劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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世界情勢とは違う懸念が……


少女たちの懸念

 魔法協会関東支部で葉山から母国で面倒事が起きていると聞かされ、リーナは複雑な表情を浮かべながら達也と建物の外に出た。

 

「ねぇタツヤ」

 

「なんだ」

 

「アナタたちっていったいどんな情報網を持っているの? さっき葉山さんが話していた情報は、ほぼリアルタイムのものよね?」

 

「母上の草が潜り込んでいるんだろう。リーナが攻めてくるかもという情報も、ほぼリアルタイムで母上から聞かされた」

 

「一度しか会った事ないけど、物凄い人なのね……」

 

「まぁ、いろいろと凄い人ではあるがな」

 

 

 リーナが意図した「凄い」と、達也が意図した「凄い」は若干違うのだが、リーナに言葉のニュアンスの違いを感じ取るだけの感覚は備わっていないので、特に気にした様子はなく話を進めた。

 

「それにしても、戦略級魔法を簡単に使った所為で、各国で面倒事が起きているのね……」

 

「同じ戦略級魔法師として気になるのか?」

 

「別にそんなんじゃ……ワタシのは一対一で使う魔法だもの。大量殺戮するにしても、あそこまで簡単にはいかないわ」

 

「それは身を持って体験してるから知っているが、それ以外にも気になってるんだろ」

 

「タツヤはよく人を見てるのね……そうよ。ワタシは存在を公にしていないからいいけど、他の戦略級魔法師、例えば五輪家のミオはその存在を知られているわよね。反魔法師団体のターゲットにならなければいいのだけど」

 

 

 アンジー・シリウスの名前は公開されているが、その正体がこの少女であると知っている人間は多くは無い。だからリーナが襲われたとしても、それは戦略級魔法師だからではなく魔法師の一人としてだろう。だが彼女が懸念した通り、日本が公表している戦略級魔法師である五輪澪の事を反魔法師団体の人間が狙う可能性はあるのだ。

 

「もし襲われたとしても、ボディーガードがいるだろ」

 

「その所為でまた魔法師に対する風当たりが強くならないかしら?」

 

「五輪澪さんは身体が弱く車いすを使用していると聞く。そんな女性を襲おうとしてその事を正当化出来るとは思えん」

 

 

 魔法師だからという理由で何とでもなるはずもなく、確かに達也が言うように事情を知らない人間が見れば婦女暴行の犯人を取り押さえようとした、という感じに見えなくもないだろうとリーナはその光景を想像し一安心したように笑みを浮かべた。

 

「そういえばタツヤ。今日は忍者マスターとのトレーニングは良いの? ミユキから毎朝トレーニングしてるって聞いてたんだけど」

 

「やむを得ない事情の時は休んでいる。それに、師匠だって面倒事に巻き込まれたくはないと常に言っているからな」

 

 

 自分から巻き込まれているようにも感じられるが、あくまで坊主だからという理由で積極的には俗世に拘らないと公言している八雲は、今回の件も当然知っているだろうが、達也が何かを聞くまでは自分から話したりはしないのだ。

 

「とりあえず帰るぞ。俺は今日も生徒会の仕事があるんだ」

 

「大変ね……」

 

 

 達也にヘルメットを投げつけられ、リーナはそれを難なく受け取り被る。普段は深雪が使っているものなのだが、リーナはそんなことは気にせず、達也とのニケツを楽しみながら拠点へと戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝早く本家から連絡があり、達也とリーナが関東支部に呼び出されたのを受けて、深雪の心情は穏やかではいられなかった。

 

「深雪様、少し休まれた方が」

 

「大丈夫よ――いえ、ゴメンなさい。ちょっと休ませてもらうわね」

 

 

 水波相手に強がっても通用しないと経験上知っている深雪は、一度強がってみせたがすぐに素直に休ませてもらう事にした。

 

「達也様とリーナを呼び寄せたという事は、何か問題でもあったのかしら……この間の戦略級魔法の使用で、世界情勢が大幅に変化したと達也様は懸念していたけど……」

 

 

 何も分からない、何も教えてもらえないこの状況が歯がゆく、深雪はリビングのソファでいろいろと考えてはため息を吐く、という行為を繰り返していた。

 

「深雪様、こちらを」

 

「ありがとう」

 

 

 ハーブティーを用意した水波を軽く労い、深雪は一口啜り笑みを浮かべる。

 

「美味しいわ」

 

「達也さまでしたら大丈夫だと、深雪様が一番よくお分かりのはずです。それに、戻られたら達也さまから今回の事についての説明があるでしょうし、もう少し落ち着いて待たれた方がよろしいかと」

 

「そうね。達也さまが私に隠し事などするはずもないものね」

 

「他の方にならともかく、深雪様に隠し事はしないと思いますよ」

 

 

 水波の言葉に小さく頷いて、深雪は少しずつハーブティーを飲み干していく。カップが空になった頃には、深雪の心中も穏やかになって来ていた。

 

「リーナさんも、状況を考えれば浮かれていられないでしょうしね」

 

「まぁ、あの能天気なリーナでも、この間の事は気にしてるでしょうしね」

 

「あの方は元スターズ総隊長ですので、普通の魔法師よりかは気にしているかもしれませんね。仮にも戦略級魔法師の一人と数えられるお方ですので」

 

「そういえば、除隊した今も専用のCADは持っているのかしら」

 

「私には分かりません。深雪様はリーナさんの番号をご存じなのですから、気になるのでしたらお聞きになっては如何でしょうか?」

 

「まぁ、リーナの魔法の正体は達也様が解明済みだから、それほど気にしていないのだけどね」

 

 

 深雪が笑みを浮かべながら宣言したので、水波はリーナに対する警戒度を下げたのだった。元々達也の婚約者という事で警戒はそれほどしていなかったのだが、おそるるに足らずということで、完全に自分が警戒しなくてもよいと判断したのだろう。




リーナに対する評価が下がる一方だな……

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