礎にしてやろうではないか!]

空雅「まだ何言ってるかわかんねーが、俺を生け贄か何かにしてぇみたいだな。だがそうはいかねーんだよ。アイツらを返してもらうぜ」

[……なるほど、読めたぞ。貴様が我を追ってきたのは四年前我が取り込んだ奴らを奪還するためか。

 

 

なるほどなるほど……

 

 

四年も前に我に飲み込まれた人間などもう助かる見込みなどありはしないというのに……なんと健気なことよ]

空雅「ーーーーーっ!!!」

 

嗚呼、現実というものは何故いかなるときも残酷なものなのだろうか?一縷の望みにすがってもがき続けた空雅が得た答えは……かくも救いようのない結末であった。

嘲るように言い放ったアドラメレクの言葉に空雅は瞠目し、受け入れがたいかのように顔を伏せる。

 

[……どうした?旧友の死を偲んでいるのか?つくづく人間というものは理解不能で、そして滑稽な生き物だな]

空雅「………………いや、ちょっと安心したぜ。

 

 

 

 

お陰で遠慮なくてめーをぶち殺しても良いんだからなぁ……!アドラメレクゥ!」

 

顔を上げた空雅の表情は、いつも気の抜けた彼からは想像もつかない程苛烈なものだった。空雅は己の感情の高ぶりを感じるものの、何故自分がこんなに熱くなっているのかいまいち理解できないでいた。

別に失った奴らと特別仲が良かったという訳ではない。精々所属している学課が同じで、お互い名前を覚えていて、たまに昼食を共にしたぐらいの極めて浅い関係だった。

あのまま何事もなく卒業していたらそれっきりで関係が途切れていただろう、どこまで行っても知り合い以上友達未満の連中だった。

ならば自分はその程度の関係だった奴にも心を痛めることができる人間だったのだろうか?……それだけはないと確信できる。徹頭徹尾グータラ無気力やる気無しが御門空雅という男のはずだ、そんな殊勝な心を持ち合わせていたとは思えない。

 

では何故?

 

そこまで考えてから、ようやく空雅は思考を放棄した。いくら考えたところで答えは出そうにない。そもそもどんな答えだろうが目の前のクズを見逃す理由にはなり得ないのだから。

この答えの出そうにない問答の続きは、こいつを消した後でゆっくり考えればいい。

 

蒼介「貴様にはひと欠片の慈悲すら必要ないな」

鉄人「専門外の話が飛び交っていたが、貴様が倒すべき敵だということは理解した」

[ふふふ、私の殺気を受けても闘志が揺らがぬか……]

 

蒼介と鉄人が空雅の隣に並び立つ。二人は教師として生徒会長として、学校に侵入した賊を捕らえるためにこの作戦に参加したのであって、空雅からハーバードで起きた悲劇の詳細を聞いたわけではない。そのため先程の空雅達の会話の内容を十全に理解したわけではなかったが、この純白の天使が排除すべき対象であることは充分に理解できた。

 

沢山の命を奪っておいて、こんな風になんてことのないように平然としているような奴など……断じて許されて良い存在ではない!

 

三人の召喚獣はアドラメレクを取り囲んだ。いつの間にかファントムの姿は消えていたが、今はあんな小物に構っている余裕はない。

 

[ふむ……これが貴様らの闘い、試召戦争とやらか。ならば我も点数を公開しないようではフェアではないな……どれ(ブォン)]

「「「……ッ!?!?!?」」」

 

その言葉と共に、アドラメレクの頭上に点数が表示される。その恐るべき点数を目の当たりにした三人は、程度の差こそあれ絶句する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《総合科目》

『Aクラス 鳳蒼介  6388点

 補習教師 西村宗一 7214点

 ?クラス 御門空雅 9342点

VS

 ?クラス  Adramelech 50000点』

 

 

[ではいくぞ。……ん?何を呆けている?……ああ、なるほどな。なに、そう悲観せずともよい。確かに絶望的な点差ではあるが、訳あって我はこの世界ではフルパワーで闘うことができんのでな]

 

 

 

 

 




アドラメレク「私の点数は5万です。ですが、もちろんフルパワーであなた方と戦う気はありませんからご心配なく」

はい、やっちゃいました。
これぞ圧倒的なインフレ。






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