バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

117 / 219
【バカテスト・国語】

次の文章を読んで後の問いに答えなさい。

「定吉はどこに行ったんだ」
次平が尋ねると、太郎は肩を竦めて答えた。
「お菊のところだよ。十年来の恋心を得意の和歌にして伝えてくるんだとさ」
それを聞いて次平が眉を顰める。
「恋の和歌ときたか。それなら結果は知れたようなものだな」
「違いない。あいつの歌は下手の( )だからな」

問①( )に正しい語句を入れて下手の部分の慣用句を完成させ、その意味を答えなさい。
問②結果とはとのような結果なのか。次平と太郎が予想している結果を答えなさい。


姫路の答え
『問① 下手の(横好き)
 意味:下手であるにも関わらず、その物事にやたらと熱中していること
 問② 下手な和歌で失敗してしまって、定吉の想いは成熟しないという結果』

蒼介「正解だ。この文脈で他に当てはまる慣用句としては、下手の真似好きというのもある。どちらの慣用句であろうとも低い技量を示すため、次平と太郎の二人が予測する結果は失敗であることがわかるな」


吉井明久の答え
『問① 下手の(一念)
 意味:へたくそでも一生懸命頑張ること
 問② へたくそでも自分の為に一生懸命歌う定吉の姿に、お菊はきっと心を動かされるに違いないという予想』

蒼介「決して正解とは言えないが……私はこの解答、正直嫌いじゃない」


三年ツートップの実力

明久「もうそろそろチェックポイントかな?」

雄二「だな。流石に俺達だけで倒すのは難しいだろうから、ある程度削ってからちゃっちゃと終わらせようぜ」

明久「雄二、気軽に言うけど僕にはフィードバックがあるんだからね?」

雄二「そんなもん大した問題じゃないだろ……っと、着いたか」

 

雄二達がいつものように他愛ない軽口を叩き合っている内に、最終チェックポイントに到達した。そこには立会人の高橋先生に、三年の総指揮を行っていたらしき梓ともう一人、明久達とは面識のない男子生徒がスタンバイしていた。

その男子生徒はスラリと背が高く細面に切れ長の目という、とても整った顔立ちをした格好いい男子生徒だった。おそらくはルックスで比肩する男子は二年でも蒼介ぐらいだろう……和真や徹は方向性が違うので除外する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『美形は死ね!』

『そうだ!あいつみたいなのがいると俺達のブサイクが目立つだろうが!』

『この学校に美形は俺一人で十分なんだよ!』

 

教室では復活したFクラスの面々が敵意丸出しの罵声をモニターに飛ばしていた。この光景を見て彼らが進学校の生徒だと信じる者は皆無だろう。

 

和真「お前らホントわかりやすいな……」

優子「清々しいほど徹底したクズっぷりね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

佐伯「よう来たなアンタら。……あ、高城は初対面やったよな?せっかくやから挨拶しとき」

高城「そうですね佐伯嬢。始めまして吉井君、坂本君。高城雅春と申します」

明久(うわ、凄い……あんなTVでしか見ないような一礼をして挨拶する人、生まれて始めて見た)

雄二「あーそれは良いんだが……その慇懃な話し方はとある腹黒教師を思い出すから、できれば普通に話してくれないか?」

明久(綾倉先生だね……)

梓(綾倉先生やな……)

高城「ご気分を害したなら謝りましょう。ですが、この喋り方は小暮嬢の指示ですので」

明久(小暮って……ああ!さっきのエロい先輩か!)

