ハイスクールD×D~最強男の娘の転生物語~   作:三元新

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さて、今回でこの章は最後になります! 次からは、新しい章ですね!


それではどうぞ、ゆっくりしていってね♪


10話 決着……そして―――

ビルの最上階から降り立った俺達は、ひたすら出てくる死神(グリムリッパー)達をひたすら狩っていた。

 

あんまりにも減らないもので、俺の鬱憤は頂点まで溜まっていた。

 

「―――だぁぁぁ!!!!もぉぉぉ!!!めんどくさい!!! 貴様ら湧き出すぎだ! Gなのか!? 貴様らは誰もが嫌う黒光りするあヤツなのか!? いい加減くたばれやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

「ちょ、つ、つーくん? 落ち着け!? キャラが壊れてる! と言うより可愛い顔が物凄いことになってるから!? 本当にマジで落ち着け!!」

 

俺が怒鳴り散らしながら死神(グリムリッパー)達を斬り伏せたり、焼き尽くしたりしながら進んでいると、光輝兄さんから声がかかり、後ろから羽交い締めをされた。

 

「フーー!!! フーー!!! フゥーーー!!!」

 

「どうどう。落ち着け、本当にマジで落ち着いてください。こっちまで被害来てるから……」

 

その後、どうにか落ち着いた俺はひたすら死神(グリムリッパー)を狩りながら、イッセー達のいる反対側へ着くと、そこに広がっていた光景は、荒廃しきったフィールドだった。

 

こちらの陣営は三十階の部屋にいる者、戦闘に出ている者の全員が生存している。

 

対してテロリスト側は、背の龍の腕を一本斬り落とされているジークフリート、ゲオルク、倒してきた死神ども以上にプレッシャーを放っている死神のみが残っていた。

 

「さて、ジークフリート、ゲオルク、チェックメイトだ」

 

光の槍の切っ先を奴らに向けるアザゼル。

 

……俺たち三人も参戦したことによって、戦況は見るからにこちら側が有利だろう。

 

――戦況だけを見るならね

 

「……相変わらずバカげた攻撃力だな」

 

そう言いながら、肩で息をするゲオルク。

 

駐車場の結界装置は健在している。あれだけの大規模な激戦のなかでも装置は壊れていなかったようだ。――だ、ゲオルクも守備に全力を費やしていたせいなのだろう、息切れしている。そして、装置を覆う結界も歪みだしていた。

 

――その時だった。

 

バチッ!バジッ!!

 

ここの空間に快音が鳴り響きだす。音のするほうを見上げれば、ここの空間に歪みが生じ、穴が空きつつあった。

 

俺は出現した気配に表情を訝しめた。

 

次元に穴を空けて侵入してきたのは軽鎧(ライト・アーマー)にマントという出いで立ちの男が一人――。

 

そいつは俺たちとジークフリートたちの間に降り立つ。

 

「久しいな、赤龍帝。――それとヴァーリ」

 

イッセーを睨めつけ、護衛――ホテル上階の窓際にいるヴァーリも睨めつけた。まるで、俺たちは眼中にないように…。

 

アザゼルが目を細める。

 

「シャルバ……ベルゼブブ。旧魔王派のトップか」

 

…やっぱり生きてたんだ。あの神殿で暴走したイッセーに葬られたと思っていたけど……。あの後の調べで色々と不自然があったからね。

 

ジークフリートが一歩前に出る。

 

「……シャルバ、報告は受けていたけど、まさか、本当に独断で動いているとはね」

 

「やあ、ジークフリート。貴公らには色々と世話になった。礼を言おう。おかげで傷も癒えた。……オーフィスの『蛇』を失い、多少パワーダウンしてしまったがね」

 

「それで、ここに来た理由は?」

 

「なーに、宣戦布告をと思ってね」

 

大胆不敵にそう言うシャルバ。……嫌な予感しかしない。

 

シャルバが醜悪な笑みを浮かべてマントを翻すと――そこから一人の少年が姿を現す。少年の瞳は陰り、操られている様子だ。

 

俺はその少年を思い出す。――京都でアンチモンスターを生みだした『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の所有者か!

 

――瞬間、その少年を見てジークフリートとゲオルクが驚愕していた。

 

「……レオナルド!」

 

「シャルバ、その子をなぜここに連れてきている?いや、なぜ貴様と一緒にいるのだ!?レオナルドは別作戦に当たっていたはずだ!連れ出してきたのか!?」

 

面食らっている二人にシャルバは大胆不敵に言った。

 

「少しばかり協力してもらおうと思ったのだよ。――こんな風にね!!」

 

ブゥゥゥンッ!!

 

シャルバが手元に禍々しいオーラの小型魔方陣を展開する――少年…レオナルドの体にそれを近づける。魔方陣の悪魔文字が高速で動く。突然、少年が叫びだした!!

