テーマ:癒しを求めて
優子「流石のアタシも地獄のテスト勉強でノイローゼ気味だわ……何か癒しが欲しい……」
和真「癒されたいならアロマキャンドルがおすすめだぜ」
優子「あ、なんかよさそうね」
和真「大分疲弊してるみてぇだから沢山火をつけて……っと」←手当たり次第にアロマキャンドルを設置
優子「……え?こんなに?」←沢山のアロマキャンドルに囲まれる
和真「そして証明を落とす(カチャ)」
優子「………………」←暗闇の中沢山のアロマキャンドルの灯に囲まれる
和真「どうだ?癒されたか?」
優子「えーと……癒されるっていうか……どこかの宗教儀式みたいで全然落ち着かない……」
雄二「……点数が大幅に向上したとはいえ、明久のクセに随分贅沢な装備になったもんだな。これは甲冑か?」
美波「大きな剣まで持ってるわね。今までとは随分と違うじゃない」
姫路「それに、随分と背が高くないですか?」
翔子「……この大きさの召喚獣って……」
和真「あん?どうした翔子」
翔子「……ううん、何でもない」
現れた明久の召喚獣は、白銀の甲冑に身を包み一振りの大剣を携え、なおかつ明久と同じくらいの大きさであった。何やら心なしか翔子が震えているが、あまり詮索しない方が良さそうだと和真は判断する。
明久「す、凄いっ!なんだかとても強そうに見えるよっ!」
雄二「いやはや、こいつは凄いな。試召戦争が本物の戦争みたいになりそうじゃないか」
秀吉「そうじゃな。これならば本物の人間とさして変わらんからの」
姫路「顔も明久君そっくりですね。今までの可愛い感じと違って、今度のはとっても凛々しいです」
明久「え?そ、そう?」
雄二「姫路も酔狂なヤツだな。こんなブサイクのどこがいいんだか(パコン)」
明久「あ痛っ」
雄二が呆れたような表情で明久のの召喚獣を小突くと、叩かれた頭は首から離れて畳の上に落下した。
「「「………」」」
和真(シュール過ぎる……)
絶句する明久達の前を、胴体から離れた召喚獣の首が静かに横切る。生首は何度も畳の上で回転し近くの卓袱台の脚にぶつかってから、こちらを見た状態で静止した。
美波・姫路「「きゃぁぁぁああーっ!?」」
明久「えぇぇっ!?な、何コレ!?僕の召喚獣がいきなりお茶の間にはお見せできない姿になっているんだけど!?」
身体は仁王立ちのまま頭だけが床に転がった状態になっ
ている。デフォルメされていない分余計にグロテスクな光景だ。
雄二「ん?ああ、すまん。そんなに強く叩いたつもりはなかったんだが、まさか外れちまうとはな……。待ってろ、今ホチキスを持ってくる」
明久「雄二、何を的外れなことを言ってるのさ!?くっつけるなら接着剤でしょ!?ホチキスだと穴が開いて痛いんだから!」
和真「的外れなのはお前もだろうが……それにこれは戦死したわけじゃないみてぇだぜ?」
明久「え?そうなの?」
《総合科目》
『Fクラス 吉井明久 1272点』
いつものように召喚から少し遅れて点数が表示される。Dクラス下位程度の点数が残っているため、どうやら本当に戦死したわけではないようだ。その証拠に明久の召喚獣は頭が外れても平然と立っている上、試しに明久が手を動かしてみると問題なく作動した。
明久「姫路さん。美波。目を開けても大丈夫だよ。別にこれは死体じゃないみたいだから」
固く目を閉じたままの女子二人に明久は声をかける。ちなみに翔子はさっきまで震えていたのに今は平然としているため、この光景とは何の関係も無いようだ。
姫路「はぅ……。そうじゃなくても、やっぱり怖いです……」
美波「べ、別にウチは驚いただけで、こんなもの怖いわけじゃ……」
和真(今度の島田の誕生日に『リング』のDVDセットでも送っておいてやるか)
雄二「さて鉄人、これはどういうことだ。知っているんだろ?」
和真がいつものように嗜虐心に火がついている中、雄二がわざとらしく目を背けている鉄人に問いかける。鉄人は諦めたように大きく溜息をつくと、訥々と説明を始めた。
鉄人「……俺にはよくわからんが、今喚び出される召喚獣は空想上の生き物、もしくは化物の類か何かになっているという話だ」
姫路「お化け、ですか?」
着脱可能な頭部と騎士鎧から推測するに、おそらく明久の召喚獣はデュラハンであろう。問題はなぜこんなものに召喚獣が変異してしまったのかだが……。
