バカとテストとスポンサー   作:アスランLS

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【バカテスト・世界史】

以下の文章の()にあてはまる正しい年と人名を答えなさい。 

『紀元前334年アケメネス朝ペルシアの最後の国王となるダレイオス三世を破った、()による()が始まる』


姫路の答え
『紀元前334年アケメネス朝ペルシアの最後の国王となるダレイオス三世を破った、(アレクサンドロス大王)による(東方遠征)が始まる』

綾倉「正解です。ここに出てくるダレイオス三世とアレクサンドロス大王の間の戦争はイッソスの戦いとアルベラの戦いの二つがあります。両方とも正しく覚えておくと良いでしょう」

ムッツリーニの答え
『紀元前334年アケメネス朝ペルシアの最後の国王となるダレイオス三世を破った、(光の勇者・アーク)による(ファイナルクエスト~国王最後の聖戦~)が始まる』

綾倉「”ファイナル”や”最後”という単語があるのに続編がありそうな気配がするから不思議ですねぇ」


雄二の答え
『紀元前334年アケメネス朝ペルシアの最後の国王となるダレイオス三世を破った、(アレクサンドロス大王)による(東方遠征)が始まる』

綾倉「おや?坂本君でFクラスの解答用紙は最後ですか?まだ吉井君の珍回答を見ていないような気がするのですが、まさか正解していたのでしょうか?……私の密かな楽しみの一つでしたのに」

蒼介「生徒の珍回答に期待しないでください。あなたそれでも教師ですか?」









試験前夜

いよいよテスト前日の夕方、和真主催の『無限テスト地獄』もようやく大団円を迎えようとしていた。

 

和真「……よし、今回の勉強会はここまで!

流石にちょっと疲れたな……」(HP53/100)

優子「…………ちょっとどころじゃないわよ……。いったいどれだけの問題を解かされたか、数えるのも嫌になるわ……」(HP38/100)

徹「……舐める……な。この僕が、この程度……で……屈するわけが……あるものか!」(HP17/100)

源太「………コヒュー………コヒュー…………やっと………………終わっ……た………の………か…………」(HP4/100)

 

それぞれコンディションに大きな差はあるものの、多かれ少なかれ疲弊していたため休憩をとること30分。

 

和真「よし、みんな聞け!」

 

全員の脈拍が落ちついたのを見計らって、和真が締めの挨拶を切り出す。

 

和真「お前ら3人ともよく最後までやり遂げた。途中脱落者が出たことからわかるように、今回の勉強会は今までとは比べ物に無いほど過酷なものだったことだろう。ぶっちゃけ俺だけしんどい思いするのは癪だったからお前らを巻き添えにしたんだがな」

(((薄々そんなことだろうと思っていたけどさ……せめてちょっとぐらい取り繕えよ!)))

和真「だが、お前らはそれでも挫けず最後まで戦い抜いた。自身を持って良いぜ……俺達は強い!」

優子「……ええ!」

源太「……そうだな!」

徹「……当然さ!」

 

和真の嘘偽りない真っ直ぐな賞賛に、三人は皆誇らしい気持ちになる。おそらくは、和真本人も。

 

和真「努力が必ず報われるとは限らねぇ。だが、努力は決して裏切らねぇ。もし明日のテスト中結果を残せるか不安に駆られたときは、今お前らの手元にある今日までにやり遂げた膨大な問題の山を思い出せ。

俺達はもう……どんな難問だろうが怖かねぇ!」

「「「おう!」」」

和真「良い返事だ!

