劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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泉美の料理の腕ってどうなんだろう……


料理の手ほどき

 作業は午前中である程度の目途が立ったため、深雪が一休みを提案する。

 

「時間的には少し早いけど、お昼にしましょうか」

 

「そうですね。どうしますか? 食堂に行きますか?」

 

「あっ、昨日迷惑掛けちゃったから、今日は私がお昼用意してきたよ。よかったらみんなで食べて」

 

 

 そう言ってほのかがバスケットを取り出した。中にはサンドイッチが入っており、この人数で食べても少し余るくらい用意してある。

 

「大変だったんじゃない?」

 

「そんなこと無いよ。大事な時期に風邪ひいて迷惑かけた分、これくらいしか出来ないけど」

 

「皆さん・お茶を・お持ちしました」

 

 

 タイミングよくピクシーが人数分のお茶を用意して、水波がそれを配膳する。本当ならピクシーが全てやってくれるのだが、メイドとしてただ座っているのが苦痛だったのだろう。

 

「光井先輩はお料理も上手なんですね」

 

「そんなこと無いよ。これくらい普通だと思うけど」

 

「私や香澄ちゃんはあまり料理はしませんから、恐らくサンドイッチもまともに作れないかもしれません」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 謙遜したつもりが厭味な感じになってしまい、ほのかは居心地が悪そうに泉美から視線を逸らした。

 

「泉美ちゃんも少し練習すれば出来るようになるわよ。確か、七草先輩はお料理が好きだとお聞きしたのだけど、お姉さんに習ったりはしないの?」

 

「お姉様の料理は、見てると実験してるような雰囲気ですので……そうだ! 今度深雪先輩が教えてくださらないでしょうか?」

 

「私? 私よりも水波ちゃんに教わった方が気が楽じゃないかしら? 水波ちゃんだって、とってもお料理が上手だし」

 

「私は誰かに教えられるほどの腕では……深雪様の方が泉美さんも教わって嬉しいのではないでしょうか」

 

 

 一人蚊帳の外の達也は、会話の成り行きを見守りながらほのかのサンドイッチに手を伸ばす。下手に口を挿んで面倒になるくらいなら、口に物を入れておいて喋れなくしておこうと考えたのだ。

 

「深雪先輩にお教えいただけるのでしたら、私も頑張れる気がします」

 

「それはダメよ。誰に教えてもらっても頑張ろうという気持ちが無いと、上達出来るものも出来なくなっちゃうわよ」

 

「そ、そうですね……申し訳ありません」

 

「私が教えるのは別に構わないのだけど、場所があるかしら……さすがに七草家にお邪魔するわけにもいきませんし……」

 

「深雪先輩のお家は駄目なのですか?」

 

「ウチに来ること自体は別に構わないのだけど、泉美ちゃんがお家に帰った後七草先輩と香澄ちゃんにいろいろと言われるかもしれないわよ?」

 

「それは……ありえそうです」

 

 

 深雪の家、ということは達也の家でもあるので、達也の婚約者である真由美と香澄が泉美に嫉妬していろいろと言ってくる可能性は決して低くはない。その事を失念していた泉美は、深雪が生活している空間に行ってみたいという欲望と、姉二人に根掘り葉掘り聞かれるという面倒を天秤に掛け、そして深雪の家に行くことを断念した。

 

「それならウチで練習しない? 深雪も、この後ウチに来てくれれば泉美ちゃんに教えられるし」

 

「ほのかの家? でも、二日続けてお邪魔しても構わないのかしら?」

 

「気にしなくても大丈夫だよ。一人暮らしだし、昨日はお見舞いに来てくれただけだしね」

 

「光井先輩がよろしいのでしたら、場所をお借りしたいのですが」

 

「それじゃあ、後は深雪次第だね」

 

 

 ほのかに視線で問われた深雪は、さっきから成り行きを見守っている達也に視線で尋ねた。尋ねられた達也は、別に構わないという合図を送り、それを受け取った深雪が笑顔で頷いた。

 

「それだったら残りの作業を終わらせてお買い物に行かなければね。泉美ちゃん、何か作りたいものはあるかしら」

 

「何を作りたい、とか言えるレベルではありませんので。深雪先輩が教えやすいもので構いませんわ」

 

「そうねぇ……せっかくだし、水波ちゃんも一緒に作らない? もちろん、家主であるほのかもね」

 

「私も? でも、泉美ちゃんは深雪に習いたいんじゃないの?」

 

「私一人で教えるよりも、ほのかや水波ちゃんも一緒の方が上達するわよ」

 

「そうなのかな……じゃあ、達也さんもご一緒しませんか?」

 

 

 ほのかとしてはただ達也がいてくれるだけで満足出来るので誘ったのだが、泉美は達也も料理に参加させると受け取ったようで、ちょっと意外そうな表情を浮かべる。

 

「司波先輩もお料理するんですか?」

 

「あっ、そうじゃなくて、達也さんには完成したものを食べてもらおうと思って。達也さんならお世辞を言わないから、泉美ちゃんがどの程度なのかはっきりと分かると思って」

 

「まぁ、達也様もお料理は出来ますからね」

 

「えっ、そうなの?」

 

 

 深雪の言葉に、泉美ではなくほのかが驚きの声を上げた。

 

「必要最低限だけだ。誰かに食べてもらえるような腕前ではない」

 

「まぁ、ご謙遜を。達也様の手料理を食べてみたいという女性がどれだけいると思ってるのですか? それに、達也様の料理は、そこらへんのお店より美味しいですよ」

 

「深雪が言うんじゃ本当なんだろうな……達也さん、今度私と雫にも作ってください」

 

「機会があればな」

 

 

 思いもよらないところで二人に手料理を振る舞わなければならなくなった達也は、少し憂鬱そうにため息を吐いたのだった。




下手ではなさそうですがね……

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