バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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こんなタイトルですが、別に死にはしません。


寡黙なる性識者、暁に散る

和真「なあ明久、先輩らは何を仕掛けてきたんだ?」

優子「画面の内外問わずものすごい被害ね……」

    

危機が去ったことを直感で感じ取った和真は未だにややグロッキーな状態の明久達に説明を求める。

 

明久「う、うん。ちょっと、口に出すのも憚れるグロテスクなものがね……あれ?和真達は見てなかったの?」

和真「物思いに耽ってたら俺の勘が突然危機を感じ取ってな、即座に目を瞑った」

優子「アタシはさっきまで和真に目を塞いでもらっていたからどうにか回避できたわ」

雄二「汚ぇぞ!?お前らだけ助かりやがって!」

明久「……相変わらず反則じみてるね、和真の直感」

 

和真が持つ天性の直感は、限りなく完全無欠に近いと評される蒼介ですら持ち得ない才能であり、なおかつ理屈と論理で物事を考える人にとってはまさに不条理と不公平の塊である。

 

『坂本っ!仇を……アイツらの仇を討ってくれ……!』

『このまま負けたら、散っていったあいつらに申し訳がたたねぇよ……!』

 

Fクラスの皆が涙ながらに訴える。和真とてあんな結末を迎えた仲間達を憐れに思わなくもないが、怪我したわけでも死んだわけでもないのに流石に大袈裟すぎやしないだろうか。いや、ある意味大怪我なんだろうが。

 

雄二「わかっている!向こうがそうくるならこっちだって全力だ!突入準備をしている連中を全員下げろ!ムッツリー二&工藤愛子ペアを投入するぞ!」

『『『おおおーーっ!!』』』

 

その二人の名前を聞いて教室中に雄叫びが響き渡った。どうやらムッツリー二と愛子の肩にかかる期待はかなり大きいようだ。

 

『『ムッツリー二!ムッツリー二!』』

『『工藤!工藤!』』

 

鳴り止まない『ムッツリー二&工藤』コールの中、名前を呼ばれた愛子は緊張した様子もなくムッツリー二に近寄って話しかけていた。

 

愛子「だってさ。よろしくね、ムッツリーニ君」

ムッツリーニ「……(コクリ)」

雄二「頼んだぞ二人とも。なんとしてもあの坊主を突破して、Dクラスをクリアしてくれ」

 

Dクラス教室の広さを考慮するとあの殺戮平気を突破したら残りはチェックポイントだけのはず。さらにDクラスに配置されている教師は保健体育の大島先生なので、この二人にとってはまさに独壇場だろう。

 

愛子「う~ん。約束は出来ないけど、一応頑張るよ坂本君」

ムッツリーニ「……あの坊主に、真の恐怖を教えてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明久「皆!もうすぐあの衝撃映像がくるよ!女子は全員目を閉じるんだ!」

 

明久が周囲に注意勧告する間もムッツリー二と愛子の持つカメラが件の場所に悠々と近づいていく。

 

姫路「つ、土屋君がダメだったら、あとはこちらも対抗して明久君がフリフリの可愛い服を着ていくしかありませんね……」

美波「そ、そうね。それしか手は無いものね。仕方ないわよね」

明久「二人とも、そのおかしな提案は恐怖で気が動転しているせいだよね?本当に僕にそんな格好をさせようなんて思っていないよね?」

「「…………」」

和真「こんのバカどもは……だいたいだな、それでいったい何が解決するんだよ……?」

優子「……あっ、だったら和真が-」

和真「優子?たとえお前でもブチコロスゾ?」

優子「じょ、冗談よ……」

 

笑顔の裏に滲ませた濃密な殺気を感じ取り思わず腰が引ける優子。猫耳着用程度は許容範囲な和真だが、女装関連のネタは色々あって余程忌まわしいものであるらしく、たとえ優子だろうと口に出すことすら許さないつもりのようだ。

 

《ムッツリーニ君、あの先だっけ?さっきの面白い人が待ってるのって》

《……準備はできている》

 

