劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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低すぎるのも問題ですがね……


自己評価

 見られることに慣れている深雪と達也以外のメンバーは、非常に居心地の悪い思いをしていた。

 

「私たちが見られてるわけじゃないって分かってるんだけど、これはちょっとね……」

 

「三十野先輩は剣術の大会でこれ以上の視線を集めていたのでは?」

 

「視線の種類が違うもの」

 

 

 大会中はあくまでも選手として見られているのであって、深雪のように女性として見られているわけではないと巴はいう。それは紗耶香も同じようで、巴の意見に頷いた。

 

「試合中に向けられる視線と今向けられている視線は、全くの別物だものね」

 

「紗耶香はある意味慣れてるんじゃないの? 美少女剣士として話題になってたんだから」

 

「止めてよ、巴! そもそも、深雪さんと同列に見られてたわけじゃないんだし、こんな視線初めてに決まってるじゃない」

 

「雫は慣れてそうだったけど、そうでもなさそうね」

 

「色眼鏡で見られるのには慣れてるけど、純粋に魅了する事は無かったから……」

 

 

 自分よりも深雪の方が美しいと認めているとはいえ、それを口に出すのは雫にとっても悔しい事だったのだろう。語尾が聞き取り辛かったが、聞き直す人間は誰一人いなかった。

 

「達也さんもかなり見られていますね」

 

「深雪が次期四葉当主の婚約者であることは知られてるから、その傍にいる俺が次期当主だと連鎖的にバレたんだろうさ」

 

「先に達也さんに気付いて、その流れで深雪もバレた、じゃないの?」

 

 

 雫の質問に、達也は首を横に、深雪は首を縦に振った。

 

「達也様はご自身の評価が低すぎるのです! どう考えても私よりも達也様の方が世間に顔を知られているに決まっているではありませんか」

 

「俺みたいに地味な男より、深雪のような綺麗な女性の方が頭に残ると思うんだが……実際、深雪を見た後に俺を見てる人間の方が多いわけだし」

 

「そうでしょうか? 私が感じた限りでは、達也さまを見てから深雪様に見惚れる視線も結構ありましたが」

 

 

 水波の言葉に、深雪は嬉しそうに達也を見上げる。

 

「水波ちゃんもこのように言っているわけですし、達也様の方が注目されているわけですよ」

 

「だが、視線が留まるのは深雪の方だ。俺はあくまでも『悪名高い「あの」四葉家の次期当主』という認識なんだろう」

 

 

 達也の自虐とも取れるセリフに、深雪だけではなくほのかと雫も不満そうに頬を膨らませる。

 

「司波君さぁ、もうちょっと自分に自信を持った方が良いわよ?」

 

「壬生先輩……どういう事でしょうか?」

 

「自分の婚約者が評価されているっていうのは、女子にとってはかなり嬉しいものなのよ。ねっ、千代田さん?」

 

 

 紗耶香に問われ、花音は大きく頷いて五十里に抱きつく。五十里の方も、抱きつかれるのが分かっていたのか、しっかりと花音を受け止めた。

 

「啓が評価されてるのは素直に嬉しいわよ」

 

「僕も花音に喜んでもらえて嬉しいよ。でも、司波君は僕なんかよりよっぽど評価されて当然の人だと僕は思ってる。だから司波君も、もう少し自信を持っていいと思うよ」

 

「えっー! 啓の方が凄いのに」

 

「そんなこと無いよ。技術的面から見ても、理論的面から見ても、僕は司波君には敵わない。そして司波君は僕なんかよりよっぽどすごい家の跡取りなんだ、それは花音にも分かるよね?」

 

「才能的な面は兎も角として、家の事はあたしにだって分かるわよ。『あの』四葉家の跡取りなんだから」

 

 

 四葉家の噂は、数字付きの家だけではなく世間一般にもある程度は知られている。恐怖だけで支配しているのではなく、四葉家にはその噂を真実だと思わせるだけの実力もあるのだから怯えられるのも無理はないと花音は思っていた。

 

「そう言うわけだから、司波君はもう少し自身の評価を高める事ね」

 

「あまり過信したくないんですが……」

 

「過信どころか、過小評価もいいところなんだから、少し図に乗るくらいが丁度いいのよ」

 

「そんなものですかね?」

 

 

 達也が尋ねたのは、紗耶香たちの奥で黙って耐えていた桐原たちだ。

 

「俺はお前にあっさり負けたからな。少なくとも俺よりは強いのは確かだろう」

 

「……俺も、舐めていたとはいえ手も足も出なかったからな」

 

「俺は直接司波君と戦ったことは無いが、十三束との戦いを見た限りでは、君は評価されてしかるべき逸材だと思うぞ」

 

「ほら。桐原君たちもこう言ってるんだから、もうちょっと自分の評価を上げないと、この三人をショボいって評価してるみたいじゃない」

 

「そんなことは言われてねぇ!」

 

「あらゴメンなさい?」

 

「三十野、テメェ……」

 

 

 恋人のからかいに、桐原が本気で激怒しそうになったが、からかわれたのだと理解してすぐに落ち着きを取り戻した。だが、少し恥ずかしそうにしているのは、誰の目にも明らかであった。

 

「あーちゃんだって、そう思うでしょ?」

 

「あーちゃんは止めてください! ……でも、確かに司波君はもうちょっと自分に自信を持った方が良いですよ。沢山婚約者もいるんですし、その人たちの自慢になっているんですから」

 

「そうなんですか?」

 

「真由美さんや鈴音さんからそんなことを聞きましたけど」

 

「あの二人が」

 

 

 真由美は兎も角、鈴音までそんなことを言っているのかと、達也は少し意外な気持ちになったが、あずさの意見に深雪たちが大きく首を縦に振ったのを見て、もう少し自分の評価を上げた方が良いのかもしれないと考えなおしたのだった。




達也は特に容姿に関しては自己評価低いですからね……

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