それでは……これにて解散!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃河原にて、一人の女性が思い詰めた表情で佇んでいた。その女性は明久の姉である吉井玲。

 

玲「ハァ……。どうして私は……アキ君と仲良くできないのでしょう」

 

落ち込んでいる理由は単純明快、明久と喧嘩したからである。それ自体はいつものことであるが、今回の喧嘩でできた溝はかなり深いかもしれない。

この女性は心の底から明久を愛してはいるのだが、少々……いやかなりコミュニケーションの取り方に問題がある。今回の喧嘩に至った経緯を簡潔に説明すると、明久が久し振りに会った姉のために夕飯を作ろうとしたら、玲は「今の明久には料理をしてる余裕などない、そんな暇があるなら勉強しろ」とにべもなく断った挙げ句、捉えようによっては「結果が出せなかった時『あの時夕食を作っている余裕なんてなかったのに』という言い訳の材料を作ってるのではないのか?」ともとれる発言をしたことだ。

せっかくの自分の気遣いを言い訳の判断材料みたいな言い方をされれば、いくらお人好しで有名な明久でも頭にくるだろう。

玲はそんな邪推をしたつもりは一切無く、夕食を断ったのにも本当は別の理由があるのだが……流石は明久の姉だけあってこの人も方向性は違えど不器用極まりなく、そのためにすれ違いを起こしてしまったようだ。

 

玲「……ハァ……」

?「……吉井よぉ、河原で一人落ち込むとか何似合わねーことしてんだ?」

玲「……誰ですか?すみませんが今は…っ!?」

 

突然隣から呆れたような声が聞こえてきたため、玲はやや気分を害したような表情で振り向き、そのまま固まる。

所々はねまくったボサボサの黒髪、覇気の欠片も感じない濁った目、あまり手入れされていない口元の無精髭などなど……だらしない要素をふんだんに詰め込んだ男がコンポタを飲みながら、玲の隣に腰を降ろして寛いでいた。

 

玲「……御門……先輩……?」

空雅「そーだよ。久し振りじゃねーの」

 

その男はご存知残業嫌いのおっちゃん、御門空雅。驚くべきことに、この二人はハーバード在学中の先輩・後輩の関係である。まあ空雅はこう見えてたった一代で自分の会社を世界的大企業にまで大きくし、さぼりまくりつつも会社の業績を一切落とさないやり手中のやり手なため、ハーバード大卒であることはさほど驚くようなことではない。それよりもこの外見で23歳である玲と1~3歳差しかないことの方が驚天動地ものである。この男、まだ若いのに気力というものがあまりにも無さすぎる。

 

玲「何故あなたがここに?」

空雅「そりゃこっちの台詞だっつの。人のサボりスペースで公害みてーに陰鬱なオーラ撒き散らしやがって」

玲「また舞に仕事押し付けて逃げてきたんですか?そのうちいい加減愛想尽かされますよ」

空雅「その方がお互いのためなんじゃねーの?」

玲「またそんな憎まれ口叩いて……」

空雅「それよりよ、なんでお前さんあんなシケた面してたんだ?アホみたいに天然かつ病気レベルのブラコンだったお前さんがそうなるっつーからには、やっぱ弟絡みかよ?」

玲「……流石は御門先輩、バレバレのようですね……」

空雅(いやいや、お前の人となりを知ってる奴なら誰でもわかるっつーの……)

 

玲はいったい何があったのかを語りだした。彼女はあまり他人に悩みを打ち明けるタイプではないのだが、余程思い詰めていたのか、それともお世話になった先輩が相手だからか、一切隠さずに一部始終を語り終えた。

空雅はコンポタを飲みつつ明後日の方向を向きながらも一切聞き漏らすことはなく、語り終えたのを確認すると煙草に火をつけつつ玲に向き直る。

 

空雅「……フゥ~……相変わらず不器用な奴だなお前は。不合理で、非効率で、そしてどうしようもなく損な性格をしている。簡潔に言うと勉強できるバカだお前は」

玲「……これでも落ち込んでるいるんですよ。そんな容赦なく罵倒しなくても」

空雅「なるほど。どうしようかわからなくて途方に暮れていると?本当かそれ?」

玲「……それ、は」

空雅「そうだ。どうするべきか、どうすればいいのか……お前はもうわかっているはずだ。だというのにお前は実行に移せずにただここで足踏みしているだけ……これをバカと言わずなんと言うんだよ?」