戦々恐々としている教室とは対照的に目的地へ向かっている二人は落ち着いている。カメラを構えているのは愛子でムッツリー二が何か別のものを抱えていた。おそらくは夏川対策か何かだろう。

 

明久「やっぱりまた真っ暗になってるね」

雄二「突然現れるほうが効果があるんだろうからな。タイミングを見計らってスポットライトを入れるんだろ」

 

闇の中でカメラが人影を映し出す。

 

和真「(ピクッ)……そろそろだ、優子」

優子「了解」

 

二人がモニターから視線を外したのを見計らって、教室中の全生徒がそれにならう。

 

 

 

 

 

バンッ!(スポットライトのスイッチが入る音)

 

ドンッ!(ムッツリー二が大きな鏡を置く音)

 

ケポケポケポ(夏川が嘔吐する音)

 

 

《て、テメェなんてものを見せやがる!?思わず吐いちまったじゃねぇか!》

《……吐いたことは恥じゃない。それは人として当然のこと》

《くそっ、想像を絶する気持ち悪さに自分で驚いたぜ……。どうりで佐伯の奴が着付け中頑なに鏡を見せてくれねぇワケだ……》

《ムッツリーニ君、この先輩ちょっと面白いね。来世でなら知り合いになってあげてもいいかなって思っちゃうよ》

《ちょっと待てお前!?俺の現世を全否定してねぇか!?ていうか生まれ変わっても知り合いどまりかよ!》

《あ、ごめんなさい。あまり悪気はなかったんですゲロ野郎♪》

《純粋な悪意しか見られねぇよ!…って待てやコラそこのお前!ナニ人のこんな格好を撮ろうとしてやがるんだ!?》

《……海外のモノホンサイトにUPする》

《じょ、冗談じゃねぇ!覚えてろぉおおっ!!》

 

 

和真「……よしお前ら、危機は去ったから目ぇ開けろー」

 

どうやら夏川はダッシュでその場から逃げていったようだ。これでDクラス最大の脅威は消え去った。

 

明久「それにしても、工藤さんって意外と厳しいこと言うんだね。坊主先輩も泣きそうな声になってたよ」

優子「いや、普段の愛子はああいうことは言わないわよ?」

翔子「……となると、誰かの入れ知恵」

秀吉「そう言えば、工藤は突入する前に清水に何かを聞いておったな」

明久「清水って、Dクラスの清水美春さん?」

雄二「なるほど。それならあの罵倒も頷けるな」

和真「心をへし折りきれねぇんじゃ、罵倒としては三流も良いとこだがな」

優子「そんな変な美学持っちゃいけません……」

 

どうやら愛子なりの夏川対策だったようだ。鏡を見せて気持ち悪さを自覚させた後で清水直伝の罵倒で止めを刺したと言うことだ。だがしかしもし入れ知恵したのが和真であったら、より凄惨な結果になっていたこと間違いなしである。

 

 

《……先に進む》

《多分チェックポイントまであとちょっとだよね》

 

 

夏川が走っていった方向に歩き出す二人。パーティションで作られた通路を少し歩くと、その先では三年生が二人待っていた。予想通りさっきの仕掛けに場所を取りすぎたらしい。

 

 

《《《《試獣召喚(サモン)!》》》》

 

 

ムッツリーニの召喚獣はご存じのとおり吸血鬼で、愛子の召喚獣はのっぺらぼうだった。

 

明久「工藤さんの召喚獣がのっぺらぼうだけど、いったいどういう本質なんだろうね?」

秀吉「ふむ……以前ワシは演劇の題目の候補として怪談話を探しておったのじゃが、その中にのっぺらぼうの尻目と言うものがあっての」

明久「尻目?」

秀吉「うむ。そののっぺらぼうはなんでも、人に出会うと全裸になったそうじゃ」 

優子「愛子……」

和真「アイツの本質は結局そんなんか……」

 

