バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

116 / 219
蒼介「一応補足しておくが、召喚獣は異なるが指し示す佐藤と大門の本質はどちらも『小さくて可愛い』だ」

和真「徹は召喚した当初大分怒り狂ったみたいだぜ。試験召喚システムよぉ……流石に3㎝はあんまりじゃねぇか?」


遠回り

徹・佐藤ペアがチェックポイントを撃破したことで、残るはAクラスのみとなった。

間違いなく次のチェックポイントには常夏コンビが、最後のチェックポイントには梓がいるだろう。対戦の約束をしているため、雄二は送り込んだ人達にCクラスを制覇したら一旦戻ってくるよう指示している。

 

雄二「……よし、いくぞ明久」

明久「了解。チェックポイントに到達するまでに悲鳴を上げて失格になったりしないでよ?」

雄二「心配ない。島田達に処刑された後のお前よりグロいもんなどそうそう無いからな」

明久「そうだね。霧島さんにお仕置きされた後の雄二より凄惨な光景なんて考えもつかないよね」

「「はっはっはっはっは…………はぁ……」」

 

お互い自分の環境の壮絶さに気が滅入りつつ、明久達はAクラスに突入した。Aクラスはその広すぎる面積のせいか(なんとDクラスの六倍もある)あまり手の込んだ装飾もされてない。おそらく広さを活かした迷路とお化けになっている召喚獣が突然現れるというシンプルな造りなのだろう。しかし二人は教室の様子にある違和感を覚えた。

 

明久「なんだか……人の気配がほとんどしないね?」

雄二「気配を消してる可能性もあるが……そんなムッツリーニみたいなことができる奴がそうそういるとも思えねぇし……どうなってるんだ?」

 

そんな風に二人が疑問に思っていると、どこからか女子の声が聞こえてきた。肝試しテイストのおどろおどろしい呻き声とかではなく、舌足らずながらもどことなく老獪さを内に秘めたような声色で。

 

『あー、あー。今入ってきた二年生の子らー。多分吉井君と坂本君やろうけど、聞こえとるかー?』

明久「この声、この口調……」

雄二「間違いなく佐伯先輩だな。いったいなんだってんだ?」

『この教室ではセンサーとか外しても構へんでー、もうお化けとかけしかける気無いし。せっかく最終ステージやってのに悲鳴上げて終わりなんて興醒めもエエとこやろ?小細工なしのガチンコで勝負しようや(ブツッ)』

 

二人が目を凝らして辺りを探がすと、少し離れた場所にカセットデッキらしきものが設置されていた。どうやらあらかじめ録音されたテープを流していたらしい。

 

明久「雄二、向こうが良いって言うんだからお言葉に甘えておこうよ」

雄二「無論そのつもりだ。……しかしあの先輩、思ってたよりずっと自信家だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫路「ふぅ……助かりました……」

秀吉「しかし、なんでまたあんな提案してきたんじゃろうな?」

翔子「……どう考えてもこちらに有利過ぎる」

優子「もしかして……舐められてるとか?」

美波「そうだとしたらちょっと頭にくるわね……!」

 

Fクラス教室でも梓の行動を不可解に思っていた。これはお互いのプライドをかけた戦いではなかったのか、と。

しかし梓の人となりをよく知っている飛鳥と和真には梓の真意を理解できた。

 

和真「舐めてるのとは少し違ぇよ。ありゃ圧倒的な実力に裏打ちされた自信だ」

優子「……?どういうことよ?」

和真「雄二達が勝つにしろ負けるにしろ、常夏コンビ担当のチェックポイントは早かれ遅かれ通過できるだろ。となると残っているペア全て梓先輩と、おそらく高城先輩が受け持つわけだが……」

飛鳥「……梓先輩は、それら全てを返り討ちにするつもりよ」

「「「っ!?」」」

 

現在残っているペアは雄二・明久ペア、和真・優子ペア、姫路・翔子ペア、徹・佐藤ペア、美波・清水ペア、その他3ペアほど……二年トップ10が7名を始めとしたそうそうたる面子である。和真達の言葉が真実なら、梓はそれら全てを撃破するつもりでいるらしい。

 

