劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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警戒するのも仕方ないのかもですがね……


IF婚約者ルート雫編 その1

 浜辺で遊んだ後、雫はほのかにも内緒で達也と会っていた。

 

「達也さん、この後も忙しいの?」

 

「そうだな。パーティーが終わるまでは一息つけないだろう」

 

「四葉ってそんなに人手不足なの?」

 

「そんなことは無いが……何故だ?」

 

 

 何故雫がそのような事を聞いてきたのかが分からなかったのか、達也は首を傾げながら問う。その仕草に、雫が不満そうに頬を膨らませた。

 

「だって、せっかく達也さんと沖縄に来てるっていうのに、殆ど遊べないから」

 

「もともと俺は遊びではなく仕事で沖縄に来てるから仕方ないだろ」

 

「でも、達也さん以外に人がいるなら、そっちに任せてほしかった」

 

「今回ばかりは他に人がいても俺たちが指名されただろうな」

 

「どうして?」

 

「沖縄侵攻に巻き込まれた人が、俺たちと近しい人だったからだ」

 

「水波の叔母さんだっけ?」

 

「ああ」

 

 

 雫は穂波の事をなんとなくとしか聞いていないが、それ以上深入りしてくることは無かった。達也の表情から聞いてほしくない話題なのだろうと察したからであり、達也も雫の対応はありがたかった。

 

「それ以外でも、今回の任務は俺が一番適任だからな。仕事が終わればゆっくり出来るかもしれないから、出来る限り早く終わらせることにする」

 

「無理はしないでね。仕事が終わっても、達也さんが危ない目に遭うのだけは避けてほしい。いくら傷を負わないといっても、達也さんが危ない目に遭ったって知ったら、私だけじゃなくほのかや深雪も気にすると思うから」

 

「今回は何も俺一人で対応するわけじゃないから、そこまで危ない目に遭う事はないだろうが、一応気を付けておく」

 

「一応じゃなく、絶対に危ない事はしないでね」

 

 

 珍しく強い口調で迫ってくる雫に、達也は苦笑いを浮かべながら頷く。達也としては雫以上にほのかが気にするだろうと思っているが、雫もほのかに負けないくらい気にしてくれているのだと理解し、無意識の内に彼女の頭を撫でていた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、ありがとな」

 

「婚約者が危ない目に遭ってほしくないって思うのは当然」

 

「それでも、そこまで気にしてくれているとは思ってなかったからな」

 

「達也さん、私たちの気持ちを甘く見過ぎ。許されるのならこの場で達也さんを押し倒したいくらいなんだから」

 

「随分と過激だな」

 

「それくらい、達也さんの側にいたいって事だよ」

 

 

 既に撫でてもらうだけでは満足出来なくなっている雫は、達也の腰に腕を回して抱き着く。達也はそのまま頭を撫でながら、雫の行動に苦笑したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティー会場で自分の母親が婚約者相手に大人げない対応をしたことが、雫は堪らなく恥ずかしかった。達也の事情を考えれば、出自などを隠されても当然だと雫は思っているのだが、紅音はそうは思えないようで、達也が側を離れてもなお腹を立てていた。

 

「雫、彼の側は危険よ。今からでも遅くないから、婚約を解消しなさい」

 

「嫌だ。せっかく達也さんとずっと一緒にいられるっていうのに、何で解消しなければいけないの」

 

「優秀過ぎる人間の側にいると、何かしらの事件に巻き込まれたり、不幸が訪れたりするものなのよ。彼は優秀過ぎる」

 

「当然だよ。達也さんは既に世界的な技術者でもあり、四葉家の次期当主。優秀過ぎるという評価をされる方が当たり前だし、例え不幸に巻き込まれたとしても、私は達也さんの側を離れるつもりは無い。それはほのかも同じことだよ」

 

「紅音は司波達也くんの何処が気に入らないって言うんだい。彼は実力も頭脳も申し分ないし、何より雫やほのかちゃんの事を大事にしてくれているではないか」

 

「潮君は彼の事が気に入ってるみたいだけど、私はもう少し出来が悪くてもいいから、安全な人生を送れるような男性の方が良いと思ってるのよ」

 

「雫の気持ちを無視してでもかい?」

 

 

 潮の問いかけに、紅音は言葉を無くす。確かに娘の気持ちは大事にしたいが、それで雫に不幸が訪れるのは母親として避けたいのだ。

 

「大丈夫だよ。達也さんなら、何が起こっても私たちを守ってくれる。それだけの実力があるから」

 

「どういうこと? 確かに封印されていた魔法力を完全に制御出来れば、妹さんにも負けない魔法師になれるでしょうけど、それでも危険が伴う事には変わらないのよ?」

 

「達也さんはそういう次元の人じゃないから」

 

 

 四葉家の力を以ってしても封じられなかった達也の得意魔法を、雫は紅音に教える事は無かった。他の魔法ならともかく、これだけはたとえ母親であろうと言えるはずもない。

 

「達也さんは魔法だけじゃなく、格闘技も優れてる。だから並の暗殺者じゃ相手にならない」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「それに、私もほのかも達也さん以外の男性なんて考えられない。だから、お母さんがどれだけ心配しようと、私たちは達也さんとの婚約を解消するつもりは無い」

 

「雫もこう言ってるんだ。それに、子供に降りかかるかもしれない不幸を黙って見ている親はいないだろ? 僕たちも、出来る限り雫たちを守れるように備えておけばいいんだよ」

 

「潮君は少し楽観視が過ぎると思うけど……雫の気持ちが固いんじゃ仕方ないわね……何故か航も懐いてるようだし、それほど危ない子ではないのでしょうけども」

 

 

 娘だけではなく、息子も懐いているのが気になったが、紅音はとりあえず婚約についてはこれ以上文句を言う事は無かったのだった。




良い両親だ……

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