愛子と仲の良い二人はこめかみに手を当てて呆れ果てる。まあムッツリーニの相方としてはこの上なく適任かもしれないが。

 

明久「それはそうと、こっちもだけど向こうも分かり易いお化けだよね」

雄二「そうだな。おかげで敵の行動も予測しやすそうだ」

 

一方、三年生の方はミイラ男とフランケンという、かなりメジャーなラインナップだった。本質は怪我をしやすい、本当は優しいといったところだろうか。

 

《保健体育》

「Aクラス 市原両次朗 303点

 Aクラス 名波健一 301点」

 

そして点数は両者とも300点オーバー。固有能力こそ使えないものの、受験科目でない教科でこれだけの点を叩き出せるあたり、この二人は3―Aのなかでも主力生徒なのだろう。

 

 

《ムッツリーニ君。先輩たちの召喚獣、なんだか強そうだね。召喚獣の操作だってボク達より一年も長くやってるし、結構危ないんじゃないのかな?》

《……確かに、強い》

 

 

 

《保健体育》

「Aクラス 工藤愛子 498点

 Fクラス 土屋康太 796点」

 

《……が、俺達の敵じゃない》

《だね♪》

 

 

刹那、ミイラ男とフランケンは為す術もなく地に臥した。いかに経験や操作技術で勝ろうとも、圧倒的な戦力差の前では何の意味もない。

 

和真「流石ムッツリーニ、瞬殺だったな」

優子「796点って……。愛子はともかく、土屋君の召喚獣は何をしたか全く見えなかったわ……」

和真「物凄いスピードで接近した後、手から伸ばした赤い爪で相手の召喚獣を串刺しにしてたぞ」

優子「よく視認できたわね……」

和真「動体視力にも自身あるからな。しかし俺でもムッツリーニの動きに集中するのに精一杯で愛子の方に意識を割けなかったんだが、愛子の召喚獣は何やってたんだ?」

優子「えっと……一瞬で全裸になってミイラをボコボコにしてから、また服を着ていたわよ……」

和真「是が非でもそういう方向に持っていきてぇのか試験召喚システム……」

 

実際のところは精一杯でもなんでもなく、薄々そんな予感していた和真が愛子の召喚獣を見ないようにしていただけである。隣では全く見えていなかった明久に雄二が愛子の召喚獣のことだけ説明している。その様子からどうやら雄二は愛子のはともかく、ムッツリーニの召喚獣の動きは捉えられなかったらしい。

 

翔子「……雄二。浮気の現行犯」

雄二達「な!?ち、ちが……っ!?工藤の召喚獣は見ようとしたわけじゃないから不可抗りょぎゃぁあああああっ!」

翔子「……浮気は許さない」

優子「坂本君は結局こうなるのね……」

和真「見ろよこのグロテスクな光景。こんなの見慣れてたらたかが肝試し程度怖くもなんともなくなるに決まってんだろ」

 

 

《じゃあDクラスもクリアってことで。次はどうするんだっけ?》

《……Cクラス》

《はーい、了解。……ところでムッツリーニ君。どうして鼻にティッシュを詰めているのかな?》

《……花粉症》

《へぇ~……ふ~ん……花粉症ねぇ~》

 

 

ムッツリー二の鼻血の原因に心当たりがあるようで、愛子ががさっきからニヤニヤと笑っている。ちなみに明久は愛子の召喚獣のストリップを見逃したことを心の底から後悔していた。

 

姫路「あの、明久君。なんだかいやらしいこと考えてませんか?」

明久「ううん。ちっとも」

姫路「本音は?」

明久「後でムッツリー二に今の対決をスロー再生してもらおうと思ってる」

優子(誤魔化し下手っ!?)

