バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【バカテスト・現社】
以下の問いに答えなさい

『国連環境開発会議について説明しなさい』

姫路の答え
『1992年にリオデジャネイロで開催された国際連合主催の会議の事。環境や開発について各国の首脳が集まって話し合うもので、地球環境サミットとも呼ばれる。この会議においてリオ宣言やアジェンダ21、森林原則声明が合意された』

蒼介「正解。地球環境に対する取り組みが各国で盛んに協議されている中で執り行われた重要な会議の一つだ。この会議は姫路の挙げた二つの名称の他に、リオ・サミットという名前でも呼ばれる。後学のためにも覚えておくと良い」


ムッツリーニの答え
『一言で説明するのは難しい』

蒼介「後で職員室に行くように。時間をかけてじっくりと聞かせてもらうと伝言を預かっている」


明久の答え
『UNCED』

蒼介「略称を聞いているわけではない」


源太の答え
『United Nations Conference on Environment and Development』

蒼介「だからといって略さずに書くな」








第一関門

明久「うわぁ……。なんか、凄いことになったね……」

秀吉「そうじゃな……。ここまでやるとなれば、学園側もかなりの投資が必要じゃったじゃろうに……」

和真「スポンサーがスポンサーだからな。資金なんざ湯水の如く湧いてでてくるからこの程度造作もないだろうよ」

 

翌日、お化け屋敷と化した新校舎三階を和真達は目の当たりにした。薄暗い雰囲気といい、外観からでも伝わってくるほどに複雑そうな構造といい、遊園地のお化け屋敷顔負けの絶妙な凝り具合であった。

 

雄二「こりゃ三年側も結構本気だな。連中も講習最終日くらいはハメを外したかったてところか?」

和真「仕切ってるのが梓先輩だからな。ほら、あの人俺と似たような性格をしているから」

雄二「ああ、なるほどな……」

 

応援してくれた学園側や設営を仕切った三年生がここまでやるとは雄二も思っていなかったようだが、和真の言葉を聞いて納得したようだ。和真は遊びに対して“遊び”が無い男だ。それに似た性格であるならとても生半可なもので満足するとは思えない。

 

姫路「こ、ここまで頑張ってくれなくても良かったんですけど……」

美波「そ、そうよね。頑張りすぎよね?」

 

雰囲気満点な造りになっている装飾を見て、姫路と美波は顔に縦線を入れていた。苦手な人にとってこの完成度はもはや生き地獄同然だろう。

 

明久「雄二、僕らは旧校舎に集合だったよね?」

雄二「ああ、三年は新校舎三階、俺たちは旧校舎三階でそれぞれ準備。開始時刻になったら1組目のメンバーから順次新校舎に入って行くって寸法だ」

 

旧校舎と新校舎をつなぐ渡り廊下は防火シャッターが下ろされていて、おどろおどろしい雰囲気は伝わってくるものの中の様子はわからない。おそらく中では梓を筆頭に三年生たちが二年生達を脅かそうと手ぐすねを引いていることだろう。

 

ムッツリーニ「……カメラの準備もできている」

 

大きな鞄を誇らしげに掲げるムッツリーニ。あの中には何台ものカメラが入っているようで、二年生達はそのカメラを持って中を進んでいくことになる。不正チェックと通過の証拠、あとは待っている連中に中の様子を見せて退屈させない為だとか他にも色々な理由がある。

 

和真(しかし解せねぇな……なんで先輩達は『カメラで事前に知っていたら脅かしにくくなる』とか言ってこなかったんだ?昨日の交渉から見るに梓先輩はそんな手緩い人じゃねぇだろうし……チッ、情報が少な過ぎるから考えても仕方ねぇな)

雄二「俺たちの準備はカメラとモニターの用意と組み合わせ作りだな」

明久「あ。そっか。組み合わせをまだ決めてなかったよね」

 