 

「うわぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああっ!」

 

絶叫を張り上げ、苦悶の表情を浮かべる。

 

同時に少年の影が広がっていき、フィールド全体を覆うほどの規模となっていく…。

 

その場で空中に浮き始めたシャルバが哄笑をあげる。

 

「ふはははははははっ!!『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』とはとても素晴らしく、理想的な能力だ!しかも彼はアンチモンスターを作るのに特化していると言うではないか!!英雄派の行動を調べ、人間界で別動隊と共に動いていた彼を拉致してきたのだよ!別動隊の英雄派構成員に多少抵抗されたので殺してしまったがね!それでは作ってもらおうか!!現悪魔どもを滅ぼせるだけの怪物をッ!!!」

 

ズオォォォォォォ……。

 

少年の影から嫌な気配を持つものが生みだされていく…。影を大きく波立たせ、巨大なものが頭部から姿を現していく――。

 

…規格外の頭部。巨大すぎる胴体。太すぎる腕。それらを支える圧倒的な脚。

 

フィールドを埋め尽くすほどに広がった少年の影から生みだされたのは――。

 

『ゴガァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

鼓膜が破れそうなほどの声量で咆哮を上げる――超巨大なモンスターだ。

 

二百メートルを超えるほどの魔獣。しかも、同等の大きさの奴がもう一体並んでいるし……。

 

さらにそいつらよりサイズが一回り小さい巨大なモンスターも何体か影から生みだされていく。

 

――百メートルを超えているモンスターを創りだした!!

 

ブゥゥゥゥンッ!!

 

その巨大な怪物どもの足元に巨大な魔方陣が出現する

 

シャルバが哄笑しながら叫ぶ。

 

「フハハハハハハッ!いまからこの魔獣たちを冥界に転移させて、暴れてもらう予定なのだよ!これだけの規模のアンチモンスターだ、さぞかし冥界の悪魔を滅ぼしてくれるだろう!!」

 

魔方陣が輝き、その巨大なモンスターどもが転移の光に包まれていく!!

 

「とめろォォォォッ!」

 

アザゼルの指示のもと、イッセーたちは巨大なモンスターに攻撃を放つ――。しかし、その攻撃ではびくともしなかった。

 

「行かせると思うな!!」

 

そう判断した瞬間、俺は神速で一番手前の百メートル級の巨大なモンスターに接近して、突きを弾丸のように放った。

 

「牙突・空式!!!」

 

ドシュ!?と身体を貫通して通り抜ける。……だが、牙突で空いたその穴は、塞がることがなく空いたまま…。

 

「ツバサっ!!」

 

俺は光輝兄さんの叫び声に初めて気づく。――そう、巨大なヤツの腕が横から薙ぎ払うようにこちらに来ていた。

 

「―――っ!?」

 

 

反射的に身体を捻り、空中を壁を蹴るように飛ぶ。俺の真下をその巨体に似合わない神速で抜けていったヤツの右手には、死神の死体と思われし赤い血が付いていた。

 

……おそらく、先程の戦闘で逃げ遅れたのが巻き添えを食らったのだろう。

 

「覇王一閃!!」

 

ドオォォォォオオン!!

 

破壊音と共に巨大なモンスターが、その巨体を後方へ5mほどぶっ飛んだ!!

 

「ツバサ! いけーーー!!!」

 

俺は、光輝兄さんの声に応え、素早く印を結ぶ。

 

「結城流・黒炎火葬」

 

『ガァァァァァァァァアアアアアッ!!』

 

咆哮を上げながら、全身を黒い焔で覆われて動かなくなった巨大なモンスター。

 

徐々に炎が消えていき、そこに残ったのは、……ただの黒い灰と円上に焼け焦げた場所だけだった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

しばらく敵を屠っていたのだが、全部を倒しきれず、残りの巨大なモンスターどもはすべて転移型魔方陣の光のなかに消えていってしまった…。

 

「炎龍の咆哮!!」

 

ゴォォォォオオオッ!!

 

俺が、口から放った炎が、相手を焼き尽くさんばかりに、動かなくなったモンスターの魔方陣ごとその巨体を包み込んで焼失させた。

 

グオォォォォォォン……。

 

フィールドも不穏な音を立て始めた。白い空に断裂が走り、ホテルなどの建造物も崩壊していっている…。

 

ゲオルクがジークフリートに叫ぶ。

 

「装置がもう保たん!シャルバめ、所有者のキャパシティを超える無理な能力発現をさせたのか!!」

 

「……仕方ない、頃合いかな。レオナルドを回収して一旦退こうか。プルート、あなたも――」

 

ジークフリートはそこまで言いかけて、すでに姿をくらませていた死神に気づいた。

 

それを知り、ジークフリートは得心したようだ。

 

「……そうか、シャルバに影で協力したのは……。あの骸骨神の考えそうなことだよ。嫌がらせのためなら、手段を選ばずというわけだね。魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)の強制的な禁手(バランス・ブレイカー)の方法もシャルバに教えたのか……?あんな一瞬だけの雑な禁手(バランス・ブレイカー)だなんてどれほどの犠牲と悪影響が出るかわかったものではない。僕たちはゆっくりとレオナルドの力を高めようとしていたのにね……。これでは、この子は……」

 

それだけを漏らして、ジークフリートとゲオルクは気絶した少年を回収する。そのままフィールドから霧と共に消えていったのだった…。

 

ドォォォンッ!ドォォォンッ!

