ハイスクールD×D~最強男の娘の転生物語~   作:三元新

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連続投稿!……やっと、やっとだ! やっと突然ストックが消えてたり、電波障害や予約投稿失敗や何やらで、いろいろ邪魔があったが……やっと投稿できた! くっ、あかん!嬉しすぎて泣けてくるよ!

そして、サイラオーグの話もこれで終わりかな?……たぶんラストだよ。うん


8話 決着…そして――

―ツバサ side―

 

俺はイッセーとサイラオーグの試合に目を向けた。

 

『おおっと!赤龍帝が紅いオーラに包まれたと思ったら、スイッチ姫のおっぱいフラッシュを浴びて、鎧を変質させて立ち上がったーっ!』

 

なんてことを実況が叫ぶ。

 

……イッセーは紅く変化した鎧をまとっていた。どうやら、完全に復活したみたいだね。

 

ほんの少し驚いていた俺の隣に座っているアザゼルが言う。

 

「赤いオーラ……。いや、赤ではない。もっと鮮やかで、気高い色。あれは――。――真紅のオーラ。そう、紅だ。『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』と称される男の髪と同じ色であり、あのバカが惚れた女の髪と同じ色――」

 

――紅か。……うん。確かにね。マジで、紅色の鎧だよ。もっと詳しくいうと、赤というより深い色合いで紅だね。

 

「あいつにだけ許された奇跡か……ッ!ていうか、今回はリアスの乳を吸ってパワーアップするんじゃなかったのか!?」

 

……あ~、アザゼルはいつも通りなのね。……この変態。

 

「…ったく。アザゼルは本当に変態だね。そう思わない?光輝兄さん」

 

俺は光輝兄さんにそう聞きながら向くと……

 

「えっ?――あ、そ、そうだな!ハハハ!まったくアザゼルの野郎は変態だな。同じ男の風上におけんよ!ふはははは!」

 

……? なんで光輝兄さんはこんなにも動揺してんのかな?……チョットだけ心の中覗いてみ〜よおっと。

 

俺は密かに古明地さとりさんの能力を使って見た。

 

「(やっ、やっべぇ〜!俺もアザゼルと同じ考えをしていたぜ。……危ない危ない。とっさにとった行動とはいえ、きっと俺はかなりうまい演技で誤魔化せたはずだ。流石だな。

それにしても……くっ!リアスのエッチな姿を見たかった!俺も一男だ!リアス見たいなエロい体型の女性をガン見しちゃうのは仕方の無いことだ!!それが男ってもんだ! それを見ないレイジとツバサがおかしなだけだよな!そうに違いない!!

……いや、まてよ?……レイジはともかく、ツバサは――あぁ、コイツは弟じゃないんだったな。妹、つまり女の子だ。なるほど、これで納得がいったぞ。そりゃ〜、リアスと同じ女の子ならエッチな野郎は冷ややかな目で見られるな。うん、それなら仕方がない。今回みたいなイッセーのエロを冷ややかな目で見るのは当たり前だよな〜。ははははは!)」

 

………………………………………………

 

『つーくん。こんなのは無視しなさい。それが得策よ。だからほっときなさい。これは後でお仕置きしておくから。』

 

…………わかった。ルーツ。

 

「……さて、気を取り直してイッセーの試合を見なくちゃね〜」

 

俺は、光輝兄さんを無視しつつ、イッセーとサイラオーグの試合を見る。

 

すると、イッセーの変貌を見て、獅子の鎧を着込むサイラオーグが言う。

 

『――「真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)」と言ったところか。その色は紅と称された魔王さまとまったく同じもの。――リアスの髪と同じ色だ』

 

イッセーは息を深く吐いて、決心した言葉を口にしだす。

 

『惚れた女のイメージカラーだ。部長は、リアス・グレモリーは俺が惚れた女だ。惚れた女を勝たせたい。惚れた女を守りたい。惚れた女のために戦いたい。俺は――俺はッ!』

 

イッセーは天高く叫ぶ。もう、完全にやけくそのようだね。

 