玲「っ……!」

空雅「在学中にも言わなかったか?欲しいもんがあんなら自分から取りにいけってよ。待ってるだけで何もかも手に入るほど、世の中は甘くねーんだよ」

玲「……やっぱり、あなたには敵いませんね」

空雅「ま、一応先輩だからな。後輩に道を示してやるのも(ピピピピピピピピ)……この空気の読めなさ間違いなくキュウリだな」

玲(ひどい言われようですね舞……)

空雅「ほれ、三月に卒業してから特に連絡とってなかったろ?プチ同窓会気分でも味わえや」

 

そう言って空雅は携帯を玲に投げ渡す。玲が画面を確認して見ると、かけてきた相手は空雅の予想通り玲の同期であり親友でもある女性、桐生舞。

 

玲「(ピッ)はいもし-」

『どこほっつき歩いてやがんだゴルァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 

玲が通話のボタンを押して出た瞬間に耳につんざく怒声が放たれ毎度のごとく河原全体を凄まじい爆音が暴れ回る。その辺にいた鳩は皆空に羽ばたいていき、河の魚はばしゃばしゃと音をたてて散り散りになる。ここまでテンプレ。

 

『いい加減にしろやこのダメ人間がァァアアア!残業放り出して帰ってはダメだと何べん言えばわかんだよ殺すぞコルァ!』

玲「あ……あの~」

『あぁ!?なんで女みてぇな声だしてるんですか気持ち悪い!まさか媚でも売っているつもりですかぁ!?今更遅いんですよォ!』

玲「舞、私ですよ私」

『今度は私私詐欺ですかぁ!?そういや玲の声そっくりじゃないで……すか……?』

玲「はい……その玲です。吉井玲です」

『あ…………ああああああ玲!?なんで!?なんで玲が社長の携帯から!?』

 

しばらくパニックになった舞に玲が事情を説明し、ようやく状況を理解した舞がそのまま謝罪モードに移行中に、空雅が携帯を取り上げ通話ボタンを切り、そしてトドメに電源を落とす。相変わらずどこまでも大人げのない男である。

 

空雅「じゃあな吉井、兄弟仲は良好に越したことはねーからな」

玲「言われるまでもないですよ。……あの、御門先輩」

空雅「あー?」

玲「あまり無茶はしないでください……舞も私も心配になるんですよ?」

空雅「……無茶しねーでどうにかなるほど、甘い相手じゃねーんだよ。

……俺はあのチームの生き残りとして、あいつらを取り戻さなきゃならねーんだ」

 

いつも無気力全開な彼には珍しく、張りつめたような剣呑な表情を浮かべながらその場を去る空雅を、玲は悲しい気持ちになりながらも見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀吉「姉上、ちょっと時間よろしいかの?」

 

試験前日の夜、秀吉はやや思い詰めた表情のまま優子の部屋を訪れていた。優子は最後の仕上げを一旦中断して秀吉に向き直る。

 

優子「どうしたのよ秀吉?」

秀吉「少し……相談したいことがあるのじゃが……」

優子「……良いわよ、言ってみなさい」

 

秀吉は最近ずっと悩んでいたことを打ち明けた。

 

綾倉先生からとあるスキルを教えて貰ったこと、

 

そしてそれをなんとか修得できたこと、

 

それを使えば大幅な成績向上を期待できること、

 

そしてそのスキルが……優子に対して後ろめたいというか、申し訳なくなるような内容であることを。

 

優子「なるほどね……それでアンタはアタシに罪悪感を感じて使うのを躊躇していると」

秀吉「うむ……。これではまるで……姉上の努力の結果だけを盗んでいるようで……」

優子「………………ハァ」

 

一部を聞き終えた優子は頭を抱えつつ、これでもかと言うほど大きな溜め息をつく。それから秀吉に近づいて、右手でデコピンの構えを作って秀吉の額にもっていく。

 

