バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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梓さんの脅威はまだまだ続きます。


九重の蒼炎

「「「「試獣召喚(サモン)!」」」」

 

お互い特に面識が無かったため、これといった無駄話をすることもなく勝負が始まった。、四つの幾何学模様からそれぞれのオカルト召喚獣が喚び出される。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 5067点

 Aクラス 姫路瑞希 4563点

VS

 Aクラス 高城雅春 2256点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

合計点数では二年サイドが圧勝しているものの、そんなアドバンテージは気を抜けば簡単に覆ることくらい翔子達は重々理解している。長引けば長引くほど経験の差でこちらが不利になると判断した二人が取る作戦は……言わずもがな先手必勝の速攻ゲーム。

 

翔子「……瑞希」

姫路「はいっ!」

 

レヴィアタンとサキュバスは二体とも空へ飛翔する。どうやらどちらの召喚獣も飛行能力を発現させているようだ。

 

梓「勢いがあんのはわかったけど……打ち落としてくださいって言うてるようなもんやろそれ」

 

玉藻は空に尾を向け、炎の弾丸を一斉に射出した。空中戦だろうが陸上戦だろうが、お構いなしに全てを焼き尽くせるのが玉藻の狐火の恐ろしさだ。しかし翔子達は今までの戦いを全て監察していたのでそんなことは当然理解している。それでも飛翔したということは、それ相応の対抗手段を有しているということに他ならない。サキュバスはおもむろにレヴィアタンに密着するほど急接近する。

 

姫路「今です翔子ちゃん、お願いします!」

翔子「……流水撃」

 

レヴィアタンのトリアイナから物凄い量の水が産み出され、自らに密着したサキュバスと自らの周りを旋回させ、水の障壁を造り出す。

どうやら魚型の悪魔らしく、レヴィアタンの二つ目の能力は水を生み出し自在に操ることのようだ。翔子の操作技術は梓と比べれば数段劣っているものの、水は液体であるためあくまで“個”として操れるいう利点を持つ。

狐火の軍勢と荒れ狂う激流はお互いを打ち消し合い、両者ともに跡形もなく消し飛んでしまった。

 

梓(ほー……なかなか厄介な使い方しよるやないか)

姫路「えいっ!」

 

間髪入れずにサキュバスはピンク色の矢を酒呑童子に向かって射出する。あまりに直線的な軌道、避けるつもりがあるならばむしろ当たる方が難しいほどの低レベルな攻撃。

 

翔子「……高城先輩、実はその矢、地面にぶつかると大爆発する」

高城「なんですって!?ということは我々をまとめて爆風で吹き飛ばすということですね!?そうはさせませんよ姫路嬢!」

梓「……はぁ……もう勝手にせぇ……」

 

が、そこは()()明久に比肩しうるほどの世紀のファンタジスタ・高城雅春。翔子の何気ない呟きを何の疑いもなく鵜呑みにしたのか、急いで酒呑童子を矢へと立ち向かわせる。梓はもうフォローするのも億劫になったので適当に放置することにした。そして酒呑童子は姫路の放ったピンクの矢をまともに喰らってしまう。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 5067点

 Aクラス 姫路瑞希 4563点

VS

 Aクラス 高城雅春 2256点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

しかし酒呑童子にダメージは一切なかった。高城が姫路達の策略を防いだ(と思い込んでいるだけなんだろうが)ことに誇らしげな顔をしているのを華麗にスルーして、梓は翔子達に問いただす。

 

梓「一応聞くけどあの矢、なんなん?」

姫路「私の固有能力『恍惚の矢』です。触れた相手の防御力を最低値まで下げることができます」

梓「最悪や……」

翔子「……そして、すかさず流水撃」

 

レヴィアタンは酒呑童子に向けて激流を浴びせかける。梓は自分に流れ弾が来ないように狐火で玉藻の周りを覆う。この隙に攻撃しても良かったのだが、いくら操作技術に優れてるとはいえ流石にこれは能力もなしに避けきれないと判断したのだろう。

高城は酒呑童子の耐久力なら大丈夫だろうと高を括って悠々と防御体制に入る。自慢の耐久力など既に存在しないにもかかわらず。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 5067点

 Aクラス 姫路瑞希 4563点

VS

 Aクラス 高城雅春 戦死

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

高城「……なっ!?どうして私の召喚獣が!?」

梓「……もうエエ。もうエエからさっさと待機場所に戻っとけ。正直言うと邪魔やから」

 

状況が未だ飲み込めずアホみたいに驚愕している高城を見る梓の目は……それはそれは冷たいものだったそうな。

 

 