鉄人「お前らも知っての通り、試験召喚システムは科学技術だけで成り立っているわけではない。幾ばくかのオカルト的な要素も含まれているんだ」
姫路「???つまり、どういうことですか?」
鉄人「あー………。要するに、だな……」
雄二「調整に失敗した、と」
鉄人「……見も蓋もない言い方をするな」
和真「いや待ってくれよセンセ、メンテナンスは綾倉センセも手伝ったんだろ?ばーさんはともかく、あの人がそんな凡ミスをするとは思えねぇな」
雄二の歯に衣着せぬ物言いに仏頂面になる鉄人に、突然和真が異議を唱える。以前から勉強でお世話になっており色々と
趣味嗜好が合うため和真と綾倉先生はかなり親しい関係だ。当然綾倉先生の比類なきコンピューター技術も知っているため、綾倉先生が調整に失敗するなど和真からすれば違和感しかなかった。
鉄人「学園長と呼べ!まったく……綾倉先生曰く、期末試験後に科学とオカルトのバランスが急激に不安定になったらしい。今はメインサーバー室で再調整をおこなっているそうだ」
和真「ふーん……まあ、俺ら素人が口を出すことじゃねぇな」
雄二「それもそうだな。しかしそれにしても……」
とりあえずシステムの状態については一旦置いておいて、一同は再び召喚獣の話題に戻る。
雄二「明久の召喚獣を見る限り、どうやら調整はオカルトの部分が色濃く出たようだな。これはこれで面白いが」
明久「なるほど。オカルトと言えばお化けだもんね」
翔子「……気の小さい人なら夜道で見ただけで腰を抜かしてしまいそう」
明久「けど、どうしてデュラハンなんだろう?お化けなら日本の妖怪とかも一杯いるはずなのに」
和真「まあさっきの説明からしてお化け縛りでもなさそうだし、別にいいんじゃね?」
鉄人「学園長の話を聞く限りでは、どうも召喚者の特徴や本質を基にして呼び出されるらしい」
和真「ああ、どおりで……」
「「「なるほど……」」」
鉄人の説明に和真のみならず、明久以外の全員が納得したような表情になる。
明久「特徴や本質ですか?そうなるとデュラハンが選ばれたっていうのは、僕の騎士道精神が召喚獣に影響を与えたからってことですね」
雄二「明久。現実から目を背けるな」
明久「え?違うの?そうなると他に考えられるのは、甲冑の似合う男らしさとか、大剣を振るう力強さとか」
和真(哀れだな……)
秀吉「恐らく『頭がない=バカ』じゃろうな」
明久「言ったぁあああ!僕が必死に目を逸らしていた事実を秀吉が包み隠さず言ったぁあああ!」
とうとう明久は召喚システムにまでバカ扱いされるようになっていたようだ。南無。
秀吉「じゃが、こうしてみる限りは以前の召喚獣よりも強そうではないか。武器も金属のようじゃし、鎧もつけておる」
明久「そ、そうだよね。前よりは強そうだよね」
和真「……明久。闘っている最中にアレが取れたら、どうなると思う?」
水を差すようで悪いとは思いつつも、和真は地面に転がっている頭部を指差しながら現実を突きつける。
明久「……狙われるね、確実に」
秀吉「そうじゃな」
和真「あんな弱点が転がってたら、俺なら狙う」
雄二「和真の言う通り、明久の召喚獣は常にどちらかの手で頭を抱えて戦わなければならない。片腕しか使えないなんてハンデもいいところだな」
明久「う……確かに多少装備が強くなっても、これじゃあ以前の方がマシかも……」
明久達がそうやって騒いでいると、ようやく鉄人の悪夢から目が覚めたクラスメイトが三人ほどこちらにやってきた。
『吉井、さっきからなんか面白そうなことやってるな』
『これ召喚獣か?特徴や本質がどうとか言ってたが』
『なるほど。だから吉井の召喚獣は頭がないのか』
和真(いくら明久でもお前らだけにゃ言われたくねーだろーよ……)
明久「そう言うならそっちも喚び出してみなよ。きと僕のより酷い召喚獣が出てくるからさ」
和真の推測通り心外だと言う表情で明久がそう挑発すると、三人は揃って口の端を歪めて笑みを浮かべた。
『おいおい吉井。そんなことを言っていいのか?』
『俺達の召喚獣が、よりによってバカ日本一のお前に負けるわけないだろ?』