ルールでは肝試しは基本二人一組。これはその手のものを怖がらない人がいても肝試しが盛り上がるようにという意図があったらしいが状況が変わった今では、勝つために全く怖がらない人同士を組み合わせるのがセオリーだろう。

 

雄二「まあ組み合わせは各々で決めればいいだろ」

明久「え?雄二、いいの?」

雄二「別に良いだろ。俺は地獄の鉄人補習フルコースをサボりたかっただけだからな。肝試しの準備も三年生がやってくれたんだ。体育祭の準備や片付けくらい引き受けても大した問題じゃないだろ」

和真「ふざけんな。やるからには…絶対勝つ!」

雄二「俺だって負けてやるつもりはねぇから安心しろ」

秀吉「じゃが、雄二と明久はあの常夏コンビと個人的な勝負の約束をしておるではないか」

雄二「もちろんそれは忘れてない。……つーわけで明久、死ぬほど癪だが俺とお前のペアってことになる」

明久「それはこっちの台詞だよ、なんでこんなむさ苦しい奴と……アレ?でも雄二、霧島さんと組まなくていいの?」

雄二「あんだけ露骨に挑発されたんだ、ここで逃げるのは流石に俺のプライドが許さねぇ」

明久「まあ、そうだけど……よく霧島さんが許してくれたね?」

雄二「全身全霊で土下座して許しを貰った」

和真「雄二、俺のプライドがなんだって?」

雄二「頼む、何も言わないでくれ……」

 

何だか本末転倒なことをしているようだが、プライドと命を天秤にかけたのなら後者を取るのが正解だろう。実を言うと翔子は事前に和真に説得されていたため実は土下座しなくても許してくれただろうということを、雄二の面子のためにも和真は黙っておくことにする。

少し離れた場所で美波いつものように清水に迫られていた。いつもなら明久を巻き込んで逃げようとするだろうが、決闘に水を差すことを断じて認めない和真によって釘を刺されていたのでそれは不可能であった(もしそんなことをしようものなら簀巻きにして清水に献上すると事前に脅しも受けている)。最終的に美波は自律型召喚獣襲来時に体を張って守ってくれたお礼として、暗闇で何もしないことを条件にペアを組むことにした。清水としてはやや不満な条件であったが、さりげなく和真によって派遣されてきた飛鳥の説得により了承することになった。その一部始終を見届けた明久はとある疑問を抱く。

 

明久「あれ?橘さんと言えば……和真、鳳君は夏期講習に参加してなかったの?」

和真「してるわけねぇだろ。どう考えても完全に時間の無駄だし、そもそもアイツは激務に追われているだろうからな」

雄二「御曹司ってのも大変だな。……ってことは、今回鳳は不参加か」

和真「……。まあアイツ抜きでも充分勝てるだろ」

雄二(……ん?何か違和感が……)

 

一瞬間が空いたような気がして雄二は和真の方を向くが、特にこれといった異常は見当たらない。気のせいであったと意識を切り替える。

 

雄二「さて。そろそろ突入順とかも決めなきゃならんし、くっちゃべってないで集合場所に急ぐぞ」

明久「あ、うん。本部は僕らのFクラスだったよね?」

雄二「ああ。Eクラスも待機場所として用意してあるけどな。流石にFクラスだけじゃ人数が多くて入りきらない」

 

参加者は補習が義務付けられたFクラス五十名全員と夏期講習に参加していた有志百名程度、合計だいたい学年の半分程である。教室へ移動中に残りのメンバーも合流し、いつもの面子が揃う。

 