姫路「確かこれが土屋君の記録用のハードディスクでしたよね」

明久「あぁぁっ!返して姫路さん!それは持ってっちゃダメだよ!その、えっと……そうだ!不正監視用に使うかもしれないから!」

姫路「大丈夫です。これだけの人数が証人として見てますから」

和真(ムッツリーニが戻ってきたら血の涙を流しながらうちひしがれるだろうな……)

美波「(小声)そ、そっか。アキは小さくても興味あるんだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《あれ?この口が二つある女の人ってなんのお化けだっけ?》

《……ふたくち女》

《じゃあ、あっちの身体が伸びてる女の人は?》

《……高女》

《そっちの毛深い男の人は?》

《……どうでもいい》

 

 

和真(わかりやすい奴……)

 

Bクラスよりは狭いものの、Dクラスの倍はある教室をスタスタと二人は歩いていく。夏川を突破した二人が普通のお化け程度で臆するはずもなく先へ先へ進んでいく。

 

明久「順調だね雄二。このままだとあの二人で全部突破できちゃうんじゃない?」

雄二「それはどうだろうな。ここのチェックポイントまではたどり着けるかもしれないが、相手も遅かれ早かれ対策ぐらいはしてくるだろう」

明久「え?どういうこと?」

雄二「三年もムッツリーニって名前は知らなくても『保健体育が異様に得意なスケベがいる』ってことくらいは知っているだろうな。そうなると、弱点もバレている可能性が高い」

和真「アイツの弱点っつっても、鼻血噴いて倒れるだけじゃ……まさか!?」

 

言葉の途中で、和真は雄二が何を懸念しているのかを察した。それと同時にとある二人の先輩が和真の脳裏を掠める。

 

雄二「気付いたみたいだな和真」

明久「二人とも、どういうこと?」

優子「アタシにもよくわからないんだけど……」

雄二「悲鳴じゃなくても標的に大きな音をたてさせるのは可能ってことだ。そうだな、例えば鼻血の噴出音とかな。……和真、三年の知り合いでそんなことが可能な先輩に心当たりは?」

和真「……ある。点数的にも申し分ねぇし、俺が梓先輩なら間違いなくあの二人をチェックポイントに置く」

優子「なるほど、あの先輩方ね……。

となると、土屋君はもうダメそうね……」

明久「あ、あはは……何を言ってるのさ。いくらなんでも鼻血の音でアウトになるなんて……」

 

四人がモニターに視線を戻すと、ムッツリーニ達はチェックポイントに到達したようだ。二人の持つカメラは薄明りの下に佇む二人の女性の姿を捉えていた。

 

 

《…………っ!(くわっ)》

《む、ムッツリーニ君?何をそんなに真剣な顔を……って、なるほどね……》

 

徐々にその人達の姿がはっきりと浮かび上がる。

片方の女性は髪を結い上げ、着物を色っぽく着崩した切れ長の目の綺麗な美人、小暮葵。

もう片方はウェーブのかかった髪の、着物の上からでも非常にグラマラスな体型であると判別できる超長身の美女、宮阪杏里。

 

『『『眼福じゃぁーっ!』』』

 

教室の中から歓喜の声が大反響する。まあ健全な男子高校性としては正しい反応であろう。あれに靡かない男子は、もう既に優子以外への異性への興味をなくしている和真や、同性愛者の久保や、コンプレックスのせいで自分より背の高い人を異性として見られない徹や、強面なため普段から女子に避けられているせいで異性に対しての幻想をとうに捨てている源太ぐらいのものであろう。

明久や雄二も、翔子や姫路達の前でなかったら間違いなく叫んでいただろうと断言できる。

 

翔子「……雄二」

雄二「み、見ていない!俺は全然見ていないぞ翔子!」

翔子「……私だって、着物を着たらあんな感じになる」

 

珍しく翔子がムッとしてふくれている。小暮は翔子と似たタイプの女性なため対意識があるのだろうか。ちなみに杏里と胸のサイズを比較しようものなら死は免れないと本能が告げていたため、雄二は杏里の方には是が非でも視線を移すまいと心に誓っていた。

 

 

《……この……程度で……この俺……が……っ!(ドボドボドボ)》

《ムッツリーニ君、鼻血が止めどなく流れているよ!?》

《……問題、ない……っ!(ドボドボドボ)》

 