 

今度はホテルのほうから爆音が鳴り響いてきた。

 

見上げれば、シャルバが後衛のメンバーに攻撃を加えているところだ。

 

「どうしどうした!ヴァーリィィィィィィッ!!ご自慢の魔力と!白龍皇の力は!!どうしたというのだァァァァァッ!!!フハハハハハハッ!所詮、人と混じった雑種ふぜいが、真の魔王に勝てる道理が無いッ!!」

 

シャルバが――ヴァーリを攻撃していた。防戦一方のヴァーリだが俺が戦闘に出る前に、俺のお手製の防御の印を書いてある札を5枚ほど渡していたので、本来の白龍皇の鎧と防御札の力が重なって防御力を増させているために、シャルバの攻撃は通っていなかった。

 

「……他者の力を借りてまで魔王を語るあなたには言われたくはないわ」

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!最後に勝てばいいのだよ!!さて、私が欲しいのはまだあるのだ!!!」

 

オーフィスのほうに手を突きだすシャルバ。オーフィスの体に悪魔文字を表現した螺旋状の魔力が浮かび、縄のように絡みつく!

 

「ほう!情報通りだ!!いまのオーフィスは力が不安定であり、いまの私でも捕らえやすいと!このオーフィスは真なる魔王の協力者への土産だ!!私に再び『蛇』も与えてもらおうか!いただいていくぞ!!」

 

「させるかよッ!」

 

『JET(ジェット)!』

 

イッセーがドラゴンの翼を広げて、一気にシャルバへと詰め寄る。

 

シャルバは醜悪な笑みを浮かべて言い放つ。

 

「呪いだ!これは呪いなのだ!!私自身が毒となって、冥界を覆い尽くしてやる……ッ!私を拒絶した悪魔なぞ!冥界なぞ、もはや用なしだッ!!もうどうでもいいのだよッ!そう、冥界の覇権も支配もすでにどうでもいい!!フハハハハハッ!!!このシャルバ・ベルゼブブ、最後の力を持って、魔獣たちと共にこの冥界を滅ぼす!!」

 

狂喜に包まれた表情のシャルバ。シャルバはイッセーに指を突きつける。

 

「……そうだな、貴殿が大切にしている冥界の子供も我が呪い――魔獣どもによって全滅だよ、赤龍帝!我が呪いを浴びて苦しめ!!もがけ!!血反吐を吐きながら、のたうちまわって絶息しろッ!フハハハハハッ!!傑作だな!下級、中級の低俗ていぞくな悪魔の子供をはじめ、上級悪魔のエリートの子息子女まで平等に悶死していく!!ほら!これがおまえたちの宣のたまう『差別のない冥界』なのだろう?フハハハハハッ!!!」

 

俺をはじめ、皆の眼の色が変わっていくのが嫌ほどわかる。

 

そんな時、ホテルの室内にいる金華が叫ぶ。

 

「もう、このフィールドは限界にゃん!!いまなら転移も可能だから、魔方陣を展開するわ!それで皆でここからおさらばするよ!!」

 

魔方陣を展開する金華のもとにグレモリー眷属たちが集結する。近くで優子姉さんの周りに集まっていた結城家のメンバーも魔方陣を展開した。

 

「フハハハハハッ!!」

 

いまだ哄笑を上げるシャルバ。その近くには捕らえられたままのオーフィス。

 

「イッセー!!転移するわ!早くこちらにいらっしゃい!!」

 

「おい!ツバサ!!こっちも準備はできてる!早く来い!!」

 

リアスさんとレイジ兄さんがそう告げてくる。だが俺とイッセーは――。そっちには行かなかった。

 

「……イッセー?」

 

「……ツバサ?」

 

今まさに、怪訝に思っているだろうリアスさんとレイジ兄さん、そしてメンバーの皆に俺とイッセーは同時に告げた。

 

「俺、オーフィスを救います。ついでにあのシャルバもぶっ倒します」

 

「俺も決着をつけてくるよ。あんな糞野郎の思い通りにはさせないつもりだしね。……それに」

 

俺とイッセーは目を合わせて2人で言った。

 

「「いまここで、俺達が止めなくて誰が止めるよ!」」

 

『――っ!!!』

 

俺とイッセーの告白に全員が度肝を抜かれていた。

 

「僕も戦うよ!」

 

「はん!ツバサ!おまえたちだけで格好つけても意味ねぇぞ!!俺も混ぜろぉぉぉ♪」

 

木場と、どこか嬉しそうな光輝兄さんがそう言ってくれたが、イッセーは頭を振って俺は笑顔で振りむいた。

 

「いや、俺とイッセーだけでいいよ。光輝兄さん。俺たちが戻る間、冥界…そして人間界での非戦闘民の市民達避難を頼めるかな?終わりしだいスキマとかでも使ってそっちに飛ぶつもりだしね。だから、気にせずに行って? そして、地球連邦軍としての仕事を――使命を果たしてよ」

 

「……ツバサの言う通りだ、光輝。いま、シャルバを見逃すことも、オーフィスを何者かの手に渡すこともできない。しかし、地球連邦軍の総司令官でもある光輝と、副総司令官でもあるオレが――俺達が、これから来るであろう厄災から、力のない者を守れなくてどうする。