雄二「ところでムッツリー二、モニターの準備は?」

ムッツリーニ「……問題ない。Aクラスの設備のディスプレイを運び込んである」

和真「相変わらず仕事が早いな」

雄二「よし。そんじゃ、夏の風物詩を気軽に楽しもうぜ」

明久「そうだね。今回は酷い罰もないし、楽しもうか」

和真「だな。気軽に楽しんだ上で……是が非でも勝つ!」

秀吉「お主はとことん勝ち負けに拘るのう」

姫路「私はあまり、楽しみじゃないです……」

翔子「……瑞希、あまり固く考えないで」

美波「お化けもそうだけど、ウチは貞操的な意味でも色々と憂鬱になるわ……。美春が橘さんの説得に素直に従ってくれると良いけど……」

ムッツリーニ「……色々といいショットを期待してる」

 

俄に活気づき始めた校舎の中、突如降って湧いたお祭り騒ぎにそれぞれの思いを抱きながら歩く。

 

明久「ところで和真は誰とペアを組んだの?」

和真「あん?優子だけど?」

「「ホァタァァァッ!」」

和真「(ガシッガシッ)いきなり何すんだお前ら」

明久「ずるいよいつもいつも和真ばっかり!僕なんてあんなムサいゴリラとペアなのにさ!」

雄二「俺の台詞だこのクズ野郎!」

ムッツリーニ「……殺したいほど妬ましい……っ!」

和真(明久はともかくムッツリーニ、お前はちゃっかり愛子とペア組んでただろうが……)

 

そんな感じで和真は嫉妬に狂った二人の猛攻を適当にあしらいつつFクラス教室に進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

《ね、ねぇ……。あの角、怪しくない……?》

《そ、そうだな……。何か出てきそうだよな……》

 

ムッツリー二がAクラスから運びだしたモニターから、尖兵として出撃していったBクラスの男女ペアの映像と音声が流れてくる。まず最初に向かうことになっているのは校舎の造りの関係上Bクラス教室のチェックポイントで、そこは古めかしい江戸時代あたりの町並みをモチーフとしているようであった。演出の為に光量が絞られていてボヤけた感じのその画はモニター越しでも結構なスリルがある。カメラが見るからに怪しい曲がり角を中心に周囲を映していく。カメラを構えた二人は入念な警戒態勢を取りながらそちらへ歩みを進めていた。

 

姫路「み、美波ちゃん……。あの陰、何かいるように見えませんか?」

美波「きき気のせいよ瑞希。何も映ってないわ」

 

まだ何のアクションも起きていないのに、姫路と美波が怖がりながら手を取り合ってモニターを遠目から見ている。

 

優子「(パチッ)まだ序盤なのにそんな調子じゃ、先が思いやられるわよ二人とも」

和真「優子も怖かったら我慢しなくて良いんだぞ?そしたら盛大に笑ってやるから(パチッ)」

優子「そこは勇気付けてよ彼氏なら(パチッ)」

和真「お前がこの程度の仕掛けで怖じ気づくなどありえねぇって信じてるからな(パチッ)」

優子「……嫌な気はしないわね。はい王手(パチッ)」

和真「ぅげっ!?しまった!?」

姫路「あの、お二人とも……」

美波「なんでアンタ達はこんなときに将棋なんかやってるのよ……?」

「「え?いや、暇だから」」

美波(あぁ……ここまで図太いなら確かにお化けなんかで怖じ気づくわけないわよね……羨ましい……)

姫路(私達は自分が行くときのために恐る恐るチェックしてるのに……この様子だとこの二人は事前情報無しでも多分平気なんでしょうね……)

 

ちなみに戦況は当然のごとく優子が圧倒的に有利である。詰まされるのはもはや時間の問題であろう。

 

《行くぞ……っ!!》

《うん……っ!》

 

画面越しに聴こえてきた音声の反応して姫路達が恐る恐るモニターに視線を移す。カメラが曲がり角の側を映し出し、予想される恐怖に二人が固唾を飲むが、カメラはその先に続くただの道を映し出していただけだった。

 

美波「な、なによ。何もいないじゃない……」

姫路「良かったです……。あそこは安心して進めるんですね……」

 

二人が胸を撫で下ろしたその瞬間。

 

《《ぎゃぁあああーっ!?!?》》

 