 

当然のごとくムッツリーニの鼻から赤い液体が湧き出ているが、センサーを越えるような噴出音ではない。

 

明久「すごい!あのムッツリーニがここまでの色気を相手にあの程度の噴出で持ちこたえるなんて!この勝負は勝ったも同然だよ!」

優子「いや、あの程度ってレベルじゃないでしょあの量は……ある意味すごいけど……」

和真「まあアイツのことだ、輸血パックくらい用意してるだろ。それよりもだ、まだ奥の手がありそうだぜ……」

明久「え?」

 

この時点で既に和真は結末を予測していた。心の中でこれから死にゆくムッツリーニに十字を切る。

 

 

《ようこそいらっしゃいましたお二方。私、三年A組所属の小暮葵と申します》

《同じく三年A組所属の宮阪杏理……》 

《……》←輸血中

《こんにちわ、ボクは二ーAの工藤愛子です。その着物、似合ってますね》

《ありがとうございます。こう見えてもわたくし、茶道部に所属しておりますので》

《私は梓にいつの間にか着せられていた……》

《あ、そっか。茶道って着物でやるんでしたっけ。その服装はユニフォームというわけですか。宮阪先輩はともかく、小暮先輩の着方はちょっとエッチだけど》

《最初は私も葵みたいな着せ方されたけど、流石に精一杯抵抗した……》

《そっちも色々と大変ですね……。では、そろそろ始めましょうか》

《そうそう工藤さん、実はわたくし……》

《?なんですか?まだ何か》

 

 

 

 

 

《……新体操部にも所属しておりますの(バサッ)》

《……なんでこんなことに……(バサッ)》

 

二人の着物は突然脱ぎ捨てられ、その下からは、レオタードを見に纏う小暮と杏里が現れた。

 

『土屋康太、音声レベルおよびモニター画像すべてが真っ赤!失格です!』

 

雄二「畜生!やり方が汚ねぇ!はだけた着物だけでも限界ギリギリだってのに、その下に露出満点のコスチュームだと!あのムッツリーニがそんなもんを直接見て耐えられるわけがねぇだろうが!」

明久「全くだよ!なんて汚い手を使うんだ!とにかく雄二は急いで対策を練って!僕は今から姫路さんに土下座して、さっきの記録用ハードディスクを設置しなおしてもらうから!」

雄二「わかってる!抜かるなよ明久!」

明久「もちろんさ!必ず録画してみせる!」

 

そんな会話を繰り広げる二人を冷めた目で見てから距離を取り、ふと優子は気になることがあったので和真に聞くことにする。ちなみに明久と雄二は当然の如く翔子や姫路達にお仕置きを受けて撃沈することになる。ここまでテンプレである。

 

優子「和真、宮阪先輩ってあんなこと進んでやるような人だったかしら……?」

和真「面白いぐらいに目が死んでたから、多分梓先輩あたりに強引に承諾させられたんだろ。あの人押しに弱いし」

 

おおかた得意の舌先三寸でうまいこと丸め込んだのであろうと和真は予想する。しかし優子にはまだ納得しきれていなかった。

 

優子「……土屋君一人を失格させるために、いくらなんでも本気を出し過ぎじゃない?彼、保健体育を通過してしまった今ではそこまで重要な戦力というわけでも…」

和真「そりゃ違うぞ優子。この作戦による被害は、おそらくこの程度では収まらねぇ」

優子「え?どういうことよ?」

和真「俺達二年はソウスケ以外の男子全員が、覗き騒ぎを起こして停学になった前科があるんだぞ?あんな光景を見せられたらそりゃあ…」

 

 

『大変だ!土屋が危険だ!助けに行ってくる!』

『一人じゃ危険だ!俺も行く!』

『待て!俺だって土屋が心配だ!』

『俺も行くぜ!仲間を見捨てるわけにはいかないからな!』

 

 

『『『うぉおおおおぉぉっ!新体操ぉぉぉぉぉっ!!』』』

 

