劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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改めて思うと凄いシュール……


姉弟? +同級生

 九校戦ピラーズ・ブレイク、達也は新人戦を担当するのだが、一応見学の為にその競技場を訪れていた。

 

「司波君、来てたんだね」

 

「五十里先輩、千代田先輩の調子は如何ですか?」

 

「うんまあ……花音らしいね」

 

「「?」」

 

 

 達也と共に会場に来ていた深雪は、達也と共に首を傾げた。

 

「それって如何言う……」

 

 

 新人戦で参加する雫も、達也と深雪と共に会場に来ていたのだ。五十里に言葉の意味を問おうとしたが、タイミングが悪かった。

 

「そろそろ始まるね」

 

「そうですね」

 

 

 花音の試合が始まり、三人はさっきの五十里の言葉の意味を知る事となった。

 

「あら?」

 

「これは……」

 

 

 花音の戦術を見て、深雪と雫は驚きの反応を見せるが、達也だけは別の反応を見せた。

 

「『地雷原』ですか。随分と高い威力ですね」

 

「花音はパワーだけなら二年生トップって噂されてるくらいだからね」

 

「ですが、何故自分の氷柱まで?」

 

「倒されるくらいなら自分で倒しちゃえなんだよ……」

 

「なるほど」

 

 

 五十里の説明を聞いて、あっさりと納得した達也とは対照的に、深雪と雫はかなり混乱しているようだった。

 

「そのような戦術で勝てるのですか?」

 

「あれだけの威力だ。自陣の氷柱を破壊する事で相手の魔法を自陣の氷柱に届かせない事も可能だろう。それに、届いたとしても、それより早く相手の氷柱が破壊される。あれだけの威力がある魔法が繰り出せる千代田先輩だからこそ使える戦術だろうな」

 

「有効なのは分かった。でも、やっぱり危険じゃないかな?」

 

「そうだね。花音の大雑把さはかなり危険だよ。イラついたら間違えて自分の氷柱を全て破壊してしまうんじゃないかって思うけどね」

 

 

 フィアンセにまで言われているなどと思いもしない花音は、自陣の氷柱を三本残して試合に勝利した。

 櫓から降りてきた花音は、真っ先に五十里に抱きつく。

 

「啓、勝った! 勝ったよ!」

 

「うん、見てたよ」

 

「あれ? 司波君たちも来てたんだね」

 

「深雪と雫は新人戦でピラーズ・ブレイクに出ますので、実戦を見ておこうと言う事になりまして、それで俺は付き添いです」

 

「そっか、ねえ啓」

 

「なに?」

 

「次も勝つからね!」

 

 

 人前だと言うのにこのいちゃつきよう、誰も近付かない訳だと思ったのと同時に、達也は一つの事を五十里に聞きたい衝動に駆られた。

 

「お兄様?」

 

「何でも無い」

 

 

 まさか、「他の選手にも同じように親身になって調整出来ますか?」などと聞けるはずも無いのだ。

 

「雫、如何かしたのか?」

 

「お似合いだなと思っただけだよ」

 

「そうだな……」

 

 

 後輩の目も気にしないで抱きついている花音と、ちょっと困り気味だが、はっきりと拒まない五十里を見て、達也と雫は生暖かい視線を二人に送った。

 

「………」

 

「深雪?」

 

「……はっ! な、何でもありませんよ?」

 

「何故疑問形……」

 

 

 深雪が何を想像してたのかが、達也には分かってしまう。ため息を吐きたいのを我慢して、達也はピラーズ・ブレイクの会場を後にし、天幕へと引き上げていく事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也の後に続くように、深雪、雫、そして花音と五十里も天幕へと引き返してくると、何故か天幕は重苦しい空気が充満していた。

 

「何かあったのですか?」

 

「男子クラウド・ボールの結果が思わしくなかったのよ。今点数の計算をしなおしてるの」

 

「そうなんですか……」

 

「確か、桐原君が出てましたよね?」

 

「ええ……運悪く三高の選手と二回戦で当たっちゃってね。フルセットの末に負けちゃったのよ……」

 