『俺を求める冥界のこどもたちと、惚れた女の目の前であなたを倒すッ!! 俺の夢のためッ! 子供たちの夢のためッ! リアス・グレモリーの夢のためッ!! 俺は今日あなたを超えるッ! 俺はリアス・グレモリーが大好きだぁぁぁぁぁぁああああっっ!!!』

 

イッセーの隣に立っているリアスさんの顔が真っ赤を通り越した真っ赤になっていた。それも、今のイッセーの鎧とリアスさんの髪の色と同じかそれ以上の紅色に。

 

はっきり言って、見ているこっちも恥ずかしいよ。よくこんな大勢、それもテレビまでいる大勢の前で宣言できるよね。……それほど気持ちが高まっているのかな?

 

『ハハハハハハハハハッ!!』

 

イッセーのリアスへの告白を聞き届けたサイラオーグが、豪快に笑いだす。

 

『リアスの胸が発する光を浴びて、何かに目覚めたようだな。ならば俺はそのおまえを打ち倒し我が夢の糧とするッッ!』

 

イッセーが膨大な紅いオーラをまとって、神速で飛び出していく。

 

『Star Sonic Booster(スターソニックブースター)!!!!』

 

飛び出した勢いだけで周囲の景色が吹き飛びそうになっている。その速度はトリアイナの『騎士(ナイト)』並み――否、それ以上かもしれない。

 

サイラオーグも全身に闘気をみなぎらせてイッセーを迎え撃つ格好を取る。

 

『Solid Impact Booster(ソリッドインパクトブースター)!!!!』

 

お互いがただ殴り、殴られ、それでもひたすら殴り、ただひたすら殴られる。

 

顔を、腹を、腕を、脚を。ただただ、殴り続け、殴られ続ける。鎧が弾けるが、修復が間に合ってもすぐにそこへ拳が放り込まれる。その再び放り込まれた拳で鎧は簡単に破壊される。

 

お互いの拳が、お互いの体を破壊していく――。

 

そのたびにフィールド全体が大きく震え、地が避け、次元に穴が開く。

 

バカげるほどに単純な、威力に満ちた打撃戦。

 

そんな2人を見て実況が叫んだ。

 

『殴り合いですッ! 壮絶な殴り合いがフィールド中央でおこなわれておりますッ!! 華麗な戦術でもなく、練りに練られた魔力合戦でもなく、超々至近距離による子供のような殴り合いッ! 殴って、殴られて、ただそれだけのことが、頑丈なバトルフィールド全体を壊さんばかりの大迫力で続けられておりますッ! 観客は総立ちッ! スタンディングオベーション状態となっておりますッ!! ただの打撃合戦に老若男女が興奮していますッ!!! よくやるぜ、二人ともォォォォッッ!!!!』

 

「「「「「「「「「「サイラオーグゥゥッ!!!」」」」」」」」」」

「「「「「「「「「「おっぱいドラゴンッ! おっぱいドラゴンッッ!!」」」」」」」」」」

 

大人子供がサイラオーグとイッセーを応援している。

 

「いきなさい! もっと、頑張りなさいよ!イッセー!サイラオーグ!」

 

「二人とも頑張って!イッセーくん!サイラオーグくん!!」

 

「もっと踏んばりなさい! 兵藤一誠!サイラオーグ・バアル!! もっともっと頑張りなさいよ!!」

 

「おら!二人ともまだまだ行けるだろうが!!もっと頑張りやがれ!!もっと力を限界まで振り絞れ!そんなもんなのかテメェーらの実力はよ!!もっと、熱く燃え上がれよ!!!」

 

「そうだ!そこだ!! もっと熱くなれよ!! もっともっと力を限界まで出し切れ!!イッセー!サイラオーグ!!」

 

姉さんに兄さん達も画像越しとはいえ目の前で繰り広げられている戦いに熱く熱狂していた。普段クールなレイジ兄さんやナツル姉さんたちでさえ、興奮してもえているほどだ。

 

「二人ともいっけぇぇぇぇぇ!! イッセー!お前はもっと力を出せるだろ!!イッセーの実力はそんなもんか?違うだろッ! いままでの修行を思い出せ!いける!イッセーならもっといけるから頑張れ!!