美波「流石にそれはおかしいわよ……。あの先輩、自分の力を過信し過ぎじゃない?」

和真「それがそうでもねぇんだな。……清涼祭の召喚大会で実際に闘って思ったことがある。

 

あの先輩は……桁違いに強い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄二「ぃようセンパイ。待たせたな」

夏川「遅かったじゃねぇか坂本。目上の人間をあまり待たせるもんじゃねぇぞ」

明久「それはすみませんね。日々忙しい先輩達は時間が貴重なんですね?」

常村「当たり前だろ。これでも受験生だ」

 

梓の通達通り三年生達は何も仕掛けてこなかったので、明久達は複雑な迷路を悠々と突破してチェックポイントまでたどり着いた。明久達を出迎えた常夏コンビの二人には、清涼祭のときのような小物臭い言動は見当たらない。

 

雄二「受験……ねぇ?推薦状欲しさにこの学園を潰そうとしたことのある人達が随分真面目になったもんだな?」

常村「お前らのお友達に自分達の情けなさを気付かされてな。……後輩にあんなこと言われて奮起しないようじゃ人間として終わってるからよ」

夏川「……清涼祭と言えば、お前らにも言っておかなきゃならないことがあったな」

明久「な、なんですか……?」

 

何を仕掛けてくるのかと警戒していた明久は思わず身構える。すると、夏川と常村はややばつが悪そうな表情で頭を下げてきた。

 

常村「……清涼祭のときはすまんかったな。お前らの模擬店の邪魔しちまってよ」

夏川「ずっと謝ろうとは思ってたんだが、なかなか機会が巡ってよぉ……」

明久「…………ねぇ雄二……」

雄二「…………言いたいことはわかるぞ明久」

「「……?」」

明久「この変態コンビに殊勝な態度を取られると…」

雄二「気持ち悪いな、サブイボな吹き出るわ」

「「んだとコラァァァァァ!」」

 

やや申し訳なさそうな表情から一転、憤怒の形相に変わる常夏コンビ。まあ人がせっかく誠意を見せているのにあんな罵倒を受ければ、怒るのも無理ないだろう。

 

常村「お前ら先輩に向かって……いや仮に先輩じゃなかったとしてもその反応はあんまりだろ!?」

夏川「こちとらガラでもねぇと自覚しつつもやりきったんだぞコラァ!」

明久「いや、だってねぇ……これ、もう一種のホラーだよね?」

雄二「ああ、これまでのどんな仕掛けよりも恐怖を感じるぜ……」

「「テメェェエェェ!!!」」

 

常夏コンビの顔が真っ赤になっていくに反比例して、雄二達の顔がどんどん青ざめていく。よほど薄気味悪いことだったのだろう。

 

常村「あー、やっぱやめときゃよかった!やっぱこんなバカどもに謝る必要なんざ微塵もなかったわ!」

夏川「こんなクズとカスと不細工とゴミを足したような汚物みたいな奴らに謝ろうとした俺達がバカだった!」

「「なんだとこのヤロォォォオオオ!」」

 

今度は明久達が常夏コンビに食ってかかる番だ。どうでもいいが、もし今センサーを着けていたとしたら明久達は文句なしに失格していただろう。

以下、四人の不毛な言い争いがしばらく続いたが、最終的に立会人の田中先生の仲裁により一旦落ち着いた。

 

常村「こうなったら、召喚獣で実力の違いをわからせてやる!」

雄二「上等だ!白黒ハッキリつけてやろうじゃないか!」

夏川「先輩の恐ろしさを身を持って思い知れ」

明久「ふふん、いつまでもバカのままだと思ったら大間違いですよ!」

 

《《《《試獣召喚(サモン)!》》》》

 

それぞれの足元に幾何学模様が出現し、オカルト召喚獣が姿を現す。夏川と常村の召喚獣はそれぞれ風神と雷神。本質は荒っぽいコンビといったところであろう。明久はデュラハンの首を雄二の召喚獣に見せて狼男に覚醒させる。これで準備は全て整った。

 

 

《社会》

『Fクラス 坂本雄二 322点

334クラス アレクサンドロス大王 274点

VS

 Aクラス 常村勇作 298点

 Aクラス 夏川俊平 282点』

 

