劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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さすがに達也に奢られるのは……


IF大人ライバルルート その2

 支払いを誰がするかという話し合いの結果、達也の分は三人で割り勘、自分の分は自分で払うという結果に落ち着いた。話し合いをしている間に達也が全て払ってしまおうとしたのだが、さすがに年下に奢ってもらうのは大人の女性としてのプライドが許さなかったのだ。

 

「自分の分くらい自分で払いますよ」

 

「気にしなくていいのよ。私たちと貴方は無関係じゃないんだから」

 

「そうよ。それに、普段は達也くんが払っちゃうから、こうでもしないと年上の威厳が保てないのよ」

 

「それこそ気にしなくてもいいのでは?」

 

 

 達也としてはちゃんと年上として敬っているつもりだし、女性は年齢を気にすると聞かされているのであまり年上扱いをすることはしないようにしているのだ。だが、どうやら三人は年上としての威厳を保ちたかったらしいと、達也はとりあえず素直に奢られる事にした。

 

「それじゃあ、次は何処に行きましょうか」

 

「司波くんの服を見に行きましょうよ。この格好じゃ夜遅くまで連れ出す事が出来ないから」

 

「そんな遅くまで拘束するつもりなんですか? 明日も朝から忙しいんですけど」

 

「君だったら一日二日寝なくても問題ないでしょ?」

 

 

 教師としてその発言はどうなのかと思ったが、響子はその言葉を呑み込んだ。怜美と遥が上手い事やってくれれば、自分は労せずして達也と一緒にいられる時間が延びるからである。

 

「着替えなら一度帰ればありますから、一旦解放してくれませんか? 深雪にも事情を話しておかなければいけませんので」

 

「それだったら私たちも行くわよ。一応司波さんたちに断りは入れたつもりだけど、ちょっと強引だったしね」

 

「ちょっとどころではないでしょうが……校門で待ち構えてそのまま引っ張られたんですけど」

 

「司波くんならその程度で怪我しないでしょうし、怪我しても安宿先生がいるから大丈夫よ」

 

「そういう問題でもないと思うんですが」

 

 

 達也の最もな返しにもめげずに、怜美と遥は達也の腕を引っ張って司波家を目指す。その二人の行動を一歩引いたところで眺めていた響子は、自分もついて行ったら深雪が放つブリザードに巻き込まれるのではと一瞬考えたが、この二人にだけ説明を任せるのは危険だと判断してついて行くことにした。

 

「そういえば達也君、例の桜井さん。特別措置が取られるかもしれないんだってね」

 

「何処で聞いたんですか、そんなこと」

 

「だって、私たちの仲間になるかもしれないんだし、そういう情報は小野先生が詳しいからね」

 

 

 怜美が情報源をあっさりと暴露したが、遥は特に気にした様子もなく達也からの視線を受け止めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也と共に怜美、遥、響子がやってきたのを受けて、深雪の機嫌は急速に傾き、見えないなにかで威嚇し始めていた。

 

「――というわけだから、もうちょっと達也君の事を借りるわね」

 

「私はあくまでも婚約者の一人です。何故私に断りを入れるのでしょうか?」

 

「それはもちろん、貴女を暴走させたら魔法師の未来が閉ざされるからよ。貴女だって自分が司波くんに依存し過ぎている事は自覚しているのでしょ?」

 

「それは……」

 

 

 遥に言われるまでもなく、深雪は自分が達也に依存している事も、他の婚約者に嫉妬している事も自覚しているし、今現在も三人相手に魔法を発動しそうになっている事も自覚している。だが深雪から言わせれば、それは仕方のない事なのだ。母親を亡くし、父親は即愛人と再婚し別居。甘えたいときに側にいてくれたのは達也だけで、自然と兄妹以上の感情を抱いてしまったのだ。

 

「まあまあお二人とも。あまり深雪さんを刺激しない方が良いですよ。深雪さんの為――ひいては達也くんの為にも」

 

「まぁ、ここで魔法大戦が勃発するのは困りますからね……ましてや安宿先生や小野先生――」

 

「名前で呼んでくれるんじゃないの?」

 

「……怜美さんや遥さんが深雪の魔法に耐えられるとも思えませんし」

 

 

 怜美に指摘され、達也は名前呼びに切り替える。特に苗字で呼ぶことに意味は無かったので変えること自体に抵抗は無かったが、深雪の前でそれをするのに若干の躊躇いを感じたので、多少の間が出来たのだった。

 

「確かに私や安宿先生じゃ深雪さんの魔法には対抗出来ないわね。師匠ですら恐れるのだから」

 

「一高始まって以来の魔法力の持ち主だって噂されるくらいだものね。保険医でしかない私が抵抗出来るわけないわよ。でも、達也君なら問題なく司波さんの事を抑えられるでしょう?」

 

「そういう事ではなくてですね……まぁ、こういう理由だから、今日はもう少し出かけてくる」

 

「分かりました。水波ちゃん、三人にお茶をお出ししてあげて」

 

 

 達也が着替えている間はこの場に留まることになるので、深雪は三人にお茶を出すよう水波に命じる。水波は小さく返事をしてからキッチンに向かい、深雪と三人の分のお茶を用意した。

 

「そうだ! 良ければ桜井さんもご一緒しない? 私たちと同じ立場になれるかもしれないんでしょ?」

 

「せっかくのお誘いですが、私は深雪様のお側に仕えるものですので、深雪様を置いて私一人が外出するわけにはいきませんので」

 

「そうなの……深雪さんも一緒にじゃあまり意味がないものね……」

 

 

 婚約者の中でも一番上に位置する深雪が同行してはせっかくのデートが台無しであるとはっきりと告げた怜美に、深雪は底冷えのする笑みを向けたのだった。




愛人候補の水波ですが、今回は辞退する方向で

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