劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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兄妹では無いんですが、これが一番楽な表現なんですよね……


司波兄妹の説得

 ほのかと達也をリビングに残して、深雪と水波は泉美に料理指導するためにキッチンで準備を始める。二人が無理をしているのではと疑う泉美は、どうやって切り出そうが悩んだ挙句、普通に聞くことにした。

 

「深雪先輩と水波さんは司波先輩と光井先輩の事が気になるのではありませんか?」

 

 

 泉美の言葉に、水波が分かりやすく動揺した。だが、水波が動揺した理由は、自分の心の裡を言い当てられたからではなく、深雪が気にしている事にあえて気づかないフリをしていたのを台無しにされたからだ。

 

「さっきほのかにも言ったのだけど、これがリーナや七草先輩だったら認めなかったでしょうね。でも、ほのかなら大丈夫、そう思えるようになったの」

 

「お姉さまだったら無理だったのですか?」

 

「あの人は達也様に近づき過ぎな感じがするのよ」

 

 

 泉美から見ても、真由美は達也に近い感じがするのだが、それを深雪が言うのか、というツッコミは心の中だけに留めた。もし口にしてしまえば、せっかくの機会が台無しになってしまうからだ。

 

「さてと、準備も出来たしさっそく始めましょうか」

 

「はい、お願いいたしますわ!」

 

「それにしても、泉美ちゃんが料理が苦手だなんてちょっと意外だわね」

 

「苦手というわけではないのですが、深雪先輩や光井先輩と比べると、どうしても……」

 

「別に比べる必要は無いと思うのだけど」

 

 

 誰かと比べたがる気持ちは深雪も分からなくはないが、自分の事を棚に上げて泉美にそのような事を言う。それを聞いていた水波は苦笑いを堪えながらも、主に失礼が無いように対応した。

 

「深雪様。上を目指す時には誰かと比べた方がよろしいのではないでしょうか」

 

「そうねぇ……それじゃあ、泉美ちゃんにはとりあえず七草先輩よりも上手に料理が出来るようになってもらいましょうか」

 

「お姉さまより、ですか?」

 

「そうすれば自信にもつながるでしょうし、七草先輩も泉美ちゃんに負けないように頑張るかもしれないでしょ」

 

 

 真由美の専売特許であるような小悪魔的な笑みを浮かべる深雪に、泉美は気合を入れる。騙されているわけではないが、何処か利用されているような感じは否めないが、別に誰かが損をするわけでもないので、泉美は素直に深雪に騙されることにしたのだ。

 

「それじゃあまずは――」

 

 

 料理を始めてからは、深雪も水波も特にふざけることは無く、むしろ真剣そのものな態度で泉美に教えていく。泉美も深雪に手取り足取りという状況に夢想することなく、真剣に指導を受けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キッチンから時折聞こえる泉美の謝罪の言葉に、ほのかはキッチンで何が行われているのかが気になり始めた。もちろん、深雪や水波がキッチンを散らかし放題にするとは思ってもいないし、泉美もそこまで出来ないとも思えない。だが、泉美の謝罪の言葉が毎回本気で申し訳なさそうに聞こえるので、もしかしたらという気持ちを抱き始めたのだ。

 

「だ、大丈夫なのかな……」

 

「心配する必要は無いと思うが」

 

「そ、そうですよね。深雪も水波ちゃんも出来る人ですし、泉美ちゃんだってそこまで酷いわけではないでしょうし」

 

「リーナみたいにキッチンを爆破したりはしないだろうしな」

 

「なんですか、それ」

 

 

 達也の冗談めかした言葉に、ほのかは思わず吹き出してしまった。達也が冗談をいうのも珍しいのだが、それ以上に自分を励ましてくれたのだという事がほのかには嬉しかった。

 

「達也さんはリーナが料理するところ見たことがあるんですか?」

 

「深雪から聞いただけだが、かなり酷かったらしい」

 

「リーナって今日本にいるんですよね?」

 

「ミカエラ・ホンゴウと一緒に生活しているはずだが」

 

「一人暮らしじゃないんですね」

 

「もし一人で生活する事になってたら、四葉から何人か侍女が派遣されただろうな」

 

 

 それくらい家事能力が低いのだろうと、ほのかはリーナに対する評価を下方修正した。あの見た目で魔法能力も深雪に匹敵するくらい、自分なんか比べ物にならないと思っていたが、思いがけないところでリーナに勝てる要素を見つけたからである。

 

「何でも出来る人って、そんなにいないんですね」

 

「一人ですべて出来る人間なんて、この世には存在しないと思うが」

 

「でも、達也さんも深雪も、一人で何でも出来ちゃいそうですし」

 

「そんなことは無いんだが」

 

 

 達也は前々から公言しているように、ハード面では五十里や千秋に劣るし、深雪は調整などはすべて達也に任せているので、自分でやれと言われても手際よく出来るかは分からない。その点だけ見ても完璧ではないし、それ以外にも欠点は存在するのだ。

 

「何でもかんでも一番じゃなければ気が済まないなど、そんなのは子供か現実を知らない人間が言う事だ」

 

「達也さんが言うと何だか説得力が違いますね」

 

「ん?」

 

「達也さんは私たちと同い年ですけど、人生経験は豊富ですよね? だから、達也さんがそういう事を言うと同級生の男子に言われるよりも説得力が違うんだと感じるんです」

 

「まぁ、いろいろと経験はしてるからな」

 

 

 言えるだけでも相当なものだが、言えない事も含めたら普通に生活してきた大人より膨大な経験を積んでいるのだ。説得力が違うとほのかが感じても当然かと、達也は内心苦笑いを浮かべたい気持ちに駆られたが、何時も通りのポーカーフェイスで誤魔化した。

 

「ほのかはリーナに負けている部分もあれば、勝っている部分も当然あるんだ。気にする意味はないだろ」

 

「そうですね。リーナも深雪も完璧じゃないんだって思うと、少し気持ちが楽になりました」

 

 

 スッキリした表情で笑みを浮かべるほのかに、達也は小さく頷いたのだった。




上を見るのは良い事ですが、自分の立ち位置をしっかりと把握しておかないと……

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