劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

796 / 2283
ハイレベルな三人


IF技術者ルート その2

 あずさの測定を終えた達也は、そのデータを元に最も効率よく魔法を発動できるよう調整を始める。あずさの特殊スキルである『梓弓』に最適化されているCADではなく、他の魔法を使う際に使用しているCADならと押し切ったので、さすがに特殊なCADの調整は頼めなかった。

 

「それにしても、完全マニュアル調整なんて、高校生が出来るものじゃないと思うんだけどな」

 

「初めて見た時は、私も驚きました。一年生が大勢の上級生の前で淡々と作業を進めてるんですから」

 

「その場にいたけど、確かにあのプレッシャーのなか、低スペックのCADに普段使いの性能と遜色ない仕上がりにするなんて、しかも完全マニュアル調整でオート調整と変わらない時間で仕上げる事が出来るなんて、誰にも真似出来ないよ。あの時は凄さが分からない人が多くいたけど、たぶん中条さんがやってたら素直に賞賛されていたかもしれないね」

 

「それは五十里くんでも同じだと思いますよ。あの時は恐らく、司波君が二科生で一年生だったから認められない、認めたくないって人が多くいたんだと思います。でも、真由美さんに渡辺先輩、十文字先輩に服部君、後は桐原君と三十野さんが認めると言ってからは、司波君に文句を言う人はいなくなりましたけどね」

 

「和泉先輩は頑なに司波君の実力を認めようとはしなかったけどね」

 

 

 達也がエンジニアとして選出され、本選のクラウド・ボールのサブエンジニアの代理を務めた際、真由美だけを担当させ後は自分が一人で何とかすると言ってきた先輩だが、真由美の実力を差し引いたとしても、達也より調整技術は劣っていた。それを認めたくないがためにムキになり、実力を発揮出来なかったと言われている先輩の一人だ。

 

「和泉先輩も普通の状態なら文句なしの実力だったのにね」

 

「クラウド・ボールは試合数も多いですし、全て一人でフォローしようとしたら大変だって分かってたはずなのにね。一年生ならともかく、最上級生が一科生だからってプライドで司波君の実力を認めようとしないなんて、ちょっと幼稚だったよね」

 

「一度自分が優れていると思ったら、そう簡単に相手の評価を覆す事は出来ませんよ」

 

 

 五十里とあずさの会話に割り込んだ達也が、調整を終えたCADをあずさに手渡す。

 

「あまり手を加える必要は無さそうでしたが、無駄なデータが残ってたりおかしな起動式が幾つかありましたので書き換えておきました。多少は使いやすくなったと思いますが、違和感などがありましたら今の内に言ってください。可能な限り調整しますので」

 

 

 CADを受け取ったあずさは、一通りの魔法を展開してみたが、違和感どころか今まで以上の速さで展開出来るようになっていた。

 

「さすが司波君ですね。九校戦の間に自分のCADを持ち込んだ選手の気持ちが良く分かります」

 

「僕も同じ技術者として、司波君の調整技術は羨ましく思うよ。どうやったらそこまで早く、正確に調整出来るんだい?」

 

「一番はやはり、場数を踏む事でしょうね。何百、何千と作業をしていくうちに、速度も正確性も上がると思います」

 

「やっぱりそれしかないのかな。僕の場合はハードの方が専門だから、ソフトの方は一向に早くならないんだよね」

 

「逆に俺はハードの知識が不足気味ですので、そっちの方では五十里先輩には敵いませんから」

 

 

 得意分野の違いだと言い切る達也だが、ハードの面でも入学当初より大分知識も充実している。卒業するころには、牛山の手助けが無くてもCADを開発出来るのではないかと言われてるくらいに成長した達也でも、五十里には敵わないと思っているのだ。

 

「司波君の腕も五十里くんの腕も、私から見れば羨ましいんですけどね」

 

「中条さんはオールラウンダーだからね。知識も技術も、魔法技能も平均以上だけど、どれかに特化してるわけじゃないから」

 

「それに、司波君は市原先輩が認めるほどの作戦参謀としての実力もありますし、封じられていたと言われる本来の魔法力を完璧にコントロール出来るようになれば、私なんかじゃ歯が立たないくらいの戦闘魔法師にだってなれると思いますよ」

 

「中条先輩には中条先輩にしかない特殊技能があるじゃないですか。あれはどう頑張っても真似出来そうにありませんし」

 

 

 基本的な魔法であれば、一回見れば真似することが出来る達也だが、あずさの『梓弓』と、響子のハッキング能力だけは真似する事が難しいと感じているのだ。

 

「あれは本当に特殊技能ですから、簡単に真似されたら大変ですもの」

 

「CADは再現出来るかもしれませんが、あの魔法を発動させるのは難しそうです」

 

「そう言えば司波君は一科生に転籍はしないのかい? 君の実力なら、一科でも相当上位になれると思うんだけど」

 

「今更一科に興味はありませんよ。それに、魔工科に転籍して、更に一科に転籍するなんて面倒ですし」

 

 

 入学時は二科、二年次に魔工科、そして卒業は一科などと、三年間所属が違うなんてほぼありえない事が可能なのも、達也の実力が封じられていたからなのだが、達也は一科には一切興味が無かった。

 

「では、俺は後片付けとかがありますので、お二人はお先にお帰り下さい」

 

「そうですか? じゃあお言葉に甘えて」

 

 

 達也に見送られ、あずさと五十里は部屋を後にし、校門までお喋りしながら向かったのだった。




あずさ相手なら花音も嫉妬しないでしょうしね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。