『俺の本質は何と言ってジェントルマンだからな。酷い召喚獣なん出てくるわけがない。いいか、よく見てろよ……』
『『『試験召喚(サモン)っ!!』』』
……ズズズズズ ←ゾンビ登場
……ズズズズズ ←ゾンビ登場
……ズズズズズ ←ゾンビ登場
和真「ハッ、予想通りクソみてぇな本質だなオイ」
翔子「……おそらく、根性が腐っているから」
雄二「お前ら世界のジェントルマン達に土下座してこい」
姫路「こ、怖いです明久君……っ!」
美波「あ、アンタたち!その汚いものを早くしまいなさいよっ!」
自分の本質を汚いと言われた三人はお互いの肩を抱き合って、傷をなめ合うように泣いていた。
雄二「しかしまぁ、これはこれで面白いもんだな。秀吉はどんな召喚獣なんだ?」
秀吉「んむ?ワシか?そうじゃな……。ワシの特徴と言えばやはり演劇じゃからな、舞台で有名なオペラ座の怪人辺りが妥当じゃろうか。……どれ。サモン!」
……ポンッ ←猫又登場
和真「もう天丼だな、この流れ」
明久「へぇ~。猫のお化けか。可愛いね。秀吉によく似合ってるよ」
雄二「どうやら秀吉の特徴は『可愛い』ということらしいな」
秀吉「つ、ついにワシは召喚システムにまでそんな扱いを……」
美波「また木下はそうやってアキを誘惑して……」
姫路「わ、私だって負けませんっ。明久君、見ていて下さいっ。私も可愛い召喚獣を出して見せますっ」
明久「あ、うん。楽しみにしてるよ」
姫「はいっ。頑張りますっ……サモン!」
……ボンッ ←サキュバス登場
姫路「きゃぁあああーっ!?あ、明久君っ!見ないで下さいっ!」
明久「くぺっ!?」
翔子「……雄二は見ちゃダメ」
雄二「けぽっ!?」
召喚獣が現れた瞬間に、姫路が明久の首を、翔子が雄二の首を180度回していた。なんでそれで死なないのかは和真ですらわからない。
美波「す、凄い召喚獣ね………特に胸が」
姫路「と、とにかく上着を……あぅっ!……通り抜けちゃいます……っ!」
ムッツリーニ「……明久……っ!倒れている場合か……っ!」
いつの間にか地に伏している明久の隣にムッツリー二が来ており、鮮血で顔を染めながらも必死にカメラを構えつつ明久にも予備の一台を差し出していた。まあシャッターを切ったところでレンズが血に覆われているので無駄だろうが。
和真「召喚獣を消してぇなら雄二から離れろ。フィールドの有効範囲から出たら自然に消えるから」
姫路「あ……は、はいっ。そうします」
和真の言葉に頷くと、姫路は大急ぎで雄二(瀕死)から離れて召喚獣が消滅したのを確認すると早足で戻ってきた。
秀吉「災難じゃったな、姫路」
和真(本当に災難だったのはあいつら二人だがな……)
姫路「うぅ……。酷いです……あんな格好だなんて、恥ずかしすぎです……」
雄二「いてて……そうはいってもあれが姫路の本質のようだからな。仕方ないだろ」
首まで真っ赤にして泣きそうな顔をしている姫路に、ようやく復帰した雄二が諭すように言う。
姫路「わ、私の本質って……?」
明久「え、えっとね……。その、なんというか……」
秀吉「そ、そうじゃな……言いにくいことじゃが……」
雄二「胸がでかいってことだろ」
和真「もしくは脳内ピンク一色の変態ってことかな」
姫路「うわぁあああああんっ!」
二人の容赦ない指摘、特に和真の一片の慈悲もない言葉のナイフに姫路は号泣する。相変わらずとてつもない破壊力だ。
姫路「わ、私そんなエッチな子じゃありせん!それに、確かに私は全体的に見てちょっと太っていますけど、特徴になるほど大きくなんて全然ないですっ!」
明久「よすんだ姫路さん!それ以上言えば特定の誰かを傷つけることにあれ?急に視界が暗くなったような?」
美波「アキ。言いたいことがあるなら聞くわよ?」
言わなくても良いことを平然と言った明久の頚動脈を、美波がにこやかな笑顔を浮かべて押さえていた。
美波「瑞希ってば可哀相に。そんな大きな胸をしているからあんな格好の召喚獣が出てきちゃうのよ」
姫路は「うう……。美波ちゃんあんまりです……」
美波「でもその点、ウチなら何の心配もないから大丈夫よ。きっとそういうエッチなのじゃなくて、妖精とか女神とか戦乙女とか、そういった可愛いのが出てくるはずだから」
和真「良いオチ期待してるぞ島田」
美波「しなくて良いわよ!?
