劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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犬猿の仲なのでしょうかね……


深雪VS真由美

 応接室に案内された四人は、水波が淹れてくれたコーヒーを飲みながら雑談を開始した。といっても主に喋っているのは真由美と摩利の二人だ。

 

「今の子が四葉家に仕えてるとかいう魔法師か?」

 

「そうみたいね。名前は確か……桜井水波ちゃんって言ったかしら」

 

 

 視線で鈴音に確認し、肯定が返ってきたので真由美は小さく頷いて摩利に視線を戻した。

 

「ウチの妹と仲が良いみたいで、この前一緒に遊んだって香澄ちゃんから聞いたわ」

 

「偶然会ったんだろ? そこで仲が良くなったとか言ってたな、そう言えば」

 

「元々は深雪さんの護衛としてお出かけしてたみたいだけど、達也くんが代わってくれたらしいわよ」

 

「達也くん相手に喧嘩を売るようなバカはいないだろう。まぁ、彼の実力を見たことのあるあたしたちだから言えるのかもしれないが」

 

「達也くん、私たちの前じゃ全然本気出してないわよ? 魔法大学の先輩で、私たちと入れ替わりで卒業した津久葉先輩の話だと、達也くんは一人で国一つくらいなら潰せるって噂らしいし」

 

「なんとも胡散臭い話だが、達也くんなら何でもありかもしれんと思えるのが不思議だ」

 

 

 後輩を捕まえて酷い言い草だが、克人も鈴音も二人にツッコミを入れる事はしなかった。会話に加わるのが面倒だという気持ちもあったが、二人も達也なら何でもありだという気持ちがどこかにあったからなのかもしれない。

 

「司波の方も規格外だが、まさか達也くんまでもとはな」

 

「深雪さんはまだいいわよ、知られてる魔法なんだから。でも、達也くんのは……」

 

 

 達也の得意魔法の事を言いかけて、真由美は慌てて口を押さえた。婚約者である鈴音は兎も角としても、克人の耳に入れるのは憚られる内容だと理解しての行動だったが、克人はそこに追い打ちをかけて来るような性格の悪い人間ではない。少し不思議そうな顔を浮かべたが、その事について追及してこなかった。

 

「まぁとにかく、深雪さんも達也くんも、十師族として申し分ない魔法力を有してるわけよね」

 

「真由美が十人集まっても達也くんに勝てそうにないがな」

 

「何よそれ! でもまぁ、確かに達也くん相手じゃ勝てないかもね。摩利が修次さんに勝てないように」

 

「なっ……シュウは関係ないだろ!」

 

「人の事で面白がってる摩利に仕返ししただけよ」

 

 

 何時ものように真由美と摩利がじゃれ合い始めたタイミングで、応接室の扉が開いた。部屋に入ってきたのは深雪と水波、そして達也の三人だった。

 

「意外ね、てっきり達也くんが先頭で入ってくるものだと思ってたわ」

 

「私もそう言ったのですが、達也様が『生徒会長より前に入るわけにはいかない』と仰るので仕方なく」

 

 

 表面上はOGを快く迎え入れた体を取っているが、内心は歓迎していないのが真由美にはすぐに分かった。

 

「それで、七草先輩たちはどのようなご用件で来校されたのでしょうか」

 

「あーちゃんたちに卒業おめでとうって言いに来たのよ。それとまぁ、久しぶりに母校に遊びに来たかったのもあるけど」

 

「中条先輩たちなら先ほど、風紀委員会本部にいらっしゃいましたが」

 

「風紀委員会本部に? 中条はあの部屋に近づかなかったが」

 

「もちろん、お一人では今でも近づきたがりませんが、他にも服部先輩、五十里先輩、千代田先輩もいらっしゃいましたし、中条先輩はCADの前では人が変わりますから」

 

「あぁ、確かあの部屋にあるCADは結構なものだと達也くんが言ってたな」

 

 

 達也たちが入学して早々にした話を覚えていた摩利が頻りに頷き納得したという表情を浮かべる。

 

「まだ達也くんが本部のCADの調整をしてるのか?」

 

「渡辺先輩が千代田先輩に余計な事を吹き込んだ所為で、幹比古の代になってもそれが当然だという空気が流れているので仕方なく」

 

「CADの調整はデリケートなんだろ? あたしや花音がやれば、次の瞬間にはただの金属の塊に成り果てるが」

 

「摩利は自分のCADの調整も出来ないものね」

 

「そう言う事は出来るヤツがやれば良いんだ」

 

「開き直ってどうするのよ」

 

「だいたい真由美だって、最近では達也くんに調整してもらってるんだろ?」

 

「だって私がやるよりも達也くんにお願いした方が実力を発揮出来るし、達也くんには私の事を全て知っててもらいたいんだもの」

 

 

 真由美の言葉に、深雪が過剰に反応を示す。応接室に明けたはずの冬が訪れそうになったのをいち早く察知した達也が、深雪の肩に手を置き平常心を取り戻させる。

 

「今一瞬だけ寒かった気がしたが……気のせいか?」

 

「七草先輩、不用意な発言は死期を早めますよ」

 

「深雪さん? 何でそんなに怒ってるのかしら?」

 

「達也様に全てを知っていただくのは私だけで十分です。他の人の事は、知らないことがある程度が丁度いいのですから」

 

「あら、随分と達也くんにべったりね。やっぱりブラコンなだけで本当は好きじゃないんじゃないの?」

 

「そんなことはありません! 私ほど達也様を愛している人間はこの世に存在しません」

 

 

 雲行きが怪しくなってきた二人を他所に、達也は水波が淹れたコーヒーを啜りながら、克人と鈴音と会話していた。

 

「魔法大学にはそのような資料があるのですか」

 

「確か司波は、ここで閲覧出来る資料の大半を網羅したんだったな」

 

「えぇまぁ……二科生だった頃は暇でしたし」

 

「今度私の知り合いという事で魔法大学に招待しますよ」

 

「いいんですか? 確か魔法大学は関係者以外入ることが困難だと聞きましたが」

 

「俺も口添えしてやろう。そもそも、四葉家の次期当主だと知ってる人間も大勢いるし、お前を拒めるヤツなどそうそういない」

 

「そんなものですかね」

 

 

 自分たちに興味が向いていない事に気付いた二人は、虚しい言い争いを止め大人しく達也の側に腰を下ろしたのだった。




同族嫌悪とは違いますし……ある意味似てますが……

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