―ツバサside―
あれから、すぐにオーディンは俺達に会いに来た。
「ほっほっほ、というわけで訪日したぞい」
兵藤家の最上階にあるVIPルームでオーディンの爺さんは楽しそうに笑っている。
「なにが、訪日したぞいじゃ。いきなり来てビックリしたぞ。オーディン」
俺の隣でイライラしながら愚痴っている光輝兄さん。隣ではアイラさんが呆れた顔で嘆息しながら光輝兄さんを見つめていた。
「別にいいでは、ないですか。光輝様。いまは暇でしたし、ただ家でゴロゴロしていただけではありませんか。」
ジト目で光輝兄さんを見るアイラさん。そんな視線を気づいていないかのように無視しながら目をそらす光輝兄さん。でも、顔からは汗が流れている。
「粗茶ですわ」
そこへ、朱乃さんがお茶を持ってきた。気のせいかもしれないが、なんだか機嫌が良さそうだ。デートから帰って来てからこの調子だ…。いったい父親と娘の間でなにがあったのだろうか?
「かまわんでいいぞい。しかし、相変わらずデカいのぅ。あっちも、こっちも、そっちもデカいのぅ」
相変わらず女性の大きな胸を見回すオーディンのお爺ちゃん。いつも家に来ると、皐月姉さん達の胸をイヤらしい目で見ている。これで北欧の主神なんだもんね~。………なんだか北欧の未来が心配になってきたよ。
「もう!オーディンさまったら、いやらしい目線を送っちゃダメです!!こちらは魔王ルシファーさまの妹君なのですよ!」
ヴァルキリーのロスヴァイセさんがオーディンのお爺ちゃんの頭をハリセンで叩いていた。
「まったく、堅いのぉ。サーゼクスの妹といえばべっぴんさんでグラマーじゃからな、そりゃ、わしだって乳ぐらいまた見たくもなるわい。と、こやつはワシのお付きヴァルキリー。名は―――」
「ロスヴァイセと申します。日本にいる間、お世話になります。以後、お見知りおきを」
オーディンのお爺ちゃん………もう、面倒なのでオー爺ちゃんしよ。で、その紹介でロスヴァイセさんがあいさつをした。
「彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーじゃ」
オー爺ちゃんがいやらしい顔つきで言うと、ロスヴァイセさんが酷く狼狽し始めた。
「そ、そ、それは関係ないじゃないですかぁぁぁっ!わ、私だって、好きでいままで彼氏ができなかったわけじゃないんですからね!好きで処女なわけじゃないじゃなぁぁぁぁぁいっ!うぅぅっ!!」
ロスヴァイセさんはその場に崩れおれて、床を叩きだした。
「まあ、戦乙女の業界も厳しいんじゃよ。器量よしでもなかなか芽吹かない者も多いからのぉ。最近では英雄や勇者の数も減ったもんでな、経費削減でヴァルキリー部署が縮小傾向での、こやつもわしのお付きになるまで、職場の隅にいたのじゃよ」
オー爺ちゃんはうんうんとうなずきながら言う。
「なんだか、大変そうだな~。地球連邦軍はそういうのはないがな」
「まぁ、何処にいってもいまの世の中世界は冷たいからのぉ~」
アザゼルが光輝兄さんとオー爺ちゃんのそんなやり取りに苦笑しながらも、脱線から戻すように口を開く。
「爺さんが日本にいる間、俺たちで護衛することになっている。バラキエルは堕天使側のバックアップ要員だ。俺も最近忙しくて、ここにいられるのも限られているからな。その間、俺の代わりにバラキエルが見てくれるだろう」
「今回、オーディンの護衛をすることになった。よろしく頼む」
と、言葉少なめにバラキエルさんがあいさつをくれた。
オー爺ちゃんの護衛か~……大変そうですね~。
「爺さん、来日するのにはちょっと早すぎたんじゃないか?俺が聞いていた日程はもう少し先だったはずだが。今回来日の主目的は日本の神々と話しをつけたいからだろう?ミカエルとサーゼクスが仲介で、俺が会議に同席――と」
アザゼルが茶を飲みつつ訊いた。
「俺は今回パスだからな。神々の交流に人間である俺が行けるわけがない」
光輝兄さんは間髪入れずに拒否の意を表した。
「安心しろ、お前の同席はないよ。今回はミカエルとサーゼクスが『今回は我々だけで頑張ってみよう。いつも助かっているしね』だとよ。まぁ、俺も無理ばかりはさせたくないってことで、おまえ達は出席しなくていい」
「二人に礼を伝えてくれ。ここ最近、尋問やら会議やら後始末なんかで仕事が増えて疲れていたんだよな……」
光輝は軽く伸びをした。