まったく、見てなさい……サモン!」
ゴゴゴゴゴ…… ←ぬりかべ登場
和真「ダハハハハハハハハハハ!!!あーーっはっはっはっはっはっはっはおえっ、ゲホッ……くくくふふははは!!(バンバンバン!!!)」
死にたくない明久が全身全霊で我慢している横で、和真はその場に四つん這いになって畳を思いっきり殴りつけつつ、呼吸困難に陥るほど大爆笑していた。
美波「……ねぇ、アキ」
明久「な、なにかな美波」
美波「この召喚獣、ウチに何を言いたいのかしらね?」
明久「な、なんだろうね?」
満面の笑みを浮かべて明久に問いかける美波。選択を謝れば即ゲームオーバーだと嫌でもわかる。明久は言葉を濁らせながらも必死に助けを求めるも、和真はこの通り役にたちそうもないし、他の皆も気の毒そうな顔で目を逸らすだけで頼れそうもない。
明久「……ハッ!そ、そうだっ!きっと、美波とぬりかべは硬いってところが似て……いて……」
美波「へぇ~。ウチが硬いって、どこがかしら?」
明久「うん……。きっとね……、胸が硬いとあがぁっ!そ、そうだっ!拳だよ!美波は拳も硬かったんぎゃぁああっ!」
美波「拳もって何よ!?触った事も無いくせに!アキのバカぁーっ!」
拳は今まさに触っているところであろう。美波は明久への制裁を済ませると、未だに笑い転げている和真を怒りのこもった眼力で睨めつける。
美波「アンタもいつまで笑ってんのよ!?」
和真「……ぜぇ……はぁ……島田……」
美波「何よ!?」
和真「…………ナイスオチ♪」
ブチッ
美波「今日という今日は絶対に許さないんだからぁぁぁ!(シャシャシャシャシャ!!!)」
和真「オイ待て!?まだ呼吸整って……ゲホッ……ねぇんだぞ!?(パパパパパン!!!)」
美波「うがぁあああああ!!!」
和真のコンディションが最悪に近いためいつもより善戦する美波だが、それでも和真は反射神経と天性の直感を駆使して美波の攻撃を命からがら捌いていく。
美波「だいたい優子だって全然大きくないでしょうが!」
和真「ゲホッ……俺は別に優子のバストサイズに惚れたわけじゃねぇよ!?」
しばらくキャットファイトを続けた結果、最終的に美波のスタミナ切れで和真が判定勝ちをもぎ取った。
【ミニコント】
テーマ:続・癒しを求めて
和真「暇だからよー、怖い話をするたびにアロマキャンドルの火を一つずつ消していく遊びでもしようぜ」
優子「それ完全に百物語よね!?」
和真「例えばこのアロマキャンドル……優子の残り寿命だとしたら、どうする?」
優子「違う!この問答から癒しは絶対生まれない!というか、なんで急にホラー路線に切り換えたのよ!?」
和真「優子の慌てふためく姿を見ると俺が癒されるからだけど、何か?」
優子「アタシを!アタシを癒して!そういう趣旨だったでしょうが!?」
和真「んだよ優子。さっきから否定ばっかしてっけどよー、だったらどういう風に癒されてぇんだよ?」
優子「…………これ、着けてくれる?」つ猫耳
和真「オイ待て。お前最近俺を愛玩動物か何かだと思ってるだろ」
※少々ゴネましたが、最終的に着けてあげました。
その後和真君は狂ったようにひたすら優子さんに可愛がられたそうな。