ミーティング終了後、アザゼルとロスヴァイセさんはまだ教師としてやることがあるからと先に抜けていった。
残った面々で、学園祭の準備に挑む。俺は部屋の飾り付け作業をするみたいだ。
ちなみにイッセーは力作業をしている。
前回は大人数で進めていたらしいけど、いまは木場とイッセーと俺しか男手がない。……でも、なぜかみんなが力作業をやらせてくれなかった。なんでだろう?
そんなことを考えながら自分の作業が終わったので、イッセーと木場の手伝いをしようと立ち上がったとき、パァァァァァァッとテーブルの上に光が走った。
その光は円を描き、魔方陣の形を成していく――。
「……フェニックス?」
白音がそうつぶやいた。あ、確かにフェニックスの紋様の魔方陣だ。
テーブルサイズの魔方陣だから……おそらく連絡用かな。
誰からきたのかな…?と思っていると、魔方陣から立体映像が投影され、若い女性の顔が映し出されていく。
高貴そうな雰囲気と面持ち。確かこの女性は――。
「お母さま!」
レイヴェルが素っ頓狂な声を出した。
……そうだ、この女性はフェニックス現当主の奥さんでレイヴェルの母親。だいぶん前に、フェニックス家に行った時にフェニックス卿の隣にいた女性だ。
『ごきげんよう、レイヴェル。急にごめんなさいね。なかなか時間が取れなくて、こんな時間帯になってしまったわ。人間界の日本では、まだ学校のお時間よね』
「は、はい、そうですけれど、突然どうされたのですか?」
レイヴェルがそう訊くと、フェニックスの夫人は言う。
『……リアスさんと赤龍帝さんはいらっしゃるかしら?』
指名されたのはイッセーとリアスさん。リアスさんが夫人の前に立つ。
「ごきげんよう、おばさま。お久しぶりですわ」
『あら、リアスさん。ごきげんよう。久しぶりですわね。それと……』
きょろきょろと見渡す夫人。どうやらイッセーを探しているようだ。俺は傍にいたイッセーの背中を軽く押すと、イッセーは急いで視界に入る位置に移動した。
「あ、どうも初めまして。兵藤一誠です」
『こちらこそ、ごきげんよう。こうしてお会いするのは初めてですわね、赤龍帝の兵藤一誠さん。このようないさつで申し訳ございませんわ』
「い、いえ。そ、それで俺に何かご用があるのでしょうか……?」
『えぇ、改めてごあいさつだけでもと思いまして……。本来なら娘のホームステイ先の兵藤家と学園を取り仕切っているリアスさんのもとにごあいさつをしに行くべきなのですが、何分、こちらも外せない事情がありまして……』
「……ほら、フェニックスの涙の需要が高まってるから、それで時間がないんじゃないかなって……」
木場がこっそりとイッセーに耳打ちをした。
納得した表情のイッセーが夫人の方へ向き直す。
夫人の言葉にリアスさんがほほ笑みながら返した。
「そんなことはありませんわ、おばさま。お気持ちだけで十分です。レイヴェルのことはお任せください」
『……本当にごめんなさいね、リアスさん。うちのライザーのゲーム後のケアから、レイヴェルの面倒まで見ていただいて……』
夫人は申し訳なさそうにそう言う。本来なら婚約を破棄されたことを根に持っていそうなのだが、夫人……フェニックス家の人たちはそのことを露にも思っていない。
まぁ、それに関しては俺もいろいろ関与していたからね。フェニックス卿に頼んで、今回の事はなかったことにしてもらったもん。だって、それでいろいろ面倒なことが起きては大変だからね。
夫人の視線が次にイッセーに向けられる。
『それと兵藤一誠さん。特に娘をよろしく頼みますわ』
……あはは、そうきましたか。しかも「特に」と強調されたところからほぼ間違いなさそうだね。
当のイッセーはその真意に気がついていないようだけれども……はぁ。
「え、ええ、もちろんです。けど、部長もいますし、俺よりももっと面倒見の言いヒトもいるんで……」
『はい。もちろん、リアスさんをはじめ、皆さんに任せておけば娘のレイヴェルは何の不自由もなく人間界の学舎まなびやで過ごせるでしょう。しかし、それとは別にあなたにお願いしたいのです。人間界で変なムシがつかないようどうか守ってやってくれないでしょうか?数々の殊勲を立てていらっしゃる赤龍帝がそばに付いてくださるなら、私も夫も安心して吉報を待てるのです』