サイラオーグッ!お前の覚悟はそんなもんなのか!お前が培ってきたモノはそんな程度なのか?違うだろ!もっとお前ならいける!もっと上を目指せるはずだ!だからもっと力を出し切れ!!もっともっと限界まで己の眠れる獅子を呼び覚まし、力を出し切りなさい!!!

そんでもって、二人とももっと熱い戦いを俺達に見せてよ!!だから――頑張れぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」

 

かく言う俺も、イッセーとサイラオーグ、そして周りのみんなに感化されたのか、ワクワクドキドキしすぎて、おかしくなってしまったようだ。

 

 

『俺はッ!あんたを倒してッ!!上に行く……ッ!!!』

 

すると、イッセーの右腕を紅いオーラが覆い、右腕のみをトリアイナの『戦車(ルーク)』のものへと形成していく。

 

『Solid Impact Booster(ソリッドインパクトブースター)!!!!』

 

サイラオーグの腹部に突き刺さるイッセーの拳。

 

それを食らったサイラオーグが膝をつく…。

 

ぷるぷると震えている足。ダメージは深刻のようだ。

 

すると、サイラオーグは自身の足に激高した。

 

『どうした、足よ! 何故震える!? まだ! まだこれからではないか!!!』

 

地を大きく踏み込み、サイラオーグは立ち上がっていく。

 

『保て!保て俺の体よ……ッ! このような戦い、いま心底味わわずに大王バアル家の次期当主が名乗れると思うのか……ッ!!」

 

すごい気合いだ……。画面越しにいるこちらまで伝わってくる。

 

そのせいか、かなり熱くなっている光輝兄さんとレイジ兄さんの笑みにさらに深みがかかった。どうやら、軽く戦闘狂の状態になってしまったようだ。現に、いまにも飛び出してしまいそうで怖い。

 

そんな中、イッセーは臆すること無く、迫るサイラオーグの太ももに目掛けてローキックを放つ。

 

ガシャッ!!

 

そのキックがサイラオーグの鎧ごと太ももを破壊した。

 

サイラオーグの体がぐらつくのを間髪入れず、イッセーは顔面を鋭く拳でぶち抜く。兜が割れ、生身の顔にイッセーの拳がもろに入り込んだ。

 

拳打の勢いで後方に吹き飛ぶサイラオーグ。そんな彼に対してイッセーは両翼からキャノンを出現させ、吹き飛ぶサイラオーグに照準を合わせる。

 

静かに鳴動が始まり、トリアイナの『僧侶(ビショップ)』より早い時間でチャージを終えた。

 

『クリムゾンブラスタァァァァァァァァァアッ!!』

 

『Fang Blast Booster(ファングブラストブースター)!!!!』

 

放たれた紅色のオーラは、いままでのような拡散型の放射ではなく、集中的に範囲を狭めに狭め、威力を濃縮させた一点集中型の砲撃を放射される。

 

威力がケタ違いに上がった砲撃は、サイラオーグを包み込んだ。

 

ドオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

サイラオーグを包み込んだ紅色のオーラは、強大な爆発を生みだしたあと、煙が止み、地を大きくえぐってできた巨大なクレーターの中央に――サイラオーグが倒れていた。動く気配がない。――どうやら、イッセーの魔力の砲撃が通ったようだ。

 

その瞬間、会場が沸きあがった――。

 

もう、立てないだろう。先ほどの一撃や他の攻撃でかなりのダメージが蓄積されたはず――。

 

そう誰もが思っていたそのときだった――。俺の視界――正確には映像のなかに……女性が一人、ゆらりゆらりと出現した。

 

俺は瞬時にさとり妖怪の第三の眼を発動させ、さらに霊感を能力で上げさせて、それを見た。

 

「……やっぱり」

 

――うん。間違いない、魂そのものだ。

 

それは…いや、その"人"は……サイラオーグの傍らに立ち、何かを話しかけているようだ。

 

イッセーは気づいているみたいだが、その他はまったく気がついていない様子だ。

 

