牛山に案内されながら、鈴音と小春は第三課の技術者たちのレベルの高さに驚かされていた。先の説明では、この場所は左遷先だと聞いていたので、技術者のレベルもその程度なのだろうと思っていたから余計に驚いたのかもしれない。
「本当にここは左遷先だったのですか?」
「まぁ、御曹司がここに通うようになってからは進んでここに来たがる輩も少なくねぇですから、そう思うのも仕方のない事かもしれやせんが、あっしたちのように、出世コースから外れた技術屋が送られてたのがこの第三課なのはまちげぇないことです」
牛山は単純に出世などに興味が無かったのでここに飛ばされたのだが、他の技術者たちも多かれ少なかれ上と揉めたりしてここに飛ばされてきたのだ。
「ですが、達也君がここに通うようになってからは違うという事ですが、ここの皆さんは達也君の事を知っているのですか?」
事情を知らない人間が聞けば勘違いしそうな問いかけだが、牛山は小春の質問を彼女が意図した通りに受け取った。
「まぁ、御曹司が四葉の人間だと知れ渡る前から、ここの奴らは知ってやしたし、天才的な頭脳を持っている事も知っていやすからね」
「彼の魔法の事は?」
「それはあっしを含めても片手の指程度の人間しか知りやせん。ですから、あまりその話はしない方が良いかと。いくら奥方たちとはいえ、御曹司に怒られるかもしれやせんからね」
そう言いながら牛山は笑っていた。恐らく本気で怒られるとは思っていないのだろうと鈴音と小春も笑って流す事にした。
「さて、ここから先は本来でしたら部外者は入れないんですが、御曹司から許可は貰っていますので、ゆっくりと見学していってください」
そういって牛山はパスワードが必要な部屋に二人を案内し、自分は別の扉に消えていった。
「これは……」
「熱核融合炉実験……」
特殊なガラスの向こう側では、達也が昨年行った恒星炉実験をより高度にした実験が繰り広げられており、その中心にいるのは達也だ。二人は口を開けたままその実験を食い入るように見学している。
「市原さんは、ここまでの事が出来るんですか?」
「ここまで大がかりな実験をするだけの予算も技術も、人脈もありません。これは達也さんだから出来る実験だと思います」
「ですよね……普通はここまでの技術者を集められませんし、これだけの実験材料を集めるだけの資金もありませんよね」
達也がシルバーとして得ている収入の他にも、四葉家の人脈などを使えばこれくらい簡単に集められるのだろうと二人は思ったが、実際は四葉のコネは使わずに達也個人の人脈でこれだけの技術者が集まっているのだとは二人には理解が及ばなかったのだった。
実験を終えた達也がガラスの向こう側で二人に視線を向けたが、二人はまだ驚きから現実に復帰していない様子だった。
「牛山さん、ちゃんと説明したんですよね?」
「へぇ。御曹司から許可は貰ってるから、思う存分見学していってくれと言っておきました」
達也は牛山の説明に小さく頷いてから二人の許に移動し、未だ驚いている二人の耳元で手を叩いた。
「気が付きましたか?」
「達也さん……まさかここまで本格的に実験を進めているとは思ってませんでした」
「鈴音さんさえよろしければ、時間のある時にでも参加してくださってもいいですけど」
「……いえ、止めておきます。これほど高度な実験に加われるほどの自信がありません。資料などを視させてもらう事は出来ますか?」
「まだ実験段階ですから、それほど興味を惹くような内容ではありませんが。それでも良ければ、後程コピーを差し上げますよ。もちろん、鈴音さん以外の目に触れないようにしてください」
「それは当然です」
達也と鈴音が談笑している横で、小春が少し頬を膨らませていた。恐らくは楽しそうに話す二人に嫉妬しているのだろうが、二人が話している内容について行けずに嫉妬していたのかもしれない。
「さて、この後はどうしますか? 時間もありますし、どこかでお茶でも」
「良いですね。小春さんも来ますよね」
「お邪魔で無ければ」
「邪魔などと思うはずないじゃないですか」
何か当たりが強いように感じた鈴音ではあったが、とりあえず達也と小春と共に近くのカフェへと移動した。
「達也さんは卒業後はすぐに研究者に?」
「一応進学するつもりですが、母上の気まぐれですぐに当主になるかもしれません」
「大変ですね、そういう家系というのは」
「あっ、すぐに当主になったら、私たちは嫁げるのかしら? それとも、達也君が成人するまで?」
「卒業したら籍は入れると思いますけど、その辺りは皆さんの自由で構わないのでは? そこまで母上や家が細かく指示するとは思えませんし」
「それじゃあ私はすぐにでも籍を入れちゃおうかしら。鈴音さんみたいに技術者としての未来も明るくは無いし」
「そんなこと無いと思いますが……牛山さんがぜひ手伝いに来てほしいと言ってましたよ」
元々小百合がスカウトするくらいだから、鈴音だけではなく小春も技術者としての腕が高い。だが九校戦の事件の所為で自信が持てなくなっているのだ。
「鈴音さんだけではなく、俺としては小春さんにも手伝ってもらいたいのですが」
「達也君がそういってくれるなら、時間がある時にでも手伝いに行くわね」
「私も、微力ながらお手伝いさせていただきます」
鈴音も張り合うように答えたのを受けて、達也は苦笑いを浮かべながら、満足そうにうなずいたのだった。
この二人なら即戦力かもですね