 

和真「……当然こうなる」

優子「もう返す言葉も無いわ……」

秀吉「突入と同時に全員失格したようじゃな……」

美波「なんでうちの学校の男どもってこうもバカだらけなのかしらね……」

姫路「どうして覗き騒ぎが起きたのかよくわかる気がします……」  

 

大勢の男子生徒が独断専行で突入し、あっという間に全滅した。お馴染みのFクラスのメンバーはともかくE~Aらの男子も含まれているあたり、二年の男子がいかに欲望に忠実なのかが伺える。

 

雄二「う……うぅ……ま、マズイな……。このまま放っておいたら男子は久保以外全滅しちまう……」

 

翔子に目潰しでもされたのか、両目を押さえながら雄二が呻く。和真と違って全生徒の人となりを把握しているわけではないので、そう判断するのも無理はない。

 

和真「そう決めつけるのは早いぞ雄二。久保以外にも大丈夫な奴に心当たりはある」

優子「……一応聞いておくけど、和真は大丈夫よね?」

和真「たりめーだ、俺にはお前しか見えてねぇ」

優子「…そ、そう…………アリガト……」

和真「……オイ、自分から聞いといてその反応やめてくんない?顔が焼けつくように熱くなるから」

雄二「イチャついてないで話を進めてくれないかお前ら、ことは一刻を争うんだぞ……」

翔子「……雄二も和真を見習って欲し-」

雄二「ともかくだ!!!あてがいくつかあるのは間違いないんだな?」

和真「ああ、特に徹はあの二人とは因縁があるからな……そろそろ出撃許可を貰いに来るだろうぜ」

 

片方は清涼祭で辛酸を舐めさせられた相手、もう片方はこの上なくコンプレックスを刺激する長身の女性。徹にとっては性欲よりも恨みと憎しみが勝る相手であること間違いなしだ。

 

雄二「なるほど、大門か……ならそれまでに俺も手を打っておくか。向こうは色香で攻めてくるなら、こっちは……」

明久「女子のペアに行ってもらうわけだね。よし、頼んだよ秀吉」

優子(秀吉は毎回こういう扱いなのね……)

秀吉「……明久よ。誤解しておるようじゃが、ワシとて異性に興味はあるのじゃからな。特にお主にはそのことを覚えておいてもらわんと、ワシも色々と困」

明久「……え……?異性に興味があることを覚えておいて欲しいだなんて、秀吉……。みんなの前でそんなこと言われても、僕はその……」

秀吉「ま、待つのじゃ明久!今のはお主への遠回しな告白ではないぞ!?なにゆえ頬を赤らめておるのじゃ!?」

((もう勝手にして……))

 

どうあがいてもそういう方向に着地してしまう秀吉に、和真と優子は憐れみを通り越して何だか面倒臭くなってきたた。

 

姫路「不公平です……どうして木下君だとあれだけで告白だと……」

美波「ウチなんて、キスまでしたのに……」

雄二「まぁ気にするな姫路、島田。秀吉は最初は男と接していた分、心の距離が近いんだ。……とにかく、今は肝試しだ。皆よく聞け!次は橘・秀吉ペアで行くぞ!」

明久「頼んだよ秀吉。無事に帰ってきてくれたら……僕は君に伝えたいことがあるんだ」

秀吉「そのセリフを聞くと、明らかにワシは無事では済まん気がするぞい……」

 

 

 




和真「なぜ飛鳥が秀吉とペアを組んでいるのというと、ペア相手に困っているところを優子に紹介されたからだ」

蒼介「真面目な飛鳥は私という婚約者がいる身で男子と組むことを良しとしなかったようだ。かといって女子と組もうとしても…」 

和真「アイツは大半の女子から恋愛的な意味で好意を向けられているからな~……俺のような観察力もないので、同性愛に目覚めていないかどうか運否天賦ロシアンルーレットになってしまう」

蒼介「そういう事情でペアをどうするか困っている姿が木下姉の目に止まった、という流れだ」



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