SAO//G.U.  黒の剣士と死の恐怖   作:夜仙允鳴

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オカシイ、キヅイタラサンカゲツタッテタ……

……すみません、大変お待たせしました(土下座


Fragment O《未晴ヌ憂》

2025年 12月

 

 

「んじゃ、改めてだ。よろしくな、キリトくん」

 

「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。クーン……さん」

 

「『さん』も敬語も無しでいいよ。《死銃》の件があるとはいえGGOもネトゲだしな。堅苦しい関係は無しだ」

 

「いえ、迷惑かけたみたいですし、そういう訳には……」

 

場所を地上ホールから移して近くのバー。席について初めに口を開いたのはクーンさんだった。

 

「気にすんなつってんだから頷いとけばいいんだよ。お前の敬語も気持ち悪ぃしな」

 

「ま、そういうこと」

 

「はい……じゃない。判った、クーン」

 

手を差し出してくるクーンさん、改めクーンにこちらも手を出して握手を交わす。

洋画なんかだとよく見る光景だけど、実際にこんな風に握手をするというのは中々無い。基本的にコミュ障な俺は特に。それでもアインクラッドでの二年間でだいぶマシにはなったんだけどな。小中学校に通っていた時の親しい友人は自室のパソコンだったと言えばお判り頂けるだろうか。

 

「ていうかハセヲ。気持ち悪いはいくらなんでもひどくないか?」

 

「事実を言って何が悪い」

 

「……この不良教師め」

 

「まあまあ、ハセヲがツンデレなのは今に始まったことじゃないからな」

 

睨み合いに発展しそうだった俺とハセヲの間にクーンが入ってくる。

お互い本気ではなかったし、続けることにも意味を感じなかったので素直に引き下がった。

 

それにしても、と思いながら何ともなしにクーンの顔を見やる。

さっきのいきなりナンパしてきたのとはえらく違う態度だ。可愛い女の子――自分で言うには死ぬほど抵抗があるが――に積極的に絡んでいこうという姿勢はどこぞの赤毛バンダナ野武士を彷彿させるが、今の姿だけ見れば気の良い気さくな兄さんって感じだし。

 

「ん、なんか気になることでもあるか? その顔で見つめられると男だって判っててもつい反応しそうなんだよな」

 

「大方いきなりナンパしだした時と大分態度が違ぇから気になっただけだろ」

 

「まぁそうかな。真面目成分の多いクラインみたいな感じがしてさ」

 

ハセヲの言葉に頷く。頬杖をついたままジト目でクーンをみるハセヲはなんというか諦観の色が滲み出てる。それだけ長い付き合いなんだろうけど。

 

「クライン……て、ああ。SAOでの知り合いの一人か」

 

「まぁな。女と見れば直ぐ声を掛けようとするあたりお前とドッコイの奴だよ」

 

クラインが聞いたら全力で異議申し立てをしそうな言い分だが、きっと仲間の誰に聞いても同意する反応が返ってくることは明白だ。

最初にスグ……というかリーファを紹介した時も妙な喰いつきを見せて、挙句の果てには俺のことを『お義兄様』とか呼んでくる始末で、思わずその場で斬り殺してしまったくらいだ。その所為でハセヲにも『お前も大概シスコンだよな』とか呆れながら言われてしまった。

全く、誰に何と言われようと俺が認めた相手以外にスグを嫁にやるわけないだろうが。

 

「……どう反応したらいいのかわからない評価だな」

 

「安心しろ、褒めてねぇから」

 

「それ結局クーンもクラインも貶してるって言ってるようなもんじゃないか?」

 

「まぁいいけどさ。それにしても、本当に女の子にしか見えないよな。まさか事故とか?」

 

クーンの言葉に首を横に振る。

長期間異性のアバターを用いてダイブしていると様々な問題が出るとして基本的にVRゲームでは性別の偽りを禁止している。だが、そもそもプレイヤーが男か女かを判断しているのがアミュスフィアに搭載された脳波受信機なので、何かの拍子に性別逆転事故が起きるということも実際ある。けど、俺の望みとは180度反対のこの女顔のアバターはそうではない。

 

「物凄いレアアバターなんだってさ。初期スポーン位置にいたバイヤーに五メガ出すって言われたよ」

 

「ソイツはまた凄い額だな」

 

「つっても断ったんだろ?」

 

「そりゃね。コンバートだし」

 

肩を竦めて肯定する。

ALOから引き継いだこの《キリト》は正真正銘、俺がSAOから使い続けている《キリト(アバター)》そのものだ。本当なら、新規に作り直していたはずなんだが。

と言うのも、明日奈が無事に現実へ還ってきた後。漸くSAOから続いた一連の事件に一区切りついたのでナーヴギアからアミュスフィアにデータを移行し、心機一転新しくアバターを作り直そうとしたときに問題が発生した。リメイクする為に既存データを削除しようとすると、エラー表示と共に作業が中断されてしまったのである。

一体何が原因かと、アミュスフィア内のユイに協力を仰いで調べた所……

 

『あっ……判りました、パパ』

 

『本当か?』

 

