劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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優秀なメイド、水波……


IF深雪VSリーナ編 その5

 風呂から出てきてからも、深雪とリーナは何処かギスギスした雰囲気を纏っていた。さすがにすぐ仲良くなるとは達也も思っていなかったが、何故入る前より険悪になっているのかはさすがに分からなかった。

 

「何かあったのか?」

 

「なにもありませんでしたわ。ただちょっとリーナが痴女っぷりを発揮しただけです」

 

「そんな事ないわよ! ミユキが意気地なしだったって分かっただけよ」

 

 

 互いに睨み合って一発触発の空気を醸し出すが、達也の前だという事を思い出して大人しく引き下がる。

 

「深雪様、ロイヤルミルクティーをどうぞ、心が落ち着きますよ」

 

「ありがとう」

 

 

 すかさず水波が深雪の心を穏やかにするために動く。それを見てミアもリーナにハーブティーを用意する。

 

「せっかくだ。水波は深雪の部屋で休んで、水波の部屋をリーナとミアさんが使えばいい。水波、何か問題あるか?」

 

「いえ、問題はありませんが、普段私が使っているベッドをどちらかが使うとなると、ちょっとだけ抵抗を感じるものでして」

 

「それだったら二人とも布団を使ってもらえば問題ないだろ。リーナとミアさんもそれで問題ないな?」

 

「私は構いません。以前この家で生活させていただいていた時は、水波さんと同じ部屋で、私は布団でしたから」

 

 

 ミアは何の抵抗もなく受け入れたが、リーナは何処か不満げな表情を浮かべている。その表情を見て、深雪がリーナに問いかけた。

 

「貴女まさか、達也様と同じ部屋が良いとか思ってるんじゃないでしょうね?」

 

「当然じゃない。せっかくダーリンと同じ屋根の下で寝泊まり出来るっていうのに、何でワタシはミアと同室なのよ」

 

「当たり前でしょ! そもそも貴女だけ抜け駆けしたと知られたら、他の婚約者たちに何をされるか分からないわよ?」

 

「ミユキが無事なんだから、ワタシだって問題ないわよ」

 

「どういう意味かしら?」

 

 

 リーナの発言の意図が理解出来なかった深雪は、本気で首を傾げながら問いかける。

 

「この同居自体が抜け駆けなんだから、何かされるならワタシより先にミユキでしょ? だから、ミユキが無事ならワタシだって大丈夫って事よ」

 

「お言葉ですがリーナ様」

 

「何かしら?」

 

 

 自信満々に言い放ったリーナに、水波が躊躇いがちに声を掛ける。

 

「そもそも深雪様とリーナ様ではスタートが違います」

 

「どういう事?」

 

「深雪様は婚約者になられる前から同居していましたので、それを今更解消しろという方が無理だったのです。しかしリーナ様は、元USNAスターズ総隊長とはいえ陰で『ポンコツ』と揶揄されているお方です。そのお方が達也様と同じ部屋で一夜を共にしたと聞かされれば、七草様辺りが黙っていないでしょう。そうなれば他の婚約者の方々を引き連れて、リーナ様をUSNA軍に引き渡そうと働きかけるかもしれません」

 

 

 水波が恐ろしい事を言ってきたので、リーナは一瞬たじろいだが、それでも自分の考えを曲げようとはしなかった。

 

「そ、そんなことあのマユミが出来るのかしら? いくら十師族の一員とはいえ、四葉家が正式に認めた婚約者であり、九島の家の事に首を突っ込めば七草家だって無事では済まないんじゃない?」

 

「確かに七草様個人では無理でしょうが、他の婚約者の方々の中には四葉家ゆかりの者も参加するでしょうし、そうなれば如何に九島の縁者とはいえ無事では済まないでしょう。もしかしたら藤林様も参加なさるかもしれませんし」

 

「そんな…キョウコまで……」

 

 

 さすがにそうなると自分一人では太刀打ち出来ないと自覚したリーナは、ここは我慢して婚約者で居続けた方が良いだろうと結論付けた。

 

「分かったわよ……ミア、今夜はよろしくね」

 

「はいリーナ。こちらこそよろしくお願いします」

 

「水波、二人に布団の用意を」

 

「かしこまりました」

 

 

 達也に命じられ水波は素早い動きで自分の部屋に向かい、軽く掃除してから二人分の布団を用意する。その間にミアは風呂を済ませるためリビングから移動し、残ったのは達也と深雪、そしてリーナの三人だ。

 

「前々から思ってたんだが、何故お前らはそこまでいがみ合うんだ? ライバルってだけでは説明出来ないんだが」

 

「リーナには絶対に負けたくないと思っているからだと思います」

 

「そうね。ミユキには何が何でも負けたくないって思っちゃうのよね……ミユキの方が上だって理解はしてるつもりなんだけど、どうしても自分が劣ってるとは思いたくないのよ」

 

「だからって、毎回魔法大戦直前まで発展するのは止めろ。俺は兎も角水波とミアさんが可哀想だ」

 

 

 達也の精神力なら問題ないが、確かに水波とミアには申し訳ないと毎回反省するのだ。それでも互いを前にするとその反省を忘れ激昂してしまう。やはりこの相手にだけは負けたくないと互いに思っているからだろうと分かってはいるのだが、それでも相手の挑発に乗ってしまうのだ。

 

「これが改善されないようなら、俺の方から母上に進言するしかなくなる」

 

「叔母様に? 達也様は何を進言するおつもりなのでしょうか?」

 

「二人を婚約者から外し、深雪は一条と、リーナは光宣と婚約してもらった方が良いと」

 

「それだけは嫌です!」

 

「ワタシだって嫌よ!」

 

「だったらもう少し互いに歩み寄り、毎回挑発し合わずに仲良くすることだな」

 

 

 達也に言われてしまったからには、深雪もリーナも聞き入れるしかない。もしこれを拒めば、深雪は将輝と、リーナは光宣と本気で婚約させられるかもしれないからでもあるが、二人とも基本的に達也の言う事を拒むという考えがないからでもある。

 結局深雪の部屋にリーナが泊まることになり、水波はそのまま自分の部屋で休む事になり、翌朝深雪とリーナは若干ぎこちない雰囲気は感じさせながらも、仲良くリビングに姿を見せたのだった。




この二人が仲良くしてたら、それはそれで怖いような……

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