優子「ていっ(バチンッ!)」

秀吉「痛っ!?地味に痛いのじゃ!?」

優子「まったくこの愚弟は……めんどくさい女みたいにそんなくだらないことでぐちぐちと悩んで……」

秀吉「そんな言い方することなかろう!?ワシは真剣に悩んでおるのじゃぞ!?」

優子「あのねぇ……。アンタが真剣に演劇に打ち込んでいるのを、実の姉であるアタシが知らないわけないでしょうが。その上でアタシが怒るんじゃないかと悩んでるって、アンタの頭の中でのアタシはどんだけ小さい人間なのよ?」

秀吉「そ、そうは言うておらん!……しかしじゃな、」

 

あのね秀吉、と一旦そこで言葉を切り、優子は秀吉の眼を真っ直ぐ見つめる。

 

優子「テストのためだろうと演劇のためだろうと、真剣にやり抜いた努力に優劣は無いのよ。アンタは胸を張ってそのスキルとやらを心置きなく使いなさい。アンタが努力してきたことは、誰よりアタシが一番知ってるから」

秀吉「あ、姉上……」

優子「いつも厳しいこと言ったり、痛い思いさせちゃってるから誤解されんのも無理ないけどね…………お姉ちゃんはいつだってアンタの味方だからね♪」

秀吉「あ…………姉上ぇぇぇえええ!!!」

優子「あぁもう……よしよし。(ナデナデ……)しばらくこうしてなさい、アンタの気のすむまで付き合ってあげるから」

 

よほど悩んでいたのか、感極まった秀吉は泣きじゃくりながら優子に抱きつく。優子は名前の通り優しい笑みを浮かべて秀吉の頭をそっと撫で始める。どういうわけか、和真と結ばれてから優子の母性やらお姉ちゃん属性やらが天元突破しているようだ。

 

優子(それにしても……どうあがいてもアタシは越えられない辺り、割と使い勝手の悪い能力ね……)ナデナデ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その同時刻、霧島家では翔子が雄二とともにテスト勉強の最後の仕上げに入っていた。まあ流石にうんざりした雄二はひたすら問題を解いていく翔子を眺めているだけなのだが。

 

雄二「なあ翔子、俺が無理矢理残らされるのはいつものことだが……お前今回のテスト不自然なほどやる気満々だけど、何かあったのか?」

 

雄二の言い放った何気ない問いかけに、翔子は一旦ペンを置いて雄二に向き合う。

 

翔子「……この前、和真に言われたから」

雄二「あん?何をだよ?」

翔子「……私を追い抜くって」

 

それを聞いて雄二は多少は驚くものの、別段不思議なことではないと思い直す。奴の、自分の、Fクラスの最終目標は打倒Aクラス。そのためにはあの鳳蒼介を真っ向から倒せるようになるために、腕輪のランクアップが必要不可欠となる。そんな重要な役目を誰かに丸投げするような和真ではなく、

その過程として翔子を越えるつもりなのだろう。

 

翔子「……私も、負けたくないと思った」

雄二「………………そうか」

 

改めて雄二は思う。Fクラスは最強であると、それを証明することが代表としての責務であると。

 

雄二(鳳……首を洗って待っていやがれ。俺達は必ずお前を王座から引きずり下ろす!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼介「………………」

 

そして翌日の早朝、蒼介は朝食を済ませた後、日課である瞑想に励んでいた。意識が海の底に深く深く沈んでいくかのようにどんどん集中力が増し続ける。もしかすると蒼介が明鏡止水の境地に至る日はそう遠く無いのかもしれない。

 

ピピピピピピピピピピ

 

蒼介「……………………さて、時間だ」

 

セットされた時計が登校時間を知らせたため、蒼介は鞄を背負って赤羽家をあとにする。

 

蒼介(私は誰にも負けたくない。……たとえ和真、お前であろうとな!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




和真「とりあえず、秀吉のフラグ回収が完了したな」

蒼介「木下(姉)の感想の通り、スキルなどと大層に言ってはいるがカズマの直感のような反則じみた性能ではない」

和真「次回明らかになるが、この時点で予想できた奴は自慢して良いぞ」

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