『はい。どうやらパパのアバターデータに含まれている解析不能のデータ群に強固なプロテクトが掛けられていて、それがデータを削除する前の走査段階でプログラムの進行を妨げているみたいです』

 

『解析不能のデータ群って……』

 

その時俺が思い出したのは、ALOの管理者エリアで邂逅したあの男……自称《茅場晶彦の残滓》が言っていた“二つの種子”という言葉。一つは《ザ・シード》のことで間違いはないだろう。奴曰く世界の種子だそうだが。ならもう一つ、既に“(キリト)の裡に在る”と言っていたソレがなんなのかは依然として判らなかったが、もしユイの言うデータ群がソレだとするのなら、確かに(キリト)の中に存在すると言える。

 

『……そのデータ群、解析できないっていうのは?』

 

『パパのアバターデータに含まれている以上、少なくともSAOかALOで使用されるデータの筈なんですが、そのどちらにも合致する項目が見当たりません』

 

『ALOに移行した時にバグって破損したデータ……っていう訳じゃないよな』

 

『はい。それならプロテクトなんて掛けられていない筈ですから』

 

『だよなぁ……』

 

思いついたことを並べてはみたが、どれも的を射ない。

となると、限りなく正解に近いのはやはり茅場から託されたものであるらしいという事だろう。

 

『でもナーヴギアからの移行は出来たのはなんでだ?』

 

『データの完全移行に関しては特に制限されていない、という事だと思います。恐らくパパのデータから切り離される、若しくは消去されるという事態に関してのみプロテクトが働いてるんでしょう』

 

『なんなんだその謎仕様は……』

 

思わずそう頭を抱えたのも記憶に新しい。

つまるところ、VRMMOを続けるのであれば俺はこのブラックボックスと付き合い続けなければならないらしいという事だ。勿論、新しくアミュスフィアをもう一台買って、根本的に一新するという方法も無いではなかったが、正体不明でありアバターが作り直せないと言う以外、特に問題らしい問題もなかったし、金銭的にも余裕がなかったのでそのまま、ということになった。

 

 

閑話休題(まぁ、そのことについては今は置いておこう)

 

 

「なんでも、この手のレアアバターはコンバート前のプレイ時間に関係してる可能性があるんだと」

 

「まぁ、そういうことなら俺ら以上のプレイ時間の奴なんて普通いねぇな」

 

自嘲気味に言うハセヲ。クーンも何も言わないが苦笑を漏らしている。

事実、俺達SAO帰還者は丸二年ログインしっぱなしだったわけで。単純計算24時間×730日で17,520時間にも及ぶ。その辺にいるネット廃人も真っ青なプレイ時間だ。VR技術が一般普及してまだ二年、最低限の生理現象は現実で行わなければならないんだから、どんなにやり込んでいる人間がいたとしても数千時間が良いところだろう。

 

「色々な意味で初めてだよ。レアモノ手に入れてここまで嬉しくないっていうのは」

 

「だろうな。俺だったら死んでもお断りだ」

 

「そうか? 数少ない女の子のプレイヤーと簡単に仲良くなれるんだったら悪くない話だと思うけどな」

 

「ンなこと思うのはテメェかクラインか犯罪者予備軍くらいだっつの」

 

「そもそも俺にはアスナがいるし。というか、クーンも奥さんいるんじゃないのか? ハセヲが妻帯者って言ってたし」

 

正確には“万年ナンパ妻帯者”だったけど。

 

「ああいるぞ。世界一可愛くて美しい最高のパートナーで誰よりも大切な人だ」

 

「なのにナンパはするのか」

 

「うぐっ」

 

即座にツッコミを入れると変な声を出してテーブルに突っ伏すクーン。男にナンパされるという、17年の人生で五指に入るレベルのトラウマ体験をさせられた恨みは忘れてない。

 

「こいつのコレは最早癖みたいなもんだからな。抜け無ぇんだろうよ」

 

「いや癖って……」

 

「それでも浮気したことないどころか、合コンは勿論他の女と二人で飯食いに行くことすらしねぇし。もうそろそろ籍入れて六年目になるってところなのに、新婚かって勢いでイチャつくしな」

 

「うっせ。俺は一途なんだよ」

 

「そりゃ一途だろよ。一回別れてから七年以上引き摺ってたんだからな」

 

なんでそこまで一途なのにナンパが治らないのか。そこまで行くともう癖っていうより一種の病気だな、とか思うが口には出さない。面倒くさそうだし。

 

「あーもーいいだろ俺の話は。それよりも、今は本戦……延いては《死銃》についてだ」

 

バッと身体を起して完全にあらぬ方向へ言っていた話を戻すクーン。お前が言いだしたんだろうと思わないでもないが、また脱線しそうなのでここは黙っておこう。

 

「まずは……キリト、本戦の内容は把握してるか?」

 

「いや全く」

 

首を横に振って応える。そもそもBoBの詳細何て殆ど判らずに来ているんだ。シノンとも喧嘩別れ――というか俺が一方的に嫌われただけだろうが――になってしまったし。

 

「なら……っと?」

 

クーンが説明を始めようとしたとき、視界の端でメーラーが点滅した。

ハセヲやクーンも同じようでウィンドウを操作している。

 