『―――なさい!』

 

女性は静かに、確かな口調で話し始めた。

 

すると、サイラオーグが……サイラオーグさんが、僅かに動いた。そして、顔をあげる。ボロボロと化した顔。目は虚ろだが、瞳の奥にまだ強い意志を感じる。

 

女性がサイラオーグさんを呼ぶ。

 

『サイラオーグ』

 

……誰なんだろう?どこか、サイラオーグさんを思わせる雰囲気を醸し出しているけど…。なんか、気配も同じ似た感じだし……。 あっ!もしかして、リアスさんが言っていたサイラオーグさんの母親かな? 確か、ソーナンさんの自然豊かなシトリーの領にある病院で昏睡していると聞いていたけれど……。

 

……え?ちょっと待てよ…仮にもしそうだとしてもなんで?――はっ!? も、もしかして、サイラオーグさんのお母さんは…もう――

 

『それはないわ。安心しなさい。おそらくサイラオーグの強い信念と母の強い想いが合わさって、母の意識だけをここに飛ばしたのでしょうね』

 

ルーツが俺にそう言ってきた。

 

なるほどね……これも、思いの力ってやつなのかな?

 

俺は先ほどの言動や雰囲気、そして、俺の勘とルーツの話から女性がサイラオーグの母親と確信した。

 

『サイラオーグ』

 

その声は必死に戦う息子を労ねぎらう、心配する、母親の優しげな激励――ではなかった。

 

『立ちなさい。立ちなさい!サイラオーグ!』

 

サイラオーグさんのお母さんの表情は厳しく、誇り高く、気丈なもの――。その声は応援などなく、息子を叱咤する母親のそれだった。

 

『あなたはだれよりも強くなると私と約束したでしょう!』

 

――っ。

 

サイラオーグさんの体が――動いた。それは徐々に確かになっていき、手が動き、腕が動き、足が動いて、体が持ち上がり始めた。

 

『夢を叶えなさい! あなたの望む世界を、冥界の未来のために、自分が味わったものを後世に残さないために、そのためにあなたは拳を握りしめたのでしょう!』

 

その言葉がサイラオーグさんに届いているものなのかはわからない。聞こえてはいないのかもしれない。

 

『たとえ生まれがどうであろうと結果的に素晴らしい能力を持っていれば、誰もが相応の位置につける世界――。それがあなたの望む世界のはずです!これから生まれてくるであろう冥界の子供たちが悲しい思いを味わわないで済む世界――ッ!それを作るのでしょう!!』

 

サイラオーグさんのお母さんは徐々に消えていくなか、最後に一瞬だけ微笑みを浮かべた。その表情は自慢の息子を見る母親の顔のそれだった。

 

その瞬間だった。

 

地を大きく踏みしめ、血をまき散らしながら、イッセーの眼前の漢が完全に立ち上がった。

 

『さあ、いきなさい。私の愛しいサイラオーグ。あなたは―――私の息子なのだから』

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!』

 

獅子が咆哮を上げた。

 

オオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ……!!

 

それは雄々しく、しかし、どこか悲哀にも感じて――透き通るほどに見事な獅子王の咆哮だった。

 

会場が大きく震えている。そして、戦っていないはずの俺達の心も心底打ち震えた。

 

俺は古明地さとりの能力を使ってたまんまだったのを忘れていて、イッセーの心を読み取り、そして感じ取った。

 

恐怖、戦慄、いや、それ以外にも高揚、興奮と矛盾するかのような感情がイッセーのなかで渦巻き、体中の細胞を湧き立たせるようだった。

 

――このヒトと、まだ戦えるッ!