「そう…ですか……」

 

 

 同学年と言う事もあって、花音と五十里は負けた桐原の心中を思い俯いた。

 

「深雪、ちょっと出てくる」

 

「お兄様?」

 

「すぐに戻るさ」

 

 

 達也が何処に向かうのか、全く検討の付かない深雪は、自分もついていこうか迷ったが、達也の背中がついてくるなと言っているように感じて、何とかその場に踏みとどまったのだった。

 クラウド・ボール会場へと続く廊下を歩いていた達也は、途中のベンチで目的の人物を見つけた。付き添いが二人居たが、その事は気にせず声をかける。

 

「桐原先輩」

 

「司波兄か……負けちまったよ」

 

「そのようですね。会長から聞きました」

 

 

 桐原の隣には、彼を弟のように扱っている壬生紗耶香と、彼と同じ部活で、最近妙に桐原の傍に居る事の多い三十野巴が居た。

 

「セットカウント2-3、ポイントも8点しか違わない僅差での負け。先輩と戦った三高の選手も、優勝候補だったのにも関わらず三回戦で姿を消したようです。事実上の痛み分けでしょうね」

 

「司波君……」

 

「ちょっと……」

 

 

 桐原の事を心配している二人が、達也のあまりにもはっきりと事実を伝える態度に、違いはあれど、あまり好ましく思っていない視線を向けた。

 

「随分とハッキリと言うじゃねえか。俺が落ち込んでるとは思わなかったのか?」

 

「思いましたが、他に如何言えば良いのか分かりませんでしたので」

 

「そうか……」

 

 

 達也の返事に、桐原は短く答え、その場に蹲る。紗耶香と巴は、桐原が泣き出すのでは無いかと慌てたが、達也は相変わらずのポーカーフェイスで桐原を見ている。

 蹲った桐原の肩が小刻みに震えている、その事に気付いた紗耶香と巴は首を傾げる。

 

「……クックック、司波兄、やっぱオメェ面白いぜ。普通ならテキトーな慰めの言葉を言うか、知らん振りして通り過ぎるかのどっちかなのに、オメェは……ホント面白いな」

 

「そうでしょうか? 他にやりようが思いつかなかっただけです」

 

「わざわざ会いに来て、それはねぇだろ。サンキュな、お前が痛み分けって言うならそうなんだろうし、そう言われて気分も晴れたわ」

 

「では、俺はこれで」

 

「おう。ありがとな」

 

 

 一礼して桐原の傍から離れようとした達也だったが、目の前に二人の上級生が立ちふさがった。

 

「何か?」

 

 

 キツイ言い方はしたが、二人から責められるような覚えは達也には無い。用が無いのなら退いてほしいと思っていたら、徐に二人が頭を下げてきた。

 

「何です? お二人から頭を下げられる覚えは無いのですが」

 

「違うの。てっきり私は、司波君が桐原君の心に止めを刺しに来たのかと思ったから」

 

「は?」

 

「私も。君の事を疑った。だからゴメンなさい」

 

「……気にしてませんので。顔を上げて下さい」

 

 

 事実達也はそんな事を気にする事が出来ないのだから、二人に謝罪される覚えは本当に無いのだ。だが達也のそんな事情を知らない二人は、自分たちが先輩だから達也が強く言えないんだろうと勘違いして、暫く謝り続けるのだった……

 

「おい、二人共……司波兄が困ってるぜ」

 

「「え?」」

 

 

 桐原が助け舟を出してくれなかったら、きっとまだ謝り続けていたのだろう二人は、達也の苦笑いを浮かべている表情を見て、揃って顔を赤らめてもう一度謝って達也の前から逃げ出すように廊下を駆け抜けていった。

 

「ありがとうございます」

 

「いいって事よ。俺もお前に助けられたからな」

 

 

 桐原は完全に復活したようで、立ち上がって部屋に戻って行った。達也は少し考え事をしてから、部屋に戻る事にしたのだった。




此処にもブラコン・シスコンが誕生した……多いよ……

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