「コイツはグッドタイミングか?」

 

「だな」

 

「うん」

 

タイトルに書かれていたのは“バレットオブバレッツ本戦の案内”。

本戦出場者に送られるソレには本戦の試合形式が記載されていた。

 

「そんじゃ、取り敢えずそれ読んで把握してくれ」

 

「あいよ」

 

返事を返す中、既に我関せずと暇潰しにかメニューをクリックして飲み物と軽食を購入しているハセヲ。テーブル中央に穴が開き出てきたのはホットコーヒーとフライドポテトだ。

 

「んー、なんか味気ない注文の仕方だな」

 

「まぁそうだな。SAOとALOじゃNPCに注文する形だったし」

 

「GGOは無骨なSF世界っていうのが一つの特徴だからな。それでだろう」

 

言いながらクーンもアイスコーヒーとハンバーガーを注文。それに倣って俺もホットドッグとコーラを注文した。

出てきたコーラとホットドッグを摘まみながらメールに視線を戻し、数分掛けて文面を熟読。概要とルールを頭に入れていく。

 

本戦の概要はこうだ。

予選の各グループ上位二名×十五の三十人によるバトルロワイヤル。

フィールドは直径十キロの円形で、山や森、丘、砂漠、市街地、草原、荒野、etc...様々な地形が存在する複合ステージ。

出場者の初期位置はランダムでだが、最低でも各人一キロ以上の距離はある。

出場者には試合開始と同時に《サテライトスキャン端末》が自動配布され、十五分に一度端末のマップ上に全プレイヤーの現在位置が送信、表示される。

この位置情報を頼りに互いに接近、待ち伏せして闘い、最後の一人になったプレイヤーが優勝者って訳だ。

 

一通り頭に入れ終えて、ホットドッグの最後の一口を放り込んで顔を上げる。

 

「把握したか」

 

「ん……ああ」

 

クーンもハンバーガーを食べ終えているようだ。ハセヲはの手元にはまだポテトが残っているが……話しながらゆっくり食べようとでも思っているんだろう。

 

「それで、だ。キリト、お前がGGOに来た理由、《死銃》と関係があるって思っていいんだよな?」

 

クーンが確認……というか断定するように尋ねてきた。ハセヲから聞いたのか、それともクーン自身が調べて知ったのかは判らないが、ハセヲの口から菊岡の名前も出ていたことだし、俺の事情は大まかに把握しているんだろう。今更隠す必要もないので素直に頷く。

 

「ああ、菊岡に言われてな。《死銃》と接触して、あわよくば撃たれてきて確認して来いだとさ」

 

肩を竦めてそう口にすると、二人は嫌悪感を隠そうともせずに渋面を作った。まぁ、二人とも歴とした社会人だ。俺みたいなガキに危ない橋を渡らせようとする菊岡にも、ソレを受諾した俺にもあまりいい感情は持っていないんだろう。それだけ心配されてるっていうのは、正直悪くない気分だ。

 

「……まぁ、そういうことなら話は早いな。俺達の目的は同じってことだ」

 

「だな……そういやキリト。お前《死銃》と接触したって言ってたな?」

 

「なんだって?」

 

「あぁ、悪い。話が途中になってたんだったな。確かに、俺は《死銃》らしき奴と会った……というか、向こうから話しかけてきたんだ。一回戦が終わってロビーに戻ったあとに。動画サイトに上がってた《死銃》の声とよく似てたから、間違いないと思う」

 

「態々予選の合間にか?」

 

訝しげな様子で問うクーンに首肯する。

 

「ああ。ハセヲには言ったけど、多分、《死銃》は俺やハセヲと同じSAO帰還者で、《ラフコフ》メンバーの一人だった可能性が高い。それに以前、俺は奴に会ったことがある……らしい」

 

「ちょっと待ってくれ。なんで、《死銃》がSAO帰還者だって言える? それに《ラフコフ》ってのはなんだ? 挙句に会ったことがある?」

 

「順を追って説明する。まず、SAO帰還者だって判断した理由だけど、ソイツが俺に話しかけてきた時こう言ったんだ。その名前と剣技、本物かって。こう言っちゃなんだけど、確かに俺はSAOの一部ではそこそこ有名だった。だけど、そもそも規制が敷かれてるSAO関連の情報を無関係の人間が知ってるとは思えない。仮に俺の名前だけ知り合いのSAO帰還者に聞いたって事も有り得なくはないけど、俺が試合中に使った剣技を見てソードスキルの模倣だってわかる奴は実際にSAOをプレイしていた奴くらいだ。それにもう一つ、ヤツの腕に刻まれていたタトゥーが《ラフコフ》のエンブレムと見た限り全く同じだった」

 

「ンで、《ラフコフ》ってのはSAOにあったギルド、《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》の通称だ」

 

俺の言葉を引き継ぐようにハセヲが口を開いた。

 

「《ラフコフ》は、《PoH》ってヤツをリーダーに結成された。どういう経緯で創られたのかまでは知らねぇが、奴らが掲げたギルドの目的はたった一つだけ。アインクラッド内で禁忌だったPKを、欲望のままに行うこと」

 

「なんだと!?」

 

