劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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義姉妹になるんだよな……


サイドストーリー真由美編 その2

 摩利とだべった後、真由美はそのまま摩利を引き連れてぶらぶらする事にしたのだった。

 

「そう言えば真由美は沖縄に行かなかったのか?」

 

「私が行ってもあまり意味はないし、家を代表して行くなら、私じゃなくて兄さんが行ったでしょうね。てか、摩利も事情は知ってるでしょ」

 

「まぁな。七草家も千葉家も、四葉家を刺激したくないらしいな」

 

「千葉家も?」

 

 

 そちらの事情は知らなかったのか、真由美が摩利の言葉に首を傾げた。

 

「長男である寿和警部と、その部下の稲垣さんが達也くんのお陰で大陸の魔法師の魔の手から逃れられたらしいからな。恩を仇で返す真似はしたくないんだろう」

 

「千葉警部って、横浜で会ったあの人よね?」

 

「真由美は先の事件に協力してたんじゃないのか? 師族会議が狙われた時の話だそうだが」

 

「そういえば…そんな事もあったかもしれないわね……何分、私は兄さんと十文字くん、それに達也くんから後方支援だけ認めてもらっただけだし」

 

 

 詳しい事情は何も、という表情で視線を逸らした真由美に、摩利は苦笑いを向ける。恐らく智一や克人だけに言われたなら、意固地になって前線に出てたかもしれないが、達也に言われたら逆らう事は出来なかったのだろうと邪推しての笑みだった。

 

「今回も四葉家の方で何か仕事があるみたいだから、まだ完全に四葉家の人間ではない私たちは沖縄行きを断念したのよ。パーティーに正式に招待されている北山さんと光井さんは、その事情に当てはまらないんだけど」

 

「司波もそうだろうな。あいつは四葉の人間だから、達也くんと一緒に行動しても問題はないという事か」

 

「達也くんが深雪さんをおいていくわけないじゃない」

 

 

 真由美の言葉に、摩利は「確かに」という表情で頷き、真由美と顔を合わせて笑った。

 

「あたしもしばらく達也くんと会ってないが、相変わらずなのだろ?」

 

「あれ? エリカちゃんとの間を取り持ってもらった時に会ったんじゃないの?」

 

「あれは電話でだ。エリカが意固地になってしまったのを、あたしが電話して何とかしてもらったんだよ」

 

「義理の弟になるとはいえ、ちょっと達也くんに頼り過ぎじゃない?」

 

「ふむ……アイツが義弟になるという事は、その嫁になる真由美は義妹という事になるのか? 正直、こんな義妹は欲しくないんだが」

 

「私だって、こんな頼りない義姉は欲しくないわね。未だに彼氏の妹にビクビクしてるようじゃ、この先思いやられるわよ」

 

 

 互いに皮肉を言い合い、二人はもう一度顔を見合わせて笑った。

 

「関係が変わろうが、あたしとお前の付き合い方は変わらないだろうな」

 

「当然よ。友達なんだから」

 

「そう言えば、お前の妹の片割れも達也くんの婚約者なんだよな? その辺りはどう思ってるんだ?」

 

「香澄ちゃんの事? 別に何も思ってないけど」

 

「妹から同じ嫁という立場になるのに、何も思ってないのか?」

 

「だって、香澄ちゃんが妹であることには変わらないだから」

 

「まぁ、気にしてないなら別にいいが……アイツが順位をつけるとも思えないしな」

 

「あいつって、達也君?」

 

「他にいないだろ」

 

 

 摩利の言葉に、真由美は少し考えてから、彼女の言葉に頷いた。

 

「一番は深雪さんだろうけど、その次は誰かだなんて考えてないでしょうね」

 

「まぁ、あたしたちも事情は聞いてるから別にいいが、他の人が見たらとんだシスコン野郎に見えるんじゃないか、達也くんは」

 

「何方かと言えば、深雪さんが超絶ブラコン娘なんだろうけどね。まぁ、死の淵から救ってもらったって事情があるにしても、あの依存っぷりは異常よね……」

 

「目の前でその魔法を見たあたしたちですら、信じられないくらいだ。実際に施術されたアイツがどう思うかなんて、あたしたちには見当もつかなくて当然だろ」

 

「五十里くん、桐原君、平河さんに聞いても、未だに信じられないって言ってるしね」

 

 

 横浜騒乱の際、その三人は達也の魔法により、死ぬはずだった運命から逃れ、無事に生活している。その時の事は今でも何が起こったのか信じられないという気持ちを抱きながら。

 

「それに達也君は……」

 

「ん? まだ何かあるのか?」

 

「いいえ、何でもないわ……」

 

 

 真由美は、達也のもう一つの魔法も知っている。正確には覗き見して知ったのだが、その事を摩利に話すわけにはいかない。

 

「しかしあの達也くんが四葉の後継者とはな……同じ十師族のお前も分からなかったんなら、あたしみたいな数字付きですらない人間には分からなくて当然か」

 

「四葉は特に秘密主義ですからね。下手に探ろうとすれば文字通り消される可能性が高いもの」

 

「だが、エリカはなんとなく勘付いていたようだったが?」

 

「そうなの? 何処で気づいたのかしら……」

 

 

 その点だけ見ると、自分がエリカより下のような気がして、真由美は無意識にエリカに対抗心を抱いた。

 

「まぁ、あたしもアイツは嫌いじゃないから、これからも関係が続くというのは嬉しいがな」

 

「摩利だって、達也君に依存しまくってたものね。風紀委員の事務やCADの整備を全部達也君に押し付けて、千代田さんに風紀委員長を継がせるための引き継ぎ作業も全部やってもらったんでしょ?」

 

「あたしはそう言うのが苦手だからな……」

 

 

 最後の最後で摩利を黙らせることに成功した真由美は、今日一番の笑みを浮かべたのだった。




小悪魔スマイル……

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