……俺達はただ。こいつら2人を信じて、そして、やるべき事をやるだけだ!」

 

レイジ兄さんが光輝兄さんの肩をもちながらそう言った。

 

…うん。レイジ兄さんの言ったとおり、いまのあいつは狂気に満ちている。このまま生かしておけば、今後の障害になるだろうし、冥界だけじゃなく、人間界をも巻き込むかもしれない事態になってしまう。今の奴ならそれぐらいしてもおかしくはない状態だしね。絶対にそれだけは防がなくちゃならないから。

 

「もう限界にゃん!いま飛ばないと転移できなくなるわ!!」

 

金華がそう叫ぶ。

 

「兵藤一誠」

 

アザゼルに肩を貸してもらっているヴァーリが、イッセーの名を呼んだ。

 

「ヴァーリ!おまえの分もシャルバに返してくる!!」

 

それを聞いたヴァーリは口の端を笑ました。

 

「イッセー!ツバサ!あとで龍門(ドラゴン・ゲート)を開き、おまえらを召喚するつもりだ!!それでいいんだな?」

 

アザゼルの提案に俺とイッセーは頷く。

 

イッセーはドラゴンの翼を展開させると、背中のブーストの火を噴かす。

 

「イッセー!」

 

その声にイッセーが振り向く。

 

「必ず私のところに戻ってきなさい!」

 

「ええ、必ず戻ります!」

 

イッセーはそれだけ告げて、シャルバのほうへ突っ込んでいく。

 

俺は直後に三つの転移の光が膨らんで弾けて消えたのを確認して移動しようとした。

 

そして、1度目を閉じて念じる……

 

バサッ!!

 

羽ばたく羽音と共に俺の背中から緑色に光り輝く4対8枚の大きな翼が生える。

 

「能力…発動――『十翼天聖・メルキオ』!!!」

 

目を開けると――そこには、白くごつい鎧をきて、右手には青い光を放つダブルソードを持っていた。

 

「……ふぅ。さて―――行くか!」

 

俺は気合いを入れたあと、翼羽ばたかせて浮遊し、シャルバのほうへ飛んでいった――。

 

――――――――――――――――――――――

 

ホテル上空で哄笑しているシャルバの眼前に、イッセーのあとにたどり着いた。

 

イッセーを視界に映すとシャルバは途端に不快な顔となる。

 

「ヴァーリならともかく、貴殿のような天龍の出来損ないごときに追撃されるとはな……ッ!!どこまでもドラゴンは私をバカにしてくれる……ッ!」

 

俺は怒りの反面…呆れも感じていた。

 

「私を追撃するのは何が目的だ!?貴殿も真なる魔王の血筋を蔑にする気か!?それもオーフィスに取り入ることで力を求めるのか!?天龍の貴様のことだ、腹の底では冥界と人間界の覇権を狙っているのだろう!?」

 

シャルバの言葉にイッセーは息を吐いて言った。

 

「難しいことを並べられても俺にはまったくわからん。オーフィスもどうしたらいいかわからないし、覇権がどうたらなんてのも興味ねぇ。――ただな」

 

イッセーは指を突きつけて物申す。

 

「あんた、さっき悪魔の子供たちを殺すって言っただろう?それはダメだろ」

 

イッセーの言い分にシャルバは嘲笑う。

 

「それがどうした!当然なのだよ!!偽りの魔王が統治する冥界で育つ悪魔など、害虫以下の存在に過ぎない!成熟したところで真なる魔王である私を敬うこともないだろう!!そんな悪魔どもは滅んだほうがいいに決まっているのだ!だから、あの巨大な魔獣でゼロに戻す!!あの魔獣どもは魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)の外法によって創られた悪鬼のごときアンチモンスターなのだ!圧倒的な破壊をもたらしてくれるであろう!!穢れのない冥界が破壊によって蘇えるッ!それこそが冥界なのだよっ!!!」

 

その言葉に俺は叫んだ!

 

「民も信頼もない魔王なんて覇王そのものだっ!!シャルバとかいったな……お前は考えたことがあるか? 貴様ら悪魔がいう民が、目の前で儚き命が消えて行く瞬間を……信頼していた者達が知らない間に消えていくのを……さっきも言ったが、民も信頼もない魔王なんて覇王そのもの。そんな奴が魔王になった所で、絶対に長くは続きやしない。――貴様が成そうとしているのは、そういう何の意味も持たないものだ!それこそ、冥界の終焉そのものよ!!」

 

狂気のさたに触れたシャルバに俺は言う。

 

「ふん、知らないな。俺の目的は冥界の滅亡。今の冥界冥界さえ潰れれば、その後どうなろうが知ったことは無い!!!」

 

その言葉に俺はイッセーに向けて叫んだ!