「「……………………」」

明久「さぁ勝負だ!僕達の強さを見せて-」

夏川「……おうコラ。ちょっと待てそこのバカ」

明久「……何か不都合な点でも?」

常村「不都合な点しか見あたらねぇよ……」

 

夏川が頭に手を当てて呆れる。

今回のテスト方式では社会は事前に二教科を事前に選んでその平均点となる。明久は日本史と例の世界史を選択したのだが、どうやら試験召喚システムはおそらく五十音順で名前を統一したようだ。

明久が何か言い訳のために口を開く前に、夏川が怒鳴り声をあげる。

 

夏川「何だよアレクサンドロス大王って!?しかも334クラスなんて学校拡張し過ぎだろ!?明らかにこれはお前の点数じゃねぇだろうが!」

明久「ち、違いますよ!ちょっと間違えちゃっただけで、これは正真正銘僕の点数です!名前のミスなんて誰もが一度はやることじゃないですか!」

夏川「無記名ならともかく、何を間違えたら名前がアレクサンドロス大王になるんだ!?」

明久「そ、それはその、えーと……」

 

どのような弁解しようが明久が空前絶後のバカであることは、もはや覆しようの無い事実であろう。

 

雄二「……はぁ……。いい加減茶番は終わりだ、闘いを始めるぞ!」

常村「っ!?このっ……!」

 

どっちらけた空気に業を煮やした雄二が狼男を突撃させる。若干不意を突かれたものの雷神はなんとか応戦する。

 

夏川「……仕方ねぇ。それじゃこっちも始めようじゃねぇか、アレクサンドロス大王様よぉ!」

明久「ごめんなさい先輩!今までのことは謝りますからその呼び方だけは勘弁してください!」

夏川「泣くなよそれぐらいで!?……チッ、仕方ねぇな。それより吉井、さっさとその頭をその辺に置いてこい。待っててやるからよ」

明久「え?いいんですか?」

 

以前雄二と和真がいった通り、デュラハンの頭部は弱点そのものだ。放置したら狙われてダメージを受けるし、抱えて闘うと片手が使えなくなる。わざわざその弱点を潰すような真似をする理由が明久にはわからなかった。

 

夏川「あんまり先輩を見くびんなよ?後輩相手にハンデなんざいらねぇんだよ。ましてやお前みたいなバカ相手にはな」

明久「色々と言いたいことはありますけど、それじゃあお言葉に甘えて……」

 

デュラハンは召喚フィールドの端まで移動し、頭部をそこに置いてからまた戻ってくる。すると吹っ飛ばされた狼男がデュラハンの側に転がり落ち、狼男と交戦していた雷神が風神の隣に立つ。

 

 

《社会》

『Fクラス 坂本雄二 268点

334クラス アレクサンドロス大王 274点

VS

 Aクラス 常村勇作 284点

 Aクラス 夏川俊平 282点』

 

 

明久「雄二、結構削られたね?」

雄二「うるせぇ!くそっ、流石に三年なだけあって操作になれてやがるな……」

常村「観察処分者の吉井はともかく、点数が近けりゃ二年にそうそう遅れはとらねぇよ」

夏川「さてとそれじゃあ……連係ってもんを見せてやろうじゃねぇか!」

 

夏川の言葉を皮切りに、風神と雷神は互いに交差しながら突撃してくる。デュラハンと狼男も応戦しようと構えを取るが、風神と雷神は直前に狼男に標的を集中させる。

 

雄二「しまっ!?」

明久「このっ……!」

 

風神と雷神は高速で狼男の周りを疾走しながら攻撃を加えていく。狼男は素早くも精密な動きについていけず、デュラハンも外側から攻撃を加えるもののなかなか攻撃がヒットせず、大したダメージには至らない。

 

雄二「いい加減にしやがれっ!」

常村「おっと!」

夏川「あぶねーあぶねー」

 

狼男はある程度のダメージ覚悟で突撃するも、風神と雷神は素早く離れて距離を一旦距離を取る。

 

 

《社会》

『Fクラス 坂本雄二 152点

334クラス アレクサンドロス大王 274点

VS

 Aクラス 常村勇作 263点

 Aクラス 夏川俊平 252点』

 

 

流れはかなり常夏コンビに向いている。雄二は状況を打開するため明久に指示を出す。

 

