劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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嫉妬の視線は寒気を感じますからね……


IF婚約者ルートほのか編 その1

 スバルたちに唆され、雫も乗り気だったからつい水着になったが、ほのかは何処となく恥ずかしい思いをしていた。これがプライベートビーチで、自分の水着姿を見る異性が達也だけなら、このような思いはしなかっただろう。だがここは一般のビーチで、異性の目は達也以外にも存在する。

 桐原や沢木はあまり気にした様子もないし、五十里は隣で悔しがっている花音の相手で精一杯のようだからまだいいが、服部の呆れているような、何処か恥ずかしそうな視線だけは、ほのかにもはっきりと感じられていたのだ。

 

「ほのか、寒いのか?」

 

「いえ……何でですか?」

 

 

 急に達也に問われ、ほのかは不思議そうに彼の顔を見上げる。すぐ隣に達也が、薄い布一枚隔てているのだから、むしろ熱いくらいだとほのかは思っているのに、何故か「寒いのか」と問われれば仕方ないだろう。

 

「震えているように感じたが、寒いわけではないんだな」

 

「えっ……」

 

 

 達也に指摘されてようやく、ほのかは自分が震えている事に気が付いた。

 

「心配してくださってありがとうございます。ですが、寒いわけじゃないので」

 

 

 だから大丈夫だと伝えようとしたほのかだったが、身体の震えを止める事は出来なかった。自分でも説得力に欠けると感じたほのかは、愛想笑いを浮かべてどうにか誤魔化そうとする。

 

「あまり無理はしない方が良いぞ」

 

「でも! せっかく達也さんとこうして会えたんです。もっと達也さんを近くに感じたいんです」

 

「ほのか、最初は乗り気じゃなかったのに、随分と積極的だね」

 

 

 達也を挟んで反対側の腕にくっついている雫に指摘され、ほのかは自分の状況を改めて確認した。水着を着ているとはいえ、自分の胸は今達也の腕に密着しており、少し動けばその柔らかい胸に達也の逞しい腕の感触が伝わってくる。もちろん達也の方から腕を動かすことは無いが、ほのかは歩くたびに幸せな気持ちを味わっていた。

 だが改めてその光景を客観的に見たとすると、かなりイヤラシイのではないか、不謹慎だと思われるのではないかと思い、ほのかはますます顔を赤らめる。

 

「ほのか、やっぱり寒いんじゃないか?」

 

「だ、大丈夫です」

 

 

 今度は自分の身体が震えている自覚はあったので、すぐに達也の心配を無用だと答えられたが、背後から突き刺さる視線に気付いてしまった以上、身体の震えを止める事は出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラスボートが襲われそうになった後、ほのかは自分の部屋で浜辺での事を思い出していた。

 

「ほのか、複雑そうな顔してるけど、どうかしたの?」

 

「雫!? いつの間に入ってきたの?」

 

「普通に扉から今入ってきた。このフロアはカードキーが同じだから」

 

「それって防犯的にどうなの?」

 

「家族扱いだから問題ない」

 

「そういう事を言いたいんじゃないんだけど……」

 

 

 ほのかの言いたい事が分からなかったのか、雫はコテンと首を傾げる。そのしぐさが可愛らしかったので、ほのかは苦笑いを浮かべて話題を変える事にした。

 

「それで、雫は何の用でここに?」

 

「さっき、深雪の視線に震えてたから」

 

「気付いてたんだ」

 

「あの視線は達也さんだって気付いてただろうし、だからほのかが震えてるのを心配してくれたんだと思うよ? あからさまに深雪の視線に震えてるって言えなかっただろうし、だから寒いんじゃないかって」

 

「うん……」

 

 

 ほのかもその事は分かっていた。達也が深雪を悪く言うわけもないし、視線だけだとはいえそれを指摘すれば深雪が気に病んでしまうだろうから、その視線からさりげなく庇ってくれたのだという事を。

 

「それにほのか、達也さんの腕を胸に押し付けて遊んでた」

 

「遊んでないよ!?」

 

「だって、あの時の感触を思い出してたんでしょ?」

 

「そ、そんなこと無いってば!」

 

「ほのか、大きいもんね……」

 

「そんな話しをしに来たんじゃないんでしょ!?」

 

 

 自虐を始めそうになった雫を慌てて宥めて、ほのかは雫の用件を尋ねる。もちろん自分を心配してくれたという事は理解したが、それ以外にも何か用事がありそうな雰囲気を感じ取っていたのだ。

 

「ほのか、今度のパーティでも攻めるの?」

 

「どういう事?」

 

「今日の事で、深雪は恐らく達也さんに積極的に甘えに行くと思う。同じホテル、隣の部屋というアドバンテージを大いに生かしてくるかもしれない」

 

「? 雫は何を懸念しているの?」

 

 

 雫の言いたい事が分からず、こんどはほのかがコテンと首を傾げた。

 

「結局達也さんは深雪に一番甘い、それはほのかも気づいてるよね?」

 

「うん。ずっと妹だったから、それは仕方ないんじゃないかな?」

 

「そうだね。だから、深雪が同じ部屋で寝たい、もっと言えば、同じベッドで寝たいって必死になってお願いしたら、達也さんは認めちゃうかもしれない」

 

「そっ、そんなことはないんじゃないかな! いくら達也さんが深雪に甘いっていっても、達也さんはそういう事を簡単に許すような人じゃないって雫も分かってるでしょ」

 

「分かってるけど、本気でお願いしたら受け入れてくれる人でもあるよ。ほのかだって、今日くっついて分かったでしょ?」

 

 

 振り解こうとすればすぐに出来たはずだよと言外に雫にいわれ、確かにそうだったとほのかは思い出した。深雪が機嫌を悪くしているのを感じていたのならば尚更、自分たちは振り解かれてもおかしくなかったのだと。

 

「だから、今度のパーティーではなるべく達也さんの側を離れない方が良いかもね」

 

「でも、それは雫も一緒でしょ?」

 

「私は、達也さんに何時も撫でてもらってるから」

 

「雫、達也さんに撫でてもらうの好きだもんね」

 

 

 幸せそうな顔をしている雫を思い出して、ほのかはそう仕返しをしたのだった。




親友思いのいい子だ……

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