雄二「ん?どういうことだ?」

梓「高城、その辺にしとき-」

高城「小暮嬢曰く、『こういった話し方の方が賢く見える』と」

「「…………」」

佐伯「……ハァ……」

 

思わず明久達が閉口するなか、梓はやってしまったとばかりにこめかみに手を当てて溜め息をつく。

 

雄二「……高城とか言ったな?アンタ、もしかして頭が悪」

梓「そんなことないで坂本君。こう見えても高城は三年生の首席なんやで?」

「「三年生の首席!?」」

高城「はい。僭越ながら私めが第三学年の首席を務めさせて頂いております」

 

まあ確かに余裕のある立ち振舞いやシャープな顔つきからは優等生であることが伺い知れる。

 

高城「首席であれば、騙されやすいバカだということがバレない……と伺ったので」

梓「高城、頼むからウチがフォローできる範囲で喋ってくれへん?葵からしっかりサポートするよう頼まれとるけど、そんな好き勝手やられたらカバーしきれへんわ」

 

しかしどうやら中身はとても残念な人のようだ。二年首席の蒼介が弱点の見当たらない完璧超人であることも、高城の残念さ具合をより一層際立たせている。

 

梓「……これ以上身内の恥を露呈したないからもう始めようや……先輩からのお願い」

明久「あ…そ、そうですね」

雄二「悪かったな、色々と…」

梓「おおきに……っちゅうわけで高橋先生、召喚許可をお願いしますわ」

高橋「承認します」

「「「「試獣召喚(サモン)」」」」

 

四人の足元に幾何学模様が展開され、オカルト召喚獣が姿を現す。明久と雄二の召喚獣はご存じデュラハンと狼男。そして梓と高城の召喚獣は瓢箪を腰に差した巨漢の鬼と、着物を着て扇子を口に当てて妖艶に微笑む、黄金に輝く九本の尻尾が特徴的な狐の妖怪。

 

明久「二人とも見るからに強そうだね……」

雄二「酒呑童子に玉藻御前……日本三大妖怪の二体とは、ラスボスに相応しいラインナップだな」

梓「せやろー?ちなみに召喚獣に現れた本質は多分、『騙されやすい』と『嘘つき』やでー」

雄二(多分……いや間違いなくこの先輩は、高城先輩とやらを幾度となく騙してるな……)

明久(そう言えば和真も言ってたっけ、佐伯先輩が大嘘つきだって……)

 

人間に騙されて討ち取られた鬼と、素性を偽り人を惑わせいくつもの国をを混乱に陥れた傾国の妖怪。本質の相反する者同士が肩を並べているのはなんとも奇妙な光景だ。

 

高城「ええ、そうでしょうね。なにせ佐伯嬢は去年も今年も、私を騙して面倒事を押しつけ続けていますものね……グスッ……」

((やっぱり……))

梓「……スマン、悪かったから。もう騙したりせんから泣くなや、な?」

高城「……グスッ……約束ですよ?」

梓「わかったわかった」

((これも多分、嘘なんだろうな……))

 

これまでの僅かなやり取りで、明久達は高城と梓の関係をだいたい把握したようだ。遅れて四人の点数が表示されるものの、その点数は明久達にとって不可解極まりないものであった。

 

 

《総合科目》

『Fクラス 吉井明久 1392点

 Fクラス 坂本雄二 3265点

VS

 Aクラス 高城雅春 4306点

 Aクラス 佐伯梓  4578点』

 

 

明久「ど……どういうことなんですか!?なんで佐伯先輩の点数、首席の高城先輩より……」

雄二「……まさか、高城先輩が首席だってのも嘘だったのか?」

梓「それは流石にホンマやよ。現に振り分け試験の結果は高城の方が上やったしな」

高城「お恥ずかしながらこの間の期末テストで抜かれてしまいましてね。しかし坂本君、クラス代表が必ずしもそのクラスでずっとトップでいられるとは限らないことは、貴方も重々承知しているはずですが?」

雄二「ぐっ……そうだな……」

 

脳裏に三人の化け物じみたクラスメイトを浮かべながら雄二が呻く。確かに新学期に学年首席と認定されたからといって、ずっと首席のままでいられるかは本人と周りの人間次第だろう。

 

梓「いやー、ウチはインターハイの結果が功を奏して栄応大の推薦貰えたから受験勉強なんてやる必要ないんやけどな、和真に負けっぱなしで卒業すんのもどうかと思うやん?せやからこの前の期末試験、割とマジで頑張ってみたんや」