「へ、変なムシですか……」
吉報ね〜……大変なことになりそうだなぁ。特にイッセーが。
「わかりました。俺がどこまでできるかわかりませんけど、娘さんは俺が守ります!」
イッセーがそう言うと、夫人は表情を明るくさせ、その隣にいたレイヴェルは顔を最大までに真っ赤にさせていた。
俺はまたかと思った。イッセーの超無自覚による口説き堕としが炸裂しているからだ。
『感謝いたしますわ。……レイヴェル』
「はい、お母さま」
『あなたのすべきことはわかっていますね?リアスさんを立て、諸先輩の言うことを聴いて、その上で兵藤一誠さんとの仲を深めなさい。フェニックス家の娘として、家の名を汚さぬよう精一杯励むのですよ?』
「もちろんですわ!」
どんどん話を進めていく夫人とレイヴェル。
『最後に兵藤一誠さん』
「は、はい」
『上級悪魔になることが目標と聞きました』
「はい、そうです……けど?」
『娘は現在、私の眷属の「僧侶(ビショップ)」となっておりますわ。ライザーとトレードしましたの』
「え、えぇ。聞いています」
『よーく、覚えておいてくださいまし。娘はフリーですわ。私の「僧侶(ビショップ)」です。ライザーの手持ちではありません。よろしい?』
「は、はい!わ、わかりました!」
それを聞いてうなずいている婦人…満足そうだ。
『こちらの用事は済みました。リアスさん、兵藤一誠さん、皆さん、突然のごあいさつを許してくださいましね。それではもう時間ですわ。レイヴェル、人間界でもレディとして恥ずかしくない態度で臨みなさい』
「はい、お母さま」
『それでは、皆さん。ごきげんよう』
光り輝いて――はじけたあとに淡い粒子となって消えた。
すると、フラフラと部室を出て行こうとしていたリアスさんにイッセーが声をかけた。
「……ぶ、部長、どこに行くんですか?」
イッセーがそう訊くと、リアスさんは足を止め、振り返りもせずにぼそりとつぶやいた。
「……いっせー、私のこと、守ってくれる?」
急な質問にイッセーは即答した。
「もちろん、部長のことを守ります!」
「……アーシアのことも?」
「え?えぇ、もちろんアーシアを守ります。けど……。どうしたんですか、いきなり、そんなことを訊いて?」
徐々に声音が低くなるリアスさんとは反対に、イッセーは笑顔で答えている。
「……ねぇ、イッセー」
「は、はい」
「……………あなたにとって、私は『何』?『誰』?」
「……えっと、俺にとって部長は部長で――」
少し間を置いたイッセーがそう言った瞬間だった。
「――っ!バカッ!」
涙声でイッセーへ言い放ったリアスさんはその場を飛び出し、部室をあとにしていく。
俺は深い溜息をはいた。
「(――はぁ、やっちゃったね〜。最近のリアスさんの精神状況が不安定だったのは…イッセーが原因だとは思ってはいたけど……。まさか、ここまで悪化していたとは…ねぇ。ましてや、いつかこうなるとは思っていたけど、こんなにも早くこうなってしまうとは……。もうすぐサイラオーグとの戦いを控えているのに、こんな調子では大丈夫なのかな〜)」
そんな事を思っていると……
「リアスお姉さま!」
アーシアがリアさんスを追いかけていく。
扉のところでイッセーのほうを振り返ったアーシア。その瞳は――涙で濡れていた。
「イッセーさん!酷いです!あんまりです!どうしてそこで……!お姉さまの気持ちをわかってあげられないんですか!!」
それだけを言い残してリアスさんを追いかけていったアーシア。
「いまのはマズかったなぁ〜、イッセー」
俺は嘆息して言った。
「……マ、マズいって何がだよ」
「それが――だよ。本当にあなたって人は……」
「本当ですわ。リアスとアーシアちゃんが怒るのも当然です」
言葉を濁した俺の言葉に続いた朱乃さん。その口調には怒気が含まれていた。
「こういうのに鈍い私でもいまのはさすがにどうかと思ったぞ、イッセー」
「もう!イッセーくんって、ホントにダメダメだわ!リアスさんが可愛そう!!」
ゼノヴィアが半眼で見つめ、イリナはプンスカと怒っていた。
「……最低です。イッセー先輩」
「本当にゃ。あれはひどいにゃ」
今日はいつも以上にイッセーを冷たい口調と視線で罵倒した白音と黒歌。
「大丈夫?少し落ち着いてから謝らないとね」
そう言った木場。