「「きゃぁあああーっ!?!?」」

 

カメラの向こうから大きな悲鳴が響き、それを聞いた姫路と美波も同時に悲鳴を上げる。余程怖いものが苦手なのだろう。

 

ムッツリーニ「……失格」

 

機材を指さしながらムッツリーニが呟く。カメラ①と書かれたデジタルメーターは一瞬で跳ね上がり、赤い失格ラインを遥かに超えた音声レベルを示していた。

 

翔子「……???」

 

ちなみに同じ女子でも翔子は姫路や美波が何を怖がったのか全然わからないようで、しきりにモニターと姫路達を見比べては首を傾げている。

 

優子「(パチッ)はい、また王手」

和真「………………参りました」

優子「ふふん、またアタシの勝ち♪」

 

優子にいたってはモニターにも騒いでいる姫路達にも意に介することなく、得意気な表情で和真を投了させていた。この二人はもう肝を試す必要がまるで見当たらない。

 

明久「う~ん……。先発隊が一つ目の曲がり角でいきなり失格なんて……。向こうもかなり本気だよね」

雄二「だな。流石は三年といったところか」

 

カメラは計五台用意しており時間をずらして何組かが突入することになっているが、二組目が出発する前にいきなり一組目が失格になっていた。

 

明久「これだと最初のところに何があるのかわからないね」秀吉「あれではむしろ余計身構えてしまい、恐怖が助長されるだけじゃな」

ムッツリーニ「……二組目がスタートした」

 

カメラ②と書かれたモニターを指差すムッツリーニ。そちらにはAクラスの男女ペアが進んでいく姿が映し出されている。 

 

明久「今度は向こうがどんなことをしてくるのかがはっきりと映るといいね」

秀吉「そうじゃな」

雄二「……いや、それは難しいだろうな」

明久「え?雄二、それってどういう-」

 

《《ひゃぁぁあああーっ!?!?》》

 

「「きゃぁあああーっ!!」」

 

明久が雄二に質問し終わる暇もなく、またもやモニターの向こうから悲鳴が聞こえてきた。

 

ムッツリーニ「……失格」

 

今度はさっきと若干違ってまだ曲がり角が見えたばかりの地点だった。どうやら驚かすポイントをずらしてきたらしい。

 

《ち、血まみれの生首が壁から突然出てきやがった……》

《後ろにいきなり口裂け女がいるなんて……》

 

モニター越しに呟きが聞こえてくる。カメラには何も映らなかったのはおそらく死角から突然現れたからだろう。今回の召喚獣は今までと違い等身大になっているので、血濡れの生首も口裂け女もやけにリアルな造形でより恐怖感を煽ることだろう。

 

秀吉「のう雄二。さっきおぬしが言った難しいとはどういうことじゃ?」

翔子「……カメラを使っているのは私たちだけじゃないと思う」

明久「え?三年生もこの映像を見ているってこと?」

雄二「そりゃそうだろ。そうじゃなかったらカメラの使用なんて俺たちに有利すぎる。文句を言ってこなかったのは、向こうは向こうでメリットがあるからだ」

明久「そうなの?僕はてっきり自信があるからだと思ってた」

雄二「まぁそれもないわけじゃないだろうが、昨日の感じからして佐伯センパイとやらはそんな甘い相手じゃない。こちらの動きをカメラの映像で見ることができれば、標的がどの位置でどこらへんに注意を払っているのかがわかるからな。驚かす側としてもタイミングが取り易いし、死角から襲い掛かるのも簡単だ」

明久「あ、そっか」

 

位置の確認くらいなら他の方法でも可能であるが、どこに注意を払っているかはカメラを通したほうが断然わかりやすい。おそらくそういったメリットを得られるからこそ梓はああもアッサリとカメラの使用を許可したのだろう。

 

雄二「おまけにお前以外の召喚獣は物に触れないから障害物をすり抜けて急襲出来る。相手の位置と方向さえわかれば、いきなり背後に化け物を配置するなんてことも可能になるな」