明久「……あれ?橘さんはインターハイ期間だからテスト期間中も柔道の練習に励んでたって和真に聞きましたけど、佐伯先輩は練習してなかったんてすか?」

梓「テスト期間はテスト勉強を優先すべきやろ学生は。第一、柔道はそんな根詰めてやらんでも普通に勝てるしな」

雄二「マジかよ……」

 

ちなみに佐伯梓の高校通算成績はまさに常勝無敗、公式戦練習試合問わず、ただ一点の黒星すらなかったという。飛鳥が血反吐を吐くほど死に物狂いで鍛えてようやく勝ち取った栄光をなんでもないかのようにかっさらったこの女子を見ていると、才能というものがいかに残酷かがよくわかる。

 

高城「戯れはこの辺りにして、そろそろ始めましょう」

明久「それもそうですね。負けませんよ!」

梓「……あー、吉井君。アンタには先に謝っとくわ」

明久「ほぇ?何をですか?」

梓「アンタ、召喚獣がやられるとダメージがフィードバックするんやろ?」

 

梓の言葉に呼応するかのように、金色に輝く九本の尻尾全てが藍色に怪しく輝きだす。玉藻が生み出したその光景を視認した雄二は、筆舌に尽くしがたい悪寒が全身に走ったのをのを感じる。言葉ではうまく説明できないが、何やらヤバイ事態であることは間違いない。

 

明久「へ?……ええそうですけど……」

雄二「……まずい!?明久避け-」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梓「多分、凄く痛いから」

 

その瞬間デュラハンは蒼い業火に焼き尽くされ、その瞬間明久の意識は凄まじい激痛に耐えきれず途絶える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「…………っ!?」」」

 

モニターで四人の対決を見物していた和真達は皆、一瞬の出来事にまるで理解が及ばず絶句する。画面には気を失った明久が倒れ付している。始めに金縛りから解かれたのは、明久に好意を向けている二人であった。

 

姫路「明久君っ!?起きてください明久君!」

美波「いったい何が起こったのよ!?なんでアキが倒れてんの!?」

秀吉「落ち着くのじゃ二人とも!あくまでフィードバックで意識を失ってるだけじゃ!」

 

思わず取り乱す二人を秀吉がどうにか宥めている一方、モニター先では雄二の狼男が玉藻御前に突撃していた。しかし再び九本尾が怪しく光り、狼男はデュラハンと同じように蒼い炎に焼き尽くされた。高得点が幸いしてなんとか耐えきることができたが、次の瞬間その巨体からは想像できない身のこなしで接近してきた酒呑童子に殴り殺されて、二人の敗北は決定した。

 

優子「和真、これって……」

和真「……おそらく、梓先輩の召喚獣が持つ固有能力。召喚獣が九尾であることから考えるとあれは……」

翔子「……狐火」

和真「だろうな。問題なのは、九本の尻尾それぞれから発射された九つの炎が……明らかに遠隔操作されてることだ」

徹「確かに吉井達を囲むように着弾してたけど……もしそうだとしたら、佐伯先輩は九つの狐火を同時に操れるとでも言うのかい!?いくら何でもそんな芸当が……」

和真「そんな芸当ができるからこそ……あの人は常勝無敗だったんだよ」

 

佐伯梓、これまで試召戦争の成績は、数えきれないほどの勝利に対し黒星はたったの一度……召喚大会で和真達が土をつけたあのときのみ。その戦果を可能としているのは点数云々よりも明久と同等以上の精密な操作技術にある。

 

翔子「……並列思考能力が桁違いに高い」

和真「だな。明久も合宿以降ある程度身に付けている力だが、あれは次元が違い過ぎる。あんな芸当は多分……ソウスケでも無理だろうな」

 