 

 

 

一旦タイムをかけて高城(バカ)を退出させてから、気を取り直して梓は翔子達に向き直る。

 

梓「さて、ここからが本当の闘いや」

翔子「……たった一人でどうにかできるほど、私達は甘くない」

姫路「すみませんが、勝たせてもらいますっ!」

梓「ククク、ウチも随分舐められたもんやなぁ……お嬢ちゃんら、勝ち誇るんはちと早いで?」

翔子「……その攻撃はもう聞かない」

 

玉藻の9本らの尾が藍色に光るとともに、サキュバスはレヴィアタンに急接近し、レヴィアタンは先程のように激流の防壁を形成する。

 

梓「アンタも筋はエエけどまだまだ工夫が足らんわ。試験召喚システムの能力は使い方次第でいくらでも応用が効くんやで?例えば……こんなんとかな」

 

不適な笑みを浮かべつつ佐伯は玉藻の九本を一つに束ね、まとめ上げる。すると、藍色の光はこれまでとは比べ物にならないほどの眩い輝きを放つようになった。

 

翔子「…ッ!?マズ-」

梓「遅いわ!九重の蒼炎!」

 

束ねられた九本の尻尾から、今までとは比べ物にならないほどの速度、規模、火力の蒼炎の弾丸が発射された。一点に力を集中させた大砲の威力はそれはもう凄まじく、レヴィアタンの張った防御幕を紙切れの如くぶち破り、二体の召喚獣は回避も防御も敵わずそのまま焼き尽くされた。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 2654点

 Aクラス 姫路瑞希 1824点

VS

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

姫路「う、うう……」

梓「怯んでる隙なんかあげへんで?」

姫路「あぅっ!?ま、負けませんっ!」

 

両者ともに超高得点であり、流水激の壁がある程度蒼炎の威力を軽減してくれたこともあってどうにか耐えきることはできたものの、業火に焼かれた二体の召喚獣は飛行状態を維持できずにそのまま落下する。

玉藻はすかさず急接近し、倒しやすいと判断したサキュバスを先に排除しにかかる。姫路も負けじと応戦するものの気迫だけでどうにかなるレベルの相手ではなく、結局サキュバスは9本の尾に貫かれて絶命した。

 

姫路「そ、そんな……」

梓「だから言ったやん、勝ち誇るんは早いって♪」

翔子「……くっ……!」

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 2654点

 Aクラス 姫路瑞希 戦死

VS

 Aクラス 高城雅春 戦死

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

戦況はたった一手で覆されてしまった。

そしてさらに恐るべきことに、梓は明久達と闘った最初の闘いから……未だ1点すら削られていない。和真があれだけ警戒していたのも今なら二年の全生徒が理解できる。

 

佐伯梓は、正真正銘の化け物だ。

 

翔子「……っ、流水撃!」

梓(またそれかい。んー、九重の蒼炎で迎え撃ってもええねんけど……元々の点数差を考えると少し危険やな、それにこっちの方が確実やし)

 

レヴィアタンから全てを飲み込もうとする激流が解き放たれたのに対し、玉藻は手に持った扇子を広げて己に向かって降ってくる激流に照準を合わせる。そして激流が直撃する寸前に玉藻が扇子で仰ぐと、

 

 

 

 

全ての水がまるで時間が巻き戻されたかのように、レヴィアタンのもとへ戻っていった。

 

翔子「なっ……!?」

姫路「翔子ちゃん、危ない!?」

 

翔子は慌ててレヴィアタンに回避させる。幸い直撃は免れたものの、受けたダメージは決して小さくない。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 1892点

VS

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

翔子「……今のは……っ!?」

梓「ウチのもう一つの能力、芭蕉扇や。言い忘れとったけど、ウチに単調な遠距離攻撃は効かへんで?」

 

攻めなければ狐火に焼き尽くされる。

 

接近すれば9つの尾の餌食となる。

 

遠距離から攻撃を仕掛ければ跳ね返される。

 

なんなのだこれは?悪い冗談にしか聞こえない。これでは……翔子に打つ手など残されていないではないか。

 

姫路「翔子ちゃん……」

翔子(……ごめんなさい、雄二……

仇、取れなかった……)

 

この時点で姫路と翔子は、梓に勝つことは不可能であると悟っていた。中・遠距離戦は論外として残るは接近戦だが……これもまた論外。翔子の操作技術は二学年の中でも精々上の下、明久と同等以上の梓に勝ち目などあるわけがない。

 