秀吉「なるほどのう、ワシら自身が相手に情報を与えておるのか。それは向こうもさぞかしやりやすいじゃろうな」

ムッツリーニ「……召喚獣を使った肝試しならでは」

 

モニターには三組目の撮っている映像が映し出されているが、今度もチェックポイントに辿り着くこともなく失格になっていた。

 

明久「佐伯先輩はここまで全部計算ずくだったのかな?」

雄二「多分そうだろうな。あのセンパイ、可愛い顔してかなりのやり手だ」

翔子「……雄二、浮気?」

雄二「言葉の綾だ!?それくらいわかれ!?」

翔子「……うん、冗談(ニコッ)」

雄二「……お前、最近和真に似てきやがったな……」

 

とはいえそのお陰で思い込みの激しさが多少緩和されているのも事実なので、いまいち文句を言いにくい雄二であった。

 

雄二「とは言え、あまり切羽詰ってなくても和真の言う通り勝負は勝負。一方的にやられたままっていうのも気にくわねぇ。最初は様子見と思っていたが、これはそうも言ってられないな。あまり点数の高い連中が失格になりすぎるとチェックポイントが辛い」

明久「そうだね。向こう側もチェックポイントには成績のいい人を配置しているだろうからね」

 

三年側の召喚獣バトルをする生徒はは全部で五組十人。その人数なら間違いなく全員をAクラスメンバーで埋めてくるだろう。さっきのように点数の高い人を無駄遣いしていると、チェックポイントのバトルで全滅という可能性もありうる。

 

雄二「んじゃ、こっちも手を打つか。皆!順番変更だ!Fクラスの須川&福村ペアと、同じくFクラスの朝倉&有働ペアを先行させてくれ!」

 

雄二がその場に座ったまま声を上げると、しばらくしてカメラ④と⑤のモニターにそれぞれFクラスの見慣れた顔が映し出された。

 

《行ってくるぜ!》

《カメラは俺が持つぞ》

 

時間をずらして突入することになっているので、朝倉と有働には待機をさせてまずは須川と福村がカメラを構えて歩みを進める。度胸があるのかそれとも何も考えていないのか、二人は何の躊躇もなく件の曲がり角へと迫っていった。

 

姫路「あ。こうやって何でもないように映してもらうと、さっきよりも怖くなくて助かります」

美波「そうね。これならまだマシよね」

 

二人の言い分はもっともで、警戒している人のカメラワークよりこのように無警戒で素早く進んでいくほうが安心して見られる。脅かす側としてもタイミングを取りづらいだろうし一石二鳥だ。

 

《お、あそこだったか?何かが出るって場所》

《だな》

 

三組のペアが無惨にも散っていった曲がり角をカメラが映し出す。二人がカメラを構えたまま角を曲がり、何気なく横の壁を映し出すと、

 

「「きゃぁあああーっ!!」」

 

そこには血みどろの生首が浮いていた。そしてそのままカメラは更に動いて背後を映し出す。そこにいたのは耳まで口が裂けている女の妖怪。よくよく見ると姫路達だけでなく他の場所でモニターを見ていた人達も恥も外聞もかなぐり捨てて喚き散らしてていた。

 

《おっ。この人、少し口は大きいけど美人じゃないか?》

《いやいや。こっちの方が美人だろ。首から下がないからスタイルはわからないけど、血を洗い流したら綺麗なはずだ》

 

まあ、流石は常識が通用しないことに定評のあるFクラス、当の二人は平然としているどころか妖怪の品定めを行っていた。

 

美波「な、なんでアイツらあんなに平気そうなのよ!?アキたちも!怖くないの!?あんなにリアルな作りのお化けなのよ!?」

 

美波が顔を青くしてそう叫ぶが、正直言って的外れにもほどがある。Fクラスの生徒達が今さらあの程度で心を乱されるはずが無い。

 