雄二「明久ぁ!白金の腕輪だ!」

明久「了解!二重召喚(ダブル)!」

 

幾何学模様とともに二体目のデュラハンが現れる。ちなみに東部は一体目の頭部の近くに召喚された。どうやら召喚システムは意外と空気が読めるらしい。

 

常村「その腕輪の能力は知ってるぜ!」

夏川「二体を召喚できようが、いくら操作に慣れてるからって同時に操るなんてできねぇだろ!?」

明久「確かにまだ複雑な動きには慣れていませんが……」

 

風神と雷神は再び交差しながら距離を詰めてくる。すると二体のデュラハンは先ほど夏川達がしたように片方の召喚獣に焦点を合わせて斬りかかる。

 

明久「……攻撃をただ一点に集中させればそう難しくはありませんよ!」

常村「なっ!?」

 

二体から攻撃を受けた雷神は吹き飛ばされ、すかさずデュラハン達は追撃を加えるため突撃する。

 

夏川「常村!?今助けに…」

雄二「いかせねぇよ!」

 

援護に向かおうとした風神に狼男が横槍を入れる。さっさとカタをつけてしまいたいところであるが、夏川は少し離れた場所で二体のデュラハンに翻弄されている雷神が気になって集中しきれず、思わぬ苦戦を強いられる。

 

夏川「信じられねぇ……なんで一人の人間が二つの身体をあんなに上手く使えるんだ!?」

雄二「……バカってのは面白いよなセンパイ。一つのことに夢中になると、それに対してとんでもない集中力を発揮しやがる。空手バカとか剣道バカなんて呼ばれてる連中もいるが、そこで言われるバカってのは『物事に集中するヤツ』っていう褒め言葉なんだよ」

夏川「……なるほどな、それがお前らの強みってやつなのかよ……」

雄二「心外だなセンパイ。俺をあんなバカとひと括りにしないで貰おうか」

明久「……それはこっちの台詞だよ」

 

 

《社会》

『Fクラス 坂本雄二 122点

334クラス アレクサンドロス大王 235点

VS

 Aクラス 常村勇作 戦死

 Aクラス 夏川俊平 193』

 

 

気がつけば、風神の首筋に二体のデュラハンが大剣を突き付けていた。

 

雄二「……思ったり早かったじゃねぇか」

明久「鉄人との対決以降、コツを掴んでね」

常村「……すまん、夏川」

夏川「気にするな、多分俺でもどうしようもなかった。……ここまでだな、殺れ」

明久「……僕達の、勝ちです」

 

デュラハンが風神の首を跳ね、第四チェックポイントの戦いに幕を下ろす。

 

常村「まさかお前ら……特に吉井がここまでやるとはな」

明久「ふふん、そうでしょう?このまま最後のチェックポイントも制覇してやりますよ」

夏川「あんま調子乗んなバカ」

常村「少しは自分を省みろバカ」

雄二「センパイ達の言う通りだバカ」

明久「雄二キサマどっちの味方なんだよ!?」

 

四人「「「「…………ぷっ……くく……あっはっはっはっはっは!!!」」」」

 

腹を抱えて笑い合う四人の間には、昨日まであった溝やわだかまりなど影も形も無かった。ここまでくるのに随分遠回りしてしまったが、もう以前のように険悪なことにはならないだろう。

 

夏川「……ただまぁ、あんまり調子に乗らない方が良いのは本当だぜ」

常村「確かに俺達は負けたが、三年が負けたわけじゃないからな。俺達にはまだ佐伯と、ついでに高城がいる」

明久「う……やっぱり強いんですかあの先輩?」

雄二「つっても俺達の戦力もまだ大分残ってるし、あのセンパイともう一人だけじゃ流石にどうしようもないだろ」

明久「それもそうだよね。それじゃ先輩方、僕達は先に進むので」

 

状況を理解しておらず楽観的に進んでいく二人を、常夏コンビは同情の眼差しで見送った。

 

常村「……まあ実際に闘ってみればわかることだ」

夏川「ああ、アイツら……特に佐伯の強さは……ハッキリ言って別次元だからな」

 

 

 

 

 

 

 

 




※「常夏コンビ後に改心」のタグを追加しておきます。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。