劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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準備はしっかりと……


作戦会議

 翌日、三月二十七日は夏の慰霊祭に関する打ち合わせが予定されていた。今日で表向きの仕事は終わり。後は北山家の招待に応じて明日の「西果新島」竣工記念パーティーに出席するだけだが、無論達也の仕事はそれだけではない。むしろ、今日からが本番だ。

 

「達也くん、どうしたの? 今は慰霊祭の打ち合わせ中じゃなかったかしら」

 

「本家から応援が来ましたので、そちらは深雪に任せてきました」

 

「そうだったの。四葉さんの名代の達也くんの名代、という感じかしら?」

 

「まぁそんなところです」

 

 

 アポなしで訪れたからと言って、響子が達也を邪険に扱うはずもなく、むしろ歓迎している雰囲気すらある。

 

「それで、本家からの応援って? まさか葉山さんとかじゃないわよね?」

 

「白川さんと奥さんがサポートとして派遣されたようでして、深雪の側には白川夫人が」

 

「良いわね、四葉には優秀な人材が沢山いて」

 

 

 響子はかなり本気でそう思っているようで、魔装大隊の人材の少なさを嘆くなら自分にではなく風間に言えばいいのにと思ったが、そんなことは顔にも声にも出さずに、話を進める事にした。

 

「それで、風間中佐はどちらに?」

 

「接見中よ。達也くんもあったでしょ? 大亜連合の陳上校よ。ところで、達也くんはいったいどんな手掛かりを持ってきてくれたのかしら?」

 

 

 これは響子の冗談だった。いくら達也でも、そこまで都合よく敵に接触できるとは考えていなかったのだが、達也は真面目くさった表情で響子の問いかけに答えた。

 

「破壊工作員の潜水艦を沈めますので手を貸していただけませんか。これが対象となる潜水艦の推定現在位置です」

 

「……本当に手掛かりを持ってきてくれたのね。分かったわ、隊長を呼びますので、少々お待ちください」

 

 

 響子は態度を年下の友人に対するものから、有力魔法一族の次期当主に対するものに切り替え、達也が差し出すデータカードを受け取って隣の部屋へ移動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待ち時間は予想外に長かったが、響子が呼んできた面子を見て、待たされた理由ははっきりした。風間、真田、柳の独立魔装大隊幹部に加え、陳祥山、そして呂剛虎までもが作戦卓を囲んでいた。

 達也と呂剛虎は、八王子特殊鑑別所で顔を合わせたことがあるだけだ。横浜事変に先立ち、大亜連合の手先となっていた関本勲を始末するために特殊鑑別所を襲撃した時以来。あの時、呂剛虎を撃退したのは真由美と摩利で、達也は真由美に襲いかかろうとした呂剛虎を止めただけだ。彼にとどめを刺したのは、摩利だ。

 横浜事変の際、横浜ベイヒルズタワー前で呂剛虎を迎撃したメンバーにも達也は加わっていない。そういう意味では、達也と呂剛虎の間に直接的な因縁は無いと言える。

 とはいえ、一年前に陳祥山と呂剛虎が達也とその周辺に様々な工作を仕掛けていたのもまた事実。あの時、陳祥山と呂剛虎は、達也の明確な敵だった。

 しかし今、達也は何の敵意も無しに、二人と向き合っている。彼の無機的な態度に、呂剛虎の方が戸惑いを覚えていた。だがさすがに陳祥山は、雑念に左右されたりはしなかった。

 

「司波殿、と呼ばせていただく」

 

「ご自由に、上校殿」

 

「敵工作員の潜水艦を沈める作戦の会議だと伺っているが、その潜水艦に工作員が潜んでいるのは確実なのか」

 

「当該潜水艦に貴国の脱走兵と行動を共にしているオーストラリア軍の魔法師が同乗しているのは確実です」

 

「どうやって知った、とは訊くべきことではないのだろうな」

 

「申し上げられません」

 

 

 言葉に出してはっきりと回答を拒絶した達也に、重ねて問いかける声は無かった。

 

「当該潜水艦は貴国の物でも我が国の物でもありません。念のため、外交チャンネルを持つ各国に問い合わせてみましたが、自国の物であるという回答はありませんでした」

 

「オーストラリアにも問い合わせたのですか」

 

「ええ。まぁ、正直に答えるはずもありませんが」

 

「確かに」

 

「限りなく黒に近いとはいえ、当該艦は現在、公海上にある。大っぴらに撃沈するわけにはいかない」

 

「遠距離魔法攻撃で沈めては如何でしょうか」

 

「四葉の魔法か?」

 

「そうです」

 

 

 風間に視線で問われた達也がこともなげに提案し、陳祥山の問いかけに、今度は回答を拒まなかった。

 

「ありがたい申し出だが、それは作戦が上手く行かなかった際の保険にしたい」

 

「司波君が提供してくれた海図データから、私たちも当該潜水艦の現在位置を把握しました。敵艦は浮上中です。補給を受けているものと思われます」

 

「海上に姿を曝しているのですか?」

 

「いいえ。ご同胞はそこまで愚かではないでしょう」

 

 

 陳祥山の質問に、真田は笑顔で首を横に振った。どこがどうとは言えないが、なんとなく人の悪さがにじみ出ている笑みだった。

 

「最早同胞ではない。奴らは脱走兵だ」

 

「これは失礼。話を戻しますと、件の潜水艦は中型タンカーに偽装した係船ドックに隠れています。補給にどの程度の時間を掛けるつもりなのかは不透明ですが、今の状態ならば海賊に偽装して襲撃すれば、係船ドックごと潜水艦を押収出来ます」

 

「我が軍から脱走した者たちは、お引渡し願えるだろうか」

 

「無論です。こちらの作戦にご協力願うのですから、可能な限りの便宜は図らせていただきます」

 

「感謝します」

 

 

 陳祥山の要求に風間が条件付きで応じ、陳祥山が風間に頷き呂剛虎に視線で合図を出した。呂剛虎が立ち上がり、部屋を出ていく。襲撃に加わる部隊の編成に向かったのだ

 

「この作戦は時間との勝負だ。直ちに出撃準備を整えろ」

 

「十分で出撃出来ます」

 

 

 風間の命令に柳が力強く応じる。

 

「司波君も同行願えるか?」

 

「了解です」

 

 

 達也の答えを合図にして、全員が椅子から立ち上がったのだった。




参加メンバーがエグイ……

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