クーンが目を見開いて、怒りを顕わにした。

たかがPK。GGOを含め多くの普通のMMOでは利害関係から推奨すらされている行為の一つ。けれど、ことSAOに於いては許され得る行為では決してなかった。

俺達が仮想世界(SAO)で闘い続けた一方で、現実世界(リアル)で解決に奔走していた一人であろうクーンは、被害者が死んでいくのを生々しい数字として日々見せられていたのは想像に難くない。

それ故の怒りを、クーンは滲ませていた。

 

「そんなことが許される訳が……!」

 

「無ぇな。そんな快楽殺人集団を野放しにしとくわけにもいかねぇし、被害も徐々に拡大していった。だから、最前線で戦ってた攻略組で討伐隊が組まれたんだ。同じ人間(プレイヤー)相手にも関わらずな。俺やキリトも、討伐隊の中にいた。ンで、最終的には討伐隊にも《ラフコフ》にも大きな被害を出した上で、討伐隊が勝った。生き残った連中は《はじまりの街》の監獄エリアに投獄。《ラフコフ》は解体された……んだが、まぁそれはいい。キリトが言ってたタトゥーってのは、《ラフコフ》のメンバーが必ず腕に刻んでたギルドエンブレムのことだ。その存在を知っていて、かつ再現できるのは……」

 

「……その元《ラフコフ》のメンバーってことか」

 

「ああ」

 

幾分か落ち着きを取り戻したクーンにハセヲが頷いて見せる。

 

「……《死銃》をSAO帰還者だって判断した理由については判った。それで、キリトは会ったことがあるらしいってことだけど」

 

「悪い。ハセヲにも言ったけど、ヤツのことを思い出せないんだ。言葉を……剣を交わした記憶は確かに在る。だけど、アイツの名前だけはどうしても思い出せない」

 

俺がSAO時代のヤツの名前を思い出せれば、クーンや菊岡を通じてリアルを割り出すのはそう難しいことではないであろうことが判っている手前、ここで情報が出せないことに自責の念にかられる。

 

「そう自分を責めなさんなって。人間の記憶力なんて大したもんじゃないんだ、判らないモンは仕方ない。肩の力抜いていこうぜ」

 

気付かない内に強張っていた肩をクーンに叩かれた。俯けていた顔を上げる。

 

「《死銃》の正体がなんにせよだ。俺達のやるべきことは変わらない。結局の所、《死銃》との接触を図って、殺人の方法を解明しソレを未然に防ぐ。ついでに中身まで割り出して捕まえられれば大成功」

 

自信に溢れた笑みを浮かべながら纏めるクーン。クラインやハセヲともまた違うが、リーダーとしての気質を感じさせる態度は経験によるものなのか、それとも天性のモノなのかは俺には判別がつかないけれど、頼りがいのあることこの上ない。

 

「そんなわけで、他の出場者には悪いが本戦で大真面目にバトルロワイヤルやってるわけにはいかないないってことだ」

 

「確かにな」

 

シノンが聞いたらまたブチキレそうだなぁと思いつつ頷く。俺達が目指すものは《死銃》の犯行の原因究明と阻止、身柄の確保であってBoB優勝ではないからな。

 

「とは言え、当然他のプレイヤーは俺達の事情なんかお構いなしに襲ってくる。彼ら彼女らの襲撃を掻い潜りながら《死銃》を見つけなきゃいけない。それで、だ。本戦では少しでも生存率を上げるために固まって動きべきだと思う」

 

「具体的には?」

 

ポテトを摘まみながらハセヲが問う。

 

「開始15分時点で端末に最初のデータ送信が行われる。その時点で俺たち三人を結んだ三角形の重心になっている地点、そこが集合場所だ。移動方法は問わないからそこまで開始30分、遅くても45分以内に、可能な限り早く集まる」

 

「そこまでは自力で生き残って辿り着けって訳か」

 

「余裕だろ? まさか無理とは言わないよな?」

 

「ハッ! 抜かせ」「やってやるさ」

 

挑発的なクーンの物言いに、ハセヲと二人、肯定して見せる。根っからの廃ゲーマーを辞任する身としては、そこまで言われたらやるしかない。

 

「なら問題ないな。それじゃ、もう一個聞いておきたいことがある」

 

そう言ってクーンは自信のウィンドウを可視化させて俺達に見せた。表示されているのはつい先ほど送られてきた参加者への通知メールだ。

 

「ここに載ってる参加者名簿一覧に心当たりのある名前は有ったか?」

 

言わんとしていることを理解して首を横に振る。ハセヲも同じようで肩を竦めただけ。

流石に名前が載っていれば思い出せただろうし。

 

「ま、そこには期待しちゃいないけどな。因みに《死銃》が本戦出場を逃してるっていうのは考えられると思うか?」

 

「無くは無いだろうけど……」

 

「可能性は低いだろうよ」

 

これにも、二人揃って否定する。

 

「アインクラッドが消滅した今でも《ラフコフ》に執着する様な奴だ。そこまでの執念を持ってるのは、討伐戦の時に他のメンバーが投降した後も最後まで抵抗を続けて捕えられた何人かの一人としか思えねぇ」