 

そんな歓喜に似た感情がイッセーの心を呑み込んでいく。

 

『兵藤一誠ッ! 負けんッ! 俺はッ! 俺には叶えねばならないものがあるのだッ!!!』

 

サイラオーグがイッセーに向かっていく……ボロボロのぐしゃぐしゃの状態で。

 

『俺だって!負けられねぇんだよォォォォォォッ!』

 

それに対してイッセーも呼応して飛び込む。

 

イッセーとサイラオーグの拳が同時にお互いの顔面に鋭く食い込む。

 

イッセーが何度ぶん殴ってもサイラオーグは倒れない。ギラギラとした双眸を一時も薄めないまま、サイラオーグはイッセーに拳を放り込む。その威力はイッセーの体中のすべてのものを根こそぎ持っていくような一撃ばかりだった。

 

「――ん?」

 

その時……俺はなにかの異変に気がついた。

 

俺だけじゃない、ここにいる兄さんと姉さん達も同時に気づいたのだった。……だが、俺たち以外、ほかの人はまだ気付いていないのか、熱く熱狂していた。

 

俺は瞬時にサイラオーグの状態を能力で見てそしてて……納得した。

 

「……もう、気絶してるよ。あいつ」

 

――そうサイラオーグは……とっくに気を失っていると…。

 

『……はぁはぁ……お、俺にも夢がある……!部長を……ゲーム王者にして……』

 

イッセーはフラフラになりながらも、それでも前に進み、サイラオーグに拳を放つ。

 

『俺も……いずれ王者になる……ッ!誰よりも強くなるッ!俺はッ!最強の『兵士(ポーン)』になるんだァァァァァアアアァァァァッッ!!』

 

――っ!

 

俺は試合を止めようとした……でも、そんなことはできなかった。だって――

 

「……こんなの、止められない、止められるはずもないよ。」

 

俺の声に反応したのか、兄さんに姉さん達は、静かに頷き、その試合の最後を見届けるのだった。

 

――ドゴンッ!

 

イッセーの拳打がサイラオーグに届く。芯に響くほどの一撃だと、わかるほどの一撃だった。

 

そんな渾身の一撃をモロに食らったサイラオーグはふらつき、ぐらぐらと体を揺らすが……

 

――それでも倒れなかった。

 

「――サイラオーグさんっ…あんたって人は……ッ!」

 

すると、俺の声に反応した光輝兄さんがこっちを見てきた。

 

「……これが、真の漢の、そして本当の王者の風格だ。……この事をしかと目に焼つけ、そして決して忘れるなよ。ツバサ。」

 

俺は、光輝兄さんの言葉に静かに頷いた。

 

イッセーは鎧を維持する力を失ったようで、禁手(バランス・ブレイカー)が解かれた。

 

それでもイッセーは生身の拳でサイラオーグに立ち向かおうとしていた……。

 

……だけど。

 

『……赤龍帝……もういい……』

 

そのとき、サイラオーグの鎧の胸部分にある獅子が声を発した。

 

『……我が主は……サイラオーグさまは……』

 

獅子は目の部分から、涙を溢れさせている。

 

『サイラオーグさん……?』

 

イッセーもようやく気がついたようで、突きだそうとしていた拳を収めた。

 

『……サイラオーグさまは……少し前から意識を失っていた……』

 

……うん。そうなんだよ。イッセー…

 

そんなサイラオーグは、サイラオーグさんは……拳を突きだし、いままさにイッセーに向かおうとしたまま――意識を失っていた。

 

それも、笑ったままだった――。

 

『それでも……うれしそうに……ただうれしそうに……向かっていった……。……ただ、真っ直ぐに……あなたとの夢を賭けた戦いを真に楽しんで……』

 

ライオンは慟哭した。

 

……そう、サイラオーグは意地だけでイッセーと戦っていたんだ。たとえ意識を失おうとも……。前に…ただ前に……ただただ自身の夢のために――。

 

イッセーはそんなサイラオーグさんに頭を深く下げていた。そしてそのボロボロの体を抱きしめ、震える声で叫んだ。

 

『……ありがとう……、ありがとうございましたぁぁあッッ!!』

 

『サイラオーグ・バアル選手、投了。リタイヤです。ゲーム終了です。リアス・グレモリーチームの勝利です!!』

 

最後のアナウンスがされ、会場が熱気に包まれていったのだった。

 

――――――――――――――――――――――

 

試合が終わり、かく医療班の人達が慌てている中、光輝兄さんが立った。

 

「さて……ツバサ、優子!」

 