明久「別に命の危険があるわけじゃないからね」

雄二「グロいものはFクラスで散々見慣れているしな」

ムッツリーニ「……あの程度、殺されかけている明久に比らべれば大したことはない」

秀吉「そうじゃな。姫路や島田が明久に行う折檻や霧島が雄二に行うお仕置き、異端審問会の処刑の数々に比べれば可愛いものじゃ」

 

逆に言えば、常日頃今以上にグロテスクな光景を作り出している元凶である姫路達が喚き散らしているのはある意味滑稽でしかない。

 

優子「(パチッ)はい、角成り」

和真「………………参りました」

優子「よろしい♪さて、そろそろあっちに混ざりましょうか?」

和真「……お願いします優子様、もう一回……あともう一回だけ……!」

優子「そこまで頼まれちゃ仕方ないわね、あと一回だけよ?……あ、でも次負けたら罰ゲームとして“アレ”、着けてもらおっかな♪」

和真「んなっ!?………………チッ、上等じゃねぇか!今度こそ俺が勝ぁぁぁつ!」

優子「……今度は駒落ちでやってあげようか?」 

和真「…………いや、それやったら何か大事なものなくしそうだから平手で良い……」

 

ちなみにこっちは相変わらず将棋に没頭していた。和真も一応投了の見極めができるくらいには成長しているようだが、二人の実力にはまだまだ小さくない開きがある。それでも和真の内に秘められた闘志は退くことを許してくれないらしい。意外と損な性分である。

 

《それにしても暗いな……。何かに躓いて転びそうだ》

《ああ。それなら丁度良い。あそこにある明かりを借りていこうぜ》

 

ちなみに和真達が将棋に没頭している間もモニター先の二人はどんどんと進んでいた。装飾品として飾られている提灯が映し出され、須川と福村がそれを勝手に拝借しようとして近づいていく。

 

ーボンッ

 

「「きゃぁあああーっ!!」」

 

突如二人の前に鬼のような顔が現れて、寸法のおかしな手足が生える。あれは提灯お化けで、どうやらセットの中に召喚獣を紛れ込ませたらしい。なかなか巧妙な手口である。

 

『お?これ掴めないぞ?』

『召喚獣なら掴めるだろ。試獣召喚(サモン)っ』

 

まあ当然その程度の演出でFクラスの二人が意に介するはずもなく、福村は召喚したゾンビに提灯お化けを持たせて更に進み続ける。……手足をバタバタと動かしてもがいている提灯お化けが何とも哀れである。

 

美波「な、なんか……かなりシュールな光景ね……」

姫路「そ、そうですね……TVをみているみたいです……」

翔子「……雄二。怖いから手を繋いで欲しい」

雄二「お前全然怖がってなかっただろうが」

翔子「……怖くて声が出せなかった」

雄二「嘘つけ。悲鳴をあげるタイミングを計り損ねただけだろ」

 

と言いつつも手はちゃんと繋いであげているあたり、翔子の頼みごとにも滅法弱い雄二である。

ゾンビが腐肉をまき散らしながら足元を提灯お化けで照らしつつ歩いていく。そのまま須川と福村の快進撃(?)が続くなか、カメラ⑤を携えた浅倉と有働も突入し始めた。

 

《あー、畜生。何でこの俺が須川なんかと……!》

《お前がモテないから悪いんだろ》

 

モニター④から須川と福村の会話が聞こえてくる。どうやら両名ともパートナーに不満があるらしい。まあ肝試しは本来男女ペアでやるのが王道というものだし、誰だってできれば異性と組みたいに決まっている。例外は精々意中の相手が肝試しに参加していないか、余程勝ち負けに拘っているか、久保か清水ぐらいのものであろう。

薄暗い映像からでもわかるくらい不機嫌そうな二人は、そのまま言い合いを続けている。

 