 

「そういう奴らは実力も高かった。対人戦に関しては殊更得意な猛者みたいな連中だから、ゲームが変わっても同じVR、そうそう負けてはくれないさ」

 

「お前ら二人みたいに、ってことか。なるほど」

 

一人頷くクーンの物言いに何となく納得しがたい単語が含まれていたような気がするけどスルー。いちいち噛みついても仕方ないしな。

 

「むしろクーンは心当たり無ぇのか? 今回まで無名だった奴とか」

 

「いやぁ、BoBのルールやらなんやらは軽く観戦したり記事で見たりしてたから兎も角、参加者は特に気にしたことがなかったからな。俺もそこまで詳しくないんだわ。」

 

だから前にも出場してるらしいシノンに女性プレイヤーという以外反応しなかったのかと今更ながら納得する。

 

「だったら……キリト。本戦前にシノンから聞き出して来い」

 

「はい?」

 

そんな益体の無いことを考えていたら、何故か白羽の矢を立てられていた。むしろ立ったのは死亡フラグかもしれない。

 

「いや、確かにシノンなら知ってそうではあるけど……それは一回死んで来いって言ってるのと同義じゃないか?」

 

「マーケットでの会話で確実に嫌われてるこのバカと、どっかのアホの所為で殺害宣告されてる俺。どっちが行っても話し合いにすらならねぇよ。だったら答えは一つしかねぇだろうが」

 

「……せめて交渉は俺がするから全員で行くっていうのは……」

 

「それじゃ警戒してくださいって言ってるようなモンだろアホ」

 

「仰る通りで……」

 

「イイじゃないの。可愛い女の子とおしゃべり出来るってんだから。役得だよ役得。出来るなら俺が代わりたい位だって」

 

当然の如くハセヲに口で勝てる訳もなく、クーンにニヤついた笑みの苛立たしい励ましを受けながら、俺の死亡フラグは無事確立したのである。南無三。

 

 

 

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「や、やぁシノン。今日はヨロシ――」

 

「…………」

 

「――ゴウグハぁっ!!」

 

そして、死を覚悟しつつ総督府前でシノンに話しかけた俺は、案の定街中であるにも拘らず至近距離から彼女のライフルの一撃を受け爆発四散したのだった、合掌――

 

「……何一人でアホなことしてるわけ? 馬鹿なの死ぬの?」

 

――などという事は勿論なく。

無視を決め込んで立ち去ろうとしたシノンの後ろで勝手に奇声を発して倒れ込んだ俺に、仕方ないといった様子で戻ってきて声を掛けて来てくれた。

良かった、身体を張ったネタだっただけにこれでガン無視して行かれたらどうしようかと思っていたんだ。なんだかんだ言っても付き合ってくれる彼女の良心に感謝である。

 

「で? 一体何の様なわけ、ネカマの光剣使いさん?」

 

「ね、ネカマはいくらなんでも酷いんじゃないか? 確かにこんな形ではあるけど、それはあくまで自動生成されたアバターの問題であって俺の所為じゃ……」

 

「その割には男だって黙って女のフリし続けてたのはなんでかしらね。本当はリアルじゃ女装癖でもあるんじゃないの。ていうか、リアルも物凄い女顔だったりしてね。キリトちゃんって呼んであげないとダメかしら?」

 

「ガフッ」

 

当たり前の様に昨日のことを根に持っていたシノンさんから手痛い口撃を受けてしまい、思わず胸を押さえて呻き声を漏らした。

無論、昨日のことは悪いとは思っているのだが、ネカマの謗りは何としてでも止めたい。SAOから無事帰還してからこっち、ただでさえ細かった身体はガリガリになり肌も真っ白になった所為で、筋トレを続けても一番の成長期に点滴だけで育った身体は全くと言っていいほど男らしくなってくれず。明日奈を始めとした仲間や、挙句の果てには母さんにまで『女の子の服を着せてスグと二人並べば姉妹に見える』等と言われてしまった俺の精神衛生状態を保つためにも。何より最近ことある毎に自分の服を着せようとするスグに屈服しない精神力を持つためにも。

 

「……昨日のことは私めが全面的に悪かったです。許してくださいとは言いませんからせめてネカマ呼ばわりだけは勘弁してくださいお願いですから死んでしまいます」

 

平身低頭。戦闘中も斯くやな速度で身体を直角に折り曲げ頭を垂れる。これでダメなら土下座も辞さない覚悟だ。

 

「はぁ……そんなことで死なれても私の気は晴れないし、どうせ死ぬなら本戦で私に撃ち殺されなさい。取り敢えず言わないで上げるから頭上げなさいよ、恥ずかしい」

 

溜息交じりではあるものの、何とかお許しを頂いたので頭を上げた。何とも疲れた顔をしている彼女には申し訳なさで一杯だ。これから聞くことがある分尚更に。いや、聞き辛くしたのは確実に俺のアホな行動なのは明確なんだが。

 

「さっきも言ったけど用件はなに? 流石に挨拶するためだけに態々来たって訳じゃないんでしょ?」

 

「まぁそうなんだけどさ。ちょっと聞きたいことがあるには有るんだけど……こんな所じゃなんだし、取り敢えず登録を済まして下に行かないか?」

 

