婚約者が多い達也だが、それぞれが互いに牽制しているので誰かが抜け駆けするようなことは無い。同居している深雪や、自然な動きで達也に甘える雫のように、他の婚約者から羨ましがられている人もいるが、抜け駆けと評される程ではない。
「ほのかも達也さんに甘えたいんじゃないの?」
「甘えられるなら甘えたいけど……雫みたいに自然に甘えるのは難しいよ……」
「雫は実に自然に達也様に甘えてるものね、羨ましいわ」
「深雪だって、引っ越しが完了するまでは達也さんと一緒に生活してるんだから、私から見ても羨ましいよ」
「私は雫も深雪も羨ましいけどね」
ほのかは深雪ほどではないが料理が上手く、達也に満足してもらえる自信はある。だが食べてもらう機会がないのだ。
「今度達也様にお弁当を作ってきたらいいんじゃない? ほのかなら満足してもらえると思うけど」
「でも、深雪だって準備するんじゃない?」
「事前に連絡してくれれば、私は遠慮するわよ」
「何だか深雪が寛容に見える」
「私は何時だって寛容よ? まぁ、ほのかなら私も我慢出来るもの」
「どうして?」
「七草先輩のように達也様に猫なで声を使ったりしないもの」
摩利や鈴音と話している真由美に目を向け、軽く首を振って視線をほのかに戻す。
「深雪、七草先輩と何かあったの?」
「別にこれと言って何かあったわけじゃないわよ。ただ、私が妹だと思っていた時から達也様の事を想っていたのは二人とも知ってるわよね?」
深雪にそう問われ、雫もほのかも頷いて先を促した。
「頭では分かっていたけども、どうしても気持ちを抑えられなくなりそうになった時も少なくないの。それなのに七草先輩はそれを知っていて達也様に甘えたりくっついたりしてたからね……」
「あれで我慢してたの? 私やほのかに対しても牽制してたのに」
「だって、雫もほのかも可愛らしいし、達也様がクラっと行ってしまうかもしれないじゃない」
「達也さん、恋愛感情は希薄だって言ってたけど、深雪にはその感情は向いてなかったよね?」
「私の事は妹として認識するようにお母様に植え付けられていたみたいだからね」
「でも今は従妹として認識してるんだよね?」
「達也様の魔法力を封印を解放したついでに、その認識も解放出来たからね。今では女として意識してもらえるように頑張ってるわよ」
「深雪が女として意識されたないんなら、私たちなんて意識されてないんじゃないかって思うよ……」
深雪の言葉にしょんぼりとした雫だったが、実際は深雪以上に女として意識はされている。元々が妹認識だった深雪とは違い、最初から異性として認識されている強みがある。
「エリカやエイミィも達也さんに甘えてた気がするけど」
「あの二人は七草先輩よりは慎みがあったし、他の男の子に行く可能性もあったから」
「確かに、エリカは西城君と、エイミィは十三束君とくっつきそうだったしね」
「結局は達也さんに勝てなかったけどね」
レオも十三束も友人として今でも仲良くしているが、異性として仲良くなるまでにはいかなかった。
「壬生先輩も桐原先輩じゃなくって達也さんを選んだしね」
「でも、桐原先輩は三十野先輩の仲良しになったんだからよかったんじゃない?」
「剣術部同士だったし、同じ防衛大に進学するわけだし仲良くなって良かったと思うよ」
卒業生の集団で喋っている桐原と三十野を見て、三人は楽しそうに笑った。
「後は服部先輩と中条先輩かな」
「普通に仲良いけど、あそこはくっつくのかな?」
「中条先輩は他の異性には怯えたりするから、服部先輩なら安心して付き合えると思うのだけどね。後は五十里先輩だけど、あの人には千代田先輩がいるし」
「五十里先輩は緊張しないもんね」
中性的な顔立ちと柔らかい物腰で同性より異性に人気がある五十里だが、入学前から花音と婚約していたので最初から手を出せない相手なのだ。
「密かに想ってた人もいるかもしれないわよね」
「でも、あれだけラブラブっぷりを見せつけられたら、秘めた想いも冷めちゃうと思うけどな」
「確かに」
今も五十里の腕にくっついている花音を見て、三人は胸やけしそうな思いになっていた。
「さっきから何を三人で喋ってるの?」
「人間観察よ。卒業生の中で、次にくっつくのは誰かなと」
「中条先輩と服部先輩じゃないの?」
「エリカもそう思う?」
「だって、後は特定の相手がいるし、沢木先輩はそんな感じしないし」
「あの人は自分の実力を鍛える事にしか興味なさそうだしね」
「それは少し酷いんじゃない?」
言葉では雫を責めている深雪だが、その表情は楽しそうに笑っていた。
「散々達也さんと戦ってみたいって言ってたもんね」
「卒業記念で戦ってくれって言ってたけど、達也さんもそれどころじゃなかったもんね」
「テロリストの捜索、その後は婚約者選定と忙しかったもの」
「ウチの馬鹿兄貴も助けてもらったしね。達也くんにはますます頭が上がらないってクソオヤジがぼやいてたの聞いた時は楽しかったわ」
「エリカ、本当に家族と仲が悪いんだね……」
「所詮妾の子だって割り切ってるけどね」
あっけらかんと言い放ったエリカに、ほのかは微妙な表情を浮かべた。深雪と雫は表情が読み取れなかったが、エリカは同情されているかもと受け取っていた。
「あたしは気にしてないし、達也くんと一緒に過ごすようになればもう関わることも無くなるだろうし、皆も気にしないで」
「エリカがそう言うなら」
深雪がそう答え、雫とほのかも頷いてそれに同意したのだった。
割り切ってても捨てきれないようですが……