 

「イッセー!真『女王(クイーン)』に成れ!!シャルバをここで食い止めるよ!!!」

 

「そのつもりだよッ!ツバサちゃんッ!!」

 

イッセーは紅いオーラを爆発させて、呪文を唱えだした。

 

「――我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!」

 

その声に反応して聞こえてくる歴代たちの声。

 

《いこう!兵藤一誠!!》

 

《ああ、そうだ!未来を――我らは皆の未来を守る赤龍帝なのだ!!》

 

《赤き王道を掲げるときだッ!!》

 

いままでとは違う、明るい呪文――。

 

「無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を往ゆく!我、紅き龍の帝王となりて――」

 

新たな呪文を唱えるイッセーと歴代赤龍帝の思念たち。

 

「「「「「汝を真紅に光り輝く天道へ導こう――ッ!!」」」」」

 

『Cardinal(カーディナル) Crimson(クリムゾン) Full(フル) Drive(ドライブ)!!!!』

 

イッセーの体を紅いオーラが包み込み、鎧を赤く染めていく。

 

「――ッ!紅い……鎧だと!?なんだ、その変化は!?紅……ッ!あの紅色の髪をもつ偽りの男を思い出す忌々しい色だッ!!」

 

そう吐き捨てたシャルバ。そして、俺たちに向けて手を突きだしてきた。すると、空間が歪み、そこから大量の羽虫――蠅らしいものが周囲一帯を埋め尽くす

 

「真なるベルゼブブの力を見せてくれようッ!!」

 

吠えるシャルバは、大量の蠅を操り、幾重もの円陣を組ませてそこから極大の魔力の波動を無数に撃ちだしてくる。

 

「やらせるか!!」

 

俺は神速で動き、通りすぎた瞬間に魔法陣を切り裂き、その魔力の波動を消し去る。さらに、ダブルソードを力いっぱい回して魔力の波動をあさっての方向へ軌道を逸らした。

 

魔力の波動を飛ばした後、一息つく暇もなく、蠅の大群に突っ込み、蝿の大群をひたすら斬り払っている。

 

その間、数回にわたって機械音と共に鈍い打撃音が木霊していた。

 

俺は無数の魔力の波動を斬っていなし、消し去って無力化した。

 

すると、蝿の数がかなり減ったのか、晴れた視界――そのさきには、口から吐血しているシャルバと真紅の鎧をまとっているイッセーが相対していた。

 

「クソ天龍が!これならどうだァァァァッ!!」

 

シャルバが血をまき散らしながら手元から魔方陣を展開させ、そこから出現したのは――一本の矢だ。

 

その矢が高速でイッセーに飛来し、鎧を貫通して右腕に突き刺さる。

 

すると、矢を抜こうとしたイッセーの様子が急変した。矢を抜こうとした左手が震えて、抜くのを中断して見つめていた。

 

それを見たシャルバが笑う。

 

「フハハハッハハハハッ!!苦しいであろう!辛いであろう!当然だ!!その矢の先端にはサマエルの血が塗りこんである!ハーデスから借り受けたものだ!いざというときのヴァーリ対策用に持っていたのだが……まさかゴミのような貴殿に使うことになろうとはな……。まあいい。これで形勢逆転だ。ヴァーリのように魔力が高ければ多少は耐性があるのだろうが……魔力の素質がなさそうな貴殿では、すぐに死ぬぞ」

 

――サマエルの血だと!? サマエルの血には驚異的な龍殺しの力がある! 早く治療しないとイッセーが危ない!?

 

「あとは……厄介な結城家だけか」

 

すふと、そう言いながらこちらに振り向いてくるシャルバ

 

俺は内心かなり焦りつつも、悟られないよう。そして"アイツのド根性を信じて"、口の端を吊りあげて言った。

 

「シャルバ、ひとつ言っておく。おまえは俺たちをなめすぎだ。特にイッセーを、な」

 

俺はイッセーのほうに顔を向けると、イッセーはドラゴンの両翼を広げて、シャルバに向かって飛びだしていった。

 

それを見たシャルバは仰天している。

 

「呪いを受けているはずだ!!なぜに動く!?なぜに恐怖しない!?死が怖くないというのか!?」

 

ゴッ!ドゴッ!!ガンッ!!!

 

イッセーの拳と蹴りの乱打がシャルバを襲う。その攻撃を受けてシャルバはホテルの屋上に落下し、這いつくばる。

 

「バカな……ッ!!私は真の魔王だぞ!?人間やハーデスに助けを求めてまで、屈辱を、恥辱に塗れながらも復讐を遂げようと……ッ!!吐き気を催すような英雄派の実験にまで付き合ったというのに……ッ!なぜ貴様やヴァーリのような天龍たちが立ちふさがるのだ!?大した理念も理想もない低俗なドラゴン風情が!!なぜ私のような高みに臨む存在を蔑ろにしようとする!?理解不能!理解不能だァァァァッ!!」

 

捕らえられたままのオーフィスのもとにたどり着くと、シャルバは懇願する。

 

「オーフィス!オーフィスよ!!あの『蛇』をもう一度私にくれ!そうすれば再び私は前魔王クラス以上の力を得られる!この者を倒すにはあの『蛇』が必要なのだ!!」

 

「いまの我、不安定。力を増大させるタイプの『蛇』、作れない」

 

オーフィスの告白にシャルバは絶望しきった表情となっていた。

 