「……判ったわよ。昨日みたいに、誰かさんの所為で遅れて間に合わなかったら笑えないしね」

 

「ご、ごもっとも」

 

ドモリながらもなんとか返す。やはり女性を怒らせるのは得策じゃないと身に染みて感じる昨今だ。

そうして登録を済ませた俺達は、総督府の地下に設けられた広めの酒場へ場所を移した。

 

「何か飲む?」

 

「アイスコーヒー」

 

「了解」

 

昨日の謝罪と気持ちばかりの情報量を兼ねて自分用のコーラと一緒にテーブルのメニュー表をクリックして注文。出てきたグラスの片方をシノンへ渡した。

 

「それで、なんだけど」

 

言いながら、昨日クーンがしたのと同じように、通知メールを開いたウィンドウを可視化させてシノンに向ける。ソレに目をやったシノンは、ただでさえ不機嫌そうにしていた顔の片眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せた。目に見えて機嫌が急降下してるのが判るリアクションだ。正直怖い。

 

「なに? それを見せて昨日の勝利を誇ろうとでも?」

 

「いやいやいや、滅相もない。見て欲しいのはそこじゃなくて――」

 

絶対零度の眼差しを受けるも、折れそうになる心を奮わせて口を開く。

 

「――知らない名前って幾つある?」

 

現実でもないのに、気持ちが悪いほどリアルに冷汗が背中を伝うのを感じながら、どうにかこうにか本題を切り出した。

 

 

 

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「この中で、知らない名前って幾つある?」

 

「は?」

 

皮肉なくらい整った女顔を持つ目の前の男が引き攣った苦笑を浮かべながら聞いてきたのはそんな意味の判らないことで。

インする直前の出来事……呼び出された公園で新川君に告白――とまでは言わないけれどそれに近いことを――されて少しばかり気が立っていたと言うか不安定になっていたこともあり。

思わず切って捨てる様な声が出ていた。

余りの声の低さと伴っていた威圧感に私自身内心驚いたくらいだ。

 

落ち着きなさい、クールになるのよ詩乃。確かに棘が強かったかもしれないけど、この男相手なら問題ないでしょ? どうせ数時間後にはこの手で撃ち抜くんだから。

 

動揺を気付かれない様に、ポーカーフェイスを保ったまま自分に言い聞かせる。

そもそも、多分あの公園でっていうのがいけなかったんだ。その所為で新川君に迫られたときに何故か三崎さんの顔が頭の中でチラついて自分でもよく判らない感情が胸の裡で渦巻いていた。

数時間前に初対面の異性にアレだけの醜態を晒した場所で唯一仲のいい異性というか唯一の友人に告白紛いのことをされれば、私じゃなくても変な気持になるわよ。仕方ないじゃない。

うん、私は悪くない。思わずBoBを理由に答えを保留してしまったのも、逃げる様にさっさと帰ってしまったのも私の所為じゃない。強いて言えば間が悪かったんだ。

 

「し、シノンさーん……?」

 

気付けばそんな言い訳まで考えていると、意識の外から聞こえてくる困惑したような女声。

導かれるように意識を現実に戻すと、顔を近くに寄せ目の前で手を振る女顔が有った。

 

「……っ!」

 

「ばふぉっ!!」

 

咄嗟に出たのは間抜けな悲鳴でも甲高い怒声でもなく、固く握った右手の拳だったのは不幸中の幸いだったかもしれない。私にとっては、だけれど。

 

「……なに近くまで顔よせてるわけ? ハラスメントで通報するわよ」

 

「だからっていきなりグーはないだろ……」

 

拳のめり込んだ鼻を押さえつつ、痛てて、なんて言いながら立ち上がる。

 

「知らないわよ。で? そんなこと聞いてどうしようって訳?」

 

「敵情視察……じゃ、ダメ?」

 

「私が知らない名前だけ聞くことのどこが敵情視察だっていうのよ」

 

「ほら、今までの大会に出てるか出てないかでどの程度の腕か判る……的な?」

 

「そう言うならせめて疑問形は取りなさいよ……」

 

「ですよねー」

 

態とらしく大きく溜息を吐きながら言うと、苦笑を浮かべながら頬を掻くキリト。

本当になんだと言うのか。

 

「まともな理由も言わずにそんな怪しいこと聞こうなんて、虫が良すぎると思わない?」

 

「そう言われるとなぁ。んー、どうしたもんかな……」

 

別に教えてやっても構わないと言えば構わないけれど、やはり理由が気になった。

何となく、昨日キリトが可笑しくなったことと少なからず関係があるのだろうと見当はついた。

もしかしたら、《SAO帰還者》としての(忌まわしい)記憶の一端なのかもかもしれない。

けれど、そうであっても聞きたかった。もし彼らの言う強さがそこから来ているなら。

 

そんな風に、頑なに口を割らない私と、理由を言いたくないらしいキリトがお互い沈黙を保っていると、こちらに近づいてくる足音が聞えた。目をやれば銀髪に紅眼の男、ハセヲの姿がそこにあった。

 

「はぁ……キリト、チェンジだ」

 