おそらくあの九つの狐火を飛ばす技は砲撃のような使い方が正しいのであって遠隔操作機能は精々照準を補正するためにあり、間違っても射出した炎を全て手動で操るような複雑怪奇な使い方をするものではない。梓の使い方はガトリング砲で精密射撃を行っているような、極めて荒唐無稽な使用方法だである。

 

和真「…………島田、明久を回収するついでに仇を討ってこい。ここにいるメンバー以外の残りのペアもついでに連れていけ」

美波「わかったわ、任せなさい!」

 

指示する役を雄二に任されている和真は何を思ったか美波にそんなことを指示した。美波は特に疑問を抱くことなく鼻息を荒くして教室を飛び出していったが、その場のメンバーはなぜ和真がそんな指示を出したのかわからないでいた。全員を代表して優子が問いかける。

 

優子「和真、なんであんな指示を出したの?どう考えても無駄死にするだけじゃない……」

和真「今はとにかく情報が欲しい。綾倉先生からオカルト召喚獣の能力の仕組みを聞いているが、梓先輩はまだ奥の手を隠している。高城先輩に至ってはほとんど何もしてないしな」

優子「ああ、捨て石に使うってわけね……」

和真「多分残しておいてもそれ以外には役に立たねぇだろうしな。あんな狐火が使えるなら、たとえ残り点数が1でもどうとでも逆転できそうだ。だったら今ここで使い潰しても惜しくもなんともねぇだろ?」

優子「アンタねぇ……」

 

暴君ここに極まれりだが言っていることは割と理にかなっているので、優子はもう何も言わないことにした。

 

和真「さあて、お手並み拝見だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、和真の目論見は見事に失敗した。投入したペア達は何の新情報も引き出せず次々と狐火に焼かれて散っていく。そして今、美波・清水ペアが闘っているのだが……

 

 

《甘いでーお嬢ちゃん》

《あぁ!?ウチの召喚獣が!?》

《おのれ!よくもお姉さまの召喚獣を!》

《貴方に人の心配をしている余裕があるのですか?》

《きゃぁあああっ!?》

 

 

……たった今脱落したところである。幾多の試召戦争を潜り抜け、さらに期末試験で大幅にパワーアップした美波と、つい最近Fクラスを(ある意味)苦しめた清水がまるで赤子の手を捻るようにぶちのめされてしまった。残っている三ペアは当然のごとく明久をその場に放置して教室に戻ってきた雄二と、今後どのようにするか方針を話し合っている。

 

雄二「くそっ、あんな隠し玉があるとはな……!」

和真「……あの狐火、想定より遥かに厄介だな」

優子「あれじゃあ遠距離攻撃を持たない召喚獣に勝ち目は無いわね……」

佐藤「となると……少なくとも最低一人は4000点オーバーである必要があるわね」

徹「つまり、残った三ペアにはうってつけというわけか」

翔子「……雄二の仇は私が討つ」

姫路「明久君の無念は、私が晴らしますっ」

和真「おうとも、ここからは二人の弔い合戦だ」

雄二「いや、俺も明久も死んでないからな?……じゃあ次は、誰が行く?」

徹「では僕達から突入するよ。正直勝つ見込みは無いが、削れるだけ削ってきてやる」

雄二「そうか。なら任せたぞ大門、佐藤!」

和真(…………できれば梓先輩とはサシで闘りたかったが……あれほどの強さとなると、勝つためにはそんな拘り捨てなきゃならねぇよな……)

 

本当の闘いはこれからだ。

そして一同は知ることになる……あのペアの恐ろしさはこの程度では無かったということを。

 

 

 

 

 

 

 

 




梓さんがどれだけフザけた芸当をやっているかピンと来ない人のために簡単に説明します。
明久の白金の腕輪はもう一体の召喚獣を喚び出し使役する能力ですが、二体の召喚獣に同時に命令を出すのには作中の描写からもかなりの集中力を必要とすることがわかります。
今回、梓さんは九つの炎を同時に操っています。それはつまり、九体の召喚獣を同時に動かしているようなものです。
ね?キチガイ染みているでしょ?



  

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。