「まぁ、いまはリアスさんをそっとしてあげようよ。落ち着いたら帰ってくるだろうからね」
俺はイッセーが追いかけて行かないようにそう言って止めた。
「あ、あの……話、私とお母さまのせい、ですよね……?すみません……」
落ちこんで謝るレイヴェル。その両肩に朱乃さんが手を置いた。
「レイヴェルちゃんは気にしなくていいのよ。いままでリアスとの大事なところを考えてあげなかったイッセーくんが悪いのですから」
朱乃さんがそう励ますと、ソファに座るよう促してお茶の準備に入った。
……さぁて、これからどうなることやら。
―――――――――――――――――――――――
俺はいま、学校の屋上で風にあたっていた。昨日の出来事から、今日は部活はなかった。だから、学校でクラスの出し物の準備をおこなっていた。
――で、放課後となったいま、することがないので屋上に来ていた。
「……ふぅ〜。昨日は本当にめんどくさい事になったなぁ。はてさて、どうしたものかねぇ〜」
ほんと、マジでどうしようか。対サイラオーグ戦の修行のついでに、今後の『禍の団(カオス・ブリゲード)』戦の対策でリアスさんとイッセーの"倍加"と"消滅"の合体の練習をしたかったんだけどなぁ。あの様子じゃ〜無理だよねぇ。
…………はぁ。どうしたものかねぇ。
『ほんとよね。なんで現赤龍帝のイッセーはあんなにも鈍感なのかしら。女好きのエロスケなくせに、鈍感なんて、なんて不思議な子なの?
それに、昨日の事が原因でまともに修行ができずに、本番のレーティングゲームで全力が出せず負けましたぁー……なんて事になったら話にならないわよ?』
俺が悩んでいると、ルーツが正しい事を言ってきた。
「そうだよね〜。ほんと、そうなってしまいそうで怖いんだよなぁ。」
本当にどうしようか……
「………………ん?まてよ…………はっ!そうか!!その手があったか!!」
『どうしたのよ。どんな手があったの?』
俺はとある事を閃き、ルーツが聞いてきた。
「それはね、ルーツ。俺は今回の件に関して、いま絶賛ラブラブオーラを出しまくっている2組の夫婦にお願いしようと思ってるの!
それぞれ、リアスさんとイッセーに分かれてもらい、女組と男組に分かれていまの状況というか、愚痴を聞きてもらうの。それでね?それぞれからアドバイスをもらうわけなの!」
『う〜ん。それはいいんだけれども、その2組は何処から来るわけ?それに、その2組はちゃんと聞いてしっかりとしたアドバイスをくれるの?』
「くれるよ!なんたって、2組の夫婦の妻の2人は、片方は現メイド長、もう片方は元聖職者でそれもシスター。更に、夫の2人は、片や現総司令官で女たらし、片や超絶イケメンで性格も凄くいい頼れる人だからね。2組ともとっても頼りになる人物たちだよ。それに、俺達にとっても馴染み深い人達だからね〜。ルーツなら、ここまで言えばわかるでしょ?」
『ふふふ、そうね。確かにその2組なら大丈夫ね。あなたが最も信頼している人達ですもの。
―――なんたって、血のつながった実の兄とお義姉さんだからね』
そう、俺が思いついたのは、現在絶賛超絶ラブラブオーラを出しまくっている2組の夫婦こと―――
光輝兄さん×アイラさん・レイジ兄さん×アリアさんの2人組なのだ!
「そんなわけで、4人に押し付けるようで悪いんだけども、この件に関しては任せよう!きっと、あの2人組ならなんとかしてくれると、感がいってるからね。こういう時の感ほど、役にたつことはないよ。」
『確かにそうよね〜。あなたの感は絶対当たるから、凄く信憑性があるもの。それに、いままで嫌な感しかなかったから、良い感って珍しいものね』
ほんとにね〜。いっつも、俺の感は良い感よりも、嫌な悪い感の方が比較的に多いいもの。もっと良い感を欲しいのですよ。
「まぁ、うだうだ考えても仕方がないし、今日は丁度、例の2人組が遊びに来るから、早く帰らなくちゃね!」
『えぇ、そうね。あと、まだ来ていないみたいわよ。光輝とレイジの持っている神器の中にいる2人から連絡が来たから』
「そうなんだ。なら、いっそう急いでいろいろ準備をしなくちゃ。カンナさんや黒歌にも手伝っても〜らおっと!」
そう思った俺は、急いで家に帰るのだった。勿論、誰にも気づかれずに、紫さんの能力であるスキマを使ってね。