突如やって来たかと思えば、開口一番交代宣言をキリトに突き付ける。

何事かと私が口を挿むより先にキリトが言い返していた。

 

「なんだよ、結局来るなら最初からアンタがやってくれればよかったじゃないか」

 

「仕方ねぇだろ。このままじゃ試合始まっちまうだろうが」

 

「その通りだけど……。まぁいいや。代わってくれるんなら任せるよ」

 

そんなこんなでキリトと入れ替わり気怠そうに腰を下ろすハセヲ。

立ち上がったキリトは軽く手を振ってから酒場を出て行く。行く先を見てみれば、昨日マーケットでナンパしてきた青髪のオートアサルト使いの姿。

つまり、昨日の予選終了後につるんでいた三人がグルになって何かを企んでいるという事だ。

改めてハセヲに視線を戻して口を開く。

 

「三人揃って何か企んでるみたいだけど、一体なんなわけ?」

 

「まぁ、色々とな。あのバカから聞いただろうが、俺達は本戦出場者の中でアンタが知らないプレイヤーがどいつか聞きたい」

 

「そうらしいわね。でも、あのバカにも言ったけれど、納得できる理由を言ってもらえないことには私も話す気になれない」

 

「……判った、Give and Takeだ。時間もそんなに無ぇから、手短に理由を話す」

 

少し間を開けてから、ハセヲが頷き話し始めたのは、はっきり言って荒唐無稽なものだった。

 

最近GGO内で噂になっている《死銃》。

あの噂は嘘ではなく、それどころか《死銃》によって撃たれた《ゼクシード》と《薄塩たらこ》は現実世界で死んでいると言う。

そんなゲーム(仮想世界)越しにリアル(現実世界)の人間を殺す殺人鬼を、ハセヲとキリト、そしてクーン――青髪のナンパ男の名前だそうだ――は追っているのだと。

 

「……そんな話、信じられるとでも?」

 

「これ以上は俺達のリアルに関わることだから言えねぇが、全部真実だ。まぁ、信じるか信じないかはアンタ次第だがな」

 

そう言って、ハセヲは黙り込んだ。後の判断は私に委ねるという事だろう。

 

信じるか信じないかと言われれば、正直信じられる話ではない。

むしろ、十人聞けば全員がただの妄想だと斬り捨てるようなそんな話。

けれど、たかだか名前を聞きだすためだけに、大層な作り話までする様な酔狂には思えなかった。

だから、今度は私から問いかける。その答え如何でどうするかを決めよう。

 

「『もし君の持つその銃の弾丸が、仮想現実の壁を越えて現実のプレイヤーを本当に殺せるとしたら。そして殺さなければ、自分が、大切な人が、命を奪われるのだとしたら、君は、その引き金を引けるか 』」

 

それは、昨日キリトに掛けられた問い。それを今度は、私がハセヲに問う。

 

「はぁ?」

 

「いいから答えて。貴方は引き金を引ける?」

 

「……答え次第によって教えるか教えねぇか決めるってことか?」

 

頷いて応える。

馬鹿げた質問だ。在ったばかりの人に、しかもネットゲームの中で聞くよう問いじゃない。いや、普通に暮らしていれば絶対にありえない問いかけだ。それは判ってる。でも知りたかった。キリトが強いと評したこの男は、この問いにどう答えるのか。

すると、浮かべていた困惑の色は立ち消えた。

スッと目を閉じて、ゆっくりと開いた眼差しは真剣そのもので。

 

「引く。それしか方法がないなら、俺は躊躇わない。俺の関わったモノが脅かされるなら、何度だって、俺はその引き金を引く」

 

その言葉には、確かな意志と覚悟があった。

 

だから、信じてみようと思った。

無茶苦茶な理由を、ではなく、この男の意志を持った答えを。

 

「……判った、教えてあげる。その代り一つだけ聞かせて」

 

 

 

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『どうも、一昨日ぶりです』

 

ソイツが現れたのは、キリトとシノンが席について話し始めて直ぐだった。

酒場の外から二人の様子を窺っていた俺とクーンの後ろに唐突に現れて声を掛けてきたのは、神出鬼没が服を着て――正確にはデータになってと言おうか――歩いているような奴、欅だ。

コイツにはALOでの装備管理を任せていたはずだが……最早何も言うまい。

 

『で、なんの用だよ? クーンが呼んだのか?』

 

『いや、今回に関しては無関係だよ』

 

『ええ、今回はちょっとした私用ですね。お二人がGGOで使っている装備の使用感について聞けたらなと思いまして』

 

『『はぁ?』』

 

異口同音、俺とクーンの声が重なる。なんでそんなことを聞いてくるのかサッパリ判らん。

 

『実はですね、お二人が使っている光剣のアタッチメント、正式名称《マルチロールフォトンエクステンダー》、延いてはおおもとの《フォトンソード》を作ったのは僕なんですよ。あっ、勿論チートで作ったんじゃないですよ? 実は僕、ザスカーの株主でして。提案と一緒にデータを送ってみたら採用してくれたんですよね。ですから、今日はその感想を是非お二人から聞こうと思いまして』

 

