劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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仲良しグループになりつつあるな……


IF従者ルート その3

 水波との約束で、吉見はこの前買った服で待ち合わせ場所にやってきた。周りから好奇の目で見られているような気がして、バッグからサングラスを取り出そうとしたタイミングで声を掛けられた。

 

「お待たせしました」

 

「桜井水波……」

 

「達也さまは仕事を片付けたらこの辺りに来てくれるそうなので、それまでは私と一緒に行動しましょう」

 

「司波達也が忙しいのは聞いている。だが、本当に来るのか?」

 

「終わり次第来てくれると約束しましたし、今は普通に楽しみましょう」

 

 

 普段から楽しみとは疎遠の生活をしていた所為か、最近の水波は楽しい事に貪欲になってきている。自由が出来、友達が出来たから変われたのだろうと、水波は七草姉妹に感謝している。

 

「楽しむといっても、私はそういった娯楽には無縁の世界で生きている。貴女だってそうだったはず」

 

「確かに、私は四葉の為に生まれ、四葉の為に働き、四葉の為に死ぬはずでした。ですが、達也さまが次期当主に決まり、深雪様もある程度自分で何とかすると言ってくださったので、私にも自由時間が出来ました。そして、そんな私の境遇を知ってなお、仲良くしてくれる友人が出来ました。ですから、吉見さんにもそのような時間を味わってほしいのです」

 

「でも、私は学校に行ってない。年の近い知り合いもいないし、ご当主は私に自由などくれない」

 

「ですが、こうして休みはくださってるじゃないですか。それに、年が離れていても友達になれるんですよ」

 

「おーい、水波」

 

「そちらがこの間仰っていた東雲さんですか?」

 

「えっと……」

 

「時間を潰すにしても、私一人では吉見さんを満足させられませんので、強力な助っ人をお呼びしました」

 

「七草香澄です、よろしく」

 

「七草泉美と申します。よろしくお願いします、東雲吉見さん」

 

 

 先ほど話題に出てきた七草姉妹が現れ、吉見は絶賛混乱中の様子だ。対する双子は、吉見の反応に大小の違いはあるが面白さを感じていた。

 

「面白い人だな。でも、水波の話だと、顔を隠して生活してるって言ってたのに」

 

「今日は目一杯おしゃれしてもらいました」

 

「お綺麗な方ですわね。先ほどから周りの男どもが野獣の眼光で東雲さんを眺めていますわよ」

 

「あの……吉見で良い」

 

 

 苗字で呼ばれることに慣れていない吉見は、香澄と泉美にも名前で呼んでほしいと頼む。初対面の相手にそんなことを頼まれるとは思っていなかったが、香澄はすぐに順応して見せた。

 

「それじゃあ吉見さん、何処に行きたい?」

 

「何処と聞かれても、何があるのか分からない」

 

「そっか……泉美、どっかいいとこないかな?」

 

「香澄ちゃんはほんとに……七草家の娘だって自覚があるんですか?」

 

「僕が何したって言うんだよ」

 

「ハァ……えっと、吉見さんは行ってみたいところとかないのですか?」

 

「ない……というか、娯楽というものに縁がない」

 

「事情はある程度水波さんからお聞きしておりますが、そうですわね……」

 

 

 顎に指をあてて考え始める泉美を他所に、香澄が吉見の腕を引っ張って走り出す。

 

「とりあえず、色々なものを見て回ろう! そうすれば、吉見さんだって何かに気が惹かれるだろうし」

 

「ですから、香澄ちゃんはそういうところを反省しなさいと言っているのです!」

 

「いいじゃん別に。ほら、泉美も水波も行こうぜ」

 

「ハァ……ごめんなさいね、水波さん。香澄ちゃん、ああなってしまったら止まらないので」

 

「そのようですね。ですが、あれはあれでよかったと思います。吉見さんは本当に娯楽には縁がない生活でしたので、香澄さんくらい強引に接した方があれこれ考える時を与えなくて楽しめるかもしれませんし」

 

 

 聞き様によっては酷い事を言っているが、泉美は特に水波に抗議する事は無く、それどころか情けなさそうに肩を落とした。

 

「こうして水波さんと遊ぶようになってまだ短いですのに、香澄ちゃんの本性を見抜くとは……それほど分かりやすいのでしょうね、香澄ちゃんは」

 

「明朗快活が地で行っているような方ですから」

 

「良く言いすぎではありませんか? あれは何時まで経ってもヤンチャが抜けてないだけです」

 

「おーい! 置いていくぞー!」

 

「助けてほしい……」

 

 

 香澄に引っ張られて困っている吉見を見て、泉美と水波は顔を見合わせて、そして同時に噴き出した。

 

「おっ、なんか面白い事でもあったのか?」

 

「ええ、今ありました」

 

「とりあえず、吉見さんがへばるまで遊んでみましょうか」

 

「何だよー僕にも教えてよ」

 

 

 泉美と水波がクスクス笑う中、吉見は既に疲労困憊という表情を浮かべていた。だが誰一人その表情には気づかないフリをして、達也が来るまでの時間を友達同士という関係で楽しんでいた。

 

「あれ、司波先輩じゃないか?」

 

「本当ですわね。普段と違いスーツ姿ですが、何かあったのでしょうか?」

 

「会議ですから、さすがに普段着というわけにはいかなかったのですよ。いくら技術屋が揃った課だからといって、達也さまと主任はけじめとしてスーツを着用したのでしょう」

 

「悪いな、こんな時間まで。泉美と香澄も付き合ってくれていたのか」

 

「僕たちは別に、友達と遊んでただけだから」

 

「それにしては、吉見さんが死にそうな顔をしているのだが?」

 

「ちょっと香澄ちゃんの勢いについてこられなかっただけですわ」

 

「そんなものか。さて、そろそろ深雪も来るだろうから、このまま夕飯にするか。香澄も泉美も一緒にどうだ?」

 

「ハイ是非!」

 

「泉美……僕の事言えないじゃないか」

 

 

 深雪の名前に即座に反応して見せた泉美に、香澄は苦笑いを浮かべたのだった。




本当に百合なんだろうか……

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