翔子(……和真、優子、後は任せる。私は……少しでもこの人の点数を削る!……っ!そうだ、あの技なら……!)「流水撃!」

梓「いい加減それはもう飽き……なんやこれ?」

翔子(……さっき芭蕉扇で流水撃を弾いたとき狐火を使われていたら私は終わっていたはず。それでも使ってこなかったということは、あの二つは同時には使えない。……五十嵐、少し技を借りる)

 

レヴィアタンの周囲に水が広がっていく。そしてそれはどんどん分裂していき、最終的にはフィールドの空を数多の細長い水の塊が席巻した。

 

翔子「……アイシクル・カッター!」

 

その言葉がトリガーとなり、全ての水の塊が一斉に凍りつき無数のナイフへと変貌する。

レヴィアタンの第三の能力は凍結。普通に考えれば梓の狐火との相性は最悪のためここまで温存していたのだが、翔子はその能力と流水撃を組み合わせることで、本家と比べて規模は小さいものの源太のオーバークロックを再現することをこの土壇場で編み出した。

 

梓(……このお嬢ちゃん、芭蕉扇と狐火が同時に使えへんことを見抜いとるな。流石にこの数は芭蕉戦じゃ対処できんし、狐火でも打ち落とし切れへんやろなぁ……となるとウチのやることはお構いなしに霧島さんの召喚獣を消し飛ばすこと。ある程度のダメージはしゃあないか……けどなぁ、)

 

梓は翔子が勝負を捨てて自身の点数を削りにきていることを看破していた。いくら梓でもこの状況を無傷で乗りきるのは不可能だろう。

 

……しかし、受けるダメージを軽減するくらいなら可能である。

 

翔子「……シュート!」

梓「狐火はこんなこともできるんやで!」

 

一斉に降り注ぐナイフの雨に対し、玉藻は尾を五本だけ束ねて砲撃を放ち、残りの四本から放たれる狐火を防衛に回す。流石に全てのナイフを相殺するには至らず玉藻は初めてダメージを負うが、レヴィアタンは玉藻の放った業火に蒸発させられた。

 

 

《総合科目》

『Aクラス 霧島翔子 戦死

 Aクラス 姫路瑞希 戦死

VS

 Aクラス 高城雅春 戦死

 Aクラス 佐伯梓  4032点』

 

パートナーは仕留めた。

 

能力を全て引き出させた。

 

多少手傷は負わせた。

 

それでも……二年女子ツートップでさえも……佐伯梓の牙城を崩すことは、敵わなかった。

これで二年生チームの命運は、最後のペアに託された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

和真「……さてと。優子、行くぞ」

優子「了解」

 

翔子のレヴィアタンが玉藻の狐火に燃やし尽くされたのを見届け、和真と優子はAクラス教室へ向かう。いつものメンバーが激励を送るべく二人に駆け寄る。

 

明久「頑張ってね、二人とも!」

秀吉「二人とも、任せたぞい」

ムッツリーニ「……敵はたった一人」

美波「ウチらの魂、アンタ達に預けたわよ」

源太「テメェらのコンビネーションならいけるぜ」

徹「だが油断は決してするなよ。見逃してくれるほど甘い相手ではない」

愛子「二人のラブラブパワーでやっつけちゃえ!」

飛鳥「点数が0になるまで。闘志を消さないでね」

久保「僕達は皆、君達を信じているよ」 

佐藤「安心して、あなた達ならきっと勝てるから」

雄二「正直あんな化け物相手にこんなこと言うのは無責任だとわかってはいるが……頼んだぞ、何が何でも勝ってくれ」

和真「いちいち言わなくてもわかってるっつーの、俺達を誰だと思ってやがる?なぁ優子」

優子「ええ、闘うからには勝ちをもぎ取ってくるわ」

 

二年全員の意地・誇り・プライドを背負いつつ、『アクティブ』黄金コンビは最後の決戦に赴く。敵の実力は破格の極みであるが、彼らの目には勝利しか見えていない。

 

和真(梓先輩……残念だがアンタはもう、詰んでるぜ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで皆さん、覚えているだろうか?

たった今不適な笑みを浮かべてAクラスに向かっている和真が……猫耳を装備した状態であるということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼介「結局高城先輩は良いとこ無しでフェードアウトしたか……」

和真「もう完全にギャグキャラ路線に決定したなあの人……」

蒼介「一方で、佐伯先輩の活躍は凄まじいな。ここまでで二年トップクラスの生徒の大半が彼女一人に倒されているぞ」

和真「まさに一騎当千!モンストの超究極クエストみてぇな存在だ」

蒼介「しかしカズマ、どうやらお前には勝算があるようだな?」

和真「ああ、勝つのは俺達2年だ」



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