なんて、いつも通り俺達の考えの斜め上を突き抜けたことをほざく欅の無駄に詳細な感想――最早アンケートに近い――に付き合わされること十数分。

 

『いやぁ、ありがとうございました。そういえば、お連れの方の交渉が難航しているみたいですが大丈夫ですか?』

 

などと、どうやって判ったんだよと言わざるを得ない言葉に送り出されたシノンとの話が終わり、クーンとキリトの元へ戻ってシノンから聞いた情報を伝えた。

無論、欅はとっくの昔に消えている。

 

「時間ギリギリ無事聞き出せたって感じか?」

 

「あぁ、まぁな。俺たちを除けば、今回初出場なのは三人。《銃士X》、《ペイルライダー》、《スティーブン》」

 

「その三人の中に、《死銃》がいるってわけか」

 

「だろうな」

 

キリトの言葉に頷きながら、頭の中では別のことを考えていた。

それは、シノンから三人の名前を聞きだした後のこと。

 

『貴方たち三人が《死銃》を追ってるっていうのは、キリトが昨日おかしくなったことと……貴方とキリトがソードアートオンラインにいたことと、何か関係があるの?』

 

思わず絶句した。SAOについては全く触れてなかったはずなのに、どこから結びつけたのかと。

 

『……さっき聞いたのは。私が昨日予選でキリトに聞かれたこと。私を負かす強さを持つキリトが、何を怯えていたのかって尋ねたら、そう返されたの。キリトは自分にはまだ覚悟がないけど、貴方は以前から覚悟があったって言っていた。だから、さっき貴方にも同じ問いかけをしたし、何となく二人がSAOにいたってことも判った』

 

受けた衝撃が顔に現れていたんだろうな。俺が聞くまでもなく、シノンは理由を話してくれた。

それを聞いて、俺とキリトがSAOにいたことを知っていた(推測した)ことについては納得した。だが、もう一つが判らない。

 

『SAOの件については判った。だが、どうして俺にそれを聞いた?』

 

『……私は、強くならないといけないから。その為に、私はここ(GGO)にいる。キリトが自分よりも覚悟(強さ)を持っているって言った貴方の答えを、知りたかった。それだけ』

 

一瞬だけ縋る様な瞳をしていたのは俺の気のせいだろうか。

そんなことを考える間もなく、話しは終わりだと立ち上がり背中を向けたシノンは顔だけ振り向いて告げてきた。その瞳には、既に先の弱った色はもう無見られず。

 

『だから、私はアンタ達を斃して私の強さを証明する。アンタ達にどんな理由があろうと、必ず殺しに行く』

 

『……ガキの癖に溜め込みすぎなんだよ、色々』

 

去っていく背中に、俺の口から洩れた呟きは届いただろうか。

 

「……お前は、強さってモンの意味を履き違えてんだよ」

 

クーンたちと共に本戦の待合室へ向かう中、これから対峙するであろう少女へ向けた俺の独り言は、誰の耳に入ることもなく喧騒の中へ消えた。

 

 

 

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『……ガキの癖に溜め込みすぎなんだよ、色々』

 

彼の前から立ち去った時、微かに聞こえたその言葉は、何故か異様に耳に残った。

 

『先人からのアドバイスって訳じゃねぇが、あんま溜め込みすぎんな』

 

それは、数時間前に会った彼の言葉とダブったからなのか。

話す気もなかったことを話してしまったのも、それが理由なのだろうか。

三崎さん()ハセヲ(あの男)は別人だと言うのに。

 

……やはり、今日の私はどこかおかしい。これから大事な試合があるのに。

 

「集中しなくちゃ……ね」

 

だから、いつもの言葉を唱えよう。

 

「勝たなくちゃ、いけないんだから」

 

弱くて泣き虫な私(朝田詩乃)を、強く冷酷な私(シノン)へ作り変えるための御呪い。

 

――氷。私は、冷たい氷でできた機械――

 

どうしてだろうか。いつもなら落ち着くはずのその言葉が、今日は酷くざわついた。




どうも、お久しぶりでございます

遅くとも九月頭に更新するはずが気付けば十一月も終わりを迎えています。
例年なぜか夏の終わりに体調を崩すんですが、今年は溶連菌なるものに罹り、治った後もずるずると先延ばしになってしまった次第です。


さて、言い訳は程ほどに。
今回のサブタイは《マダ ハレヌ ウレイ》です。ええ、ネタが尽きてきました。いっそエリアワードみたいにした方が楽だったと今更ながらにちょっと後悔。こういった特に山場の無い回はいつもない頭捻ってます。
そんなことはさて置き。本戦に入るはずが微妙に足らず……といった具合ですね。
前半のキリト君アバター設定改変は……まぁ、皆さんお察しの通りの理由ですねはい。まぁ、後々影響してきます(多分
後半はもうちょっと伸ばして本戦まで行きたかったんですがさっさと更新することも考えて今回はここまでに。
年内にGGO終われたらいいなと思いつつ更新をしていきたいと思います。

毎度のことですが、いつもお世話になっている誤字・脱字報告と励みになる感想は随時募集しております。よろしければお気軽にどうぞ。

それではまた次回で

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