劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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箍が外れたら怖いだろ……


興奮する泉美

 深雪まで幼児化してしまったので、生徒会室は不思議な空間に変わってしまっていた。まず真夜が小さくなったことを知っているほのかは、今日も現れた四葉家当主に萎縮し、更に深雪まで小さくなっており、中身まで幼児化していた事に驚きを示した。

 そして昨日いなかった泉美は、真夜と深雪の両方が小さくなっている事に驚き、そして小さくなった深雪相手に鼻息を荒くしていた。

 

「これが、深雪先輩の子供時代なのですね。なんと可愛らしいのでしょう! 司波先輩、深雪先輩をウチに連れて帰って良いでしょうか?」

 

「いや、今の泉美に深雪を任せるといろいろマズそうだから駄目だ。そのうち七草先輩まで幼児化しかねない」

 

「そんなことあり得ませんから! お願いします! 深雪先輩とお風呂に入ったり、一緒に寝たり……」

 

「泉美ちゃん? ちょっと怖いよ……」

 

 

 興奮しているのを隠そうともしない泉美に、ほのかは恐怖心を抱いた。そんなことお構いなしに、泉美は小さくなった深雪に接近しようとして水波に止められた。

 

「泉美さん、これ以上深雪様を怖がらせるのはおやめください」

 

「別に怖がらせるつもりはありません。私は単純に深雪先輩を愛でようとしているだけです」

 

「その態度が今の深雪様にとっては恐怖の対象なのです」

 

「そんなことありません! さぁ、深雪先輩をお渡しくださいませ」

 

 

 じりじりと水波との距離を詰め、深雪に近づいてくる泉美を見た深雪は、あまりの怖さに達也に抱き着いて泣き出してしまった。

 

「泉美さんが原因で深雪様が泣いてしまったではないですか」

 

「そんな……私はただ深雪先輩を……」

 

 

 深雪が泣き出したことにショックを受けた泉美は、そのまま放心状態で生徒会室から出て行ってしまった。

 

「泉美ちゃんの分の仕事、どうしましょうか、達也さん」

 

「今日は戻ってこられないだろうから、俺が片づける」

 

「私もお手伝いします!」

 

「そうか、それじゃあ頼もうか」

 

「はい!」

 

 

 深雪が幼児化し、自分と同い年のライバルがこの場にいないことでほのかは積極的に達也にアピールする事にしたようで、まずは仕事を手伝う事から始めるらしい。

 

「母上、深雪のことお願いします」

 

「あら、私が相手で良いのかしら? さらに泣かせてしまうかもしれないわよ?」

 

「その時は、母上を泣かせるだけですから」

 

 

 冗談に聞こえない達也の脅しに、真夜は素直に頷いて深雪の相手をすることにした。

 

「それにしても、心まで幼児化してしまうのは面倒ね」

 

「おにいちゃんは?」

 

「達也さんはあそこでお仕事中ですから、大人しく待っていましょうね。騒ぐと達也さんに嫌われてしまうかもしれませんので」

 

「うん、おにいちゃんにきらわれたくないからおとなしくしてる」

 

「さすが深雪さん、昔から聞き分けの良い子でしたからね」

 

 

 昔を懐かしむように呟いた真夜に、深雪は首を傾げた。だがそれ以上考えられる思考は今は無いので、気にせずピクシーと遊びだしたのだった。

 

「マスターのご命令により、お二方のお相手を務めさせていただきます」

 

「このおねえちゃん、人じゃないの?」

 

「簡単に言えばロボットね。達也さんが所有しているモノだから安心して良いわよ」

 

 

 深雪の相手をピクシーに任せて、真夜は達也に一生懸命アピールしているほのかに視線を向けた。明らかに好意剥き出しの態度にも達也は取り合わず作業を進めているが、何時もよりかは彼女に向けている視線が柔らかいように真夜には見受けられた。

 

「(さすがの達也さんも、彼女の利用価値は分かっているのね。でも、達也さんがそんな事で彼女を侍らせていたとは思えないし、彼女も利用されるとは思っていないみたいだから、恐らくは達也さんは彼女を「そう言う理由」で側に置いていたわけではないのね……かといって、達也さんに行き過ぎた性欲は無いから、あの胸に惹かれたわけでもなさそうだし……まぁ、単純に魔法力も高いし可愛いから気に入ったのかもしれないわね)」

 

「あの、何か私の顔についているんですか?」

 

「そんなこと無いわよ? 未来の娘を観察していただけですから」

 

「む、娘ってそんな……」

 

「あら、違ってなくてよ? たっくんのお嫁さんになるということは、私の娘になるという事なのですから」

 

 

 顔を真っ赤にしておたおたし始めたほのかを、真夜は面白いものを見つけたという表情で眺めていたが、達也が鋭い視線を自分に向けてきたのに気が付き、何時もの微笑みを浮かべた。

 

「達也さん、随分と可愛らしい女の子ですね」

 

「母上が仰る『可愛らしい』の意味は兎も角として、魅力的な女性だとは思っています」

 

「た、達也さん」

 

 

 真夜にからかわれた時とは違う理由で顔を真っ赤にしたほのかを、真夜は生暖かい目で眺めた。

 

「(随分と簡単に照れる子なのね。相手が達也さんだから? それともエレメンツの家系だから? どちらにしても、この子と達也さんが喧嘩して問題を起こす事は無さそうね。まぁ、達也さんと喧嘩したいなんて思ってる子はいないでしょうけども)」

 

「奥様、先ほどから仕事の邪魔をしているように感じるのは気のせいでしょうか?」

 

「あら、そんなことしてないわよ。現に達也さんはいつも通りの速度で仕事を片付けているじゃない」

 

「それは達也さまだからでございます。光井先輩はいつもより遅いくらいですので」

 

 

 水波にやんわりと注意されてしまったので、真夜は大人しく深雪とピクシーの許へ戻っていったのだった。




若干犯罪者の臭いが……

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