「「なに?(はい!)」」

 

光輝兄さんに呼ばれた俺と優子姉さんが返事をした。

 

「お前たちはサイラオーグとリアスの眷属に別れて治療してくれ。特に、サイラオーグとイッセーは先にやってくれよ。ひとりで無理なら2人で1人を治療しろ。いいな?」

 

「OK!わかったわ。つーくん!私はサイラオーグの方に行くわ。あなたはリアス達の方へいきなさい!」

 

「了解!姉さんも頑張ってね!」

 

「ええ、もちろんよ!」

 

そう言って俺達はそれぞれ別れて治療しに行くのだった。

 

―side out―

 

――――――――――――――――――――――

 

―イッセー side―

 

目が覚めるとそこは見知らぬ天井だった。

 

「……ここは?」

 

周囲を見渡せば自分は包帯姿で病室のベッドにいることがわかる。ケガはともかくら消耗が、ハンパじゃないな。体力が微塵も残っていないようだ……。手に力が入らない。

 

……試合に勝ったまでは覚えているんだけど……。あのあと、気を失った?

 

「起きたか」

 

――っ。聞き覚えのある声! 隣を見れば――包帯姿のサイラオーグさんだった。

 

「サイラオーグさん……。と、隣のベッドだったんですね」

 

「偶然にもな。病室なら余っているだろうに。サーゼクスさまかアザゼル総督か、体力が回復するまでの話し相手としてマッチングしてくれたのかもしれないな」

 

ははは、ベッドでまで戦いたくありませんよ……。

 

「……負けたか」

 

サイラオーグさんがそうつぶやく。

 

「……悪くない。こんなにも充実した負けは初めてかもしれないな。だが、最後の一瞬はよく覚えていない。気づいたらここだった」

 

「俺も……正直、記憶が飛び飛びで」

 

「ひとつだけハッキリしている。――とても最高の殴り合いだった」

 

――っ。確かに。清々しささえあった。

 

「俺もボコボコになって、ボコボコにしてやって、変に気分がいいです」

 

お互いに包帯姿で笑みを見せる。そこへ入室してくる者がいた。

 

「失礼するよ」

 

「お邪魔するね」

 

紅髪の男性と黒髪の女性…のような男の娘。サーゼクスさまとツバサちゃんだ。

 

「サーゼクスさま、とツバサちゃん」

 

「やあ、イッセーくん、サイラオーグ。本当に良い試合だった。私もそう強く思うし、上役も全員満足していたよ。二人の将来が楽しみになる一戦だった」

 

サーゼクスさまは激励を俺とサイラオーグさんに送ってくださったあと、近くの椅子に腰をおろした。

 

……ツバサちゃんが無表情に見えて、終始、笑いを堪えようとぷるぷるしているのはなんだろうか?現に、顔が赤いし、ちょっぴり口元がニヤけている。……ずっごい気になるんだけど!? なに!そんなにいまの俺の姿が可笑しいのか!?ここに鏡がないのが悔やまれる!!

 

「さて、イッセーくんにお話があるんだ。サイラオーグ、しばし彼と話していいだろうか?」

 

「俺はかまいません。……席を外しましょうか?」

 

「いや、かまわないよ。キミもそこで聞いておいて損はないかもしれない」

 

サーゼクスさまが真面目な顔でおっしゃる。

 

「イッセーくんに昇格の話があるのだよ」

 

…………。

 

俺はいま、言われた意味が理解できなかった。

 

しかし、サーゼクスさまが続ける。

 

「正確に言うとキミと木場くんと朱乃くんだが。ここまでキミたちはテロリストの攻撃を防いでくれた。三大勢力の会談テロ、旧魔王派のテロ、神のロキですら退けた。そして先の京都での一件と今回の見事な試合で完全に決定がされた。――近いうちにキミたち三人は階級が上がるだろう。おめでとう。これは異例であり、昨今では稀な昇格だ」

 

笑顔でそう言うサーゼクスさま。

 

…………。

 

「へ……?」

 

それしか言えないが――。しだいに言われた内容の意味を理解していく。

 

ちょ、ちょ、ちょっと……! しょ、しょ、しょ、しょ、昇格ぅぅぅぅぅっ!?