《なんだと須川……?お前だって朝から二十人くらいの女子に声をかけて全滅していただろうが》

《ち、違う!あれは別に断られたわけじゃない!向こうには向こうの事情があったんだ!俺がモテないわけじゃない!》

《俺だってそうだ!俺はモテないわけじゃない!タイミングが悪いだけなんだ!》

 

ムッツリーニ「……失格」

雄二「アイツらは何をやってるんだ……」

 

流石は常識の通用しないFクラス、アトラクションはものともしなかった二人だが頭の悪い言い合いで自滅するという誰も予想できない結末を迎えた。

 

明久「けど須川君たちのおかげで相手の仕掛けがわかったね」

雄二「だな。朝倉達もいることだし、チェックポイントまで行くのも時間の問題だろ」

 

少し時間を置いて出発した朝倉達のカメラも大分先へと進んでいた。井戸からろくろ首が現れたり、柳の木の下に一つ目小僧が突然出てきたりと、オーソドックスなものから奇抜なものまで色々な演出があった。後発の何組かは来るものがわかっても驚いて失格になったりもしていたが、概ね順調に二年生の侵攻は進んでいく。そしてついに朝倉達のカメラが開けた場所を映し出した。その場所の中心には三年生と思わしき二人と、英語の遠藤先生が待ち構えていた。

 

《おお。チェックポイントか。結構余裕だったな》

《Bクラスの教室だけあって長い迷路だったけどな》

 

次々と現れる敵の召喚獣を破竹の勢いで通過していった朝倉達の士気はかなり揚がっている。

 

〈〈〈〈サモン!〉〉〉〉

 

明久達がモニター越しに見守る中、遠藤先生の許可の下でそれぞれの召喚獣が喚び出される。

 

《英語》

『Aクラス 金田一真之介 412点

 Aクラス 近藤良文  326点

VS

 Fクラス 朝倉政弘  59点

 Fクラス 有働住吉  --』

 

〈〈ぎゃぁああああああ!?〉〉

 

哀れ二人の召喚獣は点数が全部表示されることなく鎧袖一触とばかりにあっさりとやられてしまった。

 

優子「はい、王手(パチッ)」

和真「………………………参りました……(ズゥゥゥン…)」

優子「それじゃあ……はいコレ♪この肝試しが終わるまでだからね?」

和真「………………了解」

優子「さてと、あっちもどうやらチェックポイントに着いたようだし、流石にそろそろ切り上げるわよ」

和真「……………………死ぬほど悔しいが、仕方ねぇか……で、あっちはあっちで初っ端からデカい戦力を投入してきたな」

優子「ええ、一筋縄ではいかないでしょうね……」

 

チェックポイント第一関門に立ち塞がったのは、元サッカー部主将にして三年No.3の金田一真之介。間違いなく一筋縄ではいかない強敵であろう。

 

優子「じゃあ坂本君達に合流しましょうか。あ、もし皆に弄られても絶対外しちゃダメよ?」

和真「言われんでもわかってるよ!……クソッ、なんであんな条件引き受けちまったんだ俺のバカ……」

 

今更ながら悲嘆にくれている和真の手に握られているものは、男子であるならば人生において余程のことが無い限り身に着ける機会の無いであろう、あざとさ100億%の萌えアイテム……

 

 

 

……………猫耳。

 




和真「一応釘刺しておくぞ。オカルト召喚獣の外見の強弱の差はかなり激しいけど、外見はあんまり関係無いからな」

蒼介「見かけは弱そうでも点数が高ければ強いし、逆もまた然りだ。例えば、久保の迷ひ神は木下のガブリエルにも互角以上に戦えるだろう」

和真「まあそうは言っても召喚獣の形状敵に多少の有利不利はある。明久のデュラハンみてぇにハンデを抱えている奴もいりゃあ……」

蒼介「カズマの阿修羅のように、腕が六本というアドバンテージを持つ召喚獣もある」


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