劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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亜夜子も難しいんですよね……


IF婚約者ルート亜夜子編 その1

 空港から無人タクシーで帰宅した達也たちを出迎えたのは、同じ四葉の人間だった。

 

「お帰りなさいませ、達也さん」

 

「亜夜子ちゃん? 何故貴女がこの家にいるのかしら?」

 

「ご当主様の許可は貰っています。こればっかりは深雪お姉さまであろうと文句は言わせません」

 

「叔母様が? 水波ちゃん、確認しますので本家へ連絡を」

 

「かしこまりました」

 

 

 大慌てでリビングに向かった深雪と水波を見送り、亜夜子は達也の荷物に手を伸ばす。

 

「お疲れ様です、達也さん。荷物をお持ちしますわ」

 

「いや、それほど疲れているわけではない。亜夜子もリビングで寛いだらどうだ?」

 

「あそこは今、深雪お姉さまがご当主様に確認している最中ですもの。気が休まるはずありませんでしょ?」

 

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべ問う亜夜子に、達也も苦笑いを浮かべて応え、電話が済む間だけ自分の部屋で休ませることにしたのだった。

 

「達也さんの部屋に入るのは初めてかもしれません――いえ、異性の部屋に入るのは、と言った方が正しいかもしれませんが」

 

「文弥の部屋には入らないのか?」

 

「文弥は異性の内に入りませんわ。弟ですもの」

 

「つまり、家族と言うわけか。確かに、俺も深雪の部屋に入った時は、異性の部屋というよりは妹の部屋という感じだったからな」

 

「そういうことですわ。つまり、私の初めては達也さん、というわけですの」

 

 

 何だかニュアンスがおかしかったが、その事にツッコミを入れる事はしなかった。素早く荷解きを済ませ、亜夜子とお喋りをしていると、何やら焦ったような足音が部屋に近づいて来て、それでもいきなり扉を開けるという事はしなかった。

 

『達也様、深雪です。入っても宜しいでしょうか』

 

「かまわないぞ」

 

 

 失礼します、と断りを入れてから、深雪が達也の部屋に入ってくる。そしてすぐに亜夜子と目が合い、大声を出さないように拳を握りしめていた。

 

「亜夜子ちゃん、今叔母様に確認しました」

 

「では、深雪お姉さまがとやかく言える立場ではないと言う事はお分かりいただけたのですね」

 

「この家に滞在する許可は、確かに叔母様はしたそうです。ですが、達也様の部屋で寛ぐ許可はしていないはずですよね?」

 

「そうですわね。これは達也さんが誘ってくれたからここにいるだけですから。ご当主様ではなく、達也さんがですから、深雪お姉さまが知らなくても仕方ないと思いますが」

 

「達也様が!? まさか、達也様は年下趣味なのですか! 深雪も達也様より年下です!」

 

「深雪、落ちつけ」

 

 

 冷静さを欠いている深雪に片手を向け落ち着かせる。喰ってかかってきそうだった深雪は、達也のその行動で落ち着きを取り戻した。

 

「申し訳ありません、達也様」

 

「亜夜子も、必要以上に深雪を刺激するな」

 

「深雪お姉さまの反応があまりにも分かりやすかったので、つい」

 

「とりあえず、電話が終わったのならリビングに行くぞ。さっきから部屋の前で水波がオロオロしているから、謝っておくんだな」

 

 

 達也にバレているのは承知だったのだろうが、それでも名前を呼ばれたことに水波は身体を跳ねさせた。そしてすぐにリビングに移動し、三人分のお茶を用意するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リビングに移動した達也たちは、何やら不穏な空気を醸し出していた。実際に醸し出しているのは深雪と亜夜子で、達也はいつも通りの雰囲気なのだが、二人に挟まれて達也からもそんな空気が出ているように水波には感じられていた。

 

「それで、何故亜夜子ちゃんがこの家に滞在する許可を叔母様が出してくださったのかしら?」

 

「ご当主様は私たち他の婚約者にも平等にチャンスを与えるべきだとお考えになられておいでですので」

 

「それはもうじき完成する新居での生活の事では無くて? ここは私と達也様の家なのですが」

 

「もちろん、新居では達也さんと平等に過ごせるようにローテーションが組まれるでしょうが、それまでの間は深雪お姉さまが達也様を独り占めしているわけですからね」

 

 

 実際には水波もいるので、それほど独り占め出来ているわけではないのだが、外から見ればそうなのだろうと深雪も理解しているため、その事に対するツッコミは無かった。

 

「滞在することは分かりましたが、亜夜子ちゃんは私の部屋で休んでもらいます。これが出来ないのであれば、例え叔母様の許可があろうと認められません」

 

「……分かりましたわ。さすがに深雪お姉さまと魔法大戦をするつもりは、私にもご当主様にもありませんので」

 

 

 活性化した想子エネルギーを感じ取り、亜夜子はさすがにこれ以上はマズいと判断して深雪の意見を呑むことにした。万が一魔法が発動しても達也が何とかしてくれるとは思っているが、相手が魔法を放ってきたのに落ち着いていられる自信が亜夜子には無かったのだ。

 

「水波ちゃん。お客様用のお布団を用意してあげて」

 

「かしこまりました。では黒羽様、こちらへ」

 

「亜夜子で構いませんわ、桜井さん。文弥にも言われたと思いますが、必要以上にへりくだる必要はありませんので」

 

「いえ、亜夜子様はいずれ達也様の奥方になられるお方ですので」

 

 

 文弥相手同様、水波は一切妥協する様子が無く、亜夜子はそれを感じ取り彼女の自由にさせる事にした。

 

「それから、私の事は水波と呼び捨てにしてくださって結構ですので」

 

「それは私には出来ませんわね。基本的に敬称ありで他人様を呼んでいますので……では、水波さんと」

 

「それでかまいません。では、こちらになります」

 

 

 水波もこれ以上は亜夜子に失礼だと判断して、呼び方を受け入れて亜夜子を案内するのだった。




やっぱり大変そうな水波……

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