 

「お、俺が昇格!? え!? プロモーションとかじゃなくてですか!?」

 

俺の問いにツバサちゃんがとうとう吹き出し、サーゼクスさまは笑む

 

「それだけのことをキミたちは示してくれた。まだ足りない部分もあるが、将来を見込んだ上でということだよ」

 

いまだ、事の成り行きがわからない俺にサイラオーグさんが言う。

 

「受けろ、兵藤一誠。おまえはそれだけのことをやってきたのだ。出自など関係ない。おまえは――冥界の英雄になるべき男だ」

 

…そ、そんなことを言われても俺は……。

 

混乱する俺を見て、ツバサちゃんは爆笑し、サーゼクスさまも苦笑されていた。

 

途中、ツバサちゃんが笑い過ぎてむせていて、ちょっと涙目になってうるうるしていたのが、凄く可愛かったと記憶しておこう。

 

そして、可愛いのが見れたので笑っていたことは水に流しておこうと思うのだった。

 

「うむ。詳細は今後改めてそちらに通知しよう。きちんとした儀礼を済まして昇格といきたいのでね。会場の設置や承認すべき事柄もこれから決めていかないといけないのだよ。では、これで失礼する」

 

それだけを言い残して魔王さまが退室していく。

 

残された俺とサイラオーグさんと笑い終えたツバサちゃん。

 

そ、そりゃ、夢だったし、目標だったけど、こんなに早く訪れるなんて思ってもいなくて……。

 

や、やべぇよ、俺! どうしよう!わけわかんねぇよ!

 

混乱する俺にサイラオーグさんが言う。

 

「昇格もいいが、それよりもいまは――リアスのことだ。おまえは、好きなのだろう?リアスのことが」

 

――っ。部長の話。それはすぐに理解できる。だって、あんなに大勢の面前で叫んでしまったしさ!

 

「えっと……はい。大好きです」

 

「なら、もう一度想いを伝えてみたらどうだ?今度は真っ正面で二人きりでだ。――あれだけの大衆の前で惚れた女と叫んだのだ、今更だろう」

 

そ、そりゃ、今更かもしれませんけど……。会場でのは、勢いとノリだったけど、二人きりってのはまた別の領域の事件ですよ!

 

「むしろ、あの場で告白したのに、いざ2人きりになって告白できないんじゃ、ただの阿呆です。……いや、チキンですよ。もしも、リアスさんに告白しなければイッセーのことはこれから『兵藤チキン』と呼ばせてもらいますね」

 

すると、ツバサちゃんがそんなことを言ってきて驚いた。

 

「――ちょっ!それは―「そ・れ・に!」――へ?」

 

俺の言葉を遮ってツバサちゃんが人差し指を立てて俺の目の前まできた。

 

「イッセー……、あんだけの大告白をしながら2人きりになって告白しないなんて、リアスさんに対してもかなり失礼だと思うんです。リアスさんだってあの言葉を聞いてかなり嬉しかったに違いありません。むしろ嬉しくないわけがないんです!

なのに、イッセーがここで告白しなくてどうするんですか!あんたはそれでも男なんですか!?……リアスさんだって待っているはずです。だから勇気をだして告白しましょうよ。ね?

たかが、いまの自分の羞恥心を勇気に変えて1歩前に踏み出すだけです。それだけで、すべてが変わりますよ。」

 

ツバサちゃんはそう優しく俺に言ってきた。

 

俺はおそるおそる口にした。

 

「……俺……俺、自信持っていいんですよね?」

 

「ダメならダメで俺のところへ来い。慰めのコーヒーぐらいは出して話を聞いてやる」

 

「そうですよ。それでも心の傷が癒えないなら、俺の家に来なさいな。俺も合わせ兄さんや姉さん達で慰めてあげますから♪」

 

「……サイラオーグさん、ツバサちゃん。ありがとうございます。俺……俺!!」

 

いいヒトたちすぎて泣けてきた。

 