俺たちはシャルバの前に降り立つ。シャルバは震えながら俺たちを見上げる。

 

シャルバが何か言おうとしたが、その前に俺が言葉を発する。

 

「……本当に哀れで馬鹿な奴。お前はやり過ぎた。あまりにも手に負えないほどにな。――お前は自分の愚かさを知り、自覚し、そしてその罪を償わないといけない…。その命を代償として、償わないといけない」

 

一息ついてるまたしゃべり出す

 

「だから。せめて、最初にあったあの時に改心してくれているのなら、まだ慈悲の余地はあったさ。でも、おまえは改心することもなく戻れないところまで来てしまってるんだよ。おまえの選べる道はただひとつ、その命をもって償え」

 

俺は息を大きく吸い、右手でシャルバに指を指しながら言いきった。

 

「さぁ――お前の罪を数えろ」

 

そして、イッセーが言う。

 

「あんたは子供たちから笑顔を奪おうとした――。ぶっ倒される理由はそれだけで十分だろッ!俺はッ!子供たちのヒーローやってる、『おっぱいドラゴン』なんだよッ!!あの子たちの未来を奪おうとするなら、ここで俺が消し飛ばすッ!!!」

 

イッセーは翼から砲身を展開させ、静かにオーラをチャージしていく。

 

シャルバが翼を広げ、空中に逃げたが――。

 

「この俺が逃がすと思ってるの?」

 

俺は自身の翼を刃状のものに変化させ、コマのように回転しながらすべてをシャルバに向けて放つ。

 

空中で俺に細切れにされるシャルバ。血達磨になりながらも脱出しボロボロの悪魔の羽と身体で逃げようとするが、直後にイッセーが叫んだ。

 

「吹き飛べェェッ!クリムゾンブラスタァァァァァァァアアアアアアアアアアッ!!」

 

『Fang(ファング) Blast(ブラスト) Booster(ブラスター)!!!!』

 

咆哮からシャルバに止めをさすべく紅色の極大なオーラが解き放たれる。

 

「フハハハハハハッ!どうせ貴殿もサマエルの毒で死ぬのだッ!!赤龍帝ェェェッ!!!」

 

やはりボロボロすぎて無理だったのか、血達磨になって落下しながら絶叫するシャルバを紅いオーラが包み込んでいった――。

 

――――――――――――――――――――――

 

あれから、イッセーがシャルバを消し去ったあと、俺はオーフィスを魔力の縄から解放した。

 

……まぁ、ただ触れるだけで魔力の縄は消滅したから、正直言ってなにもしてないけど。

 

その直後に俺のコピー能力が解除されてしまい力が一気に抜けた。うぅ〜……せめて向こうに帰還できるまで保ってほしかったんだけど…

 

……まぁ、いいや。メルキオの力は破壊しかできないし。やっぱり使い慣れてないのは、不安定すぎて上手く力を引き出せないね…。これからの課題の一つだな。

 

崩れおれかけた体だが、まだ"約束"を終えてないので、無理矢理にでも力を入れて支えた。

 

俺はイッセーとオーフィスの会話を聞きながら、サマエルの毒を取り出す方法を考えていた。

 

…コピー能力の力は一時的とはいえ、使えない。コピーする相手の実力が高ければ高いほど、連続で使う時に機械でいう冷却のためのタイムログがあり、すぐには使えないのだ。魔力も使いすぎて殆ど残っておらず、現に俺の身体は"女体化"している。魔力だけじゃなく、体力もなく…こうして立っているのがやっとだ。いまのままで、サマエルの毒を抜こうとすると、下手をすれば俺自身が危険な状態になってしまう。最悪、即死だろう。俺もミラ・ルーツの神器の所持者でもあり、"龍の巫女"をやってる為、1/3も神龍の血が流れているからね。

 

…結局、サマエルの毒の取り出しは、いまの俺ではできそうにもない。

 

移動手段も転移魔法陣かスキマ…あ、あと、龍門(ドラゴン・ゲート)もあったっけ?まぁ、いまのままじゃ、頑張っても移動人数は最大で一人か二人……かな。

 

俺は思考タイムを終える。…まだ体がだるいので、とりあえず座ることにした。立っていても辛いだけだしね…。

 

しばらく、のんびりと待ってると、話しが終わったのか、すぐ傍で座っていたイッセーとオーフィスが立ち上がった。

 

イッセーとオーフィスは歩きだす。そのあとに俺もついて行く。

 

…崩壊していくフィールドのなか、オーフィスに肩を貸してもらって歩くイッセー。時折、脱力しかけていたが、気力で踏ん張って持ち直していた。

 

「……なぁ、オーフィス」

 

横に並んで歩く俺たちに聞こえるぐらいの声量で、イッセーはオーフィスに話しかけた。

 

「?」

 

「おまえ、帰ったら何がしたい……?」

 

「帰る?我、どこにも帰るところない。次元の狭間、帰る力ももうない」

 

「……それなら、俺の家に……帰ればいい」

 

「赤龍帝の家?」

 

「……ああ、そうだ。アーシアと……イリナと……仲良くなれたんなら……きっと、他の……皆とも……」

 