「まあの。それと我が国の内情で少々厄介事……というよりも厄介なもんにわしのやり方を批難されておってな。事を起こされる前に早めに行動しておこうと思ってのぉ。日本の神々といくつか話しをしておきたいんじゃよ。いままで閉鎖的にやっとって交流すらなかったからのぉ」
オー爺ちゃんは長い白髭をさすりながら嘆息していた。
「厄介事って、ヴァン神族にでも狙われたクチか?お願いだから『神々の黄昏(ラグナロク)』を勝手に起こさないでくれよ、爺さん」
『神々の黄昏』と言う語を聞いて、周囲の空気が一瞬だけ変化した。
「ヴァン神族はどうでもいいんじゃがな……。ま、この話をしていても仕方ないの。それよりもアザゼル坊。どうも『禍の団(カオス・ブリゲード)』は禁手化できる使い手を増やしているようじゃな。怖いのぉ。あれは稀有な現象と聞いていたんじゃが?」
イッセーやリアスさん達は皆驚いて顔を見合わせていた。
「ああ、レアだぜ。だが、どっかのバカがてっとり早く、それでいて怖ろしくわかりやすい強引な方法でレアな現象を乱発させようとしているのさ。それは神器に詳しい者なら一度は思いつくが、実行するとなると各方面から批判されるためにやれなかったことだ。成功しても失敗しても大批判は確定だからな」
「例のアレか?アザゼル」
光輝兄さんの言葉にアザゼルは答えた。
「そうだ、リアスたちの報告書でおおむね合っている。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦だよ。まず、世界中から神器(セイクリッド・ギア)を持つ人間を無理矢理かき集める。ほとんど拉致だ。そして、洗脳。次に強者が集う場所――超常の存在が住まう重要拠点に神器を持つ者を送る。それを禁手(バランス・ブレイカー)に至る者が出るまで続けることさ。至ったら、強制的に魔方陣で帰還させる。おまえらの対峙した影使いが逃げたのも禁手に至ったか、至りかけたからだろうな」
アザゼルは話を続ける。
「これらのことはどの勢力も、思いついたとしても実際にはやれはしない。仮に協定を結ぶ前の俺が悪魔と天使の拠点に向かって同じことをすれば批判を受けると共に戦争開始の秒読み段階に発展する。自分はそれを望んでいなかった。だが、奴らはテロリストだからこそそれをやりやがったのさ」
「はぁ…。まったく面倒な事をするもんだな」
「確かにな…」
光輝兄さんとレイジ兄さんは心底面倒くさそうに嘆息していた。
ほんと、それに関しては兄さんと同じなんだよねぇ~。本当に……面倒くさい。
「どちらにしろ、人間をそんな方法で拉致、洗脳して禁手(バランス・ブレイカー)にさせるってのはテロリスト集団『禍の団(カオス・ブリゲード)』ならではの行動ってわけだ」
「それをやっている連中はどういう輩なんですか?」
イッセーの問いにアザゼルは続ける。
「英雄派のメンバーは伝説の勇者や英雄さまの子孫が集まっていらっしゃる。身体能力は天使や悪魔にひけを取らないだろう。さらに神器や伝説の武具を所有。その上、神器(セイクリッド・ギア)が禁手(バランス・ブレイカー)に至っている上に、神をも倒せる力を持つ神滅具(ロンギヌス)だと倍プッシュなんてものじゃすまなくなるわけだ。報告では、英雄派はオーフィスの蛇に手を出さない傾向が強いようだから、底上げに関してはまだわからんが」
「今は様子見だな…。その時が来れば、まぁ、その時だな」
うわぁ~、適当だぁ~。
「まぁ、調査中の事柄だ。ここでどうこう言っても始まらん。それより爺さん、どこか行きたいところはあるか?」
アザゼルが訊くと、オー爺ちゃんはいやらしい顔つきで両手の五指をわしゃわしゃさせた。
「おっぱいパブに行きたいのぉ!!」
「ハッハッ!!見るところが違いますな、主神殿。俺んところの若い娘がこの町でVIP用の店を最近開いたんだよ。そこに招待しちゃうぜ!!」
「うほほほほっ!さっすが、アザゼル坊じゃ!わかっとるのぅ、でっかい胸のをしこたま用意しておくれ!たくさん揉むぞい!!」
「ついてこい、クソジジイ!!おいでませ、和の国ニッポン!!着物の帯をクルクルするか?あれは日本来たら一度はやっておくべきだぞ!和の心を教えてやる!!」
「たまらんのー、たまらんのー」
「光輝たちも来るか?年齢は合法だろ?」
アザゼルが光輝兄さんを誘った。
「「行くか!!この、エロ爺!!」」
二人揃って拒否をした。何故って?そんなもの、二人の妻を見ればわかることさ。
「はてさて、どうやるのやら」
俺は部室のなかを見渡しながらそんなことをおもうのだった。