今度このヒトと改めてお茶を飲みたいと思った。

 

そのあと、ツバサちゃんから回復魔法をかけてもらい、光輝さんが作ったものすごく死ぬほど苦い玉の薬をもらい、それを飲むと、目の前が真っ暗になって瞳を閉じたのだった。

 

―side out―

 

 

―ツバサ side―

 

俺は、イッセーに激励をやり、回復魔法をかけた後、光輝兄さんから渡された光輝兄さん作の手作り薬をイッセーに飲ませた。すると、イッセーはあまりの苦さに「ぐふっ」と一瞬苦しんだ後、すぐに白目を向いてベットに倒れたのだった。

 

それを見たサイラオーグさんは顔を青くしていた。

 

「お、おい。お前はいったい何を飲ませたんだ?」

 

すると、サイラオーグさんが恐る恐る聞いてきた。

 

「あぁ〜、これですか? これはうちの長男。光輝兄さんが1人で作ったお薬ですよ。 うちの長男さんは、見た目によらず賢いし、さらに手先が器用なんですよ。あんなゴツイ体型してんのに、ちっちゃな可愛いお人形を1から作ることができるほどにね。

んで、そんな長男ですが、薬を1から作るのが趣味でね、薬草を積んではいろんな薬を作ってるんですよ。

それこそ、この手元に持ってる超回復薬をはじめ、ポーションや毒瓶、キズ薬や酔い止め、それこそ薬物兵器や超ドーピング薬などなど……いままでに多種多様な薬を作ってきたんだ〜。うちには優秀なお医者様がいるんで、その人に教えてもらいながら光輝兄さんは日々薬を進化させていっているのですよ!」

 

俺の長い説明にサイラオーグさんは唖然とする。

 

「ちなみに、この薬はその中でも特別性でね?その名の通り超回復をしてくれる薬なんだぁ〜。これをひと粒飲めば、あっという間に回復だよ!

その代わりに、気絶するほどの超絶な苦味が口の中をかけ走るけどね♪」

 

俺が瓶からひと粒取り出しながらサイラオーグさんにそう言うと、サイラオーグさんはハッ!と気づいたのか体を動こうとさせる。

 

しかし、俺が魔法で止めているのと、さらに蓄積されたダメージによって思う様に動かないのもあり、抵抗もむなしくおとなしくなった。

 

「……さぁ、お薬の時間ですよ〜」

 

「はっ!ち、ちょっ!待ってく――」

 

「待てませ〜ん」ヒュンッ!

 

「―――ッ!?」バタンッ!

 

俺はサイラオーグさんに近づきながら、喋って口が微かに開いた瞬間、マッハで薬を口の中に突っ込む。

 

あまりの苦さにサイラオーグさんは声にならない声を上げて、気絶した。

 

「……うん。相変わらずたけれども、恐ろしい薬だねぇ〜」

 

俺はそんな事を呟きながら小瓶に入った薬を見る。今回はポケットに入れるため小瓶に詰めているが、家に帰ると、この恐ろしき薬が数得きれないほど大きな瓶の中に詰まっている。

 

しかも、この薬の苦さは指折りで、無限と夢幻の2体の龍。そう、オーフィスこと龍美に、グレートレットことガイアの2人が一瞬で気絶する程である。

 

ある意味、龍殺しの力を持った薬でもあるのだ。

 

むろん、最強の名を持ったそんな龍2人が一瞬で気絶するような、恐ろしい薬にイッセーとサイラオーグが耐えられるもなく、あっけなく倒れた。

 

……まぁ、そのぶん、おかしな程回復力が高いんだけどねぇ〜。

 

「それにしても、本当に頑張ったね。おめでとう、イッセー。すっごくいい戦いだったよ。これからも頑張ってね?……冥界の英雄さん♪」

 

俺はイッセーに対してそんなことを面白おかしく笑いながらいうのだった。




終わったよ!頑張ったよ!! てか、頑張りすぎて1万字超えてたよ。

さて、次回が本当のラストです。イッセーは告白できるのかな?次回をお楽しみに!

それでは、バイバ〜イ!

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