足に力を入らず、前に倒れるイッセー。

 

「――え?……っ!?ちょっ!し、しっかりしろ!イッセー!! 」

 

俺は慌てて前に駆け寄り、イッセーの傍に座り込んで叫んだ。

 

「……はは……ツバサちゃん…らしくないよ。……泣くツバサちゃん。…あの時……ロキとの…戦い以来……だね…」

 

仰向けのイッセーが微笑みを浮かべて言う。

 

――だが、その声は、何時もみたいに明るくなく……かなり、弱々しかった。

 

「イッセー、ごめんね…。俺は…今回何もしてやれない…。ごめんね……本当に…本当にごめんね……」

 

「……何を謝ってるんだよ、ツバサちゃん」

 

俺は視界がぼやけてしまうほど涙を流していた。

 

自分の無力さを呪いたい。…そう思ったのは久しぶりだった。転生したあと、心のどこかで、自分には絶対的な力があると慢心していた。……その結果が、これかよ……ちくしょぅ

 

「……オーフィス、おまえ、誰かを……好きになったことはあるか……?」

 

イッセーが朦朧とした意識を保ちながら、オーフィスに問いかけた。

 

『相棒、気をしっかりしろ!皆が待っているのだぞ!』

 

ドライグも宝玉から音声を発してイッセーの意識を繋ぎ留めようとしていた。

 

「ドライグ、この者は呪いが全身に回っている。――限界」

 

『わかっている、オーフィス!そんなことはわかっている!!だが、死なぬ!この男はいつだって立ち上がったのだ!!』

 

「帰ろ? 帰ろうよ、イッセー!。おまえの家に…皆が待つ家に……そう、"約束"したじゃないか!!」

 

そう、俺とイッセーはこの結界内に閉じこめられた時、作戦会議をしたあと、2人で他愛ない話をしていた時に約束していたのだ。

 

――2人で、絶対に帰ると。愛しき人の元に……

 

『そうだ、帰ろう!相棒!!何をしている!立て!!おまえはいつだって、立ってきたじゃないか!!!』

 

ドライグがより声を上げてイッセーに叫ぶ。

 

しかし、イッセーの目から光が薄れていく……。

 

「大好きだよ、リアス……………」

 

最愛の女性の名を口にしたイッセーは――眠るように瞼を閉じた。

 

……………………………………………――――――――――。

 

俺はオーフィスの肩を借りて泣いていた……ただ、ひたすら、後悔のなかで…。

 

ここまで悔しいことはなかった。いままでの人生のなかで…。それほど、イッセーの存在は俺の中で、俺が思っていたよりも強かったのだろうか?

 

……だが、いまはそれを確認する事はできない。なぜなら――そのイッセーは、死んでしまったのだから…

 

俺は、あまりの悔しさに唇を強くかみしめた。唇から、血がにじみ出て鉄の味がする。

 

親友の――イッセーの本当の死を眼前にして、俺は拭いきれない想いを背に負っていた。

 

俺は涙を拭い、「ありがとう」とオーフィスに言って座り直した。

 

すると、オーフィスが亡骸のイッセーを見ながら言う。

 

「……ドライグ、この者、動かない」

 

『…………ああ』

 

「……ドライグ、泣いている?」

 

『…………ああ』

 

「我、少しの付き合いだった」

 

『…………そうだな』

 

「悪い者ではなかった。――我の、最初の友達」

 

『……ああ、楽しかった。……なあ、オーフィス。いや、この男の最後の友よ』

 

「なに?」

 

『俺の意識が次の宿主に移るまでの間、少しだけ話を聞いてくれないか?』

 

「わかった」

 

『この男のことを、どうか、覚えておいて欲しい。その話をさせてくれ……』

 

「いい赤龍帝だった?」

 

『ああ、最高の赤龍帝だった男の話だ』

 

俺はオーフィスと共にドライグの話を聞いて、龍門(ドラゴン・ゲート)が召喚されるのを待った。

 

――――――――――――――――――――――

 

―木場祐斗 side―

 

僕の眼前ではアザゼル先生と元龍王のタンニーンさまの協力のもと、召喚用の儀式が執り行われていた。

 

「召喚用の魔方陣を用意できた。――龍門(ドラゴン・ゲート)を開くぞ」

 

先生がそう告げて、魔方陣が輝きを増していく。

 

中級悪魔の昇格試験センターにある転移魔方陣フロアに僕たちグレモリー眷属と結城家のメンバー+メイドさんたちと関係者が一堂に会していた。

 

アザゼル先生が地下のいちフロア全体にドラゴンを呼び出す魔方陣を描き、龍門(ドラゴン・ゲート)を開いてイッセーくんとツバサちゃんを呼び寄せようとしている。

 

元龍王のタンニーンさまを早急にお呼びし、龍門(ドラゴン・ゲート)を開くための協力をしていただいている。もちろん、白龍皇であるヴァーリも魔方陣の隅で待機していた。

 

あのあと、あの空間から生みだされた『魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)』の規格外のモンスターたちは、現実の冥界に出現し、各都市部に向けて進撃を開始した。

 

すでに悪魔と堕天使の同盟による迎撃部隊が派遣されたのだが……。規格外の大きさ、凶悪な堅牢さに手を焼いているところだった。

 

話では、その魔獣たちは進撃と共に数多くのアンチモンスターを独自に生みだしているという。そこに旧魔王派の残党が合流して、巨大な魔獣たちの進行方向にある村や町を襲撃し始めたそうだと聞く。

 

こちらに帰ってきた光輝さんとレイジさんたちは、すぐに地球連邦軍の本部に連絡し、今回の事件を話して、冥界の各村や町に散開して避難誘導や生みだされたアンチモンスターの迎撃にあたっているようだ。

 

冥府の神ハーデスは英雄派にも旧魔王派にも裏で力を貸していた。英雄派ですら騙されるほどに手広く魔手を伸ばしていた。悪魔や堕天使、各神話勢力に一泡吹かすことができれば何をしてもいいという判断なのだろうか……。

 

曹操に奪われたオーフィスの力も心配だ。それを使った新たなオーフィスの誕生……。考えただけでも寒気がする。簡単にかなりのレベルアップを出来る、オーフィスの『蛇』それが大量生産されるからだ。

 

事態は深刻になっていき、魔王さま方も各勢力に打診しているそうなのだけれど……。

 

同盟関係にある各勢力からも救援部隊が派遣される。天界からは『御使い(ブレイブ・セイント)』が、堕天使サイドからは神器(セイクリッド・ギア)所有者が、北欧からはヴァルキリー部隊など、冥界――悪魔の危機に応じてくれるみたいだった。

 

ゼノヴィアとイリナさんは無事に事件の顛末を各上層部に伝えることができた。彼女たちは現在天界でデュランダルの修復に入っているという。

 

「――――よし、繋がった!」

 

アザゼル先生がそう叫び、巨大な魔方陣に光が走る!先生の持つファーブニルの宝玉が金色に光り、隅にいたヴァーリの体も白く発光し、タンニーンさまの体も紫色に輝いく。人間の姿のティアマットさんの体も青く輝き、光輝さんの体は赤黒く輝き、レイジさんは灰色に輝く。それに呼応するように魔方陣の輝きがいっそう広がっていく。

 

力強く光り輝く魔方陣はついに弾けて何かを出現させようとした。そして、閃光がこのフロア全体を包み込んでいく。

 

……まばゆい光を手で遮ったが、それも止み、僕たちは視線を魔方陣の中央に向けた。

 

魔方陣の中央、そこに出現したのは――紅い八つの『兵 士(ポーン)』の駒を手に持った、女の子になった、ツバサちゃんだった。

 

え……?どういうこと……?僕はその現象をまるで理解できなかった。

 

眼前にあるのはイッセーくんではなく――『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』だった。そして、その色は部長が所有していた駒と同じ紅色――。けれど、イッセーくんではない。

 

そこには彼の姿は無く、ツバサちゃんの手元にある『兵士(ポーン)』の駒が八つしかなかった――。

 

数瞬、それをを意味することが何を示すのか、わからなかった僕たちだけれど――、

 

ツバサちゃんが大切に、しかし強く握りしめ胸に備えながら、膝をつき大粒の涙を流した。

 

「……ごめんなさい…ごめんなさい。………イッセーを助けられなくて、ごめんなさぃ…」

 

「ツバサ――っ!」

 

光輝さん、そしてレイジさん、優子さんの3人が駆け寄った。

 

それと同時に、それを聞いた先生が力なくその場でひざをついて、フロアの床を叩いた。

 

「……バカ野郎……ッ!」

 

ツバサちゃんの涙と先生のしぼりだした声を聞いて徐々に理解し始める。

 

朱乃さんはその場にへたりこみ泣いているツバサちゃんの隣に近づき、同じ目線にしゃがむと、強くツバサちゃんを抱きしめた。部長は呆然としたままその場に立ち尽くしていた。

 

「……イッセーさんは?……え?」

 

怪訝そうにうかがうアーシアさん。ツバサちゃんを見ながら反応を示さない白音ちゃんにレイヴェルさんが抱きつき、「いやぁ……」と信じられないように首を横に振って嗚咽を漏らし始める……。

 

口元を両手で覆って嗚咽を漏らしているメイド姿のレイナーレさんに同じ姿のミッテルトさんが抱きついて嗚咽を漏らしている。

 

瞑目している光輝さんとレイジさん。しかし、握られている拳からは血が滴っていた。血が出るほど強く握っているのだろう。

 

皆が瞑目しているなか、光輝さんが突然倒れて気絶したツバサちゃんを横抱き――お姫様抱っこして、どこかに移動していく。

 

……卑怯だよ、イッセーくん。駒だけを帰すなんて……。ちゃんと戻るって言ったじゃないか……。

 

僕の頬を伝う涙はしばらく止まらなかった。

 

その日、僕たちは最愛のイッセーくんを失った――。




いや〜、予約投稿してたと思ってたら出来てなくて、慌てて投稿しました。危ない危ない……( ̄▽ ̄;)

さて、やっと次で新しい章へと突入ですね。

それでは次回、またお会いしましょう! バイバ〜イ!

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