部屋に戻った達也は、フロントから受け取った荷物を見ながら苦笑いを浮かべていた。
「牛山さん、無茶したんじゃないでしょうね」
遊び半分ですと添えて設計図を送ったのにも関わらず、一日かからずに完成させてくれた相手に、達也は心の中でお礼と労いの言葉を送った。
「(自分で試すのも良いが、これはアイツ向きだな)」
もうじきこの部屋を訪ねてくるであろう友人の顔を思い浮かべ、今度は悪い笑みを浮かべる達也、それと同時に廊下に人の気配を感じた。
「お兄様、入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
達也の部屋を訪ねて来たのは8人、深雪、ほのか、雫、エイミィ、エリカ、美月、レオ、幹比古の順に部屋に入ってくる。レディーファーストとかでは無く、純粋に男の方が立場が弱いだけだろうと達也は思っていた。
「達也君、これって模擬刀? 刀じゃないけど」
「いや」
「じゃあ鉄鞭?」
「今時鉄鞭なんて好んで使う武芸者なんていないと思うぞ」
「武芸者って……」
達也の言い回しが古いと感じたエリカは、若干苦笑い気味の表情を浮かべる。
「じゃあ何? ……もしかしてホウキ?」
「正解。より正確には武装一体型CAD、武装デバイスとも言うな。完全に単一の魔法に特化したCADと、その魔法を利用した白兵戦用の武器を纏め上げたものだよ」
「ふ~ん」
テーブルに脚を組んで座りながらトランクを眺めているエリカの周りに、同じように興味を持っているほのかと雫、エイミィが覗き込んでいる。
深雪は、「ああ、昨日のあれか」と言う表情で遠巻きに四人を眺めている。幹比古と美月は特に興味を示してないようだが、レオはチラチラとエリカたちを見ている。正確にはその中心にあるトランクに興味があるのだろうが、エリカが居るから近づけないと言った感じだ。
「これって達也君が作ったの?」
「ああ。昨日の渡辺先輩の試合を見て思いついたんだ」
「ちょっと待って!」
「ん?」
今まで興味を示してなかった幹比古が、急に話しに割り込んできた。
「渡辺先輩の試合は昨日だよ? それでもう出来てるっておかしく無いか? ありあわせのものには見えないし、達也だって作業してる暇なんて無かっただろ?」
「俺は設計図を引いただけだ。時間があれば自分でやったが、知り合いの工房の自動加工機で作ってもらった……レオ!」
幹比古への説明を終え、達也はトランクをレオに投げつけた。
「おっと! 危ねぇじゃねぇか達也!」
本当は触りたかったのだが、その事は口に出さなかった。
「試したくないか?」
「えっ、俺が?」
「さっき言ったように、その武装デバイスは硬化魔法に特化したものだ。お前向きだと思うぞ」
「そうか……如何したもんかね」
「やりたいのバレバレ」
雫の感想に、部屋に居る全員が頷く。
「試したくないか?」
メフィストフェレスのようにささやく達也に、レオは不承不承と言わんばかりに頷く。
「しょうがねぇな、実験台になってやるぜ」
「顔、にやけてるぞ」
態度では兎も角、表情は誤魔化せなかったようだ……
「じゃあこれがマニュアルだ」
「達也さん、それって仮想型端末になりませんか?」
達也がレオに渡したマニュアルを見て、ほのかが遠慮がちに尋ねる。
「それほど大げさなものでは無いが、確かにそうだな」
「よろしいんでしょうか?」
「何が……ああ、仮想型端末の有害性? それなら大丈夫、仮想型端末は現実と仮想の中の区別がつかなくなる事が危険視されているだけで、実際に出来る事を仮体験するだけなら有益なツールだから」
「……おっしゃってる意味がよく分かりませんが」
深雪の口調が移ったような話し方でほのかが訪ねて来たが、他のメンバーも概ねほのかと同意見のようだったので、達也は即席で仮想型端末の危険性と、利便性についての講義を始めた。
その講義を熱心に聴いているメンバーに、達也は「あまり頼られても困る」と思いながらも全て説明してしまったのだった……
即興の講義を終えた達也は、レオと共にデバイスのチェックの為に演習場に来ていた。遅い時間なのに、演習場が使えたのは、エリカのコネのおかげだ。
「なあ達也、本当にあんな事が出来るのか?」
「それを確かめる為に演習場に来たんだろ?」
「そりゃそうだ」
マニュアルで見た事が本当に出来るかどうか疑問のようだったが、達也の口ぶりから不安要素は無いんだと感じたレオは、スイッチを入れて魔法を発動させる。
「おっ?」
カチッと音がして、剣の先端が空中に浮いた。
「ホントに浮いてら、おもしれぇ」
「3…2…1…」
「おっと」
達也のカウントに合わせて、レオは剣の動きを停止させる。
「0」
カウントが終わると、空中に浮いていた剣の先端が再びカチッと音を鳴らし柄に収まる。
「成功だな!」
「そのようだ」
「なあ達也、今は如何やってくっついてるんだ? 接着部分にネジやそれらしいものはねぇんだが?」
「電流反応型の形状記憶合金に、着脱の時にだけ電流を流して。かみ合わせを外してるんだ」
「なるほど……だが、こんな形で刀身を飛ばすなんておもしれぇな」
「飛ばすと言うよりも伸ばすと言った方がいいだろうな。間が抜けてるだけで、刀身の延長線上でしか動かない訳だし」
「兎に角おもしれぇぜ。よくこんな武器を思いついたな」
「だが相手を驚かす程度しか取り得は無い玩具だがな」
「そうなのか?」
「色々と問題はあるが、まあこうやって楽しむ分にはこれ以上調整は必要ないだろ。ところで、次は如何する? 的でも出して試し斬りするか?」
「おっ、面白そうじゃねえか」
レオが乗り気になったので、達也はリモコンで的を起動させる。
「古い……」
「誰の趣味だこりゃ……」
出てきた的は藁人形、魔法が確立されている現代では滅多にお目にかからないものだった。
「まあこれでも十分機能するんだが……」
「藁人形に機能もクソもねぇぞ」
「まあ文句言っても変わらないし、始めるぞ?」
「おうよ!」
藁人形を起動させ、レオに向かって動かす。その藁人形にレオも突っ込んで行き、刀身を飛ばして藁人形を斬り捨てる。
「(やはりこのデバイスはレオ向きだったな。これならモノリス・コードのルールには引っかからないから、レオでも出られたかもしれないが、今はそんな事考えても無駄か)」
直接攻撃は禁止されてるが、魔法で物体を飛ばして攻撃する事は許されているモノリス・コードのルールを思い出しながら、達也はレオが参加したら面白いのにと考えていた。参加する事などありえないと思いながらも、有効的な活用法を考えてしまうのは、達也が根っからの研究者だからなのだろう。
利用時間ギリギリまでデバイスのチェックをしていた二人は、何処か楽しそうだった